353階 魔眼
僕達はゲートを使いケッペリに到着するとその足で宿屋に向かった
そこで部屋を借りた後で街に出てゼガーを探す
一日中歩き回る事も覚悟していたが意外とすんなり見つけた・・・街を護衛を引き連れて歩く修道服姿はかなり目立つ。多分教会を作り治療を求める人を待つのではなく巡回して具合の悪そうな人を都度治療しているのだろう・・・これ以上魔人化する人を増やさない為に
「・・・治療をお求めですか?」
ゼガーの前に立つと彼は微笑み僕達に尋ねる
護衛達が警戒しているのはおそらく僕達の格好が他の人と違い着物ではないからか・・・それはそうとすっかり忘れてた・・・ゼガーに会ったのはロウハーとサラートでロウニールとサラではなかったな
「話がある聖者ゼガー・・・私はフーリシア王国辺境伯ロウニール・ローグ・ハーベスだ」
僕が名乗るといっそう警戒を強める護衛達。その護衛達とは逆にゼガーは一瞬驚いた表情を浮かべるがすぐにまた微笑む
「これはこれは・・・数日で同郷の方とまた会えるとは思いもしませんでした」
「よく言うよ・・・まあいい。じゃあ早速行こうか」
「え?行く?」
背後にゲートを開きゼガーの腕を引っ張るとそのままゲートを通過する。何も打ち合わせしていなかったけどサラはすぐに察してくれて僕に続いてゲートに飛び込んだ
護衛達が来る前にすぐゲートを閉じて拉致・・・もとい招待完了。これで護衛達の事を気にせず話が出来る
「・・・ここは・・・」
「ケッペリの宿屋の一室だ。壁が薄いのが玉に瑕だけど護衛達の前で話すよりは全然いいだろ?」
「・・・一体どうやって・・・いえそもそも貴方様は一体・・・」
「まだ演技を続けるのか?聖者ならとっくに分かっているのだろう?その眼で見て私達が何者かなんて」
「・・・『眼』の事を知ってましたか・・・ロウハー様」
「ロウハーは偽名だ。ロウニールと呼んでくれ。さて・・・質問に答えてもいいがまず・・・君は私達を使って何を企んでいるか聞かせてくれるかな?」
彼は僕達に城下町へ行かせたかった・・・その真意はおそらくゼガーがフーリシア王国に帰る為なのだろうけど・・・
『真実の眼』の事を知っている僕達に嘘をついても無駄だと悟ったのかゼガーはなぜ僕達を城下町に向かわせたかったか素直に話してくれた。内容は大方の予想通り・・・僕達を使いラズン王国の現状をフーリシア王国に報せ『毒』を発動・・・つまりゼガー達がフーリシア王国に帰れるように仕向ける為だった
「申し訳ありません・・・欺くような真似をして・・・辺境伯様が来られるのは事前に知っておりました・・・そしてどのような用事で来られるのかも・・・その話を聞いた時からこれはチャンスだと思いどうにかして出会えないかと考えていたのですが神のお導きか偶然にも出会えたのでつい・・・」
「私達を使った、と・・・まあ実際に私達がやる事と変わりないからそれは別に構わないが・・・少し疑問があってな」
「疑問・・・ですか?」
「なぜそこまでフーリシア王国に拘る?この国で嫌な思いをしているとかならともかくそんな様子もないし・・・この国がそんなに嫌いか?」
「いえ・・・辺境伯様ガー感じられたようにこの国の方々は私に良くしてくれております。妻もこの国の人間ですし・・・」
「じゃあなぜだ?聖者なら君がフーリシア王国に帰ればラズン王国がどうなるか分かっているだろう?」
「ええ・・・魔蝕を治すものが居なくなり国は滅びてしまうかもしれませんね」
「そこまで分かっていて・・・」
「辺境伯様は命を脅かされながら生きる気持ちがお分かりですか?いつこの身が滅びるかビクビクしながら生きる日々・・・フーリシアの気分次第で明日死ぬかもしれないと考えるだけで気が狂いそうになります・・・」
「どういう事だ?」
「フーリシアの聖者聖女以外の者・・・他国にいる私達にはある呪いが掛けられております。その呪いは一度発動されれば対象の者の核は破壊され鬼と化す・・・」
え?・・・それって・・・
「フーリシアは小国・・・それも他国と渡り合うほどこれといったものが存在しない弱小国です。私達・・・『真実の眼』を持つ者達を除けば・・・。なのでフーリシアは唯一の強みである私達を最大限に活用しようと考えました。私達を各国に無償で提供し恩を売るのは表向きなもの・・・実際は必要に応じて取り上げその国を混沌に導く道具として・・・」
それが『毒』・・・か・・・
「その呪いは取り除けないのか?て言うか私がラズン王国の現状を国に伝えれば・・・」
「呪いは取り除けません・・・核に寄生するように取り付いており無理に取り除こうとすると呪いが発動する仕組みになっております。それと呪いの発動はあくまでも緊急時です。事前にラズン王国の現状が分かっていれば私達を国に戻そうとするはず・・・発動するとしたら私達がラズン王国に捕らえられたりフーリシアを裏切った時でしょう」
「なるほど・・・そういう事か・・・」
「それよりもなぜ辺境伯様はここに?てっきり城下町に向かったと・・・」
「ん?行って来たぞ?行って戻って来たんだ」
「まさか・・・まだ数日しか経っておりません。ここから城下町に行かれ戻って来るにはあまりにも早過ぎます」
「それが出来るんだな・・・さっき経験したろ?『ゲート』・・・行った事ある場所なら瞬時に移動出来る。それと見えている場所にもね。ゲートを使って城下町に行き、王様に会ってすぐ帰ってくれば十分このくらいで帰る事が可能だ。なんなら今から城下町に連れていこうか?」
「い、いえ・・・そうですか・・・そんな能力が・・・!そ、その能力には距離の制限などありますか?」
「いやない」
「・・・つまりそれは・・・この国から一瞬でフーリシアに・・・」
「そうなるな」
答えるや否やゼガーは僕の手を取り真っ直ぐに見つめる
「お、お願いします!私を王都に・・・フーリシアに連れて行って下さい!報酬はいくらでも払います!私が王都に行き直接国王陛下にラズン王国の現状をお話すれば・・・」
「奥さんはこっちの人なんだろ?両親や兄弟・・・親戚や知り合いなんかもいるんじゃないか?もしその直談判が認められたらこの国は滅ぶかもしれないぞ?」
「ですが!」
「一旦私に任せてくれないか?フーリシア王国に連れて行くのは簡単だが種・・・埋め込まれたものがあるのならどこにいても命の危険はついて回る・・・国を納得させてからの方が安全だと思う・・・その為に全力を尽くす事は約束する」
「・・・」
ゼガーにとっては居ても立ってもいられない状態なのだろう。だけど下手な事をすればフーリシア王国はゼガーを魔人化させてしまうかもしれない・・・しかし誰がどうやって・・・まさかラズン王国で起きている魔人化もフーリシア王国が関与しているとか?
「とにかく時間が欲しい。1年・・・いや半年以内には解決してみせる」
「・・・分かりました。・・・ひとつだけお尋ねしたいのですが辺境伯様にとっての『解決』とは?」
「・・・各地にいる聖者聖女がフーリシア王国に戻っても大丈夫な世の中にする事だ──────」
納得したかは分からないけどぜガーは神妙な面持ちで頭を下げると宿から去って行った
「・・・ロウ・・・さっき言ったことは可能なの?魔蝕が根絶しないと各国から聖者聖女様はフーリシア王国に戻れないと思うけど・・・」
「いや、もうひとつ方法がある」
「もうひとつ?」
「『真実の眼』でしか治せない魔蝕・・・でももしそれ以外でも治せる方法があったら?」
「え?でも・・・」
「ないかもしれないしあるかもしれない・・・そもそも『真実の眼』がなぜセシーヌやゼガーの血族しか使えないか・・・その謎が分かれば答えは出るかもしれない」
「・・・考えてみればそうね。聖者聖女様しか使えないって当然の事と思ってたけど謎よね・・・」
「僕もそういうものだと思ってたから深く考えなかったけど・・・まあ知ってそうな人・・・猫に聞くのが一番かな」
ダンコに聞いてもいいけどそれだと後でサラに説明しないといけないし話を聞いて僕が気付かない事にサラが気付くかもしれない。そうなると聞くのに適任なのは・・・
僕はゲートを開くと手を伸ばし掴むとゲートから手を引っ込める。その手には食事中だったのか魚をくわえたサキが力無くぶら下がっていた
「・・・突然何にゃ・・・」
「そう怒るなよ・・・ちょっと聞きたい事があるんだけど・・・」
「聞きたいだけなら念話で済ますにゃ!それかダンコに聞くにゃ!」
「そう言うなって・・・聞きたいのは人間の中で特殊な力・・・ほらセシーヌが使っている『真実の眼』とかマナじゃ再現出来ない能力があるだろ?それって何なんだ?」
「人の話を聞くにゃ!・・・ハア・・・そんなの知らないにゃ」
「・・・本当か?」
「にゃんにゃ!人がせっかく食事をしていたのに・・・実際はどうか知らにゃいけど似たような能力は知っているにゃ」
「似たような?」
「そうにゃ。と言ってもだいぶ足りない?いや分かれた?・・・まあそんな感じにゃ」
「よく分からんが・・・」
「・・・『魔眼』・・・相手の弱点を看破したり見定めたり見透したり魅了したり・・・本来なら複数の能力が備わっている・・・それが『魔眼』にゃ。セシーヌの『真実の眼』は『魔眼』の能力のひとつに過ぎないにゃ・・・となるとおそらく・・・」
「おそらく?」
「魔族と人間の子孫が魔族の能力の一部を受け継いだ可能性が高いにゃ」
「って事はセシーヌは魔族の子孫って事になるのか?」
「あくまで可能性にゃ。けどマナでも魔力でも実現出来ない能力はその魔族固有の能力しかないにゃ」
「ちなみに『魔眼』の能力を持っている魔族は?」
「『ヴァンパイア』にゃ」
「ヴァンパイア?」「ヴァンパイアですって!」
僕は初めて聞くけどどうやらサラは知っているみたいだ
「あの・・・人間の血を吸うと言わている吸血鬼よね?ヴァンパイアって・・・」
「ハッどこでそんな嘘が広まったのやら・・・アイツらはタダのマヌケにゃ」
「え?」
「対人間では『魔眼』のお陰でそこそこ戦えるにゃ・・・けど『魔眼』は魔族には効かないにゃ・・・つまり雑魚にゃ」
「雑魚って・・・でもよく物語に出て来るし人間の血を吸い、吸われた人間はヴァンパイアの意のままに操られて・・・」
「それ『魔眼』の魅了の能力にゃ。・・・あー、血を吸うって勘違いしている理由が分かったにゃ。アイツら牙があってその牙でよく唇を切ってたにゃ。その血が流れている姿を見て人間が勝手に判断したんだにゃ・・・人間にそんな姿を見られるなんて間抜けにも程があるにゃ」
「えぇ・・・」
何故かサラはショックを受けているみたいだ。もしかしたらサラの見た物語ではかなり強い魔族として書かれていたのかな?
「その間抜けなヴァンパイアの能力『魔眼』を手に入れればセシーヌ達みたいに核の傷が見えるかもしれないって事か・・・」
「まあ『魔眼』なら可能だと思うにゃ」
もし本当に『魔眼』で核の傷が見れて治療が可能なら・・・ヴァンパイアの子孫である聖者聖女がいなくても魔蝕は治せる事になる・・・そうなれば・・・まあでも確証は得られてないしまずは試してみないと・・・となると魔族ヴァンパイアを探すしかないか・・・
「あっそうだ・・・サキの言ってたパズズだっけ?そのパズズが埋め込んだ『種』ってどうやって取り除くの?」
おっとそうだった。まだ『種』かどうか決まった訳じゃないけどもしゼガーの体内に埋め込まれたものが『種』なら取り除けるのであれば取り除いてあげたいけど・・・
「確かかけた本人・・・つまりパズズを殺すか解除させるかしかなかったはずにゃ」
殺すか解除させるか、か・・・そうなるとまず誰がかけたのか調べないといけないな
てかケッペリで魔族パズズが人間に『種』を埋め込んでいたとしても聖者聖女達に『種』を埋め込んでいるのとは別の魔族パズズって事だよな?それとも同一人物?ゼガーの言い方だとこれまでの聖者聖女も同じように埋め込まれていたみたいだし・・・そんな昔から魔族が暗躍してたって事?・・・うーん・・・まっその辺はおいおい調べていくとして今はこの街に居るであろうパズズを始末するか・・・僕達が報告する前にフーリシア王国に魔人化多発の噂が伝わってしまったら『毒』を発動してしまうかもしれないしね
「なあサキ・・・この街にもしパズズがいたらその場所を特定出来るか?」
「うーん、私のように変身していたら難しいかもにゃ。でも・・・能力を使った時ならある程度離れていても分かるにゃ・・・猫の嗅覚を舐めにゃいで欲しいにゃ」
誰も舐めてないしそもそもお前はサキュバスだろうが・・・
街の人達を囮にするみたいで気が引けるけど仕方ない・・・パズズが能力を使うまで待つしかないか・・・とっとと使ってくれればいいけどな──────




