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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
349/856

345階 ゼガー・アン・メリア

言われてみれば当然だ


ダンジョンがなければ冒険者ギルドも冒険者も必要ない・・・至極当然の事なのに言われるまで考えもしなかった


でも・・・


「その・・・魔物から取れる魔核は?魔道具を作るのに必要ですし魔物の皮や骨なども素材にしたり・・・」


「この国を見ましたか?」


「え、ええ・・・まだ隅々まで見た訳ではありませんけど・・・」


「灯りは火で、家や橋などの建造物は木で、服なども皮ではなく絹で・・・もちろん動物の皮などを使った物もありますがほとんど自然のものを使い生活しています。確かに魔道具は便利ですが必要なら他国から仕入れれば良い・・・そのような方針らしいのです」


いやまあそうだけど・・・でもそっか・・・住んでいる人からしたら魔物の脅威がない分安心して生活出来るのかも・・・近くにダンジョンがなければダンジョンブレイクを心配する必要もないし・・・かつてのエモーンズみたいに・・・


「・・・フーリシアで生活されていると不思議に思うかも知れませんがこの国では当たり前なのです。ですから魔道具などなくとも不便とは思いません・・・一度便利さを経験してしまうとなかなか抜け出すのは難しいと思いますが一度も経験していないのなら必要とすら思わないのです」


確かにゼガーの言う通りだ。ゲートの存在を知り使っているから使えなくなったら不便に思うけど普通の人にとってはゲートなんて使えなくて当たり前・・・存在すら知らないから不便にも思わないだろう。そっか・・・なるほど・・・


「路銀が必要でしたら差し上げますが・・・」


「い、いえ!足りない訳ではないので・・・心遣いありがとうございます」


余計な気を遣わせてしまった・・・さて、冒険者ギルドがなくと冒険者が居ない理由は分かったけど本題の魔人の事はどうやって切り出すか・・・普段この街に居ないのに今ここにいる理由・・・さっき流れで聞いておけば良かった・・・


「そうだったのですね。それはそうとゼガー様はなぜこの街に?私の知る限り聖者聖女様は王都や国の主要都市の教会に居らっしゃるイメージだったので・・・」


ナイスサラ・・・自然な感じだ


「・・・息抜きです。先代である母も現役ですので母に教会を任せて私は単身お忍びでこの街に来て美味しいものでも食べてゆっくりしようかと・・・本当は妻と子も連れて来たかったのですがなにぶん子が幼いものでして」


さすがに『魔人化が多発している』とは言わないか・・・いや、本当に多発していないのかも・・・これだけだと分からないな・・・ん?


ゼガーは僕達を見ながら手元で何かを書いていた。それを見ていると・・・


「ロウハーさん」


「え?あ、はい」


「もう少し聞かせてもらえませんか?フーリシアの事を」


「は、はい」


どうやら手元を見るなと言いたかったらしい。それから彼は話を聞きながらずっと何かを書いている。そして書き終わった後でその紙を皿の下に忍ばせ皿ごと持ち上げると僕に渡してきた


「これ美味しいですよ」


「ど、どうも・・・」


僕は皿の下にある紙ごと皿を受け取ると素早くその紙を机の下に隠して何が書いてあるか読んだ


『監視されています

実はこの街で人が鬼と化しています

私が魚は好きかと尋ねたら肉が好きと答えて下さい』


うん、よく分からない


監視されている・・・あまり気にしてなかったから気付かなかったけど確かにこの店に居るな・・・僕達の事をじっと見ている奴らが。それは分かったとして『鬼』・・・確か魔人を鬼と呼んでいるんだよな・・・この街で人が魔人化している・・・だからゼガーはこの街に居るって事でいいのかな?でも最後が全く意味不明なんだけど・・・


「どうです?美味しいでしょ?・・・それとも魚の方が好きですか?」


いきなり来た!・・・えっと・・・


「いえ、肉の方が好きです」


「そうですか・・・でしたら城下町に良いお店がありますよ?城下町はこの街より魚の質は落ちますがその分肉の質はいい・・・肉好きなら城下町に行く事をお勧めします」


っ!・・・そういう事か・・・でもなぜだ?魔人化が本当ならこの街に残って協力してくれって言いそうなものだけどなぜ城下町に行けと?


「・・・そうですね・・・明日港をぐるっと見たら城下町に行ってみます」


「是非・・・せっかく知り合えて残念ですがいずれフーリシアで再会出来るのを楽しみにしています」


城下町に行ってこの街には戻ってくるなって事か?もしかして僕達を心配してくれているとか?


ゼガーの意図は分からないけど結局乗ることにした


監視されてて話せないって事はあまり嗅ぎ回っていると目を付けられる可能性が高い・・・そうなるとロウハーとサラートという人間は使えなくなってしまうしこれ以上はあまり情報は得られないような気がした


まあ知りたかった情報・・・ケッペリで魔人化が起きているのは間違いない。しかも一度や二度でもなさそうだ


となると魔族がいる可能性が高い・・・ゼガーが言えないのはこの国がその事を隠そうとしているからか?


「貴重な情報ありがとうございます」


「いえ・・・大変名残惜しいですが・・お2人の旅路に幸多からんことをお祈り申し上げます」



ゼガーに見送られ僕達は店を後にした


店を貸切ってまで伝えたかった事・・・『城下町に行け』か・・・まあどの道行くつもりだったけどね


「ロウって魚よりお肉が好きなの?」


「んにゃ・・・これ」


サラは手紙を見ていないので持って来た手紙をサラに渡した


「・・・どういう事?」


「さあ?・・・でも要望通りの返事をして『城下町に行け』と言うのなら何か意味があるんだろうね。もしかしたら『城下町に行け』じゃなくて『この街から去れ』かもしれないけど・・・」


「そうね・・・って、話変わるけど暗くない?そんなに遅い時間じゃないと思ったけど・・・」


確かに暗く感じる・・・見るとフーリシア王国やアキード王国は街灯として光る魔道具を所々に使用していた。ケドこの国は魔道具ではなく松明を道の至る所に置いてあるだけ・・・その周辺は明るいのだが炎の灯りはそこまで広範囲を照らしてはいなかった


街の人が魔道具の灯りを見たらぜったい欲しくなるだろうな・・・あっ!


「分かったかも・・・ゼガーが『城下町に行け』って言った理由」


「え?なになに?」


「・・・ここだと誰に聞かれているか分からないし壁の厚い宿屋に行きますか」


「・・・ソウネ・・・」


おおう、やっぱりまだトラウマなのね・・・秒で感情を失いおった──────




「何を企んでいるのかなぁ?聖者様は」


1人店に残っていたゼガーの背後に突如として現れた女性がゼガーの首に絡みつく


「企む?・・・別に何も企んでいませんよ・・・ミケさん」


「ううん!ミケって呼んでって言っているでしょぉ?私は貴方の味方よ?素直に話してご覧なさい」


「この国にいる限りは・・・でしょ?」


「まあね。でも貴方はこの国を出る事はない・・・決してね」


「そうですね・・・その味方のミケさんにお願いしたい事があります」


「なんなりとぉ」


「あの2人を監視してくれませんか?」


「あの2人?なんでぇ?」


「この街が物騒なのは御存知でしょう?せっかく会えた同郷の方・・・心配なのですよ」


「それ監視って言うぅ?」


「・・・確かに言いませんね。お願い出来ますか?」


「任せてぇ・・・で、どこまで監視するのぉ?」


「次の街までで大丈夫です。この街以外はまだ安全だと思いますので・・・まあ彼らなら問題ないでしょうけど・・・」


「ん?何か言ったぁ?」


「いえ、ではよろしくお願いします」


ゼガーが頭を下げて振り向くとミケは既に居なかった


「さすがくノ一・・・ですがそのミケさんでも難しいでしょうね・・・あの化け物相手では、ね──────」




「『毒』の発動?」


「うん・・・恐らくそれをゼガーは狙っている」


ケッペリで宿を借りて部屋に入るとゲートで屋敷に戻って来た


そこで僕が気付いた事をサラに話す


ラズン王国の人々が魔道具の便利さを知らないから必要としていないって話を聞いて思い出した・・・なぜ聖者聖女が『毒』と呼ばれているのかを


「聖者聖女の役割から言って『毒』なんてとてもじゃないけど似合わない正反対な言葉だ。けどあったものがなくなればそれはまるで毒のようにジワジワと効いてくる・・・タイミングを見計らって『薬』である聖者聖女を無くせば『薬』は『毒』のような効果を発揮するって訳さ」


「そりゃあゼガーが居なくなれば魔蝕は治せないし・・・けど毒って言うほど?」


「初めからなければそうかもね・・・でもあるものが突然なくなれば初めからない時より感情の落差は大きい・・・つまりそれだけ負の感情は強くなる」


「確かに・・・うん?負の感情って魔力の濃さに影響するのよね?それって・・・」


「うん・・・ゼガーがラズン王国から居なくなれば民は不安になり魔力が濃くなる・・・すると更に魔人化が進むかもしれない」


「けど唯一魔蝕を治せるゼガーは居ない・・・それこそ負の連鎖ね」


「そういう事・・・フーリシア王国に並々ならぬ興味を抱いていたゼガーが唯一フーリシア王国に帰れる手段は今のところ国が『毒』を発動するしかない・・・逆にラズン王国は『毒』を発動されたくないから魔人の事は隠したい・・・まっそれもラズン王国が聖者ゼガーを『毒』と認識してればの話だけどね」


多分認識しているだろうな・・・じゃなきゃゼガーを監視して魔人の事を話させないようにはしないだろう


「でもなぜゼガーは私達に魔人の事を伝えて王都・・・城下町に向かえと?」


「すっかり忘れていたけど聖者聖女の持つ能力・・・『真実の眼』があれば僕達の変身くらいは簡単に見破る事が出来る・・・僕達の事はフーリシア王国から通達がいっているからゼガーも来る事は知っていたんじゃないかな?で、魔人の事を伝えてさっさと王様に会ってフーリシア王国に伝えてくれって事だと思う・・・ラズン王国の王様は魔人の事を隠しているぞってね」


「そっか・・・そうすればゼガーはラズン王国から出てフーリシア王国に帰れる・・・」


「『毒』の発動が聖者の帰還だったらね」


「え?」


「いや・・・とりあえずゼガーは帰りたい・・・ラズン王国は隠したい・・・僕達はどうするかだね」


「報告してしまえばラズン王国が・・・けどゼガーにも同情しちゃうわ・・・あれだけフーリシア王国の事を考えているし・・・」


どちらか一方の願いしか叶わない・・・その願いの重さはかなり違う・・・ゼガーの願いを叶えれば下手をすると国がひとつ滅ぶ


「ゼガーには悪いけど国には報告しないでおこう。ちゃちゃっとラズン王国の王様に会って次の国へ・・・」


「魔族はどうするの?ほぼ確定なんでしょ?」


そうだった・・・すっかり忘れてた


「・・・王様次第・・・かな?手伝ってくれと言われれば手伝うし・・・ほら、ゼガーに2回もご馳走になっちゃったからさ・・・フーリシア王国に報告はしなくともゼガーの希望の芽を断つのはなんか気が引けるって言うか・・・」


「・・・それもそうね・・・それにラズン王国の事はラズン王国が解決した方が良さそうだしね・・・所詮私達は余所者・・・頼まれればあれだけど率先してはちょっと・・・ね」


うん、下手すりゃ怒られるかもしれないし・・・まあラズン王国の国王・・・殿だか何だか知らないけどその人次第かな・・・武王国・・・天の守だっけ?果たしてどんな人なのだろう──────

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