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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
372/856

368階 天

街中を走る男がいた


必死に何かを探しているようで走りながら忙しなく視線を動かす


「・・・アツウ!」


その男に気付いた男が声を掛けるとアツウと呼ばれた男は立ち止まり肩で息をしながら呟く


「ああ・・・()()()


「?・・・何をしている?命令は鬼の排除・・・そんな路地裏に鬼は居ない」


「・・・分からないだろ?潜む鬼も居るかも知れない」


「バカな事を・・・そんな鬼がいるなら見てみたいものだ・・・とにかく一緒に来い・・・ほとんどの鬼は排除したがまだ悲鳴は聞こえてくる・・・共に行き協力しろ」


「・・・分かれて探した方が効率的だろ?」


「それはそうだが・・・正直言うと疑問がある」


「疑問?」


「貴様・・・本当にアツウか?」


男が持っていた槍を構え問い質すとアツウはため息をついた後、腰に差していた刀を抜いた


「どうしてそう思った?」


「本物のアツウは『お前』などとは言わない。名前で呼ぶ」


「なるほど・・・名前を聞いておくべきだったな・・・釣り人──────」





「あー暇潰しにも飽きたし話でもしようか」


こんの化け物め・・・私とシークスとヤットの3人がかりで手も足も出なかった・・・言い訳をすると殺す気ならもう少し戦えたと思う・・・けどそれを抜きにしても・・・強い!


まあヤットはすぐに戦線離脱してほとんどシークスと2人で戦ってたけどシークスの『黒蝕招来』も通じなかったし私の技もほとんどダメ・・・風牙龍扇は使わなかったけど・・・何なのよ・・・あー腹が立つ


「メイド・・・いやサラだったな。冗談抜きで嫁に来ねえか?俺じゃなくギリス・・・いや誰でもいい・・・この国に残るなら護天の地位をやるぞ?」


「要りません。私は永遠にご主人様・・・ロウニール・ローグ・ハーベスのモノですから」


「・・・貫く意思は尊重するが・・・やりたくなったら自分で慰めるのか?」


「しません!したくなったらご主人様に・・・って何を言わせるのですか!」


「なに?・・・生きてるのか?ローロー」


「亡くなったとは一言も言ってません。もし亡くなっていたら・・・あなたと言葉を交える事などなかったでしょう」


私が死ぬかワグナが死ぬか・・・それのみの関係だったはずだから・・・


「やっぱり惜しいな・・・お前さんならギリスの『天』になれたかもしれねえが・・・」


「『天』?」


「・・・人によって天の頂きは異なる。ある者はそれが国であったり街であったり・・・人であったり物であったりもする。何であれ差は無い・・・あるのは天の頂きに対する思いのみ」


いきなり何を語り出すかと思ったら・・・天の頂き?意味が分からない・・・


「分からないって面だな・・・暇潰しに昔話でもしてやろうか・・・まあ座れや」


そう言いながらワグナはドカッと腰を下ろす


シークスは・・・うん、気絶してるね。ヤットは言わずもがな・・・このまま戦うのも時間の無駄か・・・


「いい子だ。さて、どの国にもあるようにこの国にも英雄譚はいくつかある。その中でも俺のお気に入りの話をしてやろう。ある村にハクリという少年がいた──────」



いきなり語り出した時は寝てようかと思ったが思わず聞き入ってしまった


ワグナの話の内容はこうだ


少年ハクリは幼なじみのキョウと共に村で穏やかな日々を送っていた。ハクリはキョウを密かに想い、キョウも満更でもない様子・・・大人になれば結ばれる・・・2人は無意識にそう考えるようになっていた


だが・・・ある時たまたま村を訪れた当時の国王にキョウは見初められ連れて行かれてしまう


隣にいて当然だったキョウを失いハクリは茫然自失となってしまう


引き裂かれた2人・・・そんな矢先に魔王が復活・・・国には妖怪・・・魔物が溢れ出す


生きる事に精一杯となったハクリだがキョウの事は片時も忘れはしなかった・・・そんな中、数年が経ったある日、村の近くに魔族が出現したと噂で聞いた。魔物よりも強力な力を持つ魔族・・・奇しくも当時の勇者が訪れた後に現れた魔族に国は対応に窮していた


なぜなら勇者が国一番の強者・・・拳豪を魔王退治に必要だと連れて行ってしまったからだ


他に強い者がいなかった訳ではない。だが万が一討伐出来ず魔族を怒らせてしまったら頼れる拳豪がいない今、国が滅ぼされてしまうかもしれない


そう考えた国王は拳豪が戻るまでの間、時間稼ぎをしようと考えた


その時間稼ぎの為に用意されたのが生贄・・・魔族に生贄を捧げる事により犠牲を少なくしようとしたのだ


魔族が村近くの山に潜んでいるという事もあり、ハクリは道案内として生贄を運ぶ者達に同行することに


そしてハクリがその生贄を見た時、目が眩み倒れそうになる


生贄に選ばれたのはキョウ・・・幼なじみのキョウだったのだ


当時の国王は妻を何人も娶り子を作らせていたが幼かったせいかキョウは子に恵まれず国王からも妻達からも疎まれていたという


そんな中でキョウが生贄に選ばれた・・・国王としては妻を生贄に差し出したという名分と厄介払いが出来たという事になる


その考えが透けて見えたハクリは怒りで気が狂いそうになるが何とか耐え、キョウ達を魔族のいる山まで案内する・・・どうやってキョウを助けるか考えながら


だがキョウに同行するのは屈強な兵士達・・・たとえ山に詳しいハクリでもキョウを連れて逃げるのは難しい


何も出来ずに進んでいるととうとう魔族の住処まで辿り着いてしまった


山の中腹に洞窟があり、そこの奥に魔族はいるらしく魔族に恐れをなした兵士達はキョウに1人で行けと命じる


そのタイミングでハクリは最後まで付き添うと名乗り出てキョウと共に洞窟の奥へ


そして対面する・・・魔族パズズと


出会った瞬間に自分の無力さを感じ何も出来ないと理解するとハクリは突然パズズの前に躍り出て頭を地面に打ち付ける・・・何度も何度も・・・


何をしているかとパズズが尋ねるとハクリは何でもするからキョウの命だけは助けてくれと懇願する


その行動に興味を示したパズズはハクリにひとつ提案をした


『これを飲み干し鬼となるならば助けてやろう』


その言葉を聞いた瞬間、ハクリは迷うことなくパズズが持っていた瓶を受け取り中身を飲み干した


その瞬間体が焼けるように熱くなり、心の底からどす黒い感情が湧き出てくる



キョウを連れ去った国王を・・・殺す



心の奥底にしまっていた感情・・・怒りが体を支配する


だが・・・


『やはり鬼となるか・・・それも一興。だが最初の被害者はお主の想い人となるだろうな』


ハクリは振り返りキョウを見た


感情を失い目の焦点が合っていないキョウ・・・辛い思いを沢山してきたのだとすぐに分かった


でも鬼になればキョウを・・・そう考えると怒りよりもキョウへの想いが勝り始める


そして・・・


「・・・見事ハクリは勝った・・・ハクリの天の頂きはキョウ・・・それを見事証明したのだ」


「・・・人への想いが鬼への変化を止めた・・・という事ですか?」


「んー、少し違うな。魔気に支配されなかった・・・怒りを操り使う事により鬼の力を得ながらも人でいられた・・・ってところだな」


魔気・・・魔力の事よね?


魔力は負の感情で生まれる・・・だから怒りや悲しみの感情などに反応し多ければ多いほど魔力は増えて暴走しやがて正気を失ってしまう・・・けど負の感情とは真逆の感情・・・正の感情でそれを抑え込み制御したって事なのかな?魔人は全て正気を失い狂ったように破壊の限りを尽くすものだと思っていたけど・・・


作り話?でも妙に・・・


「まるで見てきたように話すのですね・・・もしかして国王様は相当長生きなのですか?」


「からかうんじゃねえよ・・・俺がそんな年寄りに見えるか?誰もが読める本に口伝の部分をぶっ込んだまでだ」


「口伝?」


「ああ・・・本には書けねえ部分が多々あるからな・・・今の話だとハクリは幼なじみの女を悪い殿様から取り戻した英雄だ・・・実際はそうでもねえ」


「え?」


「途中までは概ね話の通りだが後がいけねえ・・・殿様をぶっ殺してそのまま妻や・・・その子供まで殺しちまったんだよ・・・まだ幼い・・・赤ん坊だっていたって話だ」


「なん・・・で・・・」


「後に言い訳がましく語ってたらしいがどうやら殿様の妻達はキョウを虐めていたらしい。それと子供達だが・・・キョウを攫うような奴の血を後世に残したくなかったんだとよ・・・イカれてるぜまったく」


人を呪わば穴二つ・・・ハクリは怖かったのかもしれない・・・殿様の子孫の復讐が・・・でもそれにしても何の罪もない子供を・・・


「そんな話やキョウがどれだけ虐めや陵辱を受けてきたかって話もあるが聞くか?」


「結構です」


「つれねえなぁ・・・結構興奮するぜ?幼き少女がありとあらゆる・・・」


「聞こえませんでした?結構です!」


「・・・そうか。まあ後は暴君となりそうだったハクリと拳豪の出会いとか色々あるが・・・まあそんなこんなで今に至るってやつだ」


「それで・・・ハクリにとって天の頂きがキョウだったから鬼にならずに済んだ・・・そういうお話ですか?」


「そうだ・・・恋人を奪い去った野郎に向ける怒りよりも恋人を想う気持ちが上だった・・・そして鬼の力を得た鬼人となり国を治めたって話だ」


鬼人・・・魔力を使える人間って意味ではロウは鬼人なのかも・・・ん?


「お尋ねしたいのですがラズン王国の国王は世襲制ですか?」


「やっと気付いたか・・・そうだ・・・俺は鬼人ハクリ・ザジの血を引いている。もちろんギリスもな」


やっぱり・・・人より少し大きいと思ったけどそういう事?


「魔気は扱えねえが人より頑丈な体と多くの気を使える・・・ただ子供が何人産まれようが力を受け継ぐのは1人・・・つまり俺にとってはギリスだけだ」


「・・・それなのに少し厳し過ぎではありませんか?嫡子にあのような目を向けるなんて・・・」


「あのような目?」


「彼を見る目が蔑むような目をしていました」


「・・・期待がデカかった分失望もデカかった・・・それが顔に出てたか・・・俺もまだまだだな」


期待が大きかった・・・か。でもギリスはそれを知らない・・・ただ王を・・・父を失望させてしまったと考えているはず。思い詰めて変な事しなければ良いのだけれど・・・



得てして悪い予感というものは当たるもの


私とワグナは同時に気配を感じて振り向くとギリスがいた


虚ろな目で・・・ユラユラと揺れながら・・・



「・・・ギリス・・・魔族はどうした?」


平静を装い話し掛けるワグナ。彼も分かっているはずだ・・・ギリスはもう・・・


「捕まえたぜ・・・親父」


「そうか・・・俺は連れて来いと言ったが?」


「あーそうだったか?すまねえ・・・始末しちまったよ」


「何やってんだ・・・まあいい。そんな事より・・・・・・・・・やりやがったな?」


ワグナは眼光鋭くギリスを問い質す


すると・・・


「フヒッ・・・やっぱり分かる?気分いいぜ親父ぃ・・・この万能感・・・癖になりそうだ・・・親父がいつも言ってた『強くあれ』ってのも今ならその意味が分かる」


「曲解すんな・・・俺は自らを鍛え強くあれと言っている・・・誰も他人の力を借りてでもなんて言ってねえ」


「他人の力?違うね・・・これは俺様が本来持ってた力だ・・・それを解放しただけ・・・そうだろ?そうだよな?」


もうギリスはダメだ


目の焦点が合わず口元が緩みヨダレを流す・・・そして体は徐々に黒ずみ魔人化の一歩手前・・・本格的に魔人化する前にトドメを・・・


「・・・サラと言ったな」


「何ですか?自らの子を手にかけるのはあまりにも思ったので・・・」


ワグナは仕掛けようとする私を止めようとしたのだと思った・・・だが違った・・・ワグナは予想外の事を言い放つ


「ギリスの『天』になってくれ・・・今なら間に合う」


「・・・は?何を言って・・・」


「アイツに『愛してる』と囁いてくれって言ってんだ!アイツはお前さんに惚れ込んでいる・・・ハクリがアイツならお前さんがキョウになってくれりゃあアイツは・・・」


「アッハッハッ!気絶したフリをして不意打ちでもしてやろうと思ってたけどあまりにもおかしくて笑いが堪えきれなかったよ」


シークス!?気絶してなかったの?


「てめえは黙って寝てろ!今は・・・」


「いい話が聞けたよ・・・悪い王がいたもんだな。ハクリって奴には同情するよ・・・で?君はどっちの子孫だって?恋人を寝盗られたハクリか?それとも自分が助かる為に女を生贄に差し出した悪い王か?」


「なに?」


「あー、答えなくていいや。今言ったことを思い返せば馬鹿でも分かる。サラを生贄に大事な大事な息子を助けたいんだろ?なら君が血を引いているのは一目瞭然・・・悪い王だ」


「貴様っ・・・」


「そう怒るなよ・・・いいクズっぷりを褒めただけなんだからさ。さあサラ・・・そいつの為に生贄になりなよ・・・股を開けば喜んで腰を振るんだろ?そこのボケナスは。何が『天』になってくれだ・・・正直に言えよ『性奴隷になってくれ』ってな」


「クソガキがぁ!!!」


「いいのか?弾けるよ?」


ワグナの殺気に反応したのかギリスがブルブルと震え出す


見ると魔力が体の内側で暴れだし今にもギリスの体を食い破ろうとしていた


「ま、待てギリス!ダメだ・・・怒りを抑えろ!」


「バカが・・・奴の魔力の元は怒りじゃない・・・自分に対する絶望だ」


シークスの言う通りかもしれない


ギリスは自らの無力さと父ワグナの期待を裏切った事により絶望し魔人になる事を望んでしまった


絶望の中で最後の希望として選んだのが・・・魔人だったんだ


彼は一瞬正気に戻ったような表情となりワグナを見て微笑む


それが何を意味するか分からない


けど・・・それを最後に彼は・・・



魔人と化した──────

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