355階 いざ調査へ
真っ暗の中、扉が開くことで部屋の中に僅かな光が射し込む
どうやら2回目の食事の時間のようだ・・・前に来た者と同じかどうか定かではないが同じようにお盆を持ち私の前に立つと空になった容器を見てほくそ笑む
「綺麗に食べたじゃないか・・・食べる姿はさぞかし滑稽だったろうな」
最初に置かれた容器はサキが綺麗に食べてくれたからな・・・文句を言いながら
私はロウに食べさせてもらった・・・口移ししようとした時に思いっきり頭突きをしたので鼻血が出てしまっていたがもう血は止まったかな?
「・・・何がおかしい・・・この短時間で気でも狂ったか?」
「既に気が狂っている貴女達に言われたくないのですが・・・私にこんな事をしておいてただで済むとお思いですか?」
「その状況で何が出来る・・・貴様は大人しく捕まっていれば・・・いや、事情が変わったのだったな」
「事情が変わった?」
「あと2、3日すれば分かる・・・白馬の王子様が迎えに来てくれるぞ?デカ乳」
「・・・羨ましいですか?ところで貴女は女性ですか男性ですか?服の上からだと分からなくて・・・」
「くっ・・・これでも黙ってこれでも食っておけ!死なれては困るからな・・・お姫様」
「出来れば魚料理を所望したいのですが・・・」
「調子に乗るな!・・・また飯時に来る・・・それとも犬のように食う様を見届けてやろうか?」
「お構いなく。あっ、出来れば毛布などあると嬉しいのですが・・・」
「・・・軽口を叩けるのも今のうちだ・・・せいぜい強がっておくのだな」
行ってしまった・・・得られた情報は当初の予定から変わった事と2、3日後に誰かが来るこ・・・あ
「ん・・・ちょっとロウ!そうやってへんな動きしな・・・あん!」
〘ロウ?僕の名前はジャナだよ〙
「バカ言ってないで・・・それより聞いた?」
〘うん。何かあったのか事情が変わったと言っていたね。それと2、3日後に誰か側来るとも〙
「誰かしら・・・白馬の王子様って知り合いはいないけど・・・」
〘多分ギリスだね〙
「ギリス?ギリスってあの私達を護衛するはずだった?」
〘うん。そのギリス・ザジ。王様の息子だろう?多分・・・なら白馬の王子って表現はピッタリだ〙
「そう?あまりしっくりこないけど・・・」
〘2、3日って曖昧な日数も離れた場所からこちらに向かっているからだと思う。近くなら何日ってはっきり言えそうだし用事があって日数がかかるのも同じく・・・城下町からケッペリに向かっていておそらく辿り着くのが2、3日護衛なんだろう・・・多分ね〙
「という事は私を拉致したのはギリスの関係者?」
〘だろうね。僕達の存在を知っているのはゼガーを除けば一部の人のみ・・・さっきの口ぶりからサラが誰なのか知ってて拉致ったと分かるからそうなると自ずと犯人は絞られる〙
「国王様の前でやられて私を恨んでいる?」
〘多分逆だね。サラを手に入れたいのさ・・・どんな手を使ってもね〙
「なるほど・・・最低な男って訳ね」
〘そうなるね。それとそれを王様も容認している可能性が高い・・・やってくれるよあの王様〙
「どうして?単独行動の可能性もあるじゃない?」
〘事情が変わったって言ってたのはギリスが指示する前からサラを拉致する計画があった可能性がある。って事はその計画を立てたのはラズン王国の王様であるワグナだと思うんだ。でもその計画が途中で変更になった・・・王様の命令を王様より低い身分の者が変えれるとしたら・・・それは王様が許可したとみていいと思う〙
「・・・王様が私を拉致・・・そんな事する?」
〘それほど魔人化多発の事を僕達に知られたくなかった・・・知られれば『毒』が発動されるからね〙
「私を拉致して国から追い出そうとした?なかなか物騒な国ね」
〘口より先に手が出るんだろうね・・・さすが武王国ってところかな?まだ確定って訳じゃないけどね〙
「そうね・・・このまま私は白馬の王子様を待つつもりだけどロウはどうするの?」
〘魔族の方を追ってみるよ。気になる事もあるし・・・お腹が減ったりキツかったら言ってね。シャドウを使って身代わりも出来るし無理しなくても大丈夫だからね〙
「ええ、ありがとう。まだ全然平気だけどキツくなったら言うわ」
ジャナは出てた頭を器用に下げてまた服の中に入って行く。これ絶対わざとやってるわよね・・・敏感なところをわざと這って・・・この件が終わったら説教ね・・・セシーヌとペギーの事も含めて──────
「・・・どうせなら触感と共有しておくべきだった・・・」
「変態にゃ・・・で?気になる事って何にゃ?」
宿屋の部屋でサラとの交信を終えるとサキが膝の上に乗って僕を見上げる
「釣り人が言ってた言葉がね・・・邪魔した報いは受けさせるとよ・・・あの釣り人は単なる釣り人じゃなく僕と同じように魔族を探してたのかも・・・あの瓶の事も知っていて・・・」
男が鬼化してもそんなに驚いてないように見えた。自ら囮になり魔族側が接触してくるのを待っていた?だとしたら悪い事したな・・・どれくらい待ってたかは知らないけど全て水の泡になった訳だし・・・
「それでどうするにゃ?」
「仲間が鬼化して殺されたんだ・・・警戒して奴らは隠れてしまったか逃げてしまったか・・・それを調べる為に釣り人に海に落とされた残りの奴らを探してみる。サキは街を歩いてあの瓶みたいな怪しいものを持っている奴を探してくれ」
「分かったにゃ。それとサラを捕まえた奴側分かったら教えて欲しいにゃ・・・この私を蹴り飛ばした事を死ぬほど後悔させてやるにゃ!」
「・・・殺すなよ?」
「どの口が言うにゃ!」
「僕は変わったんだ・・・もう人は殺さない・・・余程の事かない限りね──────」
ロウニール達に釣り人と呼ばれている男はとある部屋に入ると手に持っていた瓶をテーブルの上に置いた
その瓶の中には海のように青い液体が入っておりテーブルに置いた拍子に中身が揺れる
「・・・状況は?」
釣り人より先に部屋の中にいた者が尋ねると釣り人はその者に向かって片膝をつき頭を下げる
「ダーザン派が持ちかけてきた話と鬼化の薬を持っていた事を考慮しました結果、奴らの中に元凶がいるのは間違いないと思われます」
「何て言われた?」
「『この街を支配する為に力を貸してくれ』・・・それと『強くなれる薬を前払いとしてやる』・・・そう言われました」
「強くなれる薬・・・ね。それで?」
「そのまま引き受けて更に詳しく調べようとしましたが邪魔が入りダーザン派の男は鬼化・・・すぐに始末しこの薬だけ持ち帰って来ました」
「その邪魔した者は?」
「件の男です」
「ロウ・・・何とかか。やってくれるね・・・それで?始末した?」
「いえ・・・瓶を持ち帰る方が重要かと思いまして・・・」
「・・・ああ、そう言えば言ってなかったね・・・優先順位が変わり魔族よりもロウ何とかを始末せよとお達しがあった」
「・・・なぜ・・・」
「納得出来ない理由があれば断るのか?」
「い、いえ・・・」
「なら『なぜ』と疑問に思わずすぐさま実行しろ。ちなみにロウ何とかはゼガーに接触しているらしい・・・見つからなければ訪ねてみるといいかもね」
「聖者ゼガー殿・・・分かりましたすぐに行って来ます」
「期待しているよ・・・何せこの国の未来がかかっているらしいからね──────」
小さなゲートを開いて覗く・・・その行為を何度繰り返しただろうか・・・動いてない分体は疲れないけど目が疲れてきた
簡単には見つからないとは思っていたけどこれだけ見つからないと少し焦りも出てくる
今は高い所から見ているだけ・・・室内に居られたら見つけようがない。かと言って窓から中を覗き部屋内にゲートを開くのはリスクが高過ぎる・・・覗いているのがバレたら『フーリシア王国の辺境伯は変態泊』と噂されかねない
このまま続けるかそれとも他の方法で探すか・・・うーん・・・・・・・・・そうだ・・・こういうのに詳しそうな奴にどうするべきか聞けば良いんだ
うんうん・・・僕みたいな門番として品行方正な生活をしてきた人には分からない裏事情に詳しそうな人物・・・尚且つ揉め事が大好きで頭がキレる奴と言えば・・・
「それで私の所に来たと言うのですか?閣下」
「だって得意だろ?そういうの・・・なあナージ」
ケッペリの宿屋からエモーンズの屋敷へと戻ると頼れる軍略家であるナージの部屋を訪ねた
今の状況を話し、魔族が居そうな場所を突き止めたいと言うとナージは手を顎に当てしばらく考える。そして何か思い付いたのか顔を上げると僕をマジマジと見た
「閣下が言うには縄張り争いがあると仰いましたがその勢力は分かりますか?規模や争っている組織の数とかです」
「全く分からん」
「・・・そうですか。でしたら先ず行動に移すしかありませんね」
「どんな行動だ?」
「縄張り内で問題を起こせばいいのです」
「なぬ?」
「その組織の縄張り内で問題が起きれば組織は出ざるを得ません。閣下がお探しの組織ではない者が来たら別の縄張りで問題を起こせばいいのです」
「問題を起こせって簡単に言うけどな・・・どこでどうやってその問題を起こせばいいんだ?」
「簡単です。必ず問題を起こせばお探しのような輩が出て来る場所で私の言う通りにして頂ければ──────」
ナージに教わった場所に来た
もちろんロウニールとしてでもロウハーとしてでもない・・・ロウハーより少し若くロウニールより少し年上の男、ローハーに変身してだ
ナージが言うにはこの場所が確実だと言うけど・・・他になかったのか?
「お兄さーん、ちょっと寄ってってよぉ」
「あら見ない顔ね・・・ウチの店は良心的よ?少しだけ寄ってかない?」
「兄さん好みの子はいなかった?それならウチに来なよ・・・若い子から年寄・・・ご年配の方まで選り取りみどり・・・安くしとくよ?」
足を踏み入れた瞬間から勧誘の嵐・・・そうここは歓楽街・・・エモーンズの歓楽街は何度か訪れた事はあるけど全部店に入る為じゃなかった
今回は店に入る為・・・厳密に言うと店に入り問題を起こす為だが・・・その為に歓楽街にやって来た
ぶっちゃけ店はどこでもいいはずなのにどの店に入ろうか真剣に悩んでしまっている自分がいた
女性は皆着物・・・着物の裾から覗かせる生足や大きく開けた胸元を見ると・・・
「お兄さん超好み!ねえねえ私の店においでよ!色々とサービスしてあげるから・・・さ」
急に腕に絡みつき胸を押し当て耳に息を吹きかけられた
するとどういう訳かその女性の誘導にズルズルとついて行ってしまう
これは浮気ではない・・・単なる調査だ
心の中でサラに言い訳しながら僕は女性に連れられて店の中へと入って行くのだった──────




