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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
367/856

363階 急襲

ギリス達がダーザン一家の拠点に押し掛けて来てから一日が経った


本来ならすぐにでも戻ってラナーの身柄を確保しないと逃げられてしまう可能性もあったが、その可能性は低いとみている


魔族パズズの作戦はあの瓶の中身を強くなれると騙して飲ませその人を鬼化させる事だ


恐らくかなりの長い月日をかけてダーザン一家の頭領ゼナスに取り入り上手いこと操って彼らの縄張りにある店で出すところまでこぎつけたのだろう


だからこそ昨日のようなトラブルがあっても簡単には諦められないはず・・・諦めて逃げたら他の街で一から出直しになるからだ


とは言っても確実に逃げないとは言い切れない。パズズは慎重な性格っぽいし駄目と判断したらすぐに逃げるかもしれない・・・逃げてたらギリスのせいにして次の国に逃げよう・・・



ローハーはギリス達にダーザン一家の者と知られてしまったので街に溶け込んでバレないようにロウハーとサラートになり街に戻った。だが街を歩いていると街の様子がおかしい事に気付き通りすがりの人に尋ねると・・・


「最悪だよ・・・この街は封鎖されちまった・・・誰も入る事も出る事も出来ねえってよ」


はあ?封鎖!?


そんな事が出来るのは・・・ギリス達だろうな。この街から逃がさず追い込んでいくつもりかよ


「ちょっと予想外の展開ね・・・どうする?」


ダーザン一家は監視されているはずだ。迂闊には近付けない・・・唯一の手掛かりのダーザン一家に近付けないとなると・・・


ここまでやるとは思ってもみなかった。単純にギリス達と僕達のどちらが先にラナーを見つけるか・・・それだけだと思ったのにこちらが下手に動けば的にされてしまうかもしれない。ギリス達にとっては僕か魔族のどちらかを殺ればいいのだから・・・


「様子を見よう・・・これで魔族が討伐出来るなら予定とは違うけど問題は解決するし・・・」


ギリス達と競い合う必要はない


あくまでも目的はラズン王国は問題ないってフーリシア王国に報告する事だ。そうすれば『毒』は発動されずゼガーはフーリシア王国に呼び戻されないはず。王様には偉そうな事言っちゃったから魔族の死を見届けたら会わずに次の国に行こう・・・さすがに国を跨いで追っては来ないはずだ



「これはどういう事だ!」


後ろの方から声がして振り向くとどこかで見た事のある人が街の入口で騒いでいる。どこで見たっけ・・・


「申し訳ありませんがただいま街は封鎖中です。たとえ守護天で在られるアツウ殿でも通す訳にはいきません」


アツウ?・・・ああ、思い出した。僕達を案内するとか言ってた奴らか。しばらく監視されていたけどゲートで逃げたんだっけ


散々門番と言い合いをしていたけど結局入れずに帰って行った・・・ふむ──────




「それで?封鎖してどうするの?逃げられなくはしたけど見つける方法は?」


「虱潰しだ。俺は今一度ダーザン一家に乗り込む。シャシは守護天と連携を取り逃げ出す奴がいないか見張ってくれ。ワットは影達と共に街中を隈なく探せ」


「探すって何をだ?」


「怪しいヤツだ。命令に背く怪しいヤツは片っ端からしょっぴけ」


「怪しいヤツねえ・・・生まれてこの方見た事ねえが了解だ」


「かなり曖昧な感じね・・・これで見つかると思ってるの?」


「さあな・・・けど手をこまねいて何もしねえよりはマシだろ?何人捕まえようが始末しようが構わねえ・・・好きなだけ暴れまくれ──────」




ギリスの作戦は街全体を巻き込む大々的なものとなった


街には人が溢れ困惑した表情で道端で立ち尽くす


ギリスの命令により建物の中に居るのは禁止され表に出て来たはいいが何の為に、いつまでなどの説明は全くなく逆らえば死罪とだけ伝えられたからだ


もちろんそんな事をすれば反発は生まれる


だが・・・


「おい!こりゃあどういうこった!いくらなんでも横暴じゃ・・・グハッ!」


「上意である。逆らえば・・・死あるのみ」


まるで見せしめのように少し逆らっただけで殺される・・・そんな状態では住民達は口を噤み言う事を聞くしかなかった


街は完全に機能を失い人で溢れ返る


そんな中役人と思われる者達が街を練り歩き睨みを利かせ更に住民達を追い込んでいった


「港の封鎖完了しました。建物の中にも人っ子一人いません」


「ご苦労・・・じゃあ行こうか・・・」


ギリス達は予定通り行動を開始する


ギリスはダーザン一家の元へ


ワットは命令に背き建物の中に潜む者達を捕らえに


シャシは街の壁の外に向かい逃げ出す者を捕らえる為に


そして・・・



「よお・・・また来たぜ」


「くっ・・・」



「むう・・・建物から出ろとの命令だったが・・・逆らうにはそれなりの理由がある・・・ということか」


「ごめーん!お店の片付けしてて・・・すぐに出るから許してー・・・ところでお兄さん1杯だけやってかない?」



「あら?アツウじゃない・・・何しているの?」


「シャシ殿!実は・・・」



ケッペリの街で事態が動き出す──────




うわぁ・・・街を封鎖しただけじゃなくて住民全てを表に出させるとは・・・やり過ぎだろこれ


「これでは身動きが取れないわね・・・下手に動くとあの人達に連れて行かれてしまうし・・・」


反抗する者は強制的に連行される。何もしなきゃ何もされない・・・突然の事なので住民達が団結して反抗する事は今のところないが時間が経てば暴動が起きる可能性もある・・・


強引なやり方だ・・・早目に決着をつけないと不味い事になるぞ?ギリス・・・


「ねえねえ」


うおう!物陰からサラと2人で街の状況を見ているといきなり背後から話し掛けられた


振り向くとそこにはいつぞやの少年・・・ああ、そう言えば会った時はこの格好だったか・・・


「久しぶりだね。今まで何してたの?」


「街を出ようとしたら封鎖されちゃったみたいだからどうしようかと・・・少年は?」


「釣りでもしようかと港に入ったらダメって言われて・・・またオジサンの料理を食べたかったのに・・・」


あれは僕が作ったものではないけどな・・・そう言えば釣り人の釣りの師匠って言ってたっけ?この少年


「まあしばらくすれば港にも行けるように・・・おい」


「ロウ!」


「そうだね・・・これで街は自由になる・・・オジサン・・・ロウニール・ローグ・ハーベス・・・君さえいなくなればね」


少年は油断していた僕の背中に短い刀を突き立てる。刺された場所から血が滲み、焼かれたように熱くなる


なぜ僕の名を?この少年は・・・


「間違ってたらゴメンね。でも始末する者の名前と酷似し過ぎてて・・・『ロウニールとサラ』・・・でオジサン達が『ロウハーとサラート』・・・夫婦というには何だかぎこちないし現れた時期的に疑わしかった。大方名前を呼び間違えても誤魔化せるように似せてたのだろうけど・・・それが仇となったね」


「何の事だか・・・料理の礼がこれか?」


「あの付近にあれだけの調理を行える場所はないよ?確か『げーと』だっけ?それで調理出来る所に行って調理したか食材を誰かに渡して調理してもらったんじゃない?」


御明答・・・グッ!


サラが刺さっていた短い刀を抜いてくれて傷口を押さえる


放り投げた刀を見るとかなり深くまで刺されたようで根元まで血で濡れていた


すぐにヒールを・・・そう思いサラの手の上に手を重ねヒールを唱えるが・・・


「な、なんで?」


傷口が塞がらない?血が溢れ続け焦るサラは僕の手を直接傷口に押し当てた。直接触らずサラの手越しでもヒールの効果はあるはず・・・疑問に思いながらも再びヒールを唱えるが血は止まることはなかった・・・まさか・・・毒?


「その匕首に仕掛けはないよ?龍はね・・・噛んだ相手の体内に傷口が塞がれないよう毒を注ぐ・・・『龍流毒』・・・その傷口は決して塞がらない・・・血が全て流れ出るまでね」


「それは・・・初耳だな・・・少年・・・お前何者だ?」


「僕の名前はリュウダ・・・護天が1人リュウダ・ガロさ──────」




あの少年・・・リュウダは僕を殺すつもりはなかったのか僕を刺した短い刀を拾い上げるとそのまま去って行ってしまった


殺すつもりはなかった?違うか・・・これで十分と判断されたか・・・


サラに言われて監視の目がある中、ゲートを使い屋敷に戻った


サラはすぐに血塗れの僕をベッドに寝かせると屋敷の者達を集め僕の手当をさせる。そして僕に『待ってて』と囁くとどこかへと行ってしまった


サラが傍からいなくなってしまった途端に不安が押し寄せる


視界がどんどんと狭くなり・・・意識が遠のく


2日連続でやられるなんて・・・サラにまた怒られるな──────




「ど、どうです?セシーヌ様!」


「・・・傷口は塞がりました。ですが血を失い過ぎています・・・しばらくは安静にした方が良いでしょう」


「そ、そうですか・・・」


良かった・・・この街にセシーヌ様が居てくれて


サキに言ってゲートで教会まで行きほぼ無理矢理セシーヌ様を連れて屋敷に戻った


意識を失っている彼を見た時は最悪な結果が頭をよぎり倒れそうになるが踏みとどまりセシーヌ様にお願いすると彼女は修道服が汚れるのも気にせず彼の治療に当たってくれた


最初は普通にヒールをしたがやはり傷口は塞がらず少年・・・リュウダの言ってた事を伝えると彼女は『真実の眼』で傷口を観察し私にこう言った


『傷口の周りを抉ってくれ』と


動揺し何故と尋ねるが説明会している時間がないと言われ私はナイフを取り出しセシーヌ様の言う場所目掛けてナイフを突き立てる


ビクンと動く彼を見て手が震えるが続けざまナイフで背中の肉を抉り続けた


その後はセシーヌ様が再びヒールをかけてようやく血が止まると私はその場にへたり込む・・・手が震え血だらけのナイフを手放せないでいるとセシーヌ様が私の肩に手を乗せ微笑む


私はようやく手の力が抜けナイフを手放すとしばらく放心状態でベッドに横たわるロウを眺め今に至る



「・・・一体なぜヒールが効かなかったのですか?」


「傷口の周りに誰かのマナが残っていました。傷口が塞がらないようにこびりつき治療を邪魔していたのです。なのでそのマナごと肉を削ぎ落とすしか・・・お辛い役目をお任せして申し訳ありませんでした」


「いえ!助けて頂いただけで・・・」


「・・・他の人がいるのに私はあえてサラ様にお願いしてしまいました・・・心の中でもしかしたら・・・」


「そんな事はないです。おそらく咄嗟に『サラなら出来る』と思ってくれたのでしょう。現に成功しましたし・・・私がもし同じ立場でも他の人には任せるつもりなどありません。この中でしたらセシーヌ様にお願いした事でしょう」


万が一手元が狂い彼が死んでしまったら・・・そんな状況で任せられるなんて人はそう多くはない。私がセシーヌ様の立場なら間違いなくセシーヌ様にお願いしていたはずだ


「・・・光栄ですが私にはとても・・・サラ様に敵わない訳です」


彼氏の肉を抉れるから上って事はないだろう・・・もしかして皮肉とか?


「それでロウニール様にこのような事をしたのはどなたなのですか?いつその方を殺りに行きます?エミリ、侍女隊と聖女親衛隊の準備をお願いします」


「殺りにって・・・待って下さいセシーヌ様・・・ことはそう簡単なものではないのです」


「・・・サラ様らしくないですね・・・私が知るサラ様ならロウニール様が無事と分かった瞬間にお相手の方を亡き者にしてやると鼻息荒く出て行かれてしまうと思っていたのですが・・・」


私の印象ってどうなのよ・・・まあ抑え切れない怒りがあるのは確かだけど・・・人って自分より怒っている人を見ると意外と冷静になれるのよね・・・


セシーヌ様から視線を動かし私を睨みつける黒猫を見た


今にも飛びかかって来そうなくらい毛を逆立てるその黒猫がもしケッペリに行けば彼を傷付けたリュウダどころか沢山の人が巻き添えになって死ぬだろう・・・そう思うと幾分冷静になれた


「・・・ふぅ・・・まずは彼が目を覚ましてから・・・その後で必ず償わせます・・・必ず──────」

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