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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
385/856

381階 偽りの姿

吹雪く外を見つめながらいつもの代わり映えのない報告に耳を通す


それが彼女の日課だった


いつからだろう・・・この世界に色が無くなったのは


色褪せた世界に彼女は興味を持たなくなりただひたすら自らの義務を果たす


「予算が足りないのなら税を上げればよかろう・・・その辺はそなたの裁量に任せているはずだが?ハゼン」


「ですが前月は臨時徴収にて民は疲弊しております。これで税まで上げられては・・・」


「それをどうにかするのがそなたの役目であろう?くだらない話はこれで終いじゃ。人を呼んでおる・・・さっさと去ね」


「・・・はっ」


シャリファ王国宰相ハゼン・ヤノーハ・バナロスは頭を下げ部屋を出て行く


その後ろ姿を見つめた後、彼女はまた窓の外を眺めた


「・・・くだらない・・・何もかも・・・」


彼女の名はフレシア・セレン・シャリファ


この国の()()()女王である──────




「・・・女王様を助けてくれ?」


「そう・・・それが条件。それを叶えてくれると約束すればアタシの知ってる情報を全て話そうじゃないか」


「情報?」


「惚けるんじゃないよ。護衛が必要ないのに雇おうとしたのは別の意味があってだろう?この国には視察に来た・・・そして必要のない護衛を依頼した・・・となると目的はただひとつ・・・情報だ」


サイエスの冒険者ギルド長アネッサの口からとんでもない条件が出された


女王様を助けろだって?こちとらこの国の王様が女王様ってのも初めて聞いたくらいだそ?しかも他国の僕に助けを求めるなんてよっぽどだ・・・情報は欲しいけどここは断るべきだな


「まだ何も話してないのに断ろうとするんじゃないよ。話を聞いてからでも遅くはないだろ?」


心の中を読むな


まあ確かに聞くだけなら・・・


「断る前提で聞いても?」


「構わないよ・・・てか女王様に会うのなら聞いといて損は無い話だ・・・心して聞きな──────」





この国の女王様・・・フレシア・セレン・シャリファはまだ王位を継いでいない・・・つまり王女だった頃、とある男に恋をしていた


その恋は実りフレシアが即位すると同時に結婚する・・・本人達はもちろん周囲もそうなると信じて疑わなかった



だが・・・悲劇が起きる



フレシアが即位する寸前で男が病にかかり亡くなってしまったのだ


ただそれだけなら単なる悲劇・・・フレシアには更なる受難が続く


フレシアの母・・・前女王も男と同じ病に倒れ、続けて王配であった父も・・・


結局2人も回復することなく亡くなってしまいフレシアは大事な人が3人も同時期に失った後で女王に即位した


それが今から10年前の事だ


それからもフレシアの周りの者達が次々と病に倒れていく


巷ではフレシアの事を『氷呪の女王』と揶揄し蔑んでいた


大事な人を亡くしたせいかそのせいなのか・・・フレシアは徐々に変わっていき、即位した当初は失意の中にあっても善政を心掛けているように見えた・・・が、まるで人が変わったように人々を苦しめるようになる


逆らう者はたとえ近しい者でも殺してしまい、民に贅沢はさせまいと税を上げる。資産があれば徴収し逆らえば投獄される事もしばしば・・・ひもじい思いをする民とは逆に着飾り贅沢をする女王に反感が向くのは必然だったがそれを武力で弾圧する


いつしか冗談で広まった『氷呪』は王都近郊に蔓延し人々を蝕み苦しめているのが現状だ



「・・・確か『女王様を助けて欲しい』・・・と言いましたよね?」


「うむ。そう言ったが?」


「じゃあどうして今の話をするのです?助ける気がこれっぽっちも湧かなくなるような話を」


どちらかと言うと『倒して欲しい』だろ。何をどうしたら助けた事になるかも不明だし・・・同情はするけどかと言って誰かに八つ当たりしていいかって言ったらダメに決まってる。なのにその女王様を助けろだと?


「・・・話には続きがある」


「続き?・・・もしかして女王様は実は誰かに操られていて・・・とか?」


「いや、続きとは女王陛下が愛した男の名だ」


なぜ男の名前が話の続きになるんだ?女王様が暴政をするきっかけになったのは確かだけどそれはもう聞いたし・・・


「男の名はダカン・・・ダカン・ホーキンスだ」


正直聞いても『へぇー』って感想以外ないのだが・・・


「・・・ご主人様・・・」


「ん?」


「目の前の方のお名前を覚えておりますか?」


「そりゃあアネッサ・・・ホーキンス!?」


サラに言われるまで気付かなかった・・・アネッサもホーキンス・・・男の家名も・・・


「ダカンは私の息子だよ・・・自慢の・・・息子なんだよ──────」




今日のところは返事をせず冒険者ギルドをあとにした


頭が混乱している為にどう返事をしたものかその場では判断出来なかったしサラと相談したいってのもあったからだ


病で恋人と両親を亡くし暴政の限りを尽くす女王様を亡くなった恋人の母親が助けようとしている・・・何をどうやったら助けた事になるのか未だ不明だが今日聞いた話だけでお腹いっぱいだよ本当


「どう致しますか?まだ具体的にどう助けるかは聞いておりませんが・・・」


「自分の息子が愛した女性が女王様で国民から嫌われている・・・か・・・国民に好かれるようにするとかかな?」


「どのようにしてですか?」


「・・・さあ?」


魔物に襲われているとかならまだしもそれ以外なら助けられる自信はない


何をもって助けた事になるのか不明だがそれを聞いてしまうと断れそうにないので聞けなかった。と言うか話自体を聞くべきじゃなかったかも・・・


適当な店に入り昼食を食べると一旦宿に戻りひと息つく


既に何を食べたのか忘れるくらい頭の中はギルド長の話でいっぱいだった


街の人達の様子を見ると特に他の国と野違いは見られないが内情は圧政に苦しめられているのだろうか・・・うーむ・・・


「・・・さて・・・どうするべきか・・・」


部屋に備え付けられている椅子に腰掛け背もたれに身体を預けながら呟くとまだメイドってるサラは座らず背後に立ち僕の独り言に答える


「もう既にどうするかお決まりなのでは?」


「・・・サラは僕を過大評価し過ぎだ」


「そうでしょうか?私はただ『どうするかお決まりなのでは』と言っただけです。その言葉が『過大評価』であると仰られるのならご主人様の中ではやはり『決まって』おり評価は正しいと思いますけど?」


うっ確かに


そう僕の中ではどうするか決まっている。途中までとは言え話を聞いてしまった以上何とかしてあげたいと思っている。最後まで聞かなかったのはサラに相談したかったからだ


「サラはどうするべきだと思う?」


「ご主人様の意のままに」


「メイドとしてじゃなくてサラ個人として聞いているのだけど・・・」


「メイドの私も普段の私も同じです。ご主人様の思った通りに行動すべきかと」


「なるほど・・・けど僕が間違った方を選択しようとしていたら?それでも思った通りに行動しろと?」


「間違った選択をしないと信じておりますので」


プレッシャーだな・・・けどそう言ってもらえるとなんだか力が湧いてくる


「分かった。ではとりあえずやるべき事をやろう」


「はい」


「では仮面をつけて変身してくれるか?」


「・・・ご主人様?」


「ギルド長への返事は明日・・・で、今日は特にやる事はない・・・となるとやるべき事はひとつ!」


「・・・それは何となく理解しましたが変身する理由は何ですか?」


「それはもちろん僕が大きい胸に惹かれたのではなくサラ自体に惹かれたと証明する為に必要な・・・」


「ご主人様」


「はい」


「変身とは偽りの姿・・・それを抱くと言うのはつまり私ではないものを抱くとも言えます。それでも変身をお望みと?」


・・・言われてみればそうかも・・・


変身の魔核はドラゴニュートのもの・・・で、ドラゴニュートが変身する時は人型からドラゴンに姿を変え原型が分からない程だ。見た目、大きさ、おそらく重量も何もかも別物となる。それはつまりサラの言う『偽りの姿』になる


だがしかし!サラはサラだ・・・見た目が変わってもサラである事は間違いない・・・ただ見た目が少し違うだけ・・・うん、きっとそうだ


「ふっ・・・見た目は変わってもサラはサラ・・・何ら問題はない!」


「・・・では、失礼して・・・」


サラは表情ひとつ変えずにゲートを開き仮面を取り出し変身した


「・・・えっと・・・」


「見た目は変わっても私は私ですよ?ご主人様」


オッサン・・・サラだけど見た目がオッサン!


「サラ・・・それは無理だ」


「あら?ではこうしましょうか?」


そう言って変えた姿は・・・


「む、無理です」


性別は女性になったが元の体重の倍以上あるであろう体格にお顔もちょっと残念な事に・・・目を閉じれば何とか・・・いや、無理だ


「そうですか・・・では・・・」


「・・・」


次に変身した姿に言葉を失う


何せサラが変身した姿は誰かに似ていたからだ・・・いや、似ているどころでは無い・・・そのまんまだ


「・・・僕が悪かった・・・変身してするのはやめよう」


「理解して頂き感謝します」


サラは変身を解き笑顔を浮かべる


そりゃあ元がサラと分かっていても背徳感半端なさそうな見た目されたら抱けないさ。もし抱いてしまえば次に顔を合わせた時にどんな顔すれば良いのか分からなくなる


「もし・・・僕が抱くと言ったらどうしてた?」


「そうですね・・・浮気とみなしけちょんけちょんにするつもりでした」


「は、はは・・・」


良かったよ選択を間違えなくて


でもまさか・・・ファーネに変身するとはね──────





次の日、僕達は再び冒険者ギルドを訪れた


問答無用で昨日の部屋に案内されると少ししてギルド長が姿を見せた


ギルド長はソファーに座り僕の顔を見ると一言


「いい返事が聞けそうだね」


と言って微笑む


「・・・成功報酬ではないので返事は『出来るだけやってみる』に留めておきます。それで?具体的にはどう助けるのですか?」


「それで構わないよ。ギルドらしく依頼という形でお願いしようかね・・・依頼内容は女王陛下救出・・・報酬はアタシの知る情報・・・具体的な依頼内容は・・・ダカンの・・・息子の愛した彼女に戻してくれ、だよ──────」

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