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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
341/856

337階 船長

なぜサラは風牙龍扇をしまったのか?


その意味はおそらく要望通り魔人に安らかな死を与える為だろう


斬撃で首を刈り取ってしまえば一瞬で倒せるかもしれない・・・けど魔人の太い首を確実に落とそうと思ったらかなりのマナが必要になる。それに魔力で防御されてしまえばイタズラに傷付けるだけで終わってしまうかも知れない・・・彼女はそう考えて危険だけどあえて打撃で魔人に挑もうとしているのだと思う


僕はサラの強さは知っているけど魔人がどれほど強いかは知らない・・・センジュの父親が従えていた魔人程度なら造作もないがもしそれ以上の力を持っていたとしたら・・・そう考えると自分で戦うより緊張し額から汗が滴る


何があってもすぐに動けるように身構え見ているとサラはその僕に気付いたようで魔人の攻撃を躱しながら微笑んだ


心配しなくてもいい


そんな意味が込められた微笑みを魔人は嘲笑と勘違いしたのか怒りを顕にし攻撃する手数を更に増やした


無数に襲い来る魔人の拳・・・それを難なく躱すサラだが攻撃は一切していない


攻撃する隙がないのかそれとも・・・


魔人は躱し続ける彼女に業を煮やし繰り出した拳を広げると彼女のメイド服を掴みにかかる


ギリギリで躱していた彼女は服を掴まれ身動きが取れない


魔人はそれを見てニヤリと笑うと反対の手を振り上げ彼女へと突き出した


一瞬ヒヤリとした


しかし彼女は冷静に突き出された拳をいなし服を掴んでいる手に自らの手を乗せると肘の辺りを狙いすまし蹴りを放つ


ボキッと鈍い音が聞こえて魔人の腕は曲がってはいけない方向に曲がる。それでも痛みを感じないのか魔人は折れているであろうその腕と無事な方を広げてサラに覆い被さるように襲いかかる


その瞬間サラは逃げるのではなく自ら魔人の懐に入り込み胸の辺りに手を当てると全身のマナをその手に集め・・・


「『風喰い』」


と呟いた


風喰い・・・風牙龍扇を閉じた状態で放てる技で相手の体内に風を起こしダメージを与えるものだ。魔力で防御していても関係なくその体内を喰い破るその技をサラは風牙龍扇を使わずそしてコントロールして魔人のある部分を集中して喰い散らす


「・・・どうトドメを刺せば安らかに眠れるか考えましたが・・・魔人と言えど心の臓が無くなれば生きてはおれないでしょう・・・痛みは一瞬だったはずです・・・これで安からにお眠りなさい」


彼女は魔人にそう伝えると振り返り背を向けて歩き出す


魔人はその背をギロリと睨みつけるが力尽きたのか膝を落とし床につけた


終わった・・・誰もがそう思った瞬間に魔人の目がカッと開き再び立ち上がろうと動き出す


だがその瞬間、人影が魔人の懐に飛び込むと腕を回し魔人に抱きついた


「もういい・・・これまでご苦労だった・・・安らかに眠れ」


彼女と魔人の体格差は歴然・・・今の状態で魔人が最後の力を振り絞り彼女を締め付けたら彼女は無事では済まないだろう


僕とサラ・・・そして彼女と言い争っていた男が固唾を飲んで見つめる中、魔人は自分を抱く彼女に視線を落とすと・・・


「・・・ヨーソロー・・・センチョウ・・・」


「イエスマームと言えと何度言ったら分かるんだ?グラム」


彼女が返すと魔人は照れ笑いを浮かべてそのまま後ろに倒れた


確かに彼は完全に魔人と化していた・・・でも最期の顔はまるで正気を取り戻したかのような・・・


「・・・各員点呼!それと被害報告を即時まとめろ!グラムは海上で死んだので通例により水葬とする!最期の別れだ・・・全員出て来て見送ってやれ──────」





彼女の対応は迅速だった


水葬・・・力尽きた魔人グラムの遺体を木の板に括り付けると重しを載せて海へと沈める。その姿が見えなくなるまで誰一人として言葉を発さず見えなくなるとすぐに次の行動に移った


船員達の無事を確かめ被害を報告させ、必要な処置を船員達に言い渡す


幸い船員達の被害はゼロだった・・・広い船内を逃げ回り魔人に捕まることなく逃げ遂せる事が出来ていたが魔人は逃げ回る船員達を追いかけるのをやめて船を壊し始めていたらしい


もしそのまま暴れ続ければ船は浸水しやがて沈没していただろうと彼女は言う


そして僕とサラに向き直ると頭を下げた


「どこの誰だか知らないが助かった!礼を言う!アタイは海軍大将ネターナ・フルテド・アージニス・・・アタイに出来る事なら何でもすると約束しよう!」


海軍大将?・・・まさかエイマールの言っていた三将の内の海将?


「またそうやって・・・服装とメイドがいる事からこの方は貴族ですよ?しかもおそらく他国の。もし『アンタが欲しい』なんて言われたらどうするんですか?」


「・・・どっちの意味でだ?」


「?どっちの意味とは?」


「身体か?それとも心か?もしくは両方!?」


なんだか勝手に話が変な方向に・・・心も身体も要りません


「気でも触れましたか?そんなもの欲しい訳ないでしょ」


「何言ってんだい!この豊満な胸!引き締まった身体!程よく大きい尻!どれをとっても完璧な・・・」


どこを取ってもサラの方が上のような・・・


「・・・フン!まあいい・・・ところであんた何者なんだい?そこのメイドが名乗っていたけど聞き逃しちまってね・・・ロドリゲス?だっけ?」


「全然違う・・・ロウニール・ローグ・ハーベス・・・フーリシア王国から来ました」


「ロウニール?どこかで聞いたような・・・」


「あっ・・・そう言えば朝に中央から来た手紙に書いてましたな・・・確か『丁重にもてなせ』という文言と共に」


「・・・丁重にもてなせか・・・そこは問題ないな」


どこがだ・・・いきなり魔人と戦う羽目になったのに?サラがだけど


「もてなしは港に戻ってから受けるとして・・・ひとつ質問してもいいですか?」


「なんだい?スリーサイズは教えないよ」


「そりゃあ残念・・・なぜあの魔人の正体が分かったのですか?」


「・・・乗組員がどんな姿をしていようと分かるのは当然だろ?」


いやいや・・・散々色んな人の名前言ってたでしょうが・・・


「ただ・・・最後にグラムに触れた時・・・何故か奴との思い出が浮かんだのさ・・・」


「そうか・・・聞きたいのはそれだけです」


意思の疎通が取れたのか何なのか・・・完全に魔人化したと思ったのにネターナは彼と会話していた・・・もしかしたら完全に魔人化しても戻れる可能性があるかも・・・


「?・・・そうかい。じゃあ船室に入って休んでおきな。これからちぃと忙しくなるからな・・・有り体に言えば甲板にいられると邪魔だ」


「はいはい・・・ネターナ・・・大将?」


「本来この船には別の船長がいるけどアタイが乗り込んだ時点でアタイの船だ・・・船長と呼びな」


「分かりました。ネターナ船長──────」




船室に大人しく入ると上から慌ただしい音が聞こえてくる


何でも破れた帆を張り替えたり穴が空いた箇所を塞いだりしているらしい


船底には穴は空いていない為に水が入ってきて沈没・・・なんて事はないらしいのだけど穴が空いているとその穴の部分に負担がかかりそのまま走らせると致命的な故障に繋がるのだとか


なので穴を埋めて補強する作業が急ピッチで進められ結局終わったのは昼を過ぎた頃だった


そこから風を帆で受けてゆっくりと港に向かうと思ったらそうでも無かった


自然の風と魔法使いが起こす風であっという間に港に到着・・・その頃には甲板に出て色々見ていたけどこれは船を貰ってもどうにもならない事がよく分かった


知識だけじゃどうにもならない・・・何年も船に乗ってしかも乗組員達の息が合わないと船はまともに停ることすら出来ないだろう


ネターナが指示して簡単にやってのけていたがそれ相応の経験を積まないと無理だな


「どうだい?ほんの一瞬だけど船に乗った感想は」


「そうですね・・・色々考え直すにはいい旅でしたよ本当・・・」


「?そうかい・・・まあそれなら良かった。降りてからたらふく飯を食わせてやるかちょっと待ってな」


そう言ってネターナは乗組員達に再び指示を出し始める


僕とサラは桟橋に降ろされたハシゴを使って下に降りておくよう言われたが・・・


「ご主人様・・・その・・・ハシゴはちょっと・・・」


僕が降りようとした時にサラが顔を赤らめて俯いていた


メイド服はスカート・・・この船は港中の注目を集めているからそのまま降りると当然港の人達からは丸見えな訳で・・・


「どうする?ゲートを使う?」


「いえ・・・少し目立つかも知れませんけど許可を頂ければ・・・ 」


「別に目立つくらいだったらいいけど・・・どうするつもり?」


「こうします」


そう言ってサラは船の上から普通に飛び降りた


見ていた人達から上がる悲鳴・・・多分落ちたと勘違いしたのだろう。しかしサラは音も立てずに着地するとそのまま何事もなかったように港の方へと歩き始める


・・・少しって言ったよね?かなり目立っていますけど・・・


これ以上目立つ訳にはいかないと僕は普通にハシゴを使って降りるとサラの後を追う。するとサラは港で待っていたサキと合流しておりその横には不機嫌そうな面をするエイマールが立っていた


「随分と勝手な事してくれるじゃねえか・・・他国の辺境伯風情が・・・少々陛下に気に入られたからといって・・・」


「へえ?陛下に()・・・そりゃあますます欲しくなってきたねえ」


背後から声がして振り返るとネターナがいた


「ちょっと待ってなと言ってたのに全然待たなかったんですけど・・・それよりも『陛下にも』?欲しく?」


「その話は飯の時にでもしよう・・・その前においお前!」


「は、はっ!」


「階級と名前」


「近衛騎士団団長補佐のエイマール・アバス・モトノークです!」


「ジャグルの補佐か・・・アイツも人を見る目がないな」


「え?」


「とりあえずその素っ首落とされたくなけりゃあ消えな!ああ、それと陛下にはアタイが責任を持って送り届けると伝えろ」


「え?」


「『え?』じゃないよ!次に返事以外の言葉喋った日にゃ生きて帰れると思うなよ!返事!」


「は、はっ!」


「よし!なら回れ右して帰れ・・・馬車も一緒にな」


「はっ!」


エイマールはネターナに言われた通り回れ右して慌てて馬車に乗り込み帰って行った


そしてネターナは置いていかれた僕達を見てニヤリと笑うと両手を広げる


「さあ歓迎の宴と弔いの宴といこうじゃないか!好きなだけ飲んで食って暴れな──────」

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