382階 似たもの同士
圧政を止めろとかではなく女王様を元に戻す?
・・・いやいや無理だろ
「そもそもその時の女王様を知らないのですが・・・」
「だろうね。アタシも知らないよ・・・だからダカンだったらこんな女性を愛するだろうって感じでいい」
ダカンも知らんがな!
無茶苦茶言うなこのオバサンは・・・
「・・・それは『ダカン様が』と言うより一般の男性が愛するような女性に、という事でよろしいでしょうか」
「そうさね・・・ダカンの好みは明るく活発で優しい子だったから女王陛下がそんな感じになってくれたら成功ってところかね」
サラの理解力に満足したのか微笑み頷くアネッサ
明るく活発で優しい・・・とても今の僕が抱いている女王様とは思えない人物だな
女王様が変わってしまったキッカケはダカンと両親の死で間違いないだろう・・・だとするとその人達の事を忘れさせる?それとも代わりになるような人を用意する?・・・いや無理だろ
「聞いてから断るつもりはなかったのですがあまりにも・・・他に適任者がいるのでは?」
「他って誰だい?苦しめられている国民かい?女王陛下に反対している重臣かい?それとも上からも下からも責められている兵士達かい?」
「・・・少しくらいいるのでは?女王様の味方になる人が」
「いたら頼んじゃいないよ。今やいつ反乱が起きてもおかしくない状況さね・・・それを止めているのが国の宰相であり宮廷魔術師のハゼン・ヤノーハ・バナロス・・・ダカンがなるはずだった地位にいる男だよ」
「ダカンさんがなるはずだった?つまりダカンさんは宮廷魔術師候補だったって事ですか?」
「そうさ・・・けどダカンは死にハゼンが宮廷魔術師になった・・・実力ではハゼンの方が上だったからまあ順当ってところだろうけどね」
ハゼンにとってダカンはライバルだったってわけか・・・で、ダカンは女王様の恋人でもあった・・・むむっ一気にきな臭くなってきたぞ
「反乱を止めているって事は派閥で言うと反女王派って事ですか?」
「派閥?もし派閥があるとしたら女王陛下お1人と他全員さね」
「女王様には味方は1人もいない?」
「表向きは味方のフリしていても裏ではどうだか・・・国民の敵になりたい人なんてそうそういないだろうからね」
あー、何となく分かった・・・僕を頼った理由
「私にシャリファ王国の国民の敵になれと?」
「そんな事は言わないさ。逆に成功すれば感謝される依頼だよ。成功しなくても恨まれはしない・・・ただ今までと変わらぬ日常が続くだけさ・・・何かが起きるまでね」
その『何か』は反乱だろうな
もしこの国の人が女王様の味方をして失敗すれば反乱が起きた際に女王様の味方として処分されるかも知れない・・・けど僕達なら反乱が起きる前にこの国を出てしまえばいい。確かに適任かも知れないな・・・余所者の僕達は
「その何かが起きるまでの猶予はどれくらいですか?」
「そうさね・・・聞くところによると王都近郊は既に爆発寸前・・・ふとした拍子に爆発してもおかしくないって話だよ」
おいおい
「それって女王様が変われば済むって話じゃないような・・・」
「まだ手遅れじゃないと信じたい・・・でなければシャリファ王国は無くなってしまうからね」
「?」
「女王陛下には兄弟はいらっしゃらない。元々子供が出来にくい家系なのか随分前から跡継ぎは1人しか生まれなかった・・・なので女王陛下が子を産まなければシャリファの血は途絶えるって訳さ」
あーそういう事か・・・王の血筋が国の歴史とも言えるらしいからその王の血が途絶えるば当然国も・・・
「息子の愛した女性の名がこの世から消えてしまう・・・いや、名が消えるだけたらまだいい・・・ただ生きていてくれればそれで・・・」
・・・なるほどね。ぶっちゃけ女王様の為と言うよりは亡くなったダカンの為・・・か
「ひとつ聞いても?」
「なんだい?」
「ダカンさんの母・・・つまり貴女の言う事なら女王様も聞くのでは?」
「試さないと思ったかい?結果は門前払いさ会ってもくれないよ」
もしかしたらハゼンって奴が会わせないようにしている?それとも女王様が?
けどどちらでも一緒だ・・・会わないようにしているのか会わせないようにしているのか知らないけどそうしているって事はアネッサと女王様が会うと都合が良くないと思う人がいるってことだ
変わる可能性はある・・・が、アネッサを門前払いしているのが誰かによって話は変わる
ハゼンや反女王派ならそれを排除すればいい・・・けど女王様本人が拒絶していたら?・・・って考えても仕方ないか
「無理難題を押し付けるって事は・・・その対価の情報も価値のあるものなのでしょうね?」
「もちろん・・・この国の全てを教えてやるわい──────」
はっきりと依頼を受けると言った訳では無いがアネッサは彼女の持てる情報全てを僕達に教えてくれた
国の情勢や反女王派の情報、冒険者や名産品に至るまで・・・どうでもいい話も混じっていたがこれだけの情報を調べようとしたら1年やそこらじゃ足りなかったかもしれないな
「その・・・大将軍ラドリック・リューズ・ヴルバスと宰相のハゼンの仲はどんな感じなのですか?」
「何とか上手いことやっておるみたいだね。過去には水と油なんて言われていた2人だが・・・」
共通の敵・・・女王様がいるからか・・・
「よく今の状況で反乱が起きませんね・・・それが不思議でならない。聞く限りではとっくに女王様は孤立している・・・ならこんな事言ったら何ですけど簡単に終わるのでは?」
「そうもいかん。シャリファ王国は大陸に国と認められているが国名が変われば全てが変わる・・・おそらく・・・いや確実に攻めてくるだろうね・・・リガルデル王国が、ね」
「はい先生」
「誰が先生だ」
「リガルデル王国は各国に囲まれているのでおいそれと攻め込めないはずでは?」
「それも大義名分があれば別・・・例えば反乱から女王陛下を救う為に兵を派遣した・・・そんな大義があったら他の国はどう反応すると思う?」
くそっ質問返しされた
えっと・・・どう反応するのだろう?
「・・・おそらく各国の足並みは揃わないでしょう。下手すれば全ての国が様子見するかも知れません。何せリガルデル王国はシャリファ王国を救おうとしている事になるのですから」
「そうさね・・・メイドの方がよっぽど分かってるじゃないか」
すみません・・・授業中ほとんど寝てました
「となると反乱は成功しないって事では?」
「どうだろうね・・・例えば反乱軍がリガルデル王国と繋がっていたら?」
あっ・・・そりゃあそうか・・・
リガルデル王国が女王様を助けに来たら反乱が失敗するなら来ないように仕向ければいい・・・となると期限は・・・
「今ラドリックがリガルデル王国を訪れている。名目は他国との交流だが交渉と思って間違いないだろうね。つまり決行はラドリックが戻るまで・・・それまでに女王陛下を元に戻せなければシャリファ王国は・・・消えてなくなる」
国が消える
民もそれを望む
それでもアネッサは抗う・・・息子の愛した女性を救う為に・・・か
「私達がこの国に来なかったらどうするつもりだったのですか?まさか1人で・・・」
「・・・きっとダカンが導いてくれると思っていたからね・・・だから異動を願い出た・・・国の玄関口であるこの街なら出会えると思ったからね・・・国を・・・彼女を救える者と」
「随分高い情報になったな・・・」
「何ならアタシのスリーサイズも教えようか?」
「やめてください・・・やる気が削がれる」
「酷いこと言うねぇ・・・それで?返事は?」
「もう分かっているでしょ?報酬は先払いで貰ってるし受けますよ・・・女王がを元に戻すって依頼・・・成功させてみせます──────」
ロウはアネッサの依頼を受けた
まあ初めからそうなるとは思っていたし何の驚きもない・・・だが何故だかアネッサはロウだけを帰し私だけを残した
ロウの座っていた場所に座らされまじまじと見つめられる・・・まるで心を見透かされているような・・・あまり居心地がいいものではないな
「さて・・・なぜ残るよう言ったか分かるかい?」
「皆目見当もつきません」
「だろうねぇ。まあちょっとした気まぐれさ・・・ちょいと気になったんでね」
「気になった?」
「お前さん達の雰囲気があまりにもダカンと女王陛下の2人に似ている・・・ダカンは真っ直ぐ陛下を見つめ、その陛下はどこか壁を作り踏み込んでこない・・・そんな雰囲気というか空気を感じたんだよ。それで放っおけなくてね」
私が壁を?もしかして・・・
「これはその・・・花嫁修業と申しますか・・・スキルアップの為にメイドを・・・」
「どんな格好してようがどんな関係だろうが纏った空気は変わらないものさね。思い当たるところはないかい?何か一歩踏み込めない理由があるとか・・・」
一歩踏み込めない?そんなものはない・・・私は・・・
「自分では気付いてないみたいだね。じゃあ聞くけど彼に自分から迫った事は?」
「へ!?せ、迫ったってな、何を・・・」
「今更カマトトぶるんじゃないよ。で、どうなんだい?」
・・・そういえばない・・・かな?
いつもロウからだし・・・けどそれが彼との壁っていうのもなんだか変な話だと思うけど・・・
「・・・ない・・・です・・・」
「なぜだい?」
「それは・・・」
なぜと聞かれて言葉に詰まる
彼が四六時中迫って来るからこちらから迫るほど間が空いてないから?そんな気分じゃないから?・・・うーん・・・
「もしかして自分から迫ったり求めたりするのをはしたないとか恥ずかしいとか思ってないかい?」
「それはそうでしょう。はしたないとまでは思いませんが恥ずかしいですし・・・。それに私が求めるまでもなくご主人様が求めて来るので問題はないかと・・・」
「そうかい・・・アンタは彼の想いを受けるだけで求めはしないんだねぇ」
そう言われるとちょっと・・・
「一方的な想いはやがて不安になりその不安は壁となる・・・互いの気持ちを確かめるのは言葉?それとも態度かい?・・・答えはどちらもだよ。求め求められ言葉を紡ぎ合う・・・そうしてやっと未来へと繋がる」
未来へと・・・繋がる・・・
「それとはしたないと思わないまでも恥ずかしいと思っているようじゃまだまだだねぇ・・・早く壁を突破来な・・・そうすれば2人を分かつものなど無くなるからね」
「・・・どうしてそれを私に・・・」
「言っただろ?2人は似ているからさ・・・どことなく2人に・・・アタシの子供達にね──────」




