332階 王都ミゼーナにて
王都ミゼーナ・・・商王国アーキドの中心地にあり絶大な大きさを誇るその街は遠くから見て身震いするほど壮観な造りをしていた
街の中に川が流れ、四つの区画に分かれているがその一つ一つが一つの街くらいの規模がある。その中央にてっぺんが丸い形の建物がありそこが国王のいる王宮なのだとか
僕達が街に入る時、門番が案内してくれようとしていたがそれを断りゆっくりと街並みを見ながら歩いていた
さすが商王国だけあって商人の数が多く店もかなりの数がありそうだ。全て見て回るとしたら数日は掛かるのではないだろうか?
「エモーンズもこれくらいの街にしたいの?」
「いや、さすがに大き過ぎる・・・今くらいがちょうどいいよエモーンズは」
フーリシア王国の王都も大きいとは思ったけどミゼーナの方が断然大きい。しかも地面から何から全て金が掛かっている。建物の感じも統一してて街全体が一つの芸術品みたいだ
けど・・・
「住みたいとは思わないな・・・なんだが息苦しく感じる」
「それは私も・・・綺麗過ぎるからかしら?」
「それもあると思う・・・汚しちゃいけないって言うか気を使うって言うか・・・でもそれ以上に何か得体の知れない不気味さがあるような・・・」
活気があっていい感じに表面上は見えるんだけど・・・どこか違和感がある。けど具体的に何がって言われると・・・うーん・・・
街は綺麗で眺めは最高・・・人々も笑顔でいい街に見えるのに・・・
その違和感の正体が分からぬまま街の中央にある王宮に辿り着く
王様が居る場所だけあって周りは背の高い柵で囲われ、門には門番が立っていた
その門番に話し掛けると・・・
「あー、フーリシア王国の・・・」
「聞いております。中にお入りください」
食い気味に言われ中に通された・・・ちょっとムカつくな
「何かやな感じね・・・コチラを見ずにあんな対応取るなんて・・・」
「フーリシア王国の王様が話は通してくれているみたいだけど・・・他国の辺境伯への対応なんてこんなもんとか?」
「・・・どうだろう・・・私もそういうの疎いから・・・」
僕達が知らないだけで感じが悪いのも当然だとしたら文句を言う方がおかしいしな・・・
玄関まで歩くと執事服を来た初老の男が僕達に頭を下げて案内すると言ってきた
僕達はそれに従い王宮の中へ入った
王宮の中に入ると目に飛び込んで来たのは広間・・・大きな柱が二本と階段があるだけで特に物が置いてある訳ではない空間だったが鏡でも使っているのかと思うくらいピカピカに磨かれており自分の姿が映り込む
「これは・・・あまりよろしくない造りですね・・・」
メイドモードのサラがスカートを押さえながら僕にしか聞こえないように呟く
どうやらスカートの中身まで映り込んでいたみたいだ・・・先に言ってくれればじっくり見たのに・・・
「コチラです」
何も説明のないまま階段を上がり奥にある大きな扉を2人の門番が開けるとその部屋の奥にはソファーみたいな大きな椅子に寝そべっている男が僕達を見下ろしていた
あれがこの国の王様?・・・おおぅ、しまった・・・ノープランで来てしまったがどうすればいいんだろ?フーリシア王国の謁見の間の時みたいに中程まで進んで片膝つけばいいのか?それともこの国独自のやり方とかあるのか?
「入りたまえ辺境伯君」
誰が辺境伯君だ・・・とは言わず言われるがまま前に進み会話が出来る程度の所まで進むと立ち止まり片膝をつき頭を下げた
「お初目にかかりますフーリシア王国辺境伯ロウニール・ローグ・ハーベスと申します」
こんなもんでいいだろう・・・間違ってたら・・・知らん!
「ふむ・・・我はデュラン・カカルド・ソーネスーネだ」
ソウデスネ?いや、ソーネスーネか・・・てか王様・・・だよな?ここにきて『掃除のオッサンです』とか言われても『ソウデスネ』とは返してやらんぞ?
「誰が顔を上げていいと言った!頭が高い!」
そういうもんなのか?てか居たんかい!ってくらい目立たない感じで壁際にズラリと兵士が並びソファー?玉座?・・・ソファー玉座の横には大臣っぽい人と近衛騎士っぽい人が立っていた
僕に頭が高いと言ったのはその近衛騎士だ
「エイマール、よい・・・遠方よりよく来た」
近衛騎士はエイマールと言うのか・・・覚えてろよエイマール
「して何の用だったかな?」
用事は特にない
一応名目上は各国の調査に行くからよろしくねって挨拶をして来いって言われただけ・・・本音のところは僕にこの場所を覚えさせて悪巧みするつもりなのだろうけど・・・まあそれは聞かなきゃいい話だ
「近年の魔物の動向で気になる点があるので各国を調査するようにと命じられました。その御挨拶に」
「・・・この国を調査する?その挨拶?・・・そちの国は他国の王への挨拶の折に頭を下げるだけなのか?」
うん?・・・手ぶら!!?・・・こういう時って何かお土産的な物を渡すべきなのか?『エモーンズ名産の○○です』みたいな・・・いや名産品なんてないけど・・・
「そんな訳ないでしょう・・・たとえ小国の田舎貴族とはいえ他国に入り調査すると言っているのですから表には馬車一台分・・・いや二台分程の献上品があるかと・・・」
黙れ大臣っぽい奴!そんな物はない!
「いやいやスクート殿・・・もしかしたら献上品はソレかも知れませんよ?中々の器量だ・・・馬車一台分くらいには相当するだろうな」
ソレ?
「ふむ・・・見た目は確かに悪くない・・・が、使い古しを陛下に献上するはずもあるまい。それとも未使用であるとか?」
・・・
「2人ともよせ・・・彼女はメイドの姿はしているがああ見えてフーリシア王国のSランク冒険者だぞ?」
「なんと・・・それはそれは・・・それなら使用済みでも馬車二台分は固い」
「けど所詮フーリシア王国のSランク冒険者ですよね?たかが知れてるって言うか何と言うか・・・」
・・・
「・・・ああ、そうそう・・・すっかり忘れていました・・・デュラン国王に是非にと持って来た物があるのを」
「ロウ!」
「・・・ほう?それはどこに?」
「ここに!」
素早くゲートを開き取り出したのは一振の剣
壁際にいた兵士達はどよめきエイマールはすぐに王様の前に立ち剣に手をかけていつでも抜けるよう構える
「・・・どこから出した?」
「ずっと持っていましたがお気付きになりませんでしたか?アーキド王国の国王ともあろう方があまりにも無防備では?身体検査もせず小国の田舎貴族を招き入れるなど・・・私が乱心したらどうするおつもりで?」
「フン!貴様など陛下に指一本・・・」
「黙れ張りぼて・・・サラがその気になれば貴様らなど一瞬で制圧出来る。試してみるか?」
「やらないわよ?」
「・・・だそうだ」
ノリが悪いぞ・・・サラ
「・・・貴様生きて帰れると思うなよ・・・」
仕方ない・・・血管が浮き出て破裂しそうなエイマールは放っておいて・・・
「献上品を持ち出しただけで殺されるのですか?この国は」
「なに?貴様何を・・・」
「人の使用人に対して無礼な言葉を投げ掛けるだけでは飽き足らず、ただただ忘れていた献上品を取り出しただけで生きて帰れないとはこれ如何に・・・私は商王国に来たつもりでしたが通り過ぎて野蛮王国にでも迷い込んでしまったのでしょうか?」
「グ・・・ギギ・・・貴様っ!」
「私は聖王国から来た身・・・聖女のいる国聖王国の者はやはり聖女のように慈悲深いと思われたいので謝罪すれば許してあげましょう・・・さあ謝れほれ謝れいま謝れ」
「もう我慢なら・・・」
「抜くな!」
鶴の一声とはこの事を言うのだろう・・・緊迫した空気の中、それを引き裂くような一言が全てを収める
「・・・随分と喧嘩腰ではないか・・・ローグ卿」
「普段は温厚を自負しておりますがそれも時と場合によりますカカルド国王陛下」
未だソファー王座に寝そべる王様と見つめ合う
何かを探るような目・・・どこかで同じような目を見た事あるな・・・
「ふむ・・・その剣を見せてもらってよいか?」
「喜んで」
さすがに持って行くのは違うと思ったので差し出す形で両手を前に出すと王様に目で指示されたエイマールがドスドスと足を鳴らしてこちらにやって来て奪うように剣を取り上げた
そして剣を持ち元に戻ると剣を差し出し王様はそれを手に取り鞘から引き抜く
「ほう・・・名剣とまではいかないがそこそこの物だな」
そこそこ?・・・どうやら王様の目は節穴のようだ
「・・・何か言いたいことが?」
「いえ・・・物の価値は人それぞれだと思ったまでです」
「~~~っ!」
「エイマール!・・・まるで我がこの剣の価値を見抜けていないとでも言いたげだな?」
「伝わって何よりです」
「もぉう勘弁ならねえ!!その首今すぐに刎ねてやる!」
「エイマール!いちいち目くじら立てて邪魔立てするなら退席させるぞ!」
「くっ・・・」
「さてローグ卿・・・卿は面白いことを言うな・・・我の頭上を見よ」
そう言って王様は自らの上を指差した
国旗?中心に絵が描いてあるけど・・・あれは・・・天秤・・・
「我が国は商王国・・・商いで成り立つ国家だ。商いで最も重要な能力が分かるか?」
「・・・分かりかねます」
「・・・目利きだよ・・・その物がどれ程の価値があるか・・・片方に物を片方に金貨を積みその物の価値を秤る・・・正確に秤れなければ損をし信用を失う・・・つまり卿はその商いの王に対して見誤ったと断じた・・・今更冗談では済まされぬぞ!」
ハハッ・・・近衛騎士よりよっぽど迫力があるじゃないか・・・王様!
「・・・なるほど・・・ではお金に換算すると如何程とお思いですか?」
「・・・1万・・・それ以上は出せぬ・・・」
1万ゴールドって剣一振に対してだと破格なんじゃ?・・・まあ足りないけどね
「ならばこうしましょう・・・私が今からその剣が1万ゴールドを越える価値があると示しましょう・・・もしそれでも1万ゴールド以下だと言うのなら陛下の勝ち・・・けど1万ゴールド以上の価値があると認めるなら・・・」
「貴公の勝ちか・・・面白い・・・どうやってその価値を示す?」
「そこの血管浮き出まくりの人を貸してくれればすぐにでも・・・」
「ロ、ロウ?」
不安そうなサラをよそに王様はすぐに承諾して勝負の場を設ける
僕は献上品として差し出した剣を受け取ると鞘から抜いて素振りした
「大丈夫・・・何とかなるさ──────」




