357階 最大のピンチ
縄張り争いをしているって言うからそこそこ戦える連中かと思いきやそうでもなかった
刀の振りが鋭い奴も中にはいたがそれ止まり・・・剣技なんてクソ喰らえとでも言うように刀を振り回すだけに終始していた
そんな相手に後れを取る訳もなく手加減しながら一撃を叩き込んでいると気付いたら残りは数人・・・多分30人くらいいたのにもうそれだけしか残っていなかった
「な・・・何もんだてめえ・・・」
「若頭ぁ!術を・・・術を使いましょう!」
「・・・チッ!仕方ねえ!ぶっぱな・・・せ?」
多分術って魔法の事だろ?さすがに屋内で使われたら巻き添えを食らって何人か死んでしまう・・・僕は暗歩を使い刀を持たない奴らの背後を取ると魔法を放つ前に気絶させた
「な・・・何なんだてめえは・・・まさか忍者・・・」
「違うし負けたお前に質問する権利はない」
「負けた?何を・・・っ!?」
若頭と呼ばれた男は周りを見回しようやく気付いた・・・自分以外誰も立っていない事に
「安心しろ。誰も死んじゃいない・・・多分。でもこれ以上続けるって言うなら・・・最初に死体になるのはお前だ」
「何なんだ・・・何の為に・・・」
「質問する権利はないって言ってるだろ?てかそっちが先に仕掛けて来たのに『何の為』も何もないだろ?俺がちょっとドジって金を忘れたからって文句言いやがって・・・しかもサービス料1000ゴールドだ?飲みもんだって一杯しか飲んでないのに4杯分も請求してきやがるし・・・」
「・・・いやお金ないのにお店で飲んじゃダメでしょ・・・それにサービス料は店の前の看板に書いてあるしおそらく4杯ってのはついた女の分で・・・」
「うるさい!とにかくそっちから仕掛けて来たのにグダグダ言うな!」
「ひでぇ・・・鬼かアンタ・・・」
「で、だ。非常に俺は傷付いた・・・金を忘れただけの俺を寄って集って・・・しまいには刀まで抜いて襲って来て・・・心身共に傷付いた。そういう訳で慰謝料を寄越せ」
「・・・え?・・・貰いたいのはこっち・・・」
「ん?何か言ったか?」
「いや!・・・・・・そうだ!アンタが何者か知らねえが強えアンタにうってつけの仕事があるんだ・・・もちろん報酬は弾むし今回の迷惑料も上乗せして払う!話だけでも聞いてくれねえか?」
「襲っといて仕事だと?」
「ヒィ!・・・た、頼むよ・・・強え奴が必要なんだ・・・アンタ・・・この街の・・・いや、この国の支配者に興味はないか?」
「この国の・・・支配者?」
「ああ・・・聞いて損はねえと思うぜ?──────」
店が散乱しているので場所を移して話を聞く事に
コイツの名前はエイム・ダーザン・・・ダーザン一家の若頭って役職で頭領であるゼナス・ダーザンの息子らしい
この街にはもうひとつテリトー一家という派閥がありそこと常に縄張り争いをしている状態なんだとか・・・で、そのテリトー一家に勝つ為に僕に助っ人を頼みたいと言ってきた
釣り人に瓶を渡そうとした男は釣り人を助っ人にしようとしていたのか?あの瓶を報酬代わりに?釣り人は勧誘されるのを待っていた?・・・ふむ・・・となると釣り人は・・・
「どうです?こちらについてくれりゃあ一生分なんてあっちゅう間に稼げますぜ?」
「・・・テリトー一家に勝てばこの街は治められるかもしれないがさっきはもっと大きな事を言ってなかったか?ほら『この国の支配者』云々って」
「ああそれは・・・助っ人に・・・いや、俺らの仲間になるなら話してやる」
「いきなり上から目線だな・・・お前の首をテリトー一家に届けてもいいんだそ?」
「んぐっ・・・兄さんには敵わねえな・・・実はここだけの話俺達にはある伝手があってな・・・今ある戦力を一気に上げる事が出来るんだ。けど色々手順があるらしくまだ無理って言われてて・・・」
「手順?」
「ああ、なんでも平和ボケした場所じゃ上手く行かないらしくてよ。だから長年この街を二分していたテリトー一家とちょこちょこ喧嘩をおっぱじめたのさ」
なるほど・・・まずは魔力の濃度を上げさせるつもりなのか?
「それで?手順って事は続きがあるんだろ?」
「・・・続きはさすがに言えねえ・・・言ったらマジで親父に殺されるからな・・・」
「俺に殺されるとしても?」
「どっちにしろ殺されるじゃねえか!・・・兄さん・・・後生だこれ以上聞かねえでくれ!」
「都合が良いな・・・言いたくないことは言わないけど手伝えって?そんな話が通るとでも?」
「・・・」
これ以上は本当に言わなそうだな・・・さてどうするか
収穫はあった・・・コイツらを揉めさせようとしているその伝手ってやつは魔族で間違いないだろう。魔力が濃くなれば魔族も強くなる。じゃあ次の段階はなんだ?魔力が濃くなったら何をするつもりだ?
「・・・そう言えば店の子に聞いたんだが強くなれる酒があるらしいな」
「っ!・・・そんなデタラメを言ってましたか?そんな酒ある訳ないじゃないですか・・・そんな夢のような酒・・・」
「だよな。もしあったとしたら強烈な副作用があるとかそんなオチだろうし・・・」
「そうですよ!・・・それでさっきの話は・・・」
「・・・いいだろう。助っ人してやるよ。ただし縛られるのは好きじゃない・・・用があったらこれで呼びな」
懐から石を取り出してエイムに投げる
受け取ったエイムはそれが何か分からずに首を傾げた
「それはマ・・・気を流すともうひとつの石を使って通信が出来る通信道具だ。気だけ流して反応を待て・・・決していきなり話し掛けるなよ?」
合ってるよな?多分この国特有の呼び方・・・マナを気と呼んでいるはず
「・・・気を・・・これってかなり高価な物じゃ・・・アンタ一体・・・」
「お前が全て話してくれるならこっちも話してやるよ。俺の名はローハー・・・今明かせるのはそれくらいだ──────」
「ふーん・・・私が暗い部屋で繋がれている時にそんな所に行ってたんだ・・・ふーん・・・」
「いやナージがそういう店で問題起こせばすぐに用心棒的な奴らが出て来るって言うから仕方なく・・・別に好きで行った訳じゃ・・・」
「・・・お酒の匂いがする・・・」
「え?本当に?」
「やっぱり飲んだんだ・・・エーン・・・」
エイムの所から立ち去った後、ジャナを通してではなくゲートを使って直接サラの元に来ていた。現状の報告と食事の為だ
にしても・・・嘘泣き下手過ぎたろ
しかも食事をスプーンですくい口に持っていくと普通に食べるし・・・
相変わらずサラは綺麗だな・・・後ろ手に縛られ足は枷で拘束され身動きの取れないメイド姿の美女が目の前で泣いている・・・何と言うか嘘泣きとはいえそそられる・・・
「・・・ロウ?あなたもしかして変な事考えてない?」
「いや!別に・・・」
「絶対ダメだからね!お風呂にも入ってないしいつ奴らが来るかも分からないし・・・ってロウ!?」
ダメって言われるとやりたくなるもの・・・背後に回り込み上から服に手を滑り込ませるとたわわに実った胸をお揉みする
「くっ!このっ・・・ジャナ!」
「残念・・・そう来ると思って邪魔しないよう事前に操作しておいた・・・抜かりはない」
「何が『抜かりはない』よ・・・ちょっと・・・ダメって・・・せめてお風呂に入らせて・・・」
「拘束されててどうやって入るの?それに何日風呂に入ってなくても・・・うん、いい匂い」
「嗅ぐなぁ!・・・くっ・・・いっそう殺して・・・」
そこまで嫌か!・・・いや・・・
「・・・下のお口は正直なようだな」
「〜〜〜!この変態伯!」
「変態伯で結構・・・いただきます」
「この件が終わったら覚えてなさいよ!って・・・ああ──────」
もう絶対に許さない!人が動けないのをいい事に・・・あれじゃ襲ってるのと変わりないじゃない!
お風呂にも入れないのに中に出すし・・・やっぱりシャドウに代わってもらおうかしら・・・
いやダメ・・・普通の時に身代わりになってもらうならまだしもこんな拘束された状態で身代わりになってもらうのは気が引ける・・・それに捕まったのは私のミス・・・不意打ちだったとはいえ気絶させられ拘束されるなんてSランクの名が廃る・・・だからこれは私自身への戒め・・・けどさっきのはやり過ぎよね?
「まだ音を上げないとは大したものだ・・・それとも元々プライドなどないから耐えられるのか?」
入って来るなり目の前の空になった器を見てほくそ笑む
それはさっきロウが食べていたわよ・・・ちゃんとスプーンを使ってね
「全て食べてくれるとコチラも作リ甲斐があるな。手間暇かけてやっているのだ・・・今回も残さず食えよ」
「それはどうもありがとうございます。けど魚料理は出ないのですね」
空の容器を下げて新たに置いた容器には前と同じように粥が入っていた。多分これで水分も同時に取れって事なんだろうけど・・・本当にこれだけだったら精神的に参りそうね
「まだそんな口が利けるか・・・惜しいな・・・鍛えればモノになりそうなのに・・・まあその反面楽しみになってきたよ・・・アンタがどのタイミングで音を上げるか・・・拘束や食事だけだと平気そうだけどあと2、3日・・・果たして耐えられるかどうか・・・」
「何日でも耐えてみせますよ?」
「ほう・・・やはり優秀だ。私なら耐えられないからな・・・服を着たまま排泄するなど」
「え?」
「持った方だが明日くらいが限界だろう・・・食事には脱水症状が起きないように水分をたっぷり含ませている・・・ならば出るものも出るだろうよ。その服は下着を着けるタイプみたいだが替えの下着はあるのか?まああったとしても拘束されたままでは着替えられないか・・・明日の朝には部屋中に排泄の臭いで充満してそうだな・・・それでも泣き言のひとつも言わないのなら大したものだ」
排・・・泄・・・え?ちょっと待って・・・意識したら急に尿意が・・・
「安心しろ・・・白馬の王子は汚れてても気にしないそうだ。まあお前の自尊心が耐えられるかどうかは別の話だが・・・」
え・・・どうしよう・・・本気で?
「お前の言うように私は女だ。だが明日の配膳は男に任せるか・・・手は出さないよう命令されているから心配するな・・・ただ汚物を見るような視線は向けられる覚悟はしておくのだな」
「・・・」
「ちゃんと食事は取れよ?残していたら口に流し込んでやる・・・それとペナルティとして水も下から出るまで飲ませる・・・分かったな?」
そう言って黒装束は笑いながら部屋を出て行った
考えてなかったし意識してなかったから気付かなかったけど・・・2、3日なんて絶対無理!何なら今すぐにでも・・・
ロウを呼ぶ?
けど彼になんて言うの?
『オシッコしたい』
なんて言えるはずない!
それに今の彼に言ったら・・・『出してごらん見ててあげるよ』って言いかねない!
・・・この拘束は私への戒め・・・・・・なんて言ってられるか!
「ロウ?ちょっと来て!緊急事態よ!」
・・・あれ?反応しない・・・
あっ・・・そう言えば・・・ジャナに邪魔されないようにしたとか言ってたっけ・・・もしかして解除しないまま帰った?
「・・・ロ〜ウ〜・・・」
これは私への戒め・・・でもギリギリまで耐えてダメだったらもう知らない・・・この部屋から出てやる──────




