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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
350/856

346階 釣り人と少年

街中を色々と探したりして見て回ったけどここは訪れていなかった・・・ゼガーに城下町へ行くよう言われた時にどうしてもその前に立ち寄らなければと思った場所・・・港


アーキド王国で魔人化した人が船乗りだからっていうのもある。けど実際はこの潮の香りを感じたり船を間近で見ておきたかった


ほんの少しだけアーキドで乗っただけだけど船はどこか僕をワクワクさせる・・・船に乗れば何処にでも行ける・・・そんな気分にさせてくれる魅力がある


「何か港の風って身体にまとわりつくと言うかベタつくのよね・・・」


「何でだろうね?海が近いからかな?」


「・・・嬉しそうね・・・私はあまり好きじゃないかな・・・せっかくの着物が汚れてしまいそうだし・・・」


サラは着物が気に入っている様子・・・メイド服も動きにくそうだけど更に動きにくそうな着物のどこに惹かれたんだろう・・・まあ僕も着物は嫌いではないけど少し動きにくいから不便に感じる時がある


だから常に着たいかって言われるとそうでもない。今着ているのはこの国では普段着ている服は目立つからだ


仕方なくとまでは言わないまでも動きにくいこの状況で戦う羽目になったらと少し不安になる・・・サラだけ着物で僕は服を着てもいいかもな・・・目立つけど何かあってからじゃ・・・


「ねえロウ・・・あの人何しているのかしら・・・海に向かって木の棒を向けて・・・木の棒の先に・・・糸?」


「何だろう・・・海の深さでも測っているのかな?」


船の停まっていない桟橋の先に男がポツンと座って木の棒を傾ける。その先には細い糸・・・男の後ろにはバケツが2つとそのバケツを持つ為の長い棒・・・


「あれはね・・・釣りをしているのさ」


突然背後から声が聞こえて振り返ると少年が立っていた。まだ15に満たないその少年は指で鼻の下を擦りながら得意げな顔をしていた


「釣り?」


「うん!釣り。あの木の棒は釣竿でその先には釣り糸・・・更にその釣り糸の先には糸を沈める用の重りと針が付けられていて針には魚が食いつくように餌が付けられているんだ。オジサン達そんな事も知らないの?」


「聞いた事は何となくあるけど実際には見た事なくて・・・あれが釣りか・・・あんなので釣れるの?」


「釣れるよ・・・けどまっ、素人には無理だね!魚の行動を読み餌をまるで生きているかのように操り食いついたら絶妙のタイミングで引く・・・あまり派手に動かすと周りの魚は逃げちゃうからゆっくり丁寧に時間を掛けて・・・釣り上げる」


少年の言葉と同時に桟橋の釣り人は見事に魚を釣り上げていた。そして魚を掴み糸から取り外すとバケツの中に入れてまた糸を垂らす・・・遠くてよく見えなかったけどあのバケツの中には魚がギッシリ入っていた・・・美味しそう・・・


「私にもあの道具があれば釣れるかな?」


「だから無理だって・・・餌を取られるだけだったり周辺の魚を逃がして迷惑かけるだけさ。それに・・・あちゃー・・・またかよ」


「『また』?」


少年が釣り人の方を見て手で顔を覆う。何事かと思って振り返ると釣りをする釣り人に近寄る不穏な影が・・・


「あいつらは?」


「あの場所は船が停泊していない時は共用部なんだけどね・・・たまにいるのさ妙な縄張り意識を持った奴らが・・・釣れてない奴には何も言わないくせに釣れている奴を見ると近付いてちょっかいを出してくる・・・で、釣った魚をかっさらって小遣い稼ぎでもしようとしているのさ」


「じゃああの魚は・・・」


「魚の心配かよ!・・・まあ素直に従って取り上げられるか逆らって海に落とされるか・・・どっちにしろ魚は奴らの物だろうね・・・普通なら」


「普通なら?」


気付くと既に男達・・・10人くらいか・・・そいつらは釣り人の後ろに立って何か話し掛けている。すると釣り人は振り返ることなく釣りを続け・・・あっ、背中を蹴られた


「ロウ・・・ハー!・・・じゃなくて旦那様?」


いやどっちでもいいから!てか自分で言って凄い照れてるし!


「多勢に無勢だ助けに行って来る!あのままじゃ魚が・・・」


「魚かよ!・・・大丈夫だよ。だって・・・って待ちなって!」


止めるな少年・・・助ければ魚を少し分けてもらえるかもしれない・・・じゃなくて人として見過ごす訳にはいかない・・・動きにくいけど魚の為だ・・・モッツに渡して美味しい魚料理を堪能する為に・・・今行くぞ釣り人!




「あーあ・・・行っちゃった」


「どうして?あの釣り人さんが危ないんじゃなかったの?」


少年は駆け付けるロウの背中を見てため息をついていた。どちらかと言うとこの少年は釣り人側の立場っぽいけど・・・


「危ないのはむしろアイツらの方さ。縄張り意識が邪魔して前にやられた連中の話を聞かないから・・・」


「え?やられた?」


「うん。あの場所は共用部だから本来誰の縄張りでもないんだ。それを釣り人が知らない事をいい事に『うちの縄張りで何しているんだ』ってイチャモンつけて魚を奪うのが奴らの常套手段・・・で、前にもあの釣り人にそれをやった連中がいてね・・・見事に撃退されたのさ・・・あの釣り人に」


「・・・あの人達が弱いって事?」


「いんやあの釣り人が強いのさ・・・見てな前の連中と同じようになるから」


この少年の言葉はにわかに信じ難かった


釣り人を取り囲む男達のガタイはかなりいい・・・逆に釣り人は少しヒョロヒョロしているように見える。人数的なものも含めるとかなり分が悪いように見えるけど・・・


まだロウは彼らの所に辿り着けていない


その間に男達は釣り人を立たせ・・・あっ!


釣り人は立ち上がるとバケツを担ぐ為と思われていた木の棒を手に取り両肩で担いだ


左右の先端には魚が入ったバケツが二つ・・・木の棒を肩に担いで両腕を絡めて持つ釣り人


すると男達は一斉に釣り人に襲い掛かり釣り人を捕まえようと手を伸ばす


「危な・・・」


「大丈夫だよ・・・こっからが見物だから鼻ほじって見ときなよ」


・・・鼻はほじらないけど見ていると確かにこの少年の言うように大丈夫そうだった


釣り人は男達の手を掻い潜りながら上手く体を捻り男達に魚の入ったバケツを当てて海に落としていく。1人また1人と海に落とされ減っていく・・・いつしか男達の勢いは完全に止まりジリジリと後退り始めていた


そんな時にようやくロウが辿り着いた


「ねえ・・・あのオジサンって強いの?」


「え?・・・うん・・・まあ・・・」


さすがにこの世の誰よりもとは言えない・・・設定上は元冒険者ってだけだし・・・


「じゃあ刀は抜かないよね?さすがに切った張ったは御法度なんだけど・・・」


「え!?・・・だ、大丈夫よ・・・多分」


抜かない・・・よね?ロウ──────




「ありゃ・・・いつの間に・・・」


走るのに夢中で気付かなかったけど男達の人数が減っている・・・見ると2人ほど海に落ちて溺れる寸前・・・一体どうなっているんだ?


いつの間にか立ち上がり肩に棒を担いでいる釣り人・・・それを取り囲む男達・・・そして駆け付けた僕・・・何故か全員動かずに無言の時が流れる


「・・・チッ!クソッ・・・」


1人の男が舌打ちすると腰に差した刀を抜いた。それに合わせて残りの男達も刀を抜き構える。釣り人は無言でそれを眺めているが・・・これは魚獲得のチャンス!恩を売ればあのバケツごと・・・全部とは言わないけどバケツ一つ分くらいくれるかも!


「待て待てぇい!寄って集って1人を囲むなんて卑怯千万!てな訳で助太刀させてもらう!」


「あん?なんだてめえ・・・構わねえ!2人まとめてぶっ殺してやれ!」


残っているのは8人・・・4人が僕の方を向いて構え4人は釣り人へ・・・早くしないと魚が・・・いや釣り人が危ない!


相手が刀を抜いている為に僕もと思い柄に手をかけ刀を引き抜・・・こうとしたけど意外と長い!途中まですんなり抜けたのに全て抜けずあたふたしている間に男が迫って来た


「このっ・・・ちょっと待てって!」


振り回す刀を何とか躱して刀を抜こうと試みるもやっぱり抜けない・・・腰に差したままだと抜けない仕様なのか?いやでもコイツらは普通に抜いてたような・・・


「へっ!バカが・・・刀の扱い方も知らねえのか!」


くそっ・・・そう言うお前だってただ振り回しているだけだろうが!


躱しながら何とか腰から鞘ごと抜いて刀を抜いた時には桟橋の上に存在するのはいつの間にか3人となっていた


僕と釣り人と僕の前の男だけ・・・残りは全員海へダイブ


僕を狙っていた3人もどうやら僕が逃げ惑っている間に釣り人に落とされたみたいだ・・・まずい・・・このままではお礼の魚が・・・


「なっ!?クソッタレ!・・・覚えてろよ!」


男はようやく状況が飲み込めたみたいで逃げる為に僕に向かって走って来た


ここで逃がすと魚獲得のチャンスが完全になくなる・・・柄を握る手に力を込めると向かい来る男に向かって構える


「邪魔だ!」


刀を乱暴に振り回す男・・・僕はその刀を躱すと横を通り過ぎる際に刀を一閃・・・マナも魔力も使っていない・・・そして・・・


「安心しろ・・・峰斬りだ」


刀を買う時に店の人に色々聞いた・・・刀は片刃で刃ではない方を刀の峰と言うらしい。さすがに殺すのはまずいと思い咄嗟に刀を逆にして当てた


「・・・ぐっ・・・それを言うなら『峰打ち』だ・・・」


「・・・そうとも言う・・・てい!」


峰打ちされて痛みに苦しむ男を押して海にドボン・・・そんな事知ってたさ・・・うん


囲んでいた男達を全員海に落として一件落着・・・10人中9人は釣り人が・・・僕は逃げようとしていた1人を海に落としただけ・・・しかも必要なかったっぽいというおまけ付き・・・この状況で魚をくれとは言えない・・・恩着せがましいにも程がある


「・・・」


釣り人は置いてあった釣竿を拾い上げると無言でこの場を立ち去ろうとする。バケツの中にはいっぱいの魚・・・このまま行かせてしまっては・・・


「あのっ!・・・その魚をどうするつもりですか?」


「・・・お前も欲しいのか?」


あっ・・・このままだと僕も海に落ちた男達と同じだ・・・いや、欲しいけどそうじゃなくて・・・


「いや!売ってくれませんか?その魚!」


「売る?・・・確かに売るほどあるが今日の飯にしようかと思ってたのだが・・・」


いや食い過ぎだろ!


どうしよう・・・店で普通に食べるか・・・でも釣りたてって一番新鮮だよな・・・そうだ!


「僕が料理するので一緒に食べませんか?もちろんお代は払いますから」


「・・・お主が・・・料理?」


「ええ!あそこにいる妻と一緒に・・・どうです?」


「・・・まあいいだろう。だがどこで調理するつもりだ?」


「それはまあ・・・お任せを。では準備しますので妻と一緒に待ってて下さい!」


これで新鮮な魚料理を食べれるぞ!


早速作ってもらおう・・・モッツデリバリーに──────


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