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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
368/856

364階 ワットの異変

まだ痛む体を動かしエイムが睨みを利かせる


その相手は昨日に続き押し入って来たギリスだった


頭領であり父でもあるゼナスを守るように立ち塞がるが、まるで相手にされず手で払い除けられる


「よお・・・また来たぜ」


「くっ・・・」


座りながらギリスを見上げるゼナス


緊迫した空気が部屋に張り詰める


「自己紹介がまだだったな・・・俺様は護天が1人ギリス・ザジ・・・聞いた事くらいあんだろ?」


「護天!?・・・そうか・・・街の封鎖はお前さんらの仕業か・・・」


「そういうこと・・・まっ、瓶の中身を作ってるヤツ・・・そいつを差し出せばすぐに封鎖は解除してやんよ。逃がす訳にはいかねえからな・・・鬼化を誘発する液体なんざばら撒かれた日にゃ洒落にならねえ事になる。いやもう既にばら蒔いたか?」


「なに?鬼化を誘発?・・・何を馬鹿な事を・・・あれはそんな物では・・・っ!」


ギリスは突然ゼナスの胸ぐらを掴み持ち上げ引き寄せる。顔が触れ合うくらいまで近付けるとギリスは殺気を込めて笑った


「そのままいい感じに口を滑らせろ・・・『そんな物では』なんだ?飲めば簡単に強くなれるとでも言われたか?あれはそんなもんじゃねえ・・・単なる『鬼化促進剤』だ」


「そ、そんなわけ・・・俺も飲んでるし他の者も・・・あれを飲めば魔気とやらが使えるようになって・・・」


「・・・なるほどな・・・てめえらはやっぱり捨て駒か・・・」


「捨て駒だと!?」


「うるせぇうるせぇ・・・くそっ・・・だとしたらここはハズレか」


ギリスは掴んでいた手を離し興味をなくしたのか殺気を引っ込めると振り返る。そのギリスの一連の行動をバカにされたと感じたゼナスが立ち上がると両の拳を握った。すると拳から黒いモヤが立ち込め興味をなくし去ろうとしていたギリスの足を止めさせる


「なるほど・・・それが『魔気』ってやつかい」


「そうだ・・・この力で・・・俺ぁ天下を取る!」


「老いぼれが夢見やがって・・・」


期せずして始まろうとしていたギリスとゼナスの戦い


その戦いに水を差したのは1人の少年だった


「もう終わったから帰ろうよ」


「・・・リュウダ・・・なんでここに・・・」


部屋の壁に寄りかかり気怠そうにギリスに声を掛けたのは護天の1人リュウダ・・・ただの少年のような容姿の彼は荒くれ者多くいる部屋の中を気にすること無く進んでいきギリスの背中をポンと叩いた


「止めに来たに決まってんじゃん。人の釣りを邪魔しといて更に糸をこんがらせるのやめてくれる?まあもう遅いか・・・このまま探してもいいけど見つからないと思うけどね」


「・・・意味が分からねえことを・・・てめえがちまちまやってっからこんな事態に・・・」


「ふざけんなよ?鬼化が頻繁に起こりその調査を命令されたのは僕だ。すぐに鬼化の原因は突き止めたけど表立って動いているコイツらはただの使いっ走り・・・アレが何なのか知らないくらい信用も信頼もされてないバカどもだ。だからコイツらをいくら叩いても何も出てきやしないし黒幕に逃げられるのが関の山・・・だからじっくり策を練って潜入してやろうとしてたのに・・・」


「お、おおう・・・分かったからそう怒るな。それで終わったって事はその黒幕を捕まえたのか?」


「いや・・・とりあえずフーリシアの使者は始末したから当面は大丈夫でしょ。今頃出血多量で死んでんじゃない?」


「女は!?」


「・・・生きてるよ・・・あんなオバサンのどこがいいの?」


「オバサンってお前・・・まあお前の年齢からしたらオバサン・・・なのか?」


「僕からじゃなくてもオバサンだよ!まあいいよとりあえずこれで聖者もそのままだしゆっくり探せるでしょ?」


「・・・まあそうだな・・・何だかしっくり来ねえがここにいる意味がねえのは確かだ。じゃあなオッサン・・・やる気になっていたところ悪いが俺様達は帰るわ」


「ふざけ・・・ふざけるな・・・ふざけるなぁ!!護天がなんだ!てめえらなんざこの魔気で・・・」


ゼナスは叫ぶと両手に宿った魔気を更に高めギリスに飛びかかる・・・がギリスは慌てることなく拳を突き出すと拳の形をしたマナの塊がゼナスの両手の間を縫って飛んでいき顎にヒットする


ゼナスの頭が跳ね上がりありえない角度に曲がるとそのまま体は床に沈みその後ゆっくりと後ろに倒れた


呆気なく訪れた死に呆然とする一同


その中でギリスとリュウダは悠然と歩き部屋を出てそのまま建物を後にする



この日、街を裏で牛耳っていた一家がひっそりと終わりを迎えた──────




「で?あの女は無事なんだろうな?」


「執拗いね・・・そんなに気になるなら影に聞いてみれば?僕は刺したあとで興味ないからそのまま行っちゃったけど影なら最後まで見てるだろ?」


ダーザン一家から出て道すがら会話をする2人


街中に溢れている人を掻き分け進むと少し広い場所に出てギリスは空を見上げ手招きする


すると黒装束の男が目の前に現れギリスとリュウダに向けて跪いた


「お呼びでしょうか?」


「リュウダの殺った奴がいるだろ?そいつといた女の行方が知りたい。誰か知ってる奴はいるか?」


「私が見届けていました・・・が、その・・・」


「ん?なんだ?言いたい事がはっきり言え」


「はっ!リュウダ殿が刺した後、男女は『げーと』なるものを展開し何処へかと消えてしまいまして・・・男の生死は不明、女の行方も当然・・・」


「リュウダ~てめえ・・・殺ったかどうか分からねえじゃねえか!」


「心配しなくても死んでるよ・・・聖者ですら治せない傷をつけた・・・『龍流毒』・・・ギリスも受けてみる?」


「よせよせ・・・チッ・・・そう言えば『げーと』って奇妙な術を使うんだったな・・・聖者でも治せねえっていうのは本当か?」


「本当だよ。知っていれば対処のしようもあるけどね・・・知らなければドバドバ出る血を眺めた跡で気を失ってお陀仏さ」


「・・・あの女が『げーと』を使っているなら仕返しもあるが男なら・・・くそっ・・・フーリシアは遠過ぎるぜ!」


「・・・クソだなお前・・・」


「ああ?元々俺様がここに来た理由は女を奪う為だ!初志貫徹!何も間違っちゃいねえ!」


「だからって鬼化が起こってりゃそっちを優先するだろ普通!馬鹿かお前は・・・死ね!」


「死ね・・・おうコラ上等だ・・・ガキだからって何でも言っていいと思ってたら大きな間違いだぞ?コラ」


「・・・あの・・・」


「あん?」「っだよ!」


殺気立つ2人に申し訳なさそうに影が手を上げ2人が振り向くとある場所を指さす


そこは街の大通り・・・人が溢れ返っているだけの何の変哲もない大通りだった・・・が


「なんだ!?なんの騒ぎだ?」


「ちょ・・・今人が飛んでなかった!?」


「チッ・・・そろそろ起きるとは思ってたが・・・」


「まっ、そうだよね・・・ったく、やり過ぎなんだよお前は!」


突然怒声や悲鳴が入り交じった声が聞こえ始め人が右から左へと流れて行く。となると2人の頭に真っ先に浮かんだのは暴動・・・いきなり街を封鎖され外に出る事を強制された住民達が暴れだした・・・そう思い2人は騒ぎの中心に向かい駆け出した


そして・・・


「どこのどいつだ?騒いでるヤツァ・・・あと少しだけ大人しくしとけや」


「無理だっつーの!僕なら5分も待たずにキレて暴れているね。よく耐えた方だと思うよ本当」


「気が短ぇなてめえは・・・だからガキは嫌いなんだ」


「何か言った?・・・ってあれ?」


2人が到着した時には騒ぎは収まっており何人か倒れている人はいるものの暴れている者はいなかった。ただその中心に見知った男が立っておりどこか虚ろな目をしてゆらゆらと揺れていた


「なんだ先についてたのかよ・・・焦る必要なかったな」


「・・・」


「・・・?おいワット!どこ見てんだ?やるならもうちっと手加減してやれよ・・・倒れてる奴気ぃ失ってんじゃねえか」


「・・・」


「なあギリス・・・ワットの足元の人達・・・あれ死んでない?」


立ち尽くすワット


その足元に転がる人達


ギリスはその現場を見て暴動を起こした住民をワットが鎮めたと思っていた


が、リュウダに言われて注意深く観察すると倒れている者達は血を流しピクリとも動かない


死──────


「ワット・・・おいワット!やり過ぎにも程があるだろ!てめえ何考えて・・・」


「ワッ・・・ト・・・ワット・・・ワットトトトトトトワット!!!」


「・・・なあリュウダ・・・アイツの頭のおかしいのは実は病気で一気に進行したって話だったら信じるか?」


「んな訳ないだろ・・・おかしいと異常では意味が違う・・・あれはどう見ても異常だ」


「・・・だよな・・・」


自分の名を叫び喉を掻き毟る姿を見て2人は臨戦態勢をとった


するとワットは喉を掻き毟る手を止めて構えた2人に顔を向けるとヨダレを垂らしながらニヤリと笑う


そのおぞましく不気味な笑みに一瞬身を引くとワットはその隙をついて飛びかかって来た


「チッ!『金剛拳』!」


「『龍槍打』!!」


ギリスとリュウダが同時にワットを迎え撃つ


ギリスはマナで巨大な拳を作り出し放つとリュウダは短刀を突き出し衝撃波を放った


2人の攻撃が帯となり飛びかかって来たワットに当たる。するとワットはそのまま後方に吹き飛んで行った


「これで終わり・・・じゃないよね?誰か!僕の『龍槍』持って来て!」


空を見上げてリュウダが叫ぶと屋根の上の影の1人がリュウダの武器である『龍槍』を取りに動き出す。それを見送りすぐに意識をワットに戻すとゆったりと動き出し向かって来ていた


「匕首での一撃とはいえそこそこ強めに撃ったのに・・・ワットって打たれ弱いって聞いてたけど嘘?」


「ああ打たれ弱い・・・精神的にな」


「そっち!?・・・紛らわしい・・・で?どうすんの?」


「どうするも何も・・・向かって来る奴ァ誰であろうとぶちのめす・・・それが忍頭であり護天の1人だろうがな」


「ブレないね・・・確か2人は幼馴染じゃなかったっけ?」


「・・・小せえ頃から知ってるだけ・・・まあ他人の中じゃ一番長い付き合いだけだな」


「・・・そんなワットを・・・殺せるの?」


「愚問だな。去る者追わず来る者拒まずが俺様の信条だぜ?」


「それに追加しておいてよ・・・『逃げる者は追いかける』ってね」


「・・・ワットが終わったら次はてめえだ・・・リュウダ」


「はいはい・・・終わったら相手してやるよ・・・終わったら、ね──────」

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