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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
36/856

33階 VSリザードマン

彼らは思ったより善戦した


ケンが槍を掻い潜りリザートマンを斬り付け、その隙にマホが魔法を放ちスカットが短剣を投げる


普通の魔物ならその一連の流れで仕留められたであろう・・・が、リザートマンはケンの斬撃も含めて少しのダメージも受けていなかった


それでもケン達は手を休めることなく攻撃し続け、ようやくリザートマンの鱗に傷をつけた時には・・・3人とも満身創痍となっていた


ヒーラが回復しようにもリザートマンの圧倒的なプレッシャーの前では難しい。動きを一瞬でも止めようものなら槍に突かれてこの冒険者と同じような末路を迎えることになってしまうからだ


それでも・・・彼らにとっては善戦だった


それだけリザートマンは・・・強い


「・・・あ」


気を抜いた訳ではない


精神より先に体が根を上げ、躓いてしまうケン


その隙を見逃さずリザートマンは槍の穂先をケンに向けた


「風旋華!!」


全開に開いた『風牙扇』を回転させながらマナを流し込む


すると風は螺旋状にうねりを上げてリザートマンを吹き飛ばす


「潮時だ!簡易ゲートを使え!」


「サラ姐さん・・・え?簡易ゲートを?」


「普通にゲートまで逃げても追い付かれる!一か八か簡易ゲートを使うんだ!」


「でも・・・」


「いいからさっさと使え!また来るぞ!!」


私が殿を務めれば・・・いや、本気で戦えば勝てるだろう。でもそれではケン達は同じ過ちを繰り返すだろう・・・いつかきっと・・・


「簡易ゲートの先が1階とは限らない・・・だが今はそれしか生き残る道はない!どうする!?ケン!」


「・・・割ります!・・・スカット!ゲートが開いたらまずお前が入れ!それからヒーラ・・・そしてマホと・・・」


「私はいい!」


「は、はい!・・・じゃあ割るぞ!スカット!入った後は安全かまず確認しろ!」


「お、おう!」


迫り来るリザートマンを前にそこまで指揮出来れば上出来だ


後は・・・


「しばらくお前の相手は私だ・・・風旋華!!」


同じ技を繰り出すとリザートマンは少しだけ躱そうとする素振りを見せた。次は通じない・・・そう予感させるには十分な動き・・・まずいな・・・


「ゲートが・・・」


「スカット!入れ!!」


ケンが簡易ゲートを投げつけると本当にゲートがそこに出現した。スカットは少し躊躇していたがケンに急かされ意を決して中へ・・・少ししてヒーラ、マホが次々にゲートの奥へと消えて行った


「サラ姐さん!」


「ケンは彼を!その間は私が引きつける!」


「はい!」


さて・・・どうしたもんか・・・


このリザートマンはケン達の獲物・・・出来れば生かしておきたいが・・・


怒りか興奮してか雄叫びを上げるリザートマン


決して逃がさないと残っている私と遺体を抱えるケンを順に睨みつけた


そして・・・


「こ、こっちかよ!!」


よく分かってる・・・まずは先に逃げようとしているケンに狙いを定め動き出した


「いいから行け!・・・お前の相手は・・・私だと言っただろう!」


脇目も振らずケンを目指すリザートマンに体を捻り回転させ蹴りを放つ


踵がリザートマンの顔面にヒットし仰け反った隙に着地し両手を突き出した


「グゥ!」


マナを込めた一撃一撃は下級の魔物なら必殺の威力を持っている・・・が、中級のリザートマンには1m先の壁まで押し出すに留まる


再び動き出すリザートマン・・・ちょうどその時ケンがゲートを通り終えていた


「ここまでだ・・・またな」


ゲートまでの距離は私の方が近い


それに加えて魔物はゲートを通れないはず


床を蹴り飛び込むように潜り抜けると振り返りゲートの先にいるリザートマンを見た


やはり通れない・・・!?


リザートマンは何を思ったか槍を投げようとして・・・まさか槍だけならゲートを通る?もし通るなら・・・


背後には人の気配・・・ケン達の誰かだろう。私が避けたら後ろの者に・・・しかし私はリザートマンが投げる槍を受け止める術がない・・・くっ!


恐らくリザートマンが投降する槍の威力は私を貫通する程の威力があるだろう。だが避けるよりも後ろの者に被害は及ばない可能性が高い


覚悟を決め両腕を交差し何とか私の体で受け止めようとした時、ゲートの先に異変が起きる


ローブ姿の人が・・・私とリザートマンの間に割り込んだのだ


「避けなさい!」


誰だ!?もしかして亡くなった冒険者を回復した者?


私の言葉に反応してか振り返ろうとした瞬間、ゲートはゆっくりと閉じ始めやがて消えてしまった


「サラ・・・姐さん?」


「あの階にもう1人いた!私を庇うようにリザートマンの前に立って・・・今から救援に行くからここで待っててくれ!」


見ればここはダンジョン1階の三叉路・・・簡易ゲートは説明書通りの機能だったようだ


狼狽えるケン達を置いて私はゲート部屋に向かい、新たに通れるようになった7階へのゲートに飛び込んだ


間に合え・・・間に合って!


祈るような思いで先程の場所まで走り続けると・・・もうそこには誰も・・・何もなくなっていた


あの人も・・・リザートマンも・・・


血の跡はあの冒険者のだけ・・・ならあの人は・・・でも一体どうなって・・・


念の為に探査を試みるがリザートマンもあの人もいない・・・そこまで時間はかかっていないはずなのに・・・どうして?



訳も分からずこのままケン達を放っておくことは出来ないと判断し、来た道を戻り1階へ・・・そしてそのまま遺体をギルドへと運んだ


冒険者との無言の対面に顔を顰めるフリップ


彼はしばらく無言でいると私達に労いの言葉をかけ遺体をギルド職員に運ばせて2階へと消えて行った


私達もまた・・・この長い一日を終え宿へと戻る


その道中・・・


「あの・・・サラ姐さん・・・」


「ん?なんだ?」


「すみませんでした!・・・あの・・・俺・・・」


「何の謝罪だ?」


「え?い、いや・・・無茶してリザートマンに挑んで・・・結局サラ姐さんに助けてもらって・・・その・・・」


「あれはパーティーの総意だろ?なら別に謝る必要はない」


「・・・サラ姐さん・・・気を悪くしないで聞いて欲しいッス・・・サラ姐さんならあのリザートマンに勝てたんじゃ・・・」


「ああ、勝てたな」


「!・・・じゃあなんで・・・」


「なんで簡易ゲートを使わせた・・・か?」


「いや、その・・・簡易ゲートって本当に1階に戻れるか分からなかったじゃないっスか・・・なら・・・その・・・サラ姐さんがリザートマンに勝てるなら使う必要があったのかって・・・」


「・・・理由はふたつ・・・」


「え?」


「ひとつは自分達が決めて挑んだ戦いだ・・・つまり私があの場に居なくても戦ってた・・・だろう?」


「・・・はい・・・」


「ならば私がしゃしゃり出るのはおかしい。逃げるなら自力で逃げるべきだ・・・まあ途中手は出したが・・・もし簡易ゲートが手元に無く、私も居なかったらケン・・・お前達はどうなってた?」


「死んでました・・・勝てないと思い逃げようと考えて・・・俺はゲートまで走れば何とかなると・・・でも実際はリザートマンの動きは速くきっと追い付かれてた・・・1人・・・また1人と殺されて・・・全滅・・・多分そうなってた・・・」


「そうだな。恐らくその通りだ。もし私が殿を務め、ケン達が逃げ切ったらその事に気付かなかったかも知れない・・・だからあえて手を最低限しか出さず見守った・・・二度と同じ過ちを繰り返さない為に、な」


「・・・返す言葉もねえっス・・・もうひとつは?」


「いつまでも使えるかどうか分からない簡易ゲートを持っていても仕方ないだろ?いずれ窮地に陥った時・・・いざ簡易ゲートを割ってもゲートが出て来なかったらそれこそ全滅だ。また手に入るかも知れないし入らないかも知れないけど・・・何もない時に試すよりはあの場面で試した方が良いと判断した。もしゲートが出なくても私が何とか出来るし、ゲートの先が1階ではなくてもこのダンジョン内なら何とかなると思ったからな」


「そこまで考えて・・・それなのに俺は・・・」


「ケン・・・熱い気持ちも大事だが君はパーティーのリーダーだ。ダンジョンは命懸け・・・全ての決断に対して賭けるのは命・・・リーダーの君が賭けるのは自らの命だけじゃない・・・パーティー全員の命だ」


「うっ・・・」


「それで縮こまっては先には進めないだろう・・・だが忘れてはいけない・・・ひとつの決断が何をもたらすかを。一歩間違えれば君達は・・・あの冒険者と同じ末路を辿っていたという事を」


「・・・はい・・・」


気持ちは大事だ


何かを成し遂げようする時には特に


それは新人とか関係なく・・・ベテランでも・・・



偉そうに講釈を垂れているがかく言う私も・・・冷静ではなかった


なぜあの時・・・簡易ゲートに再び飛び込まなかったのか・・・


あの人・・・いえ、あの方は多分・・・ローグ様だったのにぃ~!!




「・・・今日はもう・・・誰の死も見たくなかったんだ・・・ごめんよ・・・リザートマン」


魔物の訓練所で動かなくなったリザートマンを見て呟いた


簡易ゲートを強制的に閉める前・・・彼女は『避けなさい』と叫んでいたな・・・あの時避ける必要はなかった・・・なぜなら僕は・・・ローブは着ていたが仮面はつけていなかったから・・・


ゲートを閉じた後でリザートマンと共にこの魔物の訓練所に移動し、そして僕は仮面をつけてリザートマンと対峙する


仮面をつけた瞬間にリザートマンは槍を繰り出し、僕は・・・理不尽な怒りをリザートマンへぶつけた


その結果が今の状況・・・僕は立ち、リザートマンは地に伏せている


「何をやってるんだか・・・」


八つ当たり?仇討ち?


僕が創った魔物が僕の知り合いを殺した


僕の命令通りに徘徊し、攻撃されたから返しただけの魔物を・・・僕は理不尽に殺した


《・・・ロウ・・・》


ダンコの刹那そうな声が心に響く


でも僕は・・・その声に応えられずにいた


きっと僕はもう・・・

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