352階 ゲート
次の日、僕達はラウンノを一通り回りそのまま街を出た
ゼガーを捜すフリともうひとつ・・・街の様子を見る為だ
「ゼガーは当然居ないとして街もこれといっておかしいところはないね」
「ええ、そうですね」
魔人化を引き起こす魔蝕は魔力が濃くなっても患う可能性が高くなる。元々核に小さい傷があり気付かない人もいるが魔力が濃くなると一気に症状が進行し魔人化に至ってしまうケースがあるからだ
しかし街の様子を見ると至って普通・・・魔力が濃くなる要素は見当たらなかった。ダンジョンも近くにないみたいだし他の国より不安や恐怖は少ない可能性すらある
「魔族パズズの可能性が高い・・・いや、もう確定かな?サラはどう思う?」
「ええ、そうですね」
「・・・もしかして怒ってる?昨日無理矢理・・・」
「え?・・・それは全然・・・ちょっと考え事をしてて」
「そ、そう」
昨日屋敷から帰って来たサラの様子がおかしい
隣を歩きながら何かを真剣に考えている感じだ。昨日のアレの事ではないとすると屋敷に帰った時に何かあったとか?お風呂入っただけにしては遅かったし・・・ただの長風呂かと思っていたけどまさか・・・
「メイド長とか他のメイドと何かあった?」
ビクッと身体を震わせたところを見るとどうやら当たりらしい
まさかあれだけキツく言ったのにサラにちょっかい出すとは・・・
「ちょちょっと!別に何かされた訳じゃないからね!」
「え、そうなの?じゃあ一体・・・」
「・・・ロウは私以外の女性と・・・エッチしたいと思った事ある?」
「ないよ・・・ってなぜ今その質問!?」
「即答なのね・・・なんでしたいと思わないの?」
僕の質問は無視か!
「・・・したいと思わないし逆の立場になったら嫌だからかな?」
「逆の立場?」
「うん。サラが他の人と・・・なんて事になったらすんごい嫌・・・相手が無理矢理襲って来たのならその相手を地獄の苦しみを与えた後で八つ裂きにするしサラが望んでって事なら八つ当たりで一国くらい滅ぼすかも」
「どんな八つ当たりよ・・・後に言ったのは絶対にないから安心して・・・でも最初に言った状況は・・・起こらないとも限らないわね。実際に危なかった事もあるし・・・」
「・・・大丈夫・・・絶対に僕が守るから・・・」
サラに指一本触れさせやしない・・・誰であろうと・・・絶対に・・・
「分かった!分かったからその架空の敵に向けて殺気を放つの止めてよね!鳥は逃げるし監視の人達も酷く動揺しちゃってるでしょ!?・・・でも・・・うん、そうよね・・・逆の立場になれば分かる事・・・そうだよね」
「・・・1人で納得してないで教えて欲しいんだけど・・・なぜ急にそんな事を聞いたの?」
「じ、実は──────」
なんとまあ見事なまでのメイド脳だ・・・チル達は比較的浅いがグレア達は思ったより深い・・・どっぷりハマって一ミリも疑ってない状態っぽいな
「正に洗脳・・・だね」
「うん・・・さっきまではそれがグレア様達の幸せならと悩んだけどやっぱり間違っているよね・・・でも彼女達はそれが正しいと信じ切っている・・・正しいと信じ込ませられている・・・」
悩んでたってもしかして・・・
「サラ・・・グレア達と僕をくっ付けようとしてたの?」
「ち、違うから!・・・だってグレア様・・・グレアは私が洗脳したであろう人達を許せないと言うのであれば口添えしてくれと・・・グレア達を抱くように言ってくれと・・・」
「なるほど・・・グレア達の事を思うなら自分が我慢すれば・・・って考えてたのか・・・」
「い、今思えばそんな事は絶対ダメだし私も嫌だし・・・でもグレアの真剣な眼差しを見てたらつい・・・」
その真剣な眼差しは洗脳によって作られたもの・・・サラもそれは分かっているけど優しいからつい・・・ってもしサラが変な決断しちゃったらどうすんだ!
『ロウ・・・メイド達を抱いて・・・私は身を引くから・・・』
なんて事になったら・・・
僕のメイド達だけを幸せにすればとか甘っちょろい事を言っている場合じゃないな・・・
「サラ・・・国を変えるって難しいよね?」
「国を変える?それってフーリシア王国を出るって事?」
「いや・・・フーリシア王国の考え方を変えるって意味で・・・聖者聖女の事もメイドの事も・・・考え方を変えさせるにはどれだけの力が必要なのかなって・・・」
「・・・多分ロウなら出来るんじゃない?だって・・・勇者しか倒せないはずの魔王を倒しちゃったんだから・・・不可能を可能にする男・・・それがロウニール・ローグ・ハーベスであり私の彼氏でしょ?」
僕なら出来る・・・か
そうだな・・・やる前からあれこれ考えていても仕方ない・・・間違っていると思ったら声を挙げないと・・・
「そうだね・・・サラの彼氏ならそれくらいやって当然・・・間違っていると思えば正せばいい・・・例えそれが国に対してだとしても・・・」
けどどうやって?
王様を脅して言う事を聞かせる?・・・でもそれって抑圧するだけで根本的な解決になってないんじゃ・・・そもそも僕1人の脅しに王様が屈するかどうかも不明だし・・・下手したら僕とフーリシア王国とで戦争になるかも・・・
それじゃああの『タートル』とやろうとしている事は変わらない・・・でもそれならどうすれば・・・
力で解決するのではなく・・・もっと別の・・・
「ロウ?大丈夫?・・・ゲートが使えないから早く行かないと日が暮れて野宿になっちゃうわよ?さすがに野宿だと監視の目がキツくて屋敷に戻れないし・・・」
「う、うん・・・そうだね・・・ゲートは使えないし・・・っ!」
そうか・・・その手があったか!
「さすがサラ!・・・ひとつ質問していい?サラは何があっても僕について来てくれる?」
「それはもちろん・・・え!?なに??」
「・・・ゲートが使えない理由は知られるとマズイから・・・なんでマズイかって言うとゲートは脅威だから・・・僕が使えると知れば僕を利用しようとする者、使われる前に排除しようとする者が必ず出て来る」
「う、うん・・・だから・・・」
「そう、だから人前では使わないようにした。けど僕は今フーリシア王国に意見しようと考えてる・・・辺境伯の意見なんて王様からしてみればあまりにも小さい声かもしれない・・・けどゲートが使える者が意見すれば?」
「でもフーリシア王国の国王様はロウのゲートを知っているって言ってなかったっけ?」
「うん。多分知っている・・・けど僕は使えないフリをした・・・フーリシア王国の味方でありたかったから」
「??・・・えっと・・・」
「フーリシア王国の味方である僕がゲートを使えると知れば王様は利用しようとするだろう・・・現に利用する為に各国を見て回らせているのだと思う。けど僕が・・・フーリシア王国の敵となれば?」
「え?」
「フーリシア王国も利用しようとする者ではなく排除しようとする者になるはずだ・・・敵に回したらこれ程恐ろしい能力はないからね」
「・・・そっか・・・フーリシア王国の国王様はロウが味方である前提の元で話を進めている・・・けどもしロウが敵となると判断したら国王様はロウを脅威に感じて・・・という事はロウはゲートを武器にフーリシア王国に意見を通そうと?」
「うん。味方に武器を振りかざす事は出来ない・・・でも味方でなければ・・・ゲートという武器は最強の矛となる。けど・・・それをすればフーリシア王国には居られないかもしれない・・・王様が拒否したら僕とフーリシア王国との戦争になりかねないからね」
「なるほど・・・だからさっき『何があっても』って言ったのね?」
「そう・・・フーリシア王国の国民としてどこか遠慮していた・・・だから王様にゲートを使って何かしろって言われたら応えていたかもしれない。だから公然とゲートを使うのを止めていたんだ・・・命令を拒否すれば王様との関係は悪化するのは目に見えているからね。でもそれだとフーリシア王国は変えられない・・・味方として何を言っても通じないなら敵として意見を通すしかない」
「随分と思い切ったわね・・・グレア達メイドの為にそこまでするなんて・・・少し妬けるわ」
「メ、メイド達の為だけじゃないって!もちろんメイド達もだけど聖者聖女も・・・ラズン王国すら救う為だよ」
「聖者聖女様と・・・ラズン王国?」
「僕が力を隠さなければそれだけの人を救えるはず・・・まあそれもこれもサラが隣にいてくれたらだけどね」
サラが横にいれば戦える・・・それが例え国だとしても・・・そう思えたからこそこの考えに至ったんだ
「・・・えらい人に惚れたものね私も・・・さっきも言ったけど私は何があってもあなたの隣にいるわ・・・この命果てるまで、ね」
「ならかなり長生き出来そうだね・・・なんたって勇者じゃないのに魔王を倒す男がその命を護るのだから・・・」
改めてここに誓う・・・サラは僕が護る・・・必ず・・・
「違うわ・・・私はあなたに護られる者ではなく・・・共に歩む者よ・・・間違えないでよね」
「そうだったね・・・さて、そうと決まればちんたら歩く必要もないか・・・」
監視の目は相変わらず・・・誰の手の者か知らないけど見せてやるよ・・・国を・・・大陸をひっくり返す力を
「監視している者達に告ぐ!私達は先にケッペリへと向かう!まだ監視したくば早急にケッペリに向かう事をおすすめする・・・色々と見過ごしたくなければな!ゲート!」
知り合い以外の目に晒すのはどれくらい振りだろうか・・・
ゲートはこの上なく危険な力だ・・・前にケン達に装備をあげた時、サラはスカットにあげたナイフを人前で使うなと言った。自由自在に操れるナイフは暗殺に向いており脅威となるからだ。でもゲートは更にその上を行く・・・覚えている場所なら何時でも何処でも繋げるからだ。例えそれが王様の寝室であっても・・・
監視をしている者達に動きはない・・・僕が何を言っているのか理解出来ないのだろう。でも僕達がゲートを通り消えてしまえば慌ててケッペリに向かう事になるだろう・・・ここから少し離れているが・・・間に合うといいな
僕が魔族を倒すまでに、ね──────
「んなぁぁぁ!?消えちまったぞアイツら!」
遠く離れた茂みから出て来た男はゲートを通って消えてしまったロウニール達2人を消えた場所でキョロキョロしながら探し出す
「ワット様!まだこの辺に居るかもしれません!すぐにお隠れ下さい!」
ロウニール達を探している男、ワットの背後に音もなく現れた忍者装束の者がワットを窘めると探しながらその男に視線をやる
「隠れろって・・・俺っちはもう見られちまったし別にいいだろ?てか、なんで教えてくれなかったんだよ・・・アイツらがターゲットって」
「そ、それはワット様が突然現れて止める暇がなかったので・・・」
「うっせ言い訳すんな!・・・てか完全に居なくなっちまったな・・・風遁か?」
「絶対違います!」
「んだよ・・・分からねえじゃねえか・・・まあいいケッペリに向かうぞ」
「・・・あの男の言葉を信じるのですか?もしかしたら陽動かも知れませんよ」
「陽動なら陽動でいいじゃねえか・・・俺っち達に課せられた任務はふたつ・・・ひとつは2人の監視・・・もうひとつは機密漏洩の阻止だ。完全に見失っちまった今、より重要な任務の達成を目指すべきだろ?それにさっきの言葉が真実ならふたつの任務を同時に達成出来るチャンスだ・・・行かねぇ手はねえだろ?」
「確かに・・・意外と考えてられるのですね」
「あたぼうよ・・・ん?意外と?」
「そうと決まれば先を急ぎましょう!皆の者行くぞ!」
「おいちょっと待て!意外とって俺っちの事バカにしてんのか!?おい待てって!」
忍び達は姿を再び消しケッペリを目指し、ワットは喚きながら同じくケッペリを目指す
そしてその後ろからは数台の馬車がケッペリ方面に向けて走っていた
着々とラズン王国の港町であるケッペリに集まる者達・・・それと同時に物語が動き始める──────




