36階 ダンジョンナイト
「ロウ坊・・・少し気色悪いぞ?」
「え?何ですか?ヘクト爺さん」
「・・・何でもない・・・」
まさかまさかの才能あり・・・学校時代に散々能無し扱いされてきたのに・・・ああ、思わずニヤケてしまう
《ダンジョンマスターに戦闘センスなど要らないのに・・・どうせなら絵のセンスがあれば・・・》
ブツブツうるさいダンコを無視して僕は妄想する
魔物に襲われるペギーちゃん・・・そこに颯爽と現れる僕・・・
「待てい!そこまでだ!僕が来たからにはペギーちゃんには指一本触れさせないぞ!」
「ああ・・・ロウニール君・・・好き」
なぁーんちゃって・・・参っちゃうなぁ
「ロウ坊・・・数週間前まで死にそうな顔をしておったくせに・・・」
「え?僕がですか?やだなぁ・・・そんな訳ないじゃないですか・・・最強の僕が」
「さ、最強?・・・よく分からぬが・・・何故か腹立たしいのう・・・」
今日は何事もなく門番の仕事を全うし家路に着く
《また寄るの?》
「うん・・・今日で最後かな・・・毎日行くのは」
《へえ・・・ずっと毎日行くものかと思ってたけど・・・》
「そんなに毎日話す事ないって。今日までは居ない間の報告・・・で、また変化があったら話に来るって感じかな」
《・・・よく分からないわね・・・人間の考える事って・・・》
分からないか・・・もしかしたらこういう行動って人間特有なのかも・・・
僕は兵舎に戻らず居住区近くのある場所へ
そこは他の場所より少し高くなっていて、木の棒がいくつも地面に刺さっていた
その木の棒には人の名前・・・そう・・・ここは墓地だ
火葬した時に天に昇り、また戻って来る時に迷子にならないように灰を地面に埋めて木の棒を刺すのが風習なんだとか・・・だからここで話しかけても届かないと思うけど他に話せる場所がないからついつい来てしまう
「昨日はどこまで話したっけ?・・・そうそうもうすぐ王都から騎士が村にやって来るらしいよ。僕なんてすぐにクビになるかも・・・休みがちだし門番してても途中で抜け出すしね」
・・・
「それととびっきりの情報をひとつ・・・もうすぐ10階が完成するんだ。10階と言えばボス部屋・・・どんな魔物と思う?・・・それはまだ内緒・・・誰かそこまで辿り着いたら教えてあげるよ」
・・・
「ええ?教えろって?・・・仕方ない・・・実は中級の・・・」
「ロウニール君?」
「え!!?・・・ペギー・・・ちゃん?どうしてここに??」
振り向くとそこにはペギーちゃんが・・・聞かれてないよね?今の・・・
「どうして・・・って、決まってるよね・・・」
そう言ってペギーちゃんはチラリと僕の後ろにある木の棒を見た
ラック・シートス
ネル・シートス
2人の名前が書いてある木の棒を
「そっか・・・お墓参りに・・・」
「うん・・・それとここにロウニール君がいると思って・・・」
ええ!?ペギーちゃんが僕を・・・探してた!?
「聞きたい事があるの・・・」
聞きたい事・・・なんだろう・・・もしかして・・・『好きな人は誰ですか?』とか?・・・どうしよう・・・なんて答えたら・・・ラック・・・助けてくれ・・・
「な、なに?聞きたい事って・・・」
「聞きたい事は・・・」
生唾を飲み込みペギーちゃんの次の言葉を待つ
魔物と対峙した時よりも遥かに緊張する
「・・・仮面を被った人が村に来なかった?」
「・・・へ?」
「ほら・・・今、ダンジョンで噂になってる・・・ってロウニール君は知らないか・・・冒険者の間でね・・・噂になってるの・・・ピンチになると仮面を被った冒険者が助けてくれるって」
・・・はい、僕です・・・とは言えない・・・ていうかガッカリ感半端ないのですが・・・
「ほら、ロウニール君って門番でしょ?だからそんな人が村に訪ねて来たらすぐに分かるかなって・・・」
「さ、さあ・・・見てないけど・・・」
「そうよね。もし仮面を被ったまま村に来てたらすぐに噂になるだろうし・・・」
・・・最初から村に居ました
「な、なんでペギーちゃんが・・・その・・・」
「ダンジョンナイト?」
「そうダンジョンナイ・・・ト?」
「うん、巷ではダンジョンナイトって呼ばれてるの。命名したのはギルド長だとか・・・」
あのムキムキオッサンめ!何がダンジョンナイトだ!
「・・・そのダンジョンナイトを・・・探してるの?」
「うん」
「な、なんで?」
まさかサラさんみたいに・・・もしかして僕・・・モテてる?いや、厳密には僕では・・・いや、僕か・・・なんか照れるなぁ・・・
「罰する為に」
「そっか・・・・・・はい!?」
「聞けばダンジョンナイトは噂になる前もBランクの冒険者を助けたりと活躍してたみたいだけど・・・恐らくダンジョンナイトは・・・」
「ダ、ダンジョンナイトは?」
「無許可入場者よ」
「・・・」
「私が受付してるんだもん・・・特徴ある人なら覚えてるし・・・現れた日にソロの冒険者なんて居なかった・・・なのにどこからダンジョンナイトは・・・ダンジョンに抜け道があるのか特殊な魔技で進入してるのか分からないけど・・・ダンジョンナイトは入場料を払ってない可能性が高い・・・」
「え、あ、うん・・・」
「私は・・・決めたの・・・一時はギルド職員を辞めようかと思ったけど・・・続けようって・・・ロウニール君がやるべき事が分かったって言ったように・・・私もやるべき事が分かったの・・・笑顔で冒険者を送ろうって」
「ペギーちゃん・・・」
「そんな私の決意を嘲笑うようにダンジョンに無断で入るダンジョンナイト!冒険者を助けて正義の人みたいに言ってる人もいるけど・・・不正は絶対に許せない!ダンジョンに入るなら私の笑顔を見てから行きなさい!!」
えぇ・・・
「ん、んん・・・まあそんな感じでダンジョンナイトを探してるの。名前は偽名かも知れないけどローグって名前らしい・・・ロウニール君・・・もし見つけたら私に教えて・・・これまでの入場料を絶対に払わせてやるわ!」
「・・・は、はい」
「じゃあ私はこれで・・・・・・あ、それとこれはまだ内緒だけどエモーンズが村から街になるらしいの。出来れば街になる前に見つけたいけど・・・このままだと難しそう・・・でも私は諦めない!それじゃあまたね」
「・・・またね」
ラック・・・僕のダンジョンに入るのに入場料が必要だと・・・君は思う?
《なーに考えてるの?》
司令室で椅子に座り色々と考えているとダンコが話しかけてきた
1人で悩んでるより話した方がいいかな・・・答えは見つからないかも知れないけど気は紛れるし・・・
「ペギーちゃんが言ってただろ?・・・あの・・・」
《ダンジョンナイト?ぷぷっ・・・傑作よね・・・ダンジョンマスターがダンジョンナイトって・・・》
「そっちじゃない!・・・まあそっちもだけど・・・村が街に変わるって方」
《ああ・・・別に呼び方が変わるだけでしょ?》
「いや・・・村から街に変わると人が多く映り住めるようになるんだ・・・国に納める税も上がり、村長・・・領主が住民への税率を変えることが可能になるとか・・・」
《そんなの知ってるわよ。アナタより授業は真面目に聞いてたわよ?暇だったし。それも含めて言ったのよ・・・呼び方が変わるだけ、と》
「・・・本当にそうかな?」
《何が?》
「ほら・・・ヘクト爺さんが言ってたろ?振り子・・・良い方向に振れれば逆に悪い方向にも振れる・・・ラックの件でその事を身に染みて理解したから不安なんだ・・・何かを手に入れようとした時、その手に入れようとしたものが大きければ大きいほどリスクも大きくなる・・・ラックが魔核を手に入れようとリザードマンに挑んだ時みたいに・・・村もまた街になると・・・」
《でも人間は村を街にする・・・理解できないわね》
「小さい村にとっては念願だよ。人口が増えれば色んな店も増えるし・・・例えば服なんてみんな似たり寄ったりの服着てるだろ?それって村には洋服屋さんがひとつしかないんだ・・・けど人が増えれば洋服屋さんも増えて色んな服が買えるようになるし・・・」
《布じゃない》
「着飾りたい年頃なの!僕だってかっこいい服を着れば幾分マシに・・・」
《モテたいの?》
「・・・服だけじゃなくて装備品だって・・・ダンジョンが今までなかったから武器はお古を使い回しててさ・・・店が出来ればかっこいい装備も・・・」
《やっぱりモテたいの?》
「・・・ご飯屋さんも種類が増えるし・・・」
《頼むのいつも同じじゃない》
「・・・飲み屋も出来るし・・・」
《飲まないじゃない》
「・・・僕だけじゃなくて!・・・それにこれまで出来なかった経験が色々と・・・」
《出来るようになるけど・・・悪い事も起きやすくなる・・・でしょ?》
「そうなんだ・・・だから不安で・・・だから喜ばしい事である反面悩みの種が増えるって言うか・・・不安なんだ・・・」
《ふーん・・・私はダンジョンに影響なければ別に関係ないしね》
ダンコにはそうかもしれないけど僕には・・・うん?
「よく考えると僕にもそんなに影響ないかも・・・」
門番してダンジョン行って部屋で寝るだけ・・・そんな毎日を過ごしていれば村が街になったところで劇的に変わるはずもなく・・・
《そうそう。アナタがやるべき事は変わらないし、必要以上に気にする事も無い・・・村から街に呼び方が変わっただけよ》
なんだか僕もそう思えてきた・・・そうだ・・・エモーンズ村がエモーンズの街に変わるだけ・・・僕はいつも通り過ごしてれば問題はない・・・はずだよな?
《そんな事よりどうするの?》
「何が?」
《何がじゃないでしょ!何がじゃ・・・10階よ!もう完成してるし後は配置するだけでしょ?》
おっとそうだった
10階・・・単なる階層にではなくほとんどのダンジョンが10階毎にボスを配置する。僕のダンジョンもバッチリ準備済みだ
「よし・・・今から配置しよう・・・で、明日から運用開始だ!」
「ヴェルト殿・・・本当に大丈夫なのか?」
「ダナス村長・・・いえ、ダナス領主様、これまでの試算によれば十分支払えます。ここで決断しなければ騎士団が来た後では・・・」
「ううむ・・・しかし・・・」
「エモーンズという名は残るでしょう。ただ中身は・・・」
「・・・背に腹はかえられぬ、か・・・ワシも腹を括ろう・・・明日からエモーンズは・・・街となる──────」