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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
388/856

384階 ウォーレン

「シャリファ王国でゆっくりご飯が食べられる最後の機会かもね」


「そうですね。王都に着いたら色々と忙しくなるでしょうし・・・?」


昼ご飯は何にしようか話しながらサイエスの街を歩いていると前の方からガラの悪い3人の男が僕達を睨みつけながら歩いて来た


全く知らない連中だが明らかに僕達を見ている事から警戒し僕の少し前を歩き出すサラ。男達はサラの前に立ちはだかる


「昨日はよくもやってくれたな」


「?」


サラは振り返り僕を見るが全く思い当たる節がない・・・僕が慌てて首を振ると彼女は首を傾げる


「どなたかと勘違いされていませんか?」


「勘違いなんかするか!とぼけるのもいい加減にしろ!」


どうやら僕ではなくサラと何かあったみたいだ。けど1人で行動したのって昨日アネッサと2人で会ってた時くらいだよな・・・ギルドで何かあったのか?


殺気立った3人は腰に差してある得物こそ抜かないが今にも飛びかかって来そうな雰囲気・・・まあサラなら瞬殺出来るレベルの相手だしここは黙って見守る事にしよう


「身に覚えはありませんが降りかかる火の粉は払うまで・・・かかって来ると言うのならお相手致します」


サラが構えると3人は恐れをなしたのかたじろぎ後退る。さっきまでの勢いはどこに行ったのやら・・・うん?


背後から不穏な気配・・・サラも気付いたのか振り返るが少し遅かった・・・手が伸びてくると羽交い締めにされてしまった


「おいメイド!これが見えねえか!」


あーれー助けてー・・・という訳で人生初の人質にされてしまった。捕まる前に何とでもなったけど見守ると決めたのだ・・・ここは大人しく捕まっておこう


「・・・」


サラの視線が痛い


目で『わざと捕まってないで自分で何とかしろ』と訴えかけて来るがあいにく僕はか弱いただの貴族だ


「ウォーレンさん!」


「お前らが昨日言ってたのはその女なんだろ?ならさっさとやっちまいな」


「ありがてぇ!・・・女ァ・・・覚悟は出来てるか?」


形勢逆転とみたか男達はサラを囲みついに腰の得物を抜いた


「・・・昨日何かありましたか?」


「だからとぼけんな!昨日話しかけただけなのにいきなり蹴りを食らわせやがって・・・おかげで俺達はいい笑いものだ!・・・ってなもんで俺達が受けた屈辱・・・晴らさせてもらおうか」


人の彼女をいやらしい目付きで舐め回す3人組・・・ようやく状況が理解出来た・・・この3人はどうやらサラにやられたらしい。けどサラがとぼけるはずはないからおそらく何か考え事をしていて無意識にぶっ飛ばしてしまったのだろう・・・そう思うと憐れな3人組だなコイツら


「おっと動くなよ?格好から察するにお前は貴族であの女は使用人兼護衛ってところか・・・黙って見てりゃ何もしねえ・・・もし暴れたりしたら・・・その首へし折るからそのつもりでいろ」


ウォーレンと呼ばれた僕を羽交い締めにしている奴は首にそっと手を伸ばすと軽く力を入れる。男に抱かれる趣味はないし暑苦しいがここは言う通り大人しくしておこう


「・・・どうやら無意識に私が粗相をしたみたいですがご主人様は無関係・・・天下の往来で人質を取り復讐するなど恥ずかしくないのですか?」


「無関係な事あるか!ご主人様なら下のもんの責任は取らねえと・・・それと恥ずかしい思いをするのはどっちだか・・・なあ?巨乳のメイドさんよぉ」


ふむ確かにメイドのやった事の責任は主である僕にある。けどそれなら恥ずかしい思いをするのはサラではなく僕であるべきでは?


「大人しくしろよ・・・もし暴れたりしたら大事なご主人様の首がウォーレンさんにへし折られるぜ?」


そう言ってジリジリとサラに近付く3人・・・彼女はどうするのだろうかと興味深く見ているといつの間にか集まっていた野次馬をかき分けて1人の女性が姿を現した


「何やってんだい!」


「ゲッ!ババア!?」


「ババアだって?灰にしてやろうかお前達!それとウォーレン!その方をすぐ離しな!」


アネッサ登場・・・どうやら彼らの事を知っているらしく彼女が睨みつけると3人は萎縮し動きを止めた


「出しゃばるなよアネッサ婆さん・・・やられっぱなしじゃサイエスの冒険者が笑われるぜ?」


「婆さんって呼ぶんじゃないよ!まだ50になったばかり・・・それとその方に手を出せば笑われるどころじゃ済まない・・・今ならアタシが何とかするからすぐに離しな!」


「へえ?そんなに偉い貴族だったか・・・けど俺はそんな事気にしねえって知ってんだろ?」


「・・・知ってるさ。けどその方はそんじょそこらの貴族と違う・・・フーリシア王国の辺境伯様さ。手を出せばフーリシア王国と揉める事になる・・・果たしてこの国はフーリシア王国を敵に回してまでお前さんを庇うかねぇ?」


「フーリシアの?・・・チッ」


ウォーレンは舌打ちすると僕を離した


「おい行くぞ・・・その女は諦めろ」


「で、でも・・・ヒッ・・・わ、分かったよ・・・分かりましたよ!!」


3人は納得してない様子だったがウォーレンに睨まれると渋々サラから離れ立ち去って行った。その時何度も振り返っていたところを見ると懲りてはないようだ・・・まあもう会う事はないだろうけど


ウォーレンと3人が去ると野次馬達も次第に散っていく


そして残ったのは僕達とアネッサだけ・・・アネッサは僕達を見ると盛大にため息をついた


「昨日の内に街を出るくらいの誠意を見せて欲しかったけどねぇ・・・まあいい。昼はまだかい?」


「・・・ええ」


「なら奢るよ・・・ちょうど話したい事も出来たしねえ──────」





アネッサは僕達を路地裏の寂れた店に案内した


まさか隠れた名店!?・・・と思ったけどただ人がほとんど来ない店だからここを選んだらしい


「貴族なんてやってたらなかなかこういう店には来れないだろう?とりあえず適当に頼みな。話はそれからだ」


別に貴族だからといって気取った店ばかり行っている訳でもないのだが・・・まあ奢ってくれると言うのだから素直に奢られておこう



「それで・・・なんで揉めてたんだい?」


言われた通り適当に頼み出て来た料理を食べ、一段落した頃にアネッサが尋ねてきた


「さあ?奴らの言い分だとサラが何かしたみたいですけど・・・」


チラリとサラを見るがハンカチで口を拭きながら首を振る


「申し訳ありませんが全く記憶にございません」


「・・・そうかい。しかし困ったねぇ・・・ジンタ達だけならともかくウォーレンはちょいと厄介だよ?」


ウォーレン・・・僕を羽交い締めにしたアイツか・・・


「どう厄介なのですか?僕の見立てではサラの方が数段実力は上と思いますが・・・」


「実力だけならね。ウォーレンは負けず嫌いで有名でね・・・何をやっても勝てば良いと思っている節がある。どんな汚い事でもね。普通なら汚い手を使うと負い目を感じたり気が引けたりするだろ?でもウォーレンはそんな事は一切考えない・・・そして兵士だろうと貴族だろうと関係なく牙を剥く・・・『叛逆のウォーレン』・・・侮っていると痛い目見るよ?」


「『叛逆のウォーレン』・・・ですが貴族だろうとって言ってもさすがに貴族に歯向かえば潰されますよね?」


貴族に一般人が手を出せばその貴族はどうにか出来たとしてもその貴族が所属している派閥の上役が出て来る可能性が高い。王都でもそんな事があったしね


「そうさね・・・けど実際ウォーレンはある貴族と揉めて殴り飛ばした経緯がある」


「え?」


「他の国ならとっくにあの世行きさ・・・けどここはシャリファ王国・・・その貴族や他の貴族がこぞってウォーレンを国の威信を懸けて殺そうと騒ぎ立てたけどそれを止めた人物がいる」


「・・・女王様・・・」


「分かってるじゃないか。その通り・・・女王陛下の鶴の一声でウォーレンの貴族を殴り飛ばした罪は不問となった。今やウォーレンは数少ない女王陛下のシンパ・・・世間一般で言うとどっちが叛逆者なのかって思うけどねぇ」


女王の味方なら世間一般的には叛逆者ではないだろうな・・・けど今のこの国の状況なら叛逆者と言われても仕方ないか・・・


「それでやりたい放題やっている・・・って事ですか?」


「そう・・・アタシも変な期待をしてしまってね・・・反女王派への急先鋒になるんじゃないかって・・・けどダメだった・・・あの子は結局女王陛下という免罪符を手に入れたクズだった・・・魔法を教えてやって実力が上がったはいいけど言う事なんて聞きやしない」


「・・・それはどっちもどっちでは?」


「なんだって?どういう意味だい?」


「アネッサさんはウォーレンを利用して女王様を助けようとした・・・でしょ?」


「そう言われると耳が痛いねぇ。確かにその通りだよ・・・利用しようとして利用された・・・それだけの話・・・か・・・」


アネッサにとっては藁にもすがる思いだったのかもな・・・普通なら貴族に逆らったりはしない・・・そんな中で貴族に逆らうウォーレンが頼もしく見えたのかも・・・針のむしろ状態の女王の唯一の味方・・・


「まっ、あんなのを当てにする必要はもうありませんよ。何せこのロウニール・ローグ・ハーベスが動くんですからね」



「・・・ふん、だったらさっさと出発してもらいたいもんだねぇ。ラドリックが戻って来たら全てが終わるって分かっているのかい?」


「はいはい」


「ったく・・・くれぐれも気をつけるんだよ?無茶はしなくていい・・・多分もう手遅・・・」


「ご馳走様でした!・・・それじゃあ吉報をお待ち下さい」


「・・・ハッ、期待しないで待っとくよ」


手遅れ・・・そう言いかけたアネッサの言葉を遮り僕は立ち上がる


きっとアネッサはやるべき事はやり尽くしたのだろう・・・本当なら今頃女王は自分の娘となり孫でも抱いていたかもしれない・・・そんな未来を想像しながら──────





「ジンタ・・・あの2人の事を調べて来い」


「へっ!?い、いえ・・・もういいっす・・・別に大してやられた訳じゃねえし・・・」


「そうじゃねえ・・・お前らの話を聞いて勝手に助太刀しといてやられたまんまじゃ腹の虫が収まらねえ・・・お前らの為じゃなく俺の為に調べて来い」


「えぇ・・・」


「なんか文句あっか?」


「・・・ないです・・・」


「アイツらがこの街から出るならそこでやるぞ。同じようにあのクソ貴族を人質に取りゃあ女は好き放題出来っだろ・・・俺はアネッサ婆さんだけにゃ逆らえねえしな」


「・・・」


「どうした?さっさと行け。俺を失望させるなよ?──────」

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