32階 捜索
「それで・・・食事中だった私達に何の用です?ギルド長」
「そうツンケンすんなって・・・急用じゃなきゃこんな時間に呼ばねえよ。てか・・・なんでこいつらまで?」
「共に食事中でして・・・どうしてもついて来ると聞かなかったものですから」
ケン達と食事中をしている最中にギルド職員からの呼び出し・・・また組合の奴らがどうしても思って慌てて来てみたがどうやら違うみたいだ
「そうか・・・まあいい。頼みたいのは行方不明の冒険者の捜索だ」
捜索?このダンジョンで?
大きめのダンジョンならそれこそ一週間に一回出るとも言われている捜索願・・・大抵は命からがら逃げて来たパーティーが振り返るとメンバーが足りず・・・みたいな状況だが・・・このダンジョンでというのは少し疑問が残る
小規模なダンジョンだし何より各階にゲートがある・・・罠なども比較的単純なものばかりだし・・・
「情けねえ・・・どうせ置いてかれてピーピー泣いてんだろ?ギルド長・・・こんな夜遅くに探しに行かないで一晩くらい待たせてやったらどうです?そうすればこれに懲りて無茶しなくなるんじゃ・・・」
「・・・黙れ小僧・・・」
「・・・えっ・・・す、すんません・・・」
ギルド長の様子がおかしい・・・確かにケンの発言は軽率だがそこまで怒るほどの・・・まさか・・・
「ギルド長・・・その冒険者はソロですか?それと猶予は?」
「ソロだ。それと猶予は・・・場所による」
「分かりました。すぐにでも」
「え?ちょ・・・サラ姐さん?」
場所による・・・その言葉の意味する事はふたつ考えられる
ひとつは行方不明になった場所に危険な魔物がいる時
当然時間が経てば生存確率は下がっていく
もうひとつは・・・既に死んでいる時
その場合は連れて帰るのではなく持って帰るになる。そして魔物の強さは関係ない・・・種類が関係してくる
今回の場合はフリップの顔から察するに・・・後者だろう
ソロの冒険者が行方不明になった場合、捜索願を出す者は家族や友人だ
けどそれだと状況が全く掴めない為にすぐに捜索する事は少ない
なぜなら実はダンジョンから戻って来ているが家に帰ってないだけ、とか数日経ってひょこっと戻って来る事が多々あるからだ
捜索も簡単ではない・・・費用もかかるからはいそうですかと依頼を受ける訳にもいかないのだろう
しかし私は知っている・・・ギルドカードの機能を
フリップが捜索願を受けたのは既にその冒険者は・・・
「サラ姐さん?今から探しに行くスか?」
「ああ。ギルド長には恩があるしな」
あまりフリップの手伝いをしていると言わない方が良いだろう・・・ケン達が言いふらすとは思わないが念の為にも・・・
「なら俺達も手伝うッス!」
「別に1人でも・・・」
「何言ってんスか!仲間じゃないですか!」
ケンが言うと後ろにいたマホ達も頷く
見せたくないものがある可能性が高いが・・・これも経験か
私達は受付でギルドカードを渡して入場許可証を受け取るとダンジョンへ
私は入口から入るとすぐさま探査を開始する
「サラね・・・」
「しっ!探査中よ」
「でもよ・・・1階って事・・・ある?」
「・・・それもそうね・・・さすがにソロでも1階は・・・」
1階には居ない・・・な
「次は6階に向かう」
「おっ!そっから下に降りるッスね!」
「いや、6階が終わったら2階から順に見て行く」
「???」
ゲートを通って2階に行き、探査をするがここにも居ない。7階はまだ行ったことがないので後で6階を通らないといけないな・・・その前にゲートで戻って・・・
「あのーサラ姐さん?この見て回る順番に意味はあるんスか?」
「ん?あるぞ。そうだな・・・1階と6階の共通点はなんだと思う?」
「・・・共通点・・・そりゃあ魔物が同じ・・・」
「その魔物は全て言えるか?」
「当然ッス!スライム、バウンドキャット、ブラッドドッグ・・・この三体ッス」
「正解・・・じゃあ、その魔物の中で別名が付いている魔物は?」
「別名?・・・うーん・・・分かんねえッス!」
「す、素直でよろしい・・・『掃除屋』そう呼ばれているんだ」
「『掃除屋』?どの魔物がスか?」
「スライムだ」
私は各階を周りながらケンに説明した
下級の中でも最も弱いとされているスライム
どのダンジョンにも登場するには訳がある
それはダンジョンの『掃除』
何故かまでは知らないがスライムの通った道はホコリやゴミなどがなくなりまるで掃除したように綺麗になる。ある研究者によればスライムの出す酸性の液体がホコリやゴミを溶かしている・・・との事だ
そしてもうひとつ・・・スライムが『掃除屋』と呼ばれる所以・・・それは魔物との戦いに敗れたり、罠に嵌り死んでしまった冒険者の遺体をさもホコリやゴミのように溶かして綺麗さっぱり無くしてしまうからだ
「ゲ・・・あのスライムが?」
「人畜無害そうに見えるのに・・・」
「マホ・・・言っても魔物ですよ?」
「俺・・・ちょっと見直したかも・・・」
「ちなみに私は見かけた事はないがかなり高層階でスライムを見たという話を聞いた。襲って来ないスライム・・・つまりダンジョンが『掃除屋』に仕事をさせている・・・かもしれないな」
「はえ~・・・ダンジョンって綺麗好きなんスね」
「ケンとスカットも見習ったら?連泊しているとはいえあの汚さはないわよ?」
「ちょっと鼻に来ますよね・・・あの汚部屋」
「寝るだけなのになぜ?って感じだよな」
「スカット・・・お前他人事みたいに言うなよ・・・・・・ん?サラ姐さん・・・今そのスライムの話をするという事は・・・」
「ああ・・・探している冒険者・・・ラックは死んでいる可能性が高い。だからスライムが多く存在する1階と6階を先に探査した」
「え・・・なぜ・・・」
「なぜ可能性が高いと言ったか・・・か。私がギルド長に何を聞いたか覚えているか?」
「えっと・・・ソロかどうかと時間の猶予?を聞いてたッスね」
「そうだ。ソロの場合は捜索願が冒険者以外から出る事がほとんどだ。まあパーティーを組んでないから当然だな。で、なぜ捜索願が出るか・・・例えば約束をしたのに戻って来ない、長い間帰って来ないなどが考えられるが、理由として一番多いのは『いつもならとっくに戻って来てもいいのに』だ」
「・・・結構単純な理由ッスね」
「そうでもない。いつも日が暮れる前に戻って来る冒険者が戻って来ない・・・それはダンジョンで何かがあったと考えられる。ソロの冒険者で何かがあった・・・何がある?」
「そりゃあ・・・あっ・・・」
「そういう事だ。ダンジョンで何かある・・・これは死に直結する事があったと考えられる・・・そして猶予を聞いた時に場所によるとギルド長は答えた・・・もしかしたらギルドで何かしら情報を得ているのかもしれない・・・スライムがいる1階と6階では時間の猶予はないからな」
「もし死んでいたら・・・遺体が溶かされてしまうから・・・」
「そういう事だ」
まあ聞いてはないが、十中八九ギルドカードの繋がりが途絶えたのだろう・・・生きているのなら猶予を聞いた時に『ない』と答えるはず
「そんな・・・」
かなりショックを受けているみたいだが、ダンジョンでの死は日常・・・もちろん自分達よりかなり格下の魔物を相手にしていれば起こらないかも知れないが、先に進めば必ず直面する問題だ
ケン達はまだ・・・頭では理解しているかも知れないが本当の意味で理解出来てないのだろう
ダンジョンに潜る度に・・・命を懸けているという事を
捜索を続けかれこれ1時間が経過した
各階にゲートがあるお陰で既に1階から6階まで見終わり、後は私達が行ってない7階と8階のみに絞られる
7階と8階にも居なかったら既にスライムに溶かされたか・・・さすがにまだ溶かされてはないと思いたいが・・・
6階を最短距離で攻略しつつ7階へ
7階に降り立つとすぐに探査を開始して・・・ようやく見つけた・・・動かない人間・・・つまり死体だ
「あったぞ」
「・・・居たじゃなくてあったなんスね・・・」
「ああ・・・残念ながら、な」
近くに魔物の気配がある・・・中央付近まで行っているが、ソロでよくそこまで・・・!
死体のある場所から更に探査を進めると一際大きな気配・・・多分これは・・・
「気を引き締めろ・・・場所は7階の中央付近・・・それまでに魔物は何体かいる。それとその奥に・・・大型の魔物がいる・・・」
「え!?」
「奥まで探ったがその一体のみ・・・恐らく『徘徊するもの』」
「徘徊するもの?」
「ダンジョンには一定の確率でその階層にそぐわない魔物が彷徨いている。それが『徘徊するもの』だ。なるほど・・・それでか・・・」
「何か分かったんスか?」
「いや・・・先に進もう。この階の魔物は恐らくゴブリンとコボルトがほとんどだ。1階と6階が同じ魔物だったように2階と相違ない・・・つまり・・・」
「強いゴブリンとコボルトって事ッスね」
「そういう事だ」
6階を経験していなければ油断していたかもしれない
けど、私達は油断することなくゴブリンとコボルトを倒しつつ動かない冒険者の元へ向かった
そして・・・
「・・・ふぅ・・・そうだろうと思ってても・・・来るものがあるな」
「そう・・・ッスね・・・ちょっと・・・」
「行きましょう・・・早く連れて帰らないと・・・」
仰向けに横たわる冒険者・・・床にはおびただしい量の血の跡が見て取れた。死因は出血死?
近付き遺体に向けて手を合わせた後で死因を調べる
死んでいる事に変わりないのだから調べる必要はなかったかもしれない・・・けど違和感を感じどうしても調べたくなった
「傷が・・・ない」
「え?でも・・・血がこんなに大量に・・・」
彼の装備は胸の部分のみ鉄のプレートがある比較的軽装備。腹部は布でありその部分が裂かれていた。斬られたというより刺されたという感じか・・・にしてもその奥の肌は綺麗なもんだ
背中を見ても同じ・・・ではこの血は誰の?・・・いや、もしかして・・・死んだ後に誰かが回復魔法を彼に使ったのか?何の為に?
「サラ姐さん・・・もしかしてこの前の奴らみたいなのが・・・」
「かも知れない・・・が、この状況だけでは何とも・・・!」
しまった・・・死体に集中し過ぎたか・・・
「サ・・・ムグッ」
「慌てるな・・・『徘徊するもの』だ。こちらから仕掛けなければ襲っては来ない・・・っと、やはりそうか」
「な、何がです?」
奥の方から現れた魔物は・・・リザートマン
身の丈2mを超える巨体に天然の鎧である強靭な鱗、槍を扱う知性を持ち常人を遥かに凌ぐ脚力と三本目の足と言われる尻尾を持つ中級でも上位に位置する魔物だ
「あのリザートマンが持つ槍の穂先を見てみろ」
「え?あっ・・・血・・・」
「腹部にあった服の裂け目・・・大量の血・・・恐らく彼はリザートマンに挑みあの槍で突かれて殺された・・・傷口はもしかしたら誰かが死んでいると分からずに回復魔法を使ったのかもな・・・」
ギルドに報告がないのは気になるが・・・彼を回復したヒーラーは一体何の為に・・・
「アイツがこの人を・・・」
「よせ、ケン・・・私達はあくまで捜索に来ているだけだ・・・敵討ちをしに来た訳ではない」
「でも!」
「それにお前達の敵う相手ではない」
「・・・」
私が加われば倒せるだろう・・・けど今はそれをすべきではな・・・
「サラ姐さん・・・先に行っててくれ・・・」
「話を聞いていたのか?」
「聞いてたさ!でも・・・俺は・・・」
「サラさん・・・コイツバカなんですよ」
「マホ!バカってお前・・・」
「見ず知らずの冒険者なのに・・・実際に見たら感情移入しちゃって・・・まっ、私達も同じようなもんですけどね」
「マホ・・・お前まで・・・」
「亡くなった人を甦らせる事は出来ませんが無念を晴らす事は出来ます・・・少しだけ見守ってて下さい」
「ヒーラ・・・」
「や、やめとくのも手だと思うけど・・・ま、まあ一回芋引いちまうと・・・でもやっぱり・・・怖ぇなぁちくしょうめ!」
「スカット・・・」
全員リザートマンとやる気だ
私に頼らずに
過信・・・と言えば過信なのかもしれない
でも・・・
「・・・好きにしろ。骨は拾ってやる」
「はい!」
リザートマンに挑もうとする姿があの時のサイクロプスに挑もうとする私と重なった
方や見ず知らずの冒険者の仇を打つ為、方や生きる為・・・全然戦う理由が違うのに・・・重なって見えたんだ
「このトカゲ野郎!今度は俺達が相手だ!!」




