344階 ケッペリ
「確認出来ましたケッペリへようこそ」
持ってて良かった偽造カード。僕とサラはロウハーとサラートとなりケッペリの街へ入る事にした
これまでと少し違うのは僕はいつものオッサン姿だがサラは女性・・・つまりオバサンに変身している
変身は着ている服ごと変える事が出来るけど着慣れた服ならまだしも着物はまだ難しく上手く出来なかった・・・なので服はそのままで顔だけ変えて変身したので女物の着物を着ているサラがオッサンになるのはおかしいと女性のまま少し老けさせた
まあサラートという名の女性がいてもおかしくはないし問題ないだろう・・・話し方も女性の方がバレないしね
なんで初めから女性にしなかったのだろう・・・自分でも謎だ
「同い年くらいだから傍から見ると夫婦に見えるかもね」
「夫婦・・・ベテランの冒険者夫婦ね」
どうやらサラの機嫌も良くなったみたい・・・何がきっかけで良くなったり悪くなったりするかサッパリだ。やっぱりあの声って聞かれるのは嫌なのかな?声くらいならと思ってしまうけど・・・
「それでどうするの?冒険者ギルドにでも行って聞き込みする?」
「そうだな・・・てかそもそもこの国に冒険者ギルドあるのか?」
「え?だってなければ魔物が・・・ダンジョンブレイクが起きちゃうんじゃないの?」
「うん・・・けど前の街では見かけなかったんだよな・・・以前のエモーンズみたいに近くにダンジョンがなかっただけかな?」
街の発展にも繋がるダンジョン・・・前の街はそこそこ栄えているように見えたからダンジョンはありそうだけど・・・いや、関所に近いから栄えていただけか?フーリシア王国の王都だって近くにダンジョンがないのに普通に栄えてたしな
「そう言えばこの街も居ないわね」
「誰が?」
「ほら、タンカーや魔法使いっぽい人・・・それにヒーラーやスカウトっぽい人も居ない・・・」
うん確かに
サラに言われて改めて行き交う人達を見てみるが冒険者と思わしき格好の人が全く居ない・・・なんでだ?
気になって街中を探してみたがやはり居なかった・・・それどころかここにも冒険者ギルドは見当たらない。もしかして本当にこの国は冒険者ギルドが存在しないのか?それともたまたま二つの街の近くにダンジョンがないだけ?
ほとんど見終わった頃、ちょうど昼時になったので食事をする事にした
何を食べようか少し悩んだが大きな店構えで繁盛していそうな店があったので何となくその店に入る
店内は広く2階まで客席がある・・・僕達は店員に2階に案内されると腰を落ち着かせ適当に料理を注文し今後の事を話し合った
「冒険者ギルドがないとなると情報収集する場所がないわね」
「適当にその辺を歩く人を捕まえて聞いてみる?」
「不審がられるんじゃない?・・・かと言って知り合いも居ないしそうするしかないのかな・・・」
冒険者ギルドなら魔物の事を聞いても自然だしその流れで魔人の事も聞けたと思うけどいきなり道端でそんな事を聞いたらやっぱり不審がられるよな・・・サラの言うように知り合いさえいれば・・・
そんな事を考えている時、下の階を見ると団体さんが来店した
何気なく見ているとその団体の中心に居る人物を見て驚いた
「サラ、あれ・・・」
「あっ・・・あれって修道服よね?この国に来て初めて見たかも」
そう・・・その人物、メガネをかけた優しそうな顔の青年は着物の男達に囲まれて修道服を身に纏っていた。フーリシア王国で修道服と言えばヒーラーだけど彼はヒーラーなのだろうか
「フーリシア王国で見掛けたら着物の人の方が目立ちそうだけどこの国で見掛けると修道服の方が異質に見えるわね」
「うん・・・もしかしたらこの国の人じゃないかも・・・」
彼らは1階の大きなテーブルに案内されていた。僕達が気になって見ているとふと彼が顔を上げた瞬間に目が合った
正面から見るとこの国の人と顔立ちが違って見える・・・服のせいかと思ったけどこの国の人は良く言えばアッサリした顔・・・悪く言えばのっぺりした顔の人が多いが彼はかなり彫りが深い
ん?なんだ?修道服の男が一緒に居た人達と何かを話した後で立ち上がると2階に上がって来たぞ?しかも真っ直ぐ僕達のテーブルに向かって・・・
「初めまして。私はゼガー・アン・メリア・・・いきなりで失礼ですけどご出身はどちらですか?」
ゼガー・・・アン・メリア!?って事はこの人は・・・
「えっと・・・フーリシア・・・」
「やっぱりそうですか!どことなく雰囲気がそんな感じがしたのです!アーキド王国の方は少し色黒ですしシャリファ王国の方は色白で・・・ファミリシア王国かフーリシア王国かどちらかかと思いましたがまさか同郷の方なんて・・・」
何がそんなに嬉しいのか分からないが満面の笑みを浮かべて僕の手を取りブンブンと振り回す。それよりもこの人って聖女・・・じゃなくて聖者だよな?
フーリシア王国が各国に派遣している聖者聖女・・・彼彼女たちが持つ能力『真実の眼』でしか魔蝕は治せないからって事で派遣されているが裏では『毒』と言われている・・・その人物とまさか偶然出会うとは・・・
「よろしければ御一緒させて頂いても宜しいですか?同郷の方と会う事なんてほとんどなくて・・・」
チラッとサラを見ると頷いたので僕達は一緒にテーブルを囲む事に・・・一緒に上がって来た着物の人達は別のテーブルに座りこちらを伺うように座っている。多分護衛なんだろうな・・・みんな腰に刀をぶら下げているし
「いやー感動です!フーリシアのどちら出身で?」
「エモーンズという辺境の街ですよ。ゼガーさんは?」
「私は・・・実は生まれも育ちもフーリシアではなくここラズン王国なのです」
「え?」
知ってるけど一応ね
「私はこの国で魔蝕を治す為に・・・恥ずかしながら『聖者』と呼ばれていまして・・・」
「聖者様でしたか!申し訳ありません・・・そうとは知らずに・・・」
「そんな畏まらないで下さい・・・とある能力のお陰で魔蝕を治せるだけで他には特に・・・私の話はともかくお2人の話を聞かせて下さい!お2人はなぜラズン王国に?」
「あ・・・いや・・・実は子供も手を離れたので夫婦2人で大陸を旅してみようって話になりまして・・・」
正直には話せない為、咄嗟に嘘をついた。横を見るとサラは照れ笑いを浮かべている・・・初々しいが見た目は老い老いしい
「・・・そうでしたか。もし宜しければフーリシアの話を聞かせてもらえませんか?今は休憩中なので出来れば夜にでもゆっくりと・・・」
「構いませんよ。私達も特にやる事がなかったので・・・どうしますか?」
「!ありがとうございます!でしたら夜にこの店に来て下さい!」
承諾を得て更に嬉しそうにするゼガー・・・そんなにフーリシア王国の事を聞きたいのかな?まあ僕にとっても情報を得るいい機会だし・・・とりあえず夜まで設定を練っておくか・・・
終始ニコニコ笑顔のゼガーと共に食事を済ませると『絶対に来てくださいね』と念を押してゼガーは先に席を立つ
僕達もその後精算して店を出ようとしたらなんとゼガーが支払いを済ませてくれていた・・・さすが聖者だ
「夜までどうする?」
「そうだな・・・宿でもとって時間を潰そうか・・・ん?」
どうやらラズン王国では『宿』という言葉はNGワードらしい・・・それまで機嫌が良かったサラは突然真顔になってしまった
「・・・宿で部屋を借りて屋敷に戻ってこれからの話をしようか・・・」
「そうね・・・それがいいわ」
そう言えば屋敷の壁って厚いのかな?実は隣の部屋とかに聞こえていたりして・・・なんて言ったら更に不機嫌になりそうなので口から出さず宿を目指して歩き出した──────
その日の夜、僕とサラは屋敷で設定を練り昼間に訪れた店へとやって来ていた
設定としては一人息子が独り立ちして暇になったので大陸を観光している元冒険者夫婦って事にした。名前はロウハー・ベスとサラート・ベス・・・サラのギルドカードはサラート・ロムーンのままだが更新してないって事にすればバレないだろう
歳は互いに48歳・・・見た目的にもこのくらいだろうと適当に考えたが後二十数年後にはお互いこんな感じに成長するのかな?・・・いや、僕はもしかしたら・・・
とにかく後は細かい打ち合わせをしていざ店に来たのだが昼間と違い店は大分静かな様子。もしかして開いてないのではと思って少しドアを開けて覗いて見るといきなりドアが大きく開いた
「お待ちしてました!どうぞ中へ」
店員か!
相変わらずの笑みを浮かべたゼガーがドアを開き僕達を店内に招く
すると店の中はガランとしており客は僕達以外誰も居なかった
「あれ?まだ早かったですか?」
「いえ貸切りました」
「え?」
「騒がしいとゆっくりお話し出来ないと思ったので昼間の内に・・・さ、どこでも掛けてください」
貸切ったって・・・この店を?結構広いし客もかなり入ってたぞ?夜だったら昼間より入るかもしれないのに・・・どれだけ金が掛かってんだ?それとも権力で無理矢理?
「安心して下さい。一応寄付以外にも手当を貰っていまして・・・使い途がないので貯まる一方なので今日は思い切って使っちゃいました」
使い途がないって・・・まあ年がら年中魔蝕の人を治してたら遊ぶ暇もないか・・・セシーヌもそんなにお金を使っている様子なかったしね
と言う事でゼガーが勝手にやった事なので気にしない事にした
猫であるサキも一緒に良いか聞いたら快く承諾してくれたのでサキは大はしゃぎでひたすら出された魚料理をがっつく
僕とサラはゼガーの質問攻めに合いつつも次々と出される料理を口に運んだ
時間が経ってゼガーの質問攻めも一段落したところで今度はこちらの番だ
「ゼガー様はこの街で生活されているのですか?」
「いえ、普段は城下町に住んでおります。フーリシアで言う所の王都ですね。国王・・・天の守のお膝元です」
「天の守・・・それが国王ですか?」
「ええ。この国の王は天の守であるらしく呼称もとのと呼んでいます。他にも魔物を妖怪と呼んだり魔人を鬼と呼んだり他の国とはちょっと違った感覚を持っているようです」
「・・・そうなのですね・・・」
「・・・この国には冒険者が居ない・・・気付かれました?」
「え、ええ・・・お恥ずかしい話ですが路銀の足しにと冒険者ギルドに寄ってダンジョンで少し稼ごうと思ったのですが冒険者ギルドもなく・・・」
「ええ。この国には冒険者ギルドはありません。ですから必然的に冒険者も居ないのです」
「・・・確かダンジョンは定期的に冒険者が訪れないとダンジョンブレイクを起こすと聞いた事があります・・・冒険者ギルドがなく冒険者が居なくては・・・」
「ご心配なさらずに・・・ダンジョンブレイク・・・この国では百鬼夜行と呼ばれていますが起きる心配はほとんどありません」
「え?どうして・・・」
ありえない・・・冒険者が訪れないダンジョンはマナを求めて魔物を外に出すはず・・・ダンジョンコアのダンコが言ってたんだ・・・間違いないはずなのに・・・
驚いているとゼガーは笑顔で僕の疑問に対する答えを口にした
「当然の結果なのです。なぜならこの国のダンジョン・・・試練の洞窟はほとんど破壊されているのですから──────」




