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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
340/856

336階 船上メイド

「へえ意外と近いんだな・・・それにしても・・・船ってこんなに大きかったのか・・・」


地図を見た時から王都は海に近いと分かっていたがまさか1時間足らずで港町に着いてしまうとは・・・それとなんと言っても馬車と道路・・・普通の馬車と違い揺れがほとんどなく速度がかなり出ているような気がした。道の舗装も関係しているようだけど馬車もフーリシア王国で使っているものと違うような・・・この馬車と道路なら時間も短縮出来るし長旅も苦じゃない


馬車と道路に感心しているといつの間にか馬車は街の中を通り抜け港に到着・・・そこで見たものは海に向かって伸びる橋とそれに沿って停泊している四隻の船・・・想像より遥かに大きく複雑な形をしていた


てっきり箱みたいのに柱が立っていて帆が付けられている単純な構造を想像していたが現実は至る所にロープが張られ帆も今は畳まれているが1枚ではなく何枚も柱に括り付けられている。船首には船それぞれに違う像が付けられており女性を象ったものや鳥、ただの角、ドラゴンなど様々だ。外見だけでもここまで複雑なのだからこれで中身が空っぽって事はないだろう。中も色々と複雑そうで知識なしでは絶対に作れそうにない。そもそもどうやって水の上で浮いているのかも疑問だ


これが船か・・・かなり想像と違い今更ながらデュランに無茶なお願いをしたのではないかと不安になってきた


「へっ言葉も出ねえか。お前は陛下に船を貰えると喜んでいるかも知れねえが船は素人が簡単に動かせるものじゃねえ・・・どうせ貰っても動かせずに無用の長物となり置物化するのは目に見えてら」


「それもいいな・・・いい観光スポットになりそうだし」


「てっ・・・」


「それより港はいつもこんな感じなのか?穏やかな場所で海でも見ながらのんびりと食事でもしようと思ってたのに」


「なんだと?」


大勢が集まり賑わっていると言うよりは殺気立っているような・・・しかもみんな同じ方向を見ている・・・馬車の中からじゃ見えないがあの方向には海しかないと思うのだが・・・


「馬車を止めろ!・・・チッ何があった・・・」


エイマールの指示で馬車が止まり、彼もおかしいと思ったのか慌てて馬車を飛び出した


僕とサラも顔を見合せ頷くと何が起きているのか確認する為に馬車から降りた


「どうやら何か異変が起きているみたいだけど・・・」


「見て!みんなあの船を見ているみたい」


サラが指を差した方向には沖で停泊する一隻の船・・・みんなそれを見て何やら騒いでいるようだった


「何か問題でも起きて停まっているのかな?」


「帆が破けてるみたいだしそれで戻って来れないとか?でもあの距離なら別の船で助けに行けばすぐよね?」


サラの言う通り目指できる距離なのだから帆が破けて進めないのなら新しい帆を持って行ってあげればいいだけそうなんだけど・・・ん?


「離せ!アタイが行く!!」


「だからダメですって!行ってどうするんですか!」


何やら高台で揉めている男女・・・1人は恰幅のいい赤髪の女性でおそらく停まっている船に行こうとしているみたいだ。もう1人がそれを必死に止めているみたいだけど・・・


「決まってるだろ!助けに行くのさ!」


「誰をですか!?乗組員ですか?それとも魔人化した元乗組員をですか!?」


なに!?魔人化?・・・まさかあの停まっている船に魔人が?


「・・・決まっているだろ!乗組員をだ!」


「嘘言わんで下さい!誰よりも乗組員を大事にするアンタが元乗組員と分かってて殺せるはずがない!行けたとしても犬死ですよ!しかも船に着く頃には・・・」


「黙れ!だったら見殺しにするつもりか!?まだ生きてる奴らがいるんだぞ!」


「着く頃には死んでますよ・・・それくらい分かっているでしょう!そして魔人が待ち構える船に行きアンタは元乗組員の魔人を殺せずに・・・」


「ふざけんじゃないよ!アタイを誰だと思っているんだい!・・・もう戻れないのは分かっている・・・だからせめて引導を・・・それに今すぐ向かえば必ず助かる奴もいる・・・いるはずなんだよ!」


「四隻は準備を終えてません・・・それでも間に合うと?」


「だったら最速で準備しろ!」


「無駄な事はさせられません」


「無駄だあ?お前いつからそんな諦めが早くなった?やってみなきゃ分からないだろうが!」


今の会話で大体察しがついた


あの船には魔人が乗っている・・・しかも元乗組員の


船の中で魔蝕が進行して魔人になってしまったのか・・・しかもあの船には他の乗組員もまだ乗っているか・・・僕の知る限りでは魔人って正気ではなく手当り次第人を襲う・・・孤立した船の中で魔人が現れたらもう・・・


「・・・ロウ・・・」


サラが僕の服の裾を引っ張った


その行動の意味を僕は理解している


ハア・・・それしかないか・・・


振り返りサラを見つめ頷くと言い争う2人の元へと飛び上がる


2人は近付く僕に気付きもせずまだ言い争っていた


「・・・取り込み中悪いがちょっといいか?」


「ああん?誰だアンタ!部外者はすっこんでろ!」「すっこんでろ!」


言い争っていた割には息ピッタリだな・・・


「いいのか?私なら乗組員を助けて魔人を処理出来るぞ?・・・まあ必要ないのならこのまま帰るが・・・」


「なに!?それは本当か!?・・・いや、どうやって・・・」


「嘘をつけ!沖にいる船にどうやって行くってんだ!飛んで行くとでも言うのかよ!」


「飛ぶ事も可能ちゃ可能だが・・・それより早く行けるぞ?どうする?乗組員の命が大事なら・・・」


「頼む!アタイを船に連れてってくれ!」


「何を言って・・・」


「分かった。私の後に着いて来い・・・怖かったらここで待っててもいいぞ?」


「ふざけんな!船に行けるなら怖いもんなんてあるもんか!」


挑発するつもりはなかったけどどうやら焚き付けてしまったようだ


猛る女と怪しむ男・・・2人の関係はよく分からないけど女性の方はもう少し冷静に物事を見た方がいいぞ?自分で言うのもなんだけどこんな怪しい提案に乗るなよと思ってしまう


僕1人で行って来ても良かったけど2人の会話を聞いていてこの女性は連れて行った方がいいと思った・・・彼女の乗組員に対する気持ちは今の僕には足りないもの・・・そんな気がしたからだ


マナで視力を強化して沖にある船を見つめる。そして目を閉じ今見た光景を浮かべると目の前にゲートを開く


「サラ!」


「うん・・・私も行く」


魔人一体なら僕だけで十分だけど見知らぬ土地に置いて行く方が不安だった為にサラに声を掛けた。それに前に勝手に行動して怒られたし・・・


サラは先にゲートを潜り、僕はその後に続いた


ゲートの先である船に降り立ち振り返るとまだ開いたままのゲートから2人が出て来て不思議そうに辺りを見渡す


結局男の方も着いてきたか


「ここは・・・嘘だろ!?」


「本当だよ・・・その証拠にほら」


散々見回した後で港の方に身を乗り出してそれでも疑う彼女に僕は暴れる魔人を指差し答えた


魔人・・・体が肥大化したのか元から大きかったのか・・・僕の倍近くある巨体を揺らし新たに来た標的を見つけ雄叫びを上げる


見るからに正気を失っている・・・もはや元には・・・戻れないだろう・・・たとえここにセシーヌがいたとしても


「誰だい?エーグかい?メヌスかい?それともスミスかい?誰でもいいけど・・・アタイに喧嘩売る気かい!?」


()()()さんが前に出て挑発すると魔人はその大きな拳を握りしめ彼女に殴り掛かる


魔力が込められたその一撃は同じ量のマナを込めた一撃より遥かに強力だ・・・それを知ってか知らずか彼女は恐れる事を知らずに更に一歩前に出てその拳を迎え撃つ


「アホかーー!!」


男が叫びながら横から彼女を突き飛ばすと寸でのところで彼女に拳は当たらずに空を切る


「アンタ魔法使いだろうが!魔人と正面切って戦うなんて正気の沙汰じゃねえ!」


突き飛ばされた彼女に向かって男が叫んだ


ん?・・・魔法使い?・・・恰幅がいいし鍛えているみたいだったからてっきり近接アタッカーかと・・・


「うるさい!誰だか分からないけど乗組員の気持ちに真っ向から応えるのが船長の務めだろう!」


「元乗組員だアホンダラ!だから行かせたくないと・・・」


言い争う彼女達に影が差す・・・陽の光を遮っているのはもちろん彼女達をロックオンしている魔人だった


「あ・・・ちょっと待てトム?カデナ?ナーチス?」


「手当り次第言ったところで・・・い、一旦正気に戻れジデン!ノーガ!ベラン!」


2人して色んな乗組員の名前を叫ぶが効果無し・・・全てハズレなのかそれとも魔人の名を呼んでも意味が無いのか・・・魔人は2人の言葉を無視して頭上で両手を組むとそのまま2人に対して振り上げる


「ふ、船が壊れる!!」


「そこじゃないでしょ!」


確かにそこじゃない・・・もしあのまま振り下ろされたら船が壊されるだけじゃなく2人共ぺちゃんこに・・・2人はまだ動ける状態じゃない・・・僕が助けに入ろうと動こうとしたその時魔人の前にメイドが立ちはだかる



風が鳴る



切り刻むのではなく吹き飛ばすように風を一点に集中し魔人に当てる。開きは四枚・・・四の型『竜巻』だ


「あ・・・デイビー!ウーガ!ヂス!」


「・・・魔人の方がどなたか存じませんが今はそれ以外の方を優先された方がよろしいのでは?」


「くっ・・・しかし・・・」


「選択を誤れば助かる命まで失う事に・・・決断して下さい・・・魔人となってしまった者を取るか生きている方と船を取るか」


サラは風牙龍扇を構えながら魔人に注意しつつアタイさんに尋ねる


彼女が魔人を助けたい気持ちも分かる・・・けど完全に魔人となってしまった者はもう元には戻れない・・・それならば・・・


「・・・アタイの魔法じゃ船ごとぶっ飛ばしちまう・・・頼めるか?」


「はい」


サラの返事を聞いてアタイさんはその場から立ち去ろうとした・・・が、ぎゅっと目を閉じたと思ったら立ち止まり振り返る


「っ!・・・どこの誰だか知らないが・・・あまり苦痛を与えずに殺ってくれ・・・無理を承知で頼む!」


「・・・安らかにとはまいりませんが努力してみます」


そう言うとサラは風牙龍扇を懐にしまい構えた


サラに吹き飛ばされた魔人はターゲットを移したようでサラを睨みつけ咆哮をあげる


「・・・やかましいこと・・・このロウニール・ローグ・ハーベス辺境伯様のメイド見習いであるサラ・セームンがお相手致します・・・安らかに眠りなさい──────」

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