347階 モッツデリバリー
「モッツさイダッ!」
「顔だけ出すんじゃないと言っておるじゃろ!」
港に何故かあるテーブルと椅子に釣り人とサラ・・・それに何故かついて来た少年を座らせ1人建物の陰に隠れてゲートを開き屋敷の厨房を覗き込むといきなりオタマで叩かれた
「今度は何じゃ!」
「釣った魚を料理してもらいたくて・・・まあ私が釣った魚ではないのですが・・・」
「・・・見せてみろ」
言われて魚いっぱいのバケツを二杯モッツの目の前に置くと彼は一匹ずつ魚を手に取り険しい目で見つめる
「全部か?」
「ええ、全部で」
「残したら承知しねえぞ?」
「大丈夫です・・・どれくらい後で顔出したらいいですか?」
「顔出すなって言ってるじゃろ!・・・そこで待ってろ・・・」
そう言うとモッツは包丁を取り出すと一匹の魚をまな板の上に置きいきなり捌き始めた
あれよあれよという間に魚は身だけどなり、彼は皿に綺麗に盛り付けすると僕に手渡す
「とりあえずこれを食っとけ。醤油はそっちにあるのか?」
「しょうゆ?」
「・・・ハア・・・まあそのまま食っても構わぬが・・・港だろ?なら醤油って言えば分かるはずじゃ。その醤油に少しつけて食べると更に美味くなるぞ」
ほほう・・・それは是非試したい
「ちなみにこの料理の名前はなんです?」
「刺身じゃ・・・ほらさっさと持って行け!残りはどれが合うか考えて調理しといてやる」
「はいお願いします」
ゲートを閉じて仮面をかぶるとロウハーに変身・・・そしてモッツから受け取った皿を持って3人の元へ
「・・・刺身か・・・」
「すげぇ!いつの間に・・・てかまさかその刀で?」
「違う違う・・・これは・・・ちょっとね。それより醤油はありませんか?手持ちなくて・・・」
「そりゃそうだろ!醤油持ち歩いている人なんてほとんどいないよ!・・・待ってて僕近くで貰ってくるから」
「頼むよ・・・後の魚はこの刺身を食べている間に・・・」
「・・・間に?」
あっ・・・しまった・・・僕がここに居るのに料理が出来るっておかしいよな・・・って事は・・・
「みんなが食べている間に作って来ます・・・」
ううっ・・・あの刺身を醤油とやらにつけて食べてみたい・・・けど少年もまだ戻って来ないしこうしている間にもモッツが作っているだろうし・・・
チラッとサラを見ると僕の意図が通じたようで彼女は力強く頷いた
これで少しは残してくれる事だろうとまた建物の陰に隠れてゲートを開くと突然皿が飛び出して来た
「ほれ!持ってけ!」
今度は刺身ではなく・・・衣?がついている料理だ
「白身の天ぷらだ。熱い内に食べな!塩は振ってあるからそのままいけるぞ」
これまた美味しそう・・・どんな味がするのだろう?
食べるのを楽しみにしながら戻るとそこには空になった皿が・・・あれ?刺身は?
「やっぱ釣りたては刺身だよね!おっお次は天ぷらかい?」
少年・・・そこではない・・・なぜ刺身が全て・・・
涙目になりサラを見ると何故か地面を指差している
指の指し示す方向はテーブルの下・・・覗いてみるとガツガツと刺身を食べるサキ・・・
「・・・にゃあ」
にゃあじゃねえ!
サキの存在を忘れていた・・・このままだと運ぶだけで終わってしまうぞ?一体どうしたら・・・
良い案が浮かばないままただ料理を運ぶだけの時間が続く
時には建物の陰で出来るのを待ち、時には物陰からみんなが食べる姿を眺め・・・お腹は魚を求めて鳴りっぱなし・・・
「ほれこれが最後じゃ」
「最後!?あんなに魚あったのに!?」
「十分作ったわい!いいから持ってけ!」
そんな・・・いや待て・・・これは一緒に座って食べれるって事だよな?刺身も天ぷらもフライも食べれなかったけど・・・あれ?これなんて料理だ?モッツに聞くの忘れてしまったぞ
皿の中身を見ると・・・赤い・・・とにかく赤い
これ魚料理か?どれが魚か分からないし野菜とかも入っているような・・・
「おっ!待ってました!どこでどうやって作ってるか分からないけど全部美味しいし期待して待ってたよ!」
「・・・これが最後です・・・」
聞くな・・・料理名を聞かずに黙って食べろ!
「これも見た事ない料理ね・・・なんて料理?」
まさかのサラ!
ううっ・・・少年からの質問なら誤魔化そうと思ってたのに・・・
なんて料理だろ・・・今までは刺身や天ぷら・・・フライや焼き魚・・・どれも調理の仕方が料理の名前っぽかった。となるとこれは・・・グチョグチョ?・・・んな料理名あるか!・・・えっと調理の仕方は分からないから見た目で・・・見た目・・・赤い・・・赤いと言えば・・・
「ち・・・」
「ち?」
「血みどろ?」
「・・・」
赤いし!血は赤いし!
「・・・トマト煮だな」
釣り人がヒョイっと一切れ口に放り込むとボソッと一言
トマト煮・・・確かにトマトは赤いな・・・
「ち、血みどろって・・・料理で血みどろって・・・」
少年は腹を抱えて大爆笑・・・つられてサラも笑ってるし・・・テーブルの下ではサキが転げ回っているのも見えた
唯一笑っていないのは釣り人・・・くっコイツ・・・肩を震わせてやがる!
「てか私は全然食べてないのでこれは私が頂く!」
「どうぞどうぞ・・・血みどろをご堪能あれ」
少年っ!覚えておけ!
笑い続ける少年を睨みつけながら血みどろ改めてトマト煮を一口食べた
トマトの酸味が口いっぱいに広がりそこから魚の旨味が押し寄せてくる・・・喧嘩しそうでしっかりと互いに溶け合っている感じが口の中を幸せにし飲み込むのが勿体ないと思うくらいだ・・・一口だけで少年とサキへの怒りも消えた・・・さすがモッツ・・・彼を屋敷に引き入れたのは正解だったな
「美味そう~僕も一口・・・イテッ!」
「これは私のだ・・・誰にも渡さない!」
「ずるいぞ!オッサン!」
「うるさい!てかなぜシレッと一緒に食べているんだ!?釣り人は魚を提供し私はそれを買った・・・妻は当然として君は全然関係ないじゃないか!」
「何を言ってんだ!僕はコイツの師匠だぞ!魚の釣り方から何から全て僕が教えたんだ!って事は魚を釣れたのは僕のお陰・・・つまりこの魚は僕が釣ったも同然だ!」
「どんな理屈だ!絶対ダメ!これは私のだ!」
モッツがあれだけ作ってくれた料理をたらふく食いやがって・・・これだけは絶対譲れん!
「・・・まるで子供同士ね・・・」
「・・・だな・・・」
お腹いっぱい食べたからって冷静だな!
〘ロウ・・・私もソレ・・・食べてみたいにゃ・・・〙
少年に続きサキも参戦・・・仁義なき戦いの火蓋が切って下ろされた──────
「それで?彼らはようやく城下町に向かったと?」
〘ええ。港で食事してその足で、ね。でもちょっとだけ問題があってぇ〙
「問題?」
〘うん・・・港で食事してる時にね・・・あの夫婦の他に人が居てぇ・・・その人が結構ヤバ目?〙
「・・・誰ですか?その結構ヤバ目な人とは」
〘護天が1人リュウダ・ガロ様〙
「!?・・・まさか・・・あの夫婦とは知り合いでしたか?どんな話を・・・」
〘聞こえる訳ないでしょ?意外と勘が鋭いのか近くに居ると見つかっちゃうのよぉ・・・声の届く範囲なんて無理無理ぃ・・・そのお陰で・・・〙
「え?」
〘ううん・・・まあ多分だけど初対面っぽいわね・・・夫婦はリュウダ様の事知らないみたいな感じだしぃ・・・それに食事の後はすぐに別れたからゼガー様が考えているような事はないはずよぉ〙
「そう・・・ですか・・・」
〘それでねぇ・・・もうひとつ問題があってぇ・・・〙
「もうひとつ?」
〘ええ・・・その・・・見失っちゃったのぉ・・・〙
「・・・見失った?」
〘ほら城下町まで一本道じゃない?で隠れる所が少なくなってぇ・・・少し距離を置いてたら・・・忽然と消えちゃったのぉ・・・ほんの少しだけ目を離した隙にね〙
「消えた・・・では城下町に行くとは限らないと?もしかしたらケッペリに戻って・・・」
〘それはないと思うわぁ・・・一本道だしさすがにすれ違ったら分かるものぉ・・・このまま私は城下町まで行って夫婦を探す・・・見つけたらまた連絡するわ〙
「・・・分かりました。よろしくお願いします」
ミケとの通信を終えたゼガーはかけていたメガネを置いて目頭を押えため息をつく
「・・・リュウダと出会い行方知れず・・・か・・・」
ゼガーにとってリュウダは懸念材料のひとつであった。鬼化の原因を探る為に派遣されたリュウダ・・・そのリュウダに今の状況を解決されてしまっては元も子もない
「鬼化が収まろうともその真実をあの夫婦に知られなければいいだけ・・・知られなければフーリシアは動く可能性が高い・・・でも知られてしまえば・・・これもあの役立たずの連中がさっさと・・・いや今はもうどうでもいい・・・とにかくあの夫婦に伝えてもらわねば・・・この国が終焉に近付いている事を──────」
「巻いた・・・かな?」
気配を探っても引っ掛からないし巻けたとは思うけど・・・実際なんで後をつけてたのか不明だ・・・この国の使者なら接触して来るはず・・・付かず離れず尾行する必要はない
今日の朝から絶妙な距離から見ているだけ・・・目的は何なのか気になるけど捕まえて吐かせるより楽な方法を取った
「街の中だけかと思っていたら外まで付いてきたね・・・監視されるような事したかしら?」
そう・・・監視だ。接触しようとせず離れて見ているだけ・・・観光客のフリをしているし目立った真似は・・・しているな、うん
監視される原因としては聖者ゼガーと接触したからか港で大立ち回りをしたからか・・・まあどっちにせよあまり良い意味での監視ではないだろうな
ゲートを使ってかなり離れたはずだかもう気にする事はないのかもしれないけど一応警戒はしておくか
「一旦屋敷に戻ろう。移動方法を変える」
「移動方法を?どうやって移動するの?」
「このままだと監視の目を気にしながら移動しなきゃならないからね・・・目だけで移動する」
「目?」
不思議そうにするサラに笑顔で応えて屋敷へのゲートを繋げた
そのゲートを通り屋敷に戻ると僕は安全な移動方法をサラに説明する
「・・・小さなゲートを開いてそこからずっと先の景色を見て覚えてその見た場所にゲートを繋ぐ・・・確かにそれなら目立たないし付けられる心配はなさそうね。でもそれが出来るならなぜ最初からやらなかったの?」
「そりゃあせっかく2人で旅が出来るのだから・・・しかも異国の地をね・・・それなのに目的地だけっていうのは勿体ないでしょ?」
「確かに・・・そうね・・・」
「確かにじゃないにゃ・・・2人ではなく3人にゃ!」
「・・・ああ、忘れてたよ・・・2人と1匹だった」
「『匹』言うにゃ!!」
とにかくこれで安全に城下町に行ける・・・武王国ラズン国王・・・殿とか天の守と呼ばれる男・・・一体どんな人物なのだろうか・・・穏便に済めば良いけどね──────




