34階 友達
今、村ではラックとネルちゃんの葬儀が行われている
この村の風習なのか国全てが同じように葬儀を行うか知らないが遺体の周りに木を組み上げ火をつけて火葬する。その周りで故人を偲ぶのが葬儀である
本来なら現在ダンジョンがある広場で行われていたが、今は出来ない為に適当な空き地で行われていた
既に木材に火がつけられ濛々と煙が上っていく。まるで2人が・・・天に昇っていくかのように・・・
「・・・ロウニール君?」
「あっ・・・ペギー・・・ちゃん・・・」
上っていく煙を見つめていると話しかけられ、振り向くとそこにはペギーちゃんがいた
火の光に照らされた目は少し腫れており目の下には薄らと涙の跡が・・・僕の同期であるラックは当然ペギーちゃんの同期でもある。悲しくて泣くのは当然かも知れない・・・僕は・・・ラックが死んだと分かってから一度も泣いていないけど・・・
僕に泣く資格なんてない・・・泣く資格なんて・・・
「ラック君と会えた?」
「え?」
「ほら・・・戻って来てすぐだったから・・・」
「あ、うん・・・ちょうど仕事で門番をしている時に・・・それとラックが誘ってくれてその日の夜にご飯を・・・ペギーちゃんは?」
「そっか・・・私はほら・・・ギルドで受付してたから・・・ね」
「そ、そうだよね・・・ごめん・・・」
会えたかどうか聞かれた時、一瞬ダンジョンでの出来事を思い出す
でも僕はダンジョンでは会ってない事になってるから少し焦ってしまった・・・あの時はラックを置き去りにして・・・
「急だったからみんな戻って来れなかったね・・・みんなもお別れを言いたかったよね・・・多分」
「うん・・・そうだね・・・」
「ねえ・・・」
ペギーちゃんが何かを言いかけた時、何故か僕の背後に視線を向ける
誰か来たのかと振り返ると・・・そこにはラックの・・・
「ロウニール・・・久しぶりだな?オジサンのこと覚えているか?」
「あ・・・ラックの・・・」
「ああ、ダメな父親だ・・・息子に頼りっきりだった・・・ダメな、な」
鼓動が早くなる
もしかしてあの袋を届けたのが僕だって気付いて・・・
「・・・ちょっといいか?」
「は、はい・・・あの・・・」
「ラックが帰って来て久しぶりに全員揃っての夕食時・・・あの野郎、外で食ってくるなんて言いやがってな・・・まあ後で聞いたらネルに言われたらしいんだけど・・・」
ネルちゃんに?何を・・・
「帰って来て速攻ネルの元に行きやがってさ・・・これからはずっとそばに居るなんてラックが言うもんだからネルは・・・『そんなんだからお兄ちゃん友達居ないんだよ』ってさ・・・ラックはその場で『友達くらいいるさ』って言い返したらネルが『だったら久しぶりに帰って来たんだから友達と食事でも行ってくれば?私達とはいつでも会えるでしょ?』って」
そんなやり取りが・・・だからラックは・・・
「久しぶりにラックに会えてネルはまるで昔のように元気いっぱいだったんだ・・・でも・・・明け方・・・容態が急変して・・・それであの野郎・・・妹の傍にいる訳でもなくて血相を変えて出て行きやがって・・・妹は・・・ネルはずっと『お兄ちゃんお兄ちゃん』と呼んでるのに・・・」
そうか・・・だからラックは・・・無茶をしてでも・・・お金を稼ごうと・・・
「すまねえ・・・こんな事言っても仕方ねえよな・・・ただお前さんに伝えたくてな・・・ロウニール・・・お前さんと食事を終えて帰って来たらさ・・・真っ先にネルの寝室に行きやがってあの野郎こう言ったんだ・・・『どうだ?兄ちゃんだって友達くらいいるんだぞ』って・・・そしたらネルが『誰よその物好きは』と聞くとあの野郎・・・照れ笑いなんかしやがって『ロウニールだ』って言って・・・」
僕は膝から崩れ落ち
ラックが死んでから初めて泣いた──────
僕は何日か休んで良いと言われてダンジョンにも行かずに兵舎の自分の部屋にいた
ただ何をする訳でもなくてずっと1人で・・・最初は自分を責めたけど、今はもう何も考えずにいる
だからだろうか
一向に前に進める気が・・・しなかった
「ロウニール!・・・お客さんだ」
ドカート隊長がドアを開け一瞬顔を覗かせてニヤリと笑うとドカート隊長と入れ替わるようになんと・・・ペギーちゃんが姿を現した
「急にごめんね・・・門に行ったら休んでるって聞いて・・・」
「あ、うん・・・」
しばらく誰とも話していなかったせいか口が上手く回らない。元々口下手なのに・・・更に言葉が出なくなっていた
ペギーちゃんが僕の部屋に来る・・・普段なら泣いて喜ぶようなイベントも今の僕には・・・
「あのね・・・この前言いそびれちゃって・・・ほら・・・ラック君とネルちゃんの葬儀の時・・・」
「・・・あ」
そういえばペギーちゃん・・・何か言いかけてたような・・・
「あの時・・・言おうとしたのは・・・多分私がラック君と最後に会ったの・・・」
「・・・え?」
「ほら・・・私ギルドで受付してるでしょ?あの日・・・ギルドカードを渡されて・・・その時初めてラック君が帰って来た事を知って・・・なんだか切羽詰まったような表情してて・・・私・・・何か声をかけとけば良かったって・・・それなのに私・・・」
「・・・ペギーちゃん・・・」
「それなのに私・・・ラック君に『お気を付けて行ってらっしゃいませ』って・・・あの時私が声をかけていれば・・・ラック君は・・・」
ペギーちゃんは自分を責めていた
ただダンジョン入場の受付をしただけなのに
もっと罪深い奴がここに居るのに
自分を責めているんだ
そんな事はない
悪いのは僕だ
そんな言葉が出そうになったけど飲み込む
いっそ僕がダンジョンを作ってて魔物も創って・・・その魔物がラックを殺したって告白した方が楽になれると本気で思った・・・けど・・・もしダンジョンを僕が作ってなくても・・・ラックは同じ選択をしていたはず・・・なら僕がするべき事は・・・
ペギーちゃんの思い悩んでいる事と僕は同じ事を悩んでいた
ペギーちゃんは思い詰めたラックに声をかけて止めていれば、と。僕はダンジョンなんて作らなければよかった、と
でも違うんだ・・・それじゃあ過去に戻ってもラックは救えない・・・ネルちゃんも・・・救えないんだ
でも・・・僕なら・・・ダンジョンマスターである僕なら救えたかもしれない・・・そうだ・・・そうなんだ!
「ありがとう」
「え?・・・え??」
「僕がやるべき事が分かった・・・ペギーちゃんのお陰で・・・だから『ありがとう』」
「う、うん・・・うん?」
僕が感謝の気持ちを伝えるとペギーちゃんは微妙な顔をして帰って行った
部屋に1人となり僕は久しぶりにゲートを開く
毎日通っていた場所・・・そんなに長い間行かなかった訳じゃないのにかなり久しぶりに感じた
「ダンコ・・・ダンジョンの状況は?」
《・・・久しぶりに話し掛けて来たと思ったら第一声がそれ?》
「悪かったよ・・・あの時は・・・」
《別に気にしてないわ。私はアナタよ・・・自分に謝るのはおかしいでしょ?にしても・・・アナタ本当女心が分かってないわね》
「どこら辺が女なんだ?確かに喋り方は女っぽいけど・・・」
《私じゃないわよ!》
「え?じゃあ・・・」
《アナタ・・・ペギーって人間が好きなんでしょ?》
「そうはっきり聞かれると・・・まあ・・・うん・・・」
《せっかくのチャンスだったのに》
「へ?チャンス?」
《わざわざ部屋まで訪ねて来たのにアナタときたら・・・》
「え?え?どういう事??」
あくまでダンコ曰くだが・・・ペギーちゃんはラックの事で後悔してて、その気持ちを僕と共有したかった・・・らしい。辛い思いを共有して慰め合おうと・・・でも僕は1人で納得して1人スッキリしてペギーちゃんの気持ちなんて全く考えなかった
もしかしたらそこから仲良くなってあわよくば・・・というチャンスを逃したらしい
べ、別にチャンスを逃したとか思ってないし・・・残念じゃないし・・・・・・マジかぁ・・・・・・
《魔物のストックがそろそろ切れそうよ。配置はスラミがしてるから問題ないけど魔物を創る事は出来ないからね》
「・・・何の話?」
《アナタがダンジョンの状況を聞いてきたんでしょ!!》
「あ、はい・・・」
《人間が訓練所を頻繁に使用するようになってマナもだいぶ溜まってきたわ。魔物を創っても余りそうだし9階を作っても良さそうね》
「そっか・・・とりあえず魔物の補充が先決で・・・9階は作っておいてオープンは後で?」
《作ればすぐにオープン出来るわ。前に4階と5階に配置したホーンアルミラージやホワイトワームも大量に創って訓練させておいたでしょ?それらを配置すれば魔物は十分・・・後は宝の配置だけどそれもストックあるしね》
「また使い回しって思われそうだな」
《そうね・・・でもマナを溜めるにはこの方法が効率いいし・・・》
その辺は冒険者に我慢してもらおう
まあ冒険者としては同じ魔物でも魔核が大きくなれば満足するのかな?うーん、まっいっか
《あ、あと魔物もそうだけど壁もそろそろ替えた方が良いかもね》
「壁?」
《壁というか雰囲気というか・・・例えば今はブロック壁だけどゴツゴツした岩壁や模様が付いた壁なんかもあるわ》
なるほど・・・壁が替われば雰囲気も変わるし『この階は何かある』って思わせるにはもってこいかも
《それで?何が分かったの?》
「ん?分かった?」
《・・・言ってたじゃない・・・『やるべき事が分かった』って・・・まあ私にじゃなくて・・・》
「ああ、ペギーちゃんに・・・」
《やるべき事ってなに?》
・・・僕はラックとネルちゃんを救えたかもしれなかった・・・でも実際は・・・
お金を渡して何とか救おうとしたけど・・・そんな方法しか思い付かない自分に腹が立った
ダンジョンマスターなら・・・僕ならもっと他に方法があったはず・・・なのに・・・
「ダンコはダンジョンが大きくなれば僕は強くなるって言ったよね?でも強くなるだけじゃダメだ・・・もっと知識や経験が必要だ」
《それで?》
「ああ・・・だから冒険者になろうと思う」
《・・・は?》
もしダンコに顔があったらどんな表情をしていたのだろうか・・・多分かなり間抜けな表情をしていたのだろう。それくらい間の抜けた声だった
そりゃあそうだ・・・自分で作ったダンジョンを自分で攻略する・・・一見意味の無いことのように思えるけど・・・
「僕は今回のラックのような冒険者を救いたい・・・けどそれには圧倒的に知識が足りないんだ。ダンジョンマスターとしての知識はダンコから・・・でも冒険者側の知識を得るには冒険者になるのが一番だと思う・・・だから僕は・・・冒険者になる!」
その経験がいつかきっと活きてくるはずだから・・・




