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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
377/856

373階 カミキリマル

おっ・・・ちょうどサラも終わったか


服についたホコリを叩きながらサラ達の方を見ると彼女がリュウちゃんに回し蹴りを炸裂させ勝負を決めたところだった


「・・・力を隠していやがったか・・・」


「隠してた?違うな・・・力を出す場面がなかっただけだ。貴方やギリス達みたいに力をひけらす趣味はないんでね」


「別にひけらかしちゃいねえよ・・・武王国と言われる所以だ・・・考えるより先に手が出るってな・・・ところでさっきの話だが・・・」


「さっきの話?」


「ハクリとキョウの話だ・・・まるで解釈が違うみたいな言い方をしていたが・・・なぜお前さんがハクリの話を知っているのかも疑問だし俺らより詳しいってのも釈然としねえ・・・お前さんは一体・・・」


サラが心配で小さくゲートを開いて2人が話しているのを盗み聞きしてました・・・とは言えないな・・・


「歴史に詳しい知り合いがいるもんでね・・・それよりこのままちんたら話してていいのか?街中の至る所で鬼が暴れたんだ・・・負傷者の救出や未だに逃げている人なんかもいるのでは?」


ケッペリの街は広いし探せばまだ生き残っている鬼がいるかもしれないしな


「・・・それもそうだな。なあ『げーと』ってやつは一瞬で遠く離れた場所に行けるんだろ?城まで送ってくれ」


「おいおい、この状況で帰るのかよ・・・」


「俺がここに居てもクソの役にも立ちやしねえ・・・代わりに優秀な奴をここに送ってもらいたい」


「こき使われる言われは無いけど?」


「ちゃんと駄賃はやるからケチくせえこと言うな・・・ほら早くしろぃ」


なんで命狙って来た連中の頼みを聞いてヤラにゃならんのだ・・・まあいいか・・・駄賃なんだろ・・・魚かな?


「『ゲート』・・・ほら入れ・・・ここを通れば城の中だ」


「・・・本当ヤベェなお前さんは」


「そりゃどうも」


王様は言うと倒れているギリスとリュウダを抱えてゲートの中へ・・・するとすぐ後にゲートからキッテがポンと放り出て来た


「へ?なに?どこここ?殿?」


「ケッペリだ!とりあえず復興よろしく・・・それまで帰って来るな!」


「はぁ??ちょっと殿!」


「ローロー!さっさと来やがれ!お前さんに話がある!」


ゲートの先から大声で僕を呼ぶ声・・・仕方ないのでサラに目で合図して2人でゲートに飛び込んだ


1人残されたキッテが後ろで何やら喚いていたが・・・まあ大丈夫だろう



ゲートを潜り抜けると繋げた場所・・・王様と初めて謁見した部屋に辿り着く


王様は抱えてた2人を物のように床に放り投げると前に座っていた場所まで行き腰を落とす


〘サキ、先にエモーンズに帰っていてくれ。ちょっとお呼ばれした〙


〘分かったにゃ。あまり無茶するんじゃないにゃ・・・体調も万全ではにゃいのだから〙


〘分かってるよ・・・ただ話をするだけだ・・・多分な〙


ギリスの目が覚めたらまた暴れるかもしれないし王様がギリスが鬼になったのを僕のせいにするかもしれない。まあおそらくそれは無いと思うけど最近油断してやられる事が多かったから気を引き締めないとな


それに王様が僕達をここに呼んだ理由は多分・・・


「・・・さて、随分と詳しいみてえじゃねえか・・・話してみろよお前さんの知っている解釈の違うおとぎ話をよ」


「やっぱりその話ですか・・・別に解釈が違うって訳じゃありません・・・そもそもこの国に残っている話や口伝はおそらく()なので」


「・・・あ?」


「魔族パズズによって鬼化しそうになったハクリがキョウへの想いの強さで耐えてキョウを生贄にした王様に復讐し新たな王となる・・・なかなか面白い話ですがその話は嘘です」


「その証拠は?」


「証拠も何も・・・まずパズズが鬼化させようとしたら普通の人間はまず抵抗出来ないでしょう・・・この国の人は『天』という言葉を使い不可能を可能にしたと信じているようですが・・・まず無理です」


「・・・だったらギリスはどうなんだ?コイツも・・・」


「鬼化したじゃないですか」


「けど正気に戻った・・・それは鬼化を防いだって事じゃないのか?」


「違います・・・そもそもハクリとギリスは他の鬼となった人達とは違う扱いを受けただけなんです」


「なに?」


「王様・・・殿が知っている話の中でハクリを鬼化させようとしたパズズはその後出て来ましたか?」


「・・・いや・・・鬼化を防いだハクリが倒したんだろ?」


「倒してませんよ。パズズはハクリを利用して国を乗っ取り大陸を我がものにしようとしていたのですから」


「ハクリを・・・利用してだと?」


「魔族は別に人間を食べたりしません・・・なのになぜ当時の王様は人間・・・キョウを生贄に差し出したと思います?」


「・・・」


「実は生贄はパズズからの要求だったのです。食べもしない魔族が人間を差し出せと要求する・・・何か裏があると思いませんか?」


「・・・鬼にする為・・・か?」


「半分正解です。パズズは・・・その生贄を使って王様を殺させ国を牛耳ろうとした・・・なので生贄という形で要求したのですよ」


「・・・生贄だからなんだってんだ?」


「生贄となった者は差し出した者を恨むはず・・・つまり王様を恨んでいるはずなんです。それをパズズは利用しようとした・・・実際の物語はこうです──────」



パズズの弱点は鬼を操るのに自らも近くにいないといけないこと。その範囲はケッペリの街程度らしい


となると遠く離れた場所の人間を始末するには自らもその場所に行かなくてはならなくなり自らを危険に晒す事になる。それを避ける為に考えたのが自我を少し残した鬼を作ることだった


鬼となれば魔力の影響で攻撃性が増す・・・そんな鬼が自我を持っており誰かを恨んでいたとすればする事はただ一つ・・・復讐だ


パズズは王様に恨みを持つ人間を鬼にし自我を残す事により勝手に王様を殺す配下を作ろうとした。そして王殺害という大事件の混乱に乗じて操れる範囲まで忍び込み影から鬼を操り国を支配しようと企んだんだ


想定外で生贄本人ではなく一緒に来たハクリが鬼となったがハクリもまた王様に恨みを持つ者・・・パズズはそのままハクリで計画を実行し見事国を支配する事に成功する


ただ計画に狂いが生じる・・・それは想定より早く勇者パーティーが魔王を倒し勇者パーティーの1人として国を出ていた拳豪が戻って来てしまったからだ


パズズとしては鬼を増やし戦力を固めてから迎えたかった相手・・・だが戦力が整う前に戻って来てしまい更に拳豪は王となったハクリの異変に気付き怪しんだ・・・誰かに操りているのではないか、と


探りを入れ始めた拳豪を通して邪魔しようとするがただの鬼では拳豪には敵わず、結局パズズは拳豪に見つかり排除されてしまう


自我のない鬼は全て退治され残ったのは自我のあるハクリのみ・・・誰もが拳豪が鬼であるハクリを退治し自らが王を名乗ると思ったが・・・


「拳豪はハクリを退治せず・・・しかも王のままで居させた。魔族に操られていた鬼のハクリを、です」


「・・・何故だ・・・なぜ当時の拳豪は・・・」


「さすがに心境までは分かりません・・・一説によれば短い期間に王がコロコロ変わるのは良くないと判断したとか自らが王になるのを嫌がったとか王に相応しい人材が居なかったとか・・・ですがおそらく・・・拳豪はハクリとキョウを救いたかったのでしょう」


「救いたかった?」


「もしハクリが王の座を退けばただの鬼として退治されるでしょう・・・新たな王になった者の手によって。鬼の力は脅威ですし国を混乱させた詰みを思えば当然かも知れません・・・けど拳豪は自我のあるハクリを助ける為にそのまま王を続けさせた・・・それだけが唯一ハクリ達を救う手段だったから・・・」


「・・・」


「その後の数年は王の側にいたらしいですよ?拳豪。多分ハクリが正気を失い鬼として暴れたら責任を持って対処するつもりだったのでしょう・・・ですがハクリはもう大丈夫と判断した後は自由気ままな旅に出てしまったそうです・・・元々一箇所に留まるのが苦手な人だったみたいですね」


「・・・ふん、まるで見て来たように言う」


「見て来た訳ではありませんが私の歴史好きな知り合いが見ている本は何の脚色もされていない真実が綴られた本らしいので・・・殿達が見ている都合のいい本とは違うみたいですよ?」


「・・・都合のいい本・・・か・・・」


「まあそういう訳です。そして復活したパズズが次に選んだ『ハクリ』は・・・」


「ギリスか・・・ギリスを利用し国を手に入れようと・・・」


「ええ。パズズはギリスの実力や思考を見て自分の代わりにしかも自分の理想通りに動いてくれそうなギリスに目を付け自我を残したまま鬼にした・・・ギリスを操り殿を殺した後はギリスが王となった後で裏から操る為に・・・」


「となるとそのパズズがいない今は先祖であるハクリと同じ状態って訳か・・・自我のある鬼・・・災い転じてとはこの事だな」


災いが大き過ぎるだろ・・・鬼になった人やその鬼が暴れて死んだ人や破壊された街・・・決して安い代償ではないはずなのに・・・


「そうか・・・そうなんだな・・・」


顔を手で隠し嬉しそうにする王様を何故か責める気にはなれなかった


僕も子供がいたら同じように喜ぶのだろうか・・・他の人が沢山死んでも我が子さえ生き残っていれば・・・そう思うように・・・なるのだろうか・・・


「・・・とにかく『天』とか奇跡とかそんなのではなくパズズの都合・・・って言い方が正しいかもしれません。都合のいい本では奇跡みたいな書き方をしているかもしれませんけどね」


「・・・いいや、『天』はある。人それぞれに『天』があり、『天』への想いが奇跡を起こす・・・不可能を可能にするんだ!」


「そいつは良かったですね・・・それじゃあそろそろ帰らせてもらってもいいですか?」


勝手に熱くなっててくれ。僕は別に『天』なんて・・・けど僕が魔王を倒せたのってもしかしたら・・・


チラッとサラの横顔を見た


もし彼女がいなかったら・・・僕は魔王に勝てていただろうか・・・彼女だけではない・・・ダンコやサキ、セシーヌにペギー・・・みんながいなければ僕は・・・ん?てかダンコに会わなければそもそも僕が魔王と対峙する事はなかっただろうしサラやセシーヌ達とも会わなかったかも・・・そう考えると無駄な考えだよな・・・いなかったらなんて考えるのは


「まあそう急くな・・・駄賃をやると言っただろ?」


そう言って王様は後ろに立て掛けてあった一振の刀を手に取り僕に投げて寄こした


「『カミキリマル』だ持ってけ」


紙切丸?


「また随分と事務作業が捗りそうな刀ですね」


「事務作業?・・・ああそっちのカミじゃねえ・・・神様のカミだ」


「『神切丸』?・・・そりゃまた物騒な・・・」


「抜いてみな・・・理由が分かるぜ?」


言われて僕は刀の柄を握り鞘から少し抜いてみた


すると・・・


「・・・魔力?この刀・・・魔力を放って・・・」


僕には見慣れた力だけど普通の人が扱えばどうなる事やら・・・抜いただけでも死ぬかも知れないぞ?これ


「ザジ家代々の当主しか扱えない代物だがお前さんなら使えるだろ?宝刀だから大事にしろよ?」


「本当に頂いても?」


「構わん・・・駄賃だと言ったろ?」


「・・・でしたらありがたく頂戴します」


刀身から魔力が出る刀か・・・どうやって作ったか気になるな・・・


「達者でな・・・次はどこに行くんだ?」


「北の・・・シャリファ王国を予定してます」


「そうか・・・なら女に気を付けろ」


「?・・・はい・・・ご忠告ありがとうございます」


女に?・・・なんだ?誘惑が多いってことか?


それなら僕にはサラがいるから何も問題ないな・・・この国みたいにトラブルに巻き込まれずすんなり終わりそうだ、うん──────




「・・・起きてるんだろ?カミキリマルを渡した時にピクっと動いたのが見えたぞ?」


「・・・ハア・・・親父・・・なぜ()()カミキリマルをアイツなんかに・・・あれは代々受け継がれて来たもの・・・次は俺様が・・・」


「なら取り返して来い」


「へ?」


「奴に勝って取り戻して来い・・・そしたらお前が次のこの国の天の守・・・いや、王だ──────」

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