331階 情報収集
アーキド王国関所の街イラハイの朝は早い
エモーンズの屋敷から朝早い段階で宿屋に戻って来ると既に外から声が聞こえてきた
もしかしたら朝早いのではなく常に騒がしい眠らない街ってやつか?確かに商人は時間関係なく出たり入ったりしてるし・・・
「今日はどうするの?」
「そうだね・・・王都に向かいつつ変装して街で話でも聞こうかな・・・昨日気になる事を話している人も見掛けたし・・・」
魔物の話が出ているのもそうだし商隊が襲われたっていうのも気になる・・・もし魔物が商隊を襲ったって事になればかなり大事だ・・・ダンジョンから出ている魔物の数がかなり多くなっている事になるからだ
「魔物も馬鹿じゃない・・・敵わないと分かれば襲わないはず・・・もしかしたらそれなりの数が外に出て来ているのかも・・・」
「そうなると冒険者の在り方はかなり変わってくるわね。討伐依頼や護衛が主になり、ダンジョンに挑むのはごく一部になるかも」
「そうかもね・・・そうなるとマナが枯渇してダンジョンブレイクが起きやすくなるかも・・・」
「ダンジョンの役割としてはもう終えたにゃ。マナを溜めて魔王を復活させるのが目的だしね。本来なら魔王の命令で動くのだけど・・・各ダンジョンコアがどう動くかは何とも言えないところにゃ」
「魔王が死んだ事は分かっているんだよね?」
「それは分かっていると思うにゃ。だからこそどうすればいいか迷って行動に移せないでいると思うにゃ・・・これまで以上に慎重になっているはずにゃ」
「ふむ・・・そう言えばふと思ったけど僕に復讐しようとする魔族はいないの?『魔王の仇ー!』みたいな」
「当然いるにゃ・・・魔王に心酔している魔族は多いからにゃ」
「ちょ、ちょっとサキそれ本当?だったらロウってかなり危険な立場なんじゃ・・・」
「安心するにゃ。魔王を失えば所詮烏合の衆・・・一体一なら負ける事はないはずにゃ。徒党を組まれたら・・・まあその時はその時にゃ」
「サ、サキ~」
復讐か・・・まったく考えてなかった
「僕が魔王を倒した事は他の魔族も知っているの?」
「それは知らないはずにゃ」
「じゃあどうやって復讐するんだ?」
「そこは人間と同じにゃ。手当り次第人間を殺すか聞き出すか・・・まあただ魔王は魔族の頂点・・・その魔王が倒されたって事は自分も負けると考えてそう簡単には手を出しては来ないと思うけど・・・中には何も考えず暴れ回る奴もいるからそこはなんとも言えないにゃ」
「つまり真っ直ぐ僕のところに来る事は無いって事か。少なくとも誰かが僕が魔王を倒したと話さない限りは」
「そうなるにゃ」
まっ、他の国では魔王復活自体が嘘とされているしフーリシア王国でも真実を知る人はごく一部・・・僕が魔王を倒した事はそんな簡単にはバレそうもないな
サラは心配しているみたいだけどそこまで気にする事でもなさそうだ
その後宿屋を出た足で街を出る
しばらくは人通りも激しかった為に歩き続けて人気がなくなった時にゲートで少し離れた場所に移動した
そこで僕とサラはロウハーとサラートに変身してまたゲートで移動を繰り返し、しばらく進んだところで適当な街を見つけて近くから歩いてその街に入る事にした
「確認出来ました。セズンの街へようこそ」
門番に偽造したギルドカードを見せるとすんなりと中へ
セズンの街って名前らしいけどこの街がアーキド王国のどの位置にあるのか不明・・・王都の近くなのかまだ離れているのか・・・
「中心地に向かえば王都に辿り着くと思ってたけど・・・ここはどこだ?」
「闇雲に進んでいたのね・・・なら地図を買いに行きましょ・・・行こうか」
見た目オッサンなのを忘れて普段の喋り方をしてしまうサラ・・・そう言えばサラって前はもっと男勝りな喋り方をしてたよな・・・メイドの時も変えてるし色々と大変だな
先ずは地図を買う事になり、道行く人に地図が売っている店を尋ねる
すると近くに雑貨屋がありそこに地図も売っていると聞いたのでその店を訪ねる事にした
店に入ると所狭しと色々な道具が置かれており、奥の方で地図らしき物が広げられていた
ぶっちゃけ地図なんて初めて見るけど・・・これは明らかに大陸全土の地図だよな?
「地図を探しているのかい?それならそこに丸めて置いてあるのがこの辺周辺の地図さ。国全体なら左側にまとめてあるよ」
下の棚を見ると確かに丸めて置いてある・・・セズン周辺や他の街の名前が書かれた地図、それとアーキド王国と書かれた地図・・・値段はそこそこだけどこの街の地図と王国の周辺・・・それと大陸地図を買っておくか
三枚の地図を購入し人目のつかないところでゲートを開いて保管しておく。今日の夜にでも地図を見て今後どういうルートで旅するか考えないと
それからサキがうるさいのでまた魚料理のある店に寄って食事をし午後から情報収集の為に冒険者ギルドへと立ち寄った
ギルドはどこの国だろうと雰囲気は変わらないな・・・たむろしている冒険者やカウンターの奥で受付するギルド職員、それにデカデカと置かれている掲示板・・・今は組合員向けの掲示板もいずれは依頼が張り出される掲示板に変わるのだろう
空いている備え付けのテーブルに腰掛け少しの間周りを見渡していると運良く冒険者の1人が話し掛けてきた
「見ない顔だが旅の冒険者か?それとも移住?」
「そろそろいい歳だからな・・・定住出来るような街を探しているところだ」
街を転々としていたけどそろそろ定着したいと思っている冒険者・・・って事にしておこう
「へえ・・・ランクは?」
「この歳で恥ずかしいがDランクだ」
あまり高いと注目されるし低すぎると舐められる・・・本当はCランクが理想だったけど・・・それでもセシーヌ達と共にダンジョンを攻略していたら自然とDまで上がっていた
「Dか・・・まあいいんじゃね?もしここに落ち着くなら組合に入りなよ・・・歓迎するぜ?」
「そうだな・・・そうなったらこちらからお願いしたいけど実際この付近のダンジョンはどうなんだ?」
「この街のダンジョンは3だ」
「へえ・・・『3』か・・・」
「ああ、3だ」
なんだその数字は・・・3!?
チラッとサラを見るが細かく首を横に振り分からないと合図する。これは困った・・・知ったかぶらずに素直に聞くか?
「・・・隣の街の・・・えっとなんだっけか・・・」
「フルメートの街か?」
「そうそう・・・そこの街のダンジョンはいくつだったかな・・・聞いたはずなんだが・・・」
「ああ、あそこはダメだ。あそこのランクは4・・・ここより低い」
ふむ・・・ランクか・・・しかも数が減るほどいいランクみたいだな・・・何段階あるか知らんけど
「そうだったな・・・ここは3か・・・」
「ああ、3だ・・・Dランクで長居するにゃもってこいと思うけどな・・・高過ぎず低過ぎずってな」
3が真ん中みたいな言い方・・・となるとランクは5段階の可能性が高い。1が一番高く5が一番低い・・・どのようにしてランク付けしているのかは不明だが何も情報がないよりは挑みやすいな。フーリシア王国でもあるのだろうか?聞いた事ないけど・・・
「そりゃあいい。他に何か特徴はないか?それか最近起きている事でも・・・」
「最近?・・・うーん、特にはねえな。特徴と言えば王都にも近いってのはあるけど・・・」
「そうか・・・まあ、一度ダンジョンに行ってみてから考えるよ・・・色々とありがとな」
「おう!何かあったら言ってくれ・・・力になんぜ?」
最近何もなく王都に近くそこそこのダンジョンがある街・・・それがセズンの街ってところか
何か変わりがあれば話は別だが代わりがないのならこれ以上話を聞いても無駄だろう
ダンジョンへも無理に行く必要はない・・・今日は宿を借りて地図でも広げてみるか
「サラ・・・ート行こうか」
「え、ええ」
『ええ』はオッサンぽくないけどまあ誰かに聞かれた訳でもないから大丈夫か・・・
僕達はギルドを出るとその足で近くの宿を借り部屋に入るとゲートで屋敷へと戻る
そして・・・
「ロウって意外と聞き上手なのね・・・簡単に情報を聞き出せちゃうなんて・・・」
「・・・出来ればサラに戻ってもう一度同じ言葉を言ってもらいたい・・・オッサンに褒められても嬉しくないし・・・てか聞き上手ってそもそも褒め言葉?」
「あっ・・・褒め言葉よ。私だったらあんなにすんなりと聞き出せたか怪しいし・・・今日はもうここに?」
「うん・・・買った地図を見て今後のルートを考えようかと思ってね」
サラは自分がオッサンである事をようやく思い出し仮面を外す。僕も仮面を外すとテーブルの上に先程買った地図を広げた
「えっと・・・ここがさっきいたセズンで王都は・・・・・・王都はどこだろ?」
地図には街の名前は書いてあるがそこには王都とは書かれていなかった
「フーリシア王国は王都もフーリシア・・・となるとアーキド王国の王都も?」
「けどアーキドって名前の街は無いな・・・セズンが王都に近いって言ってたから・・・」
近くの街を見てみるとデント、フォドス、ミゼーナ、アブラルとある。この四つの街のどれかかもしくはもう少し離れた場所にある街か・・・
「アーキド王国の地図じゃなくてさっきのセズン周辺の地図にはもっと細かく書かれていない?」
「お、そうだね。もしかしたら王都ナニナニって書かれてるかも」
そう言ってもう一枚の地図を広げると・・・間違えて大陸地図を開いてしまった
「間違えた・・・こっちじゃなくて・・・」
「ちょっと待って!・・・アーキド王国の下に何か書いてない?」
「アーキド王国の下?・・・ミゼーナ・・・もしかしてこれが王都の名前?」
フーリシア王国のところを見るとちゃんと国名の下にフーリシアと書かれている。となるとアーキド王国の王都はミゼーナか?
「リガルデル王国はサーテルデールって書かれているし・・・王都の名前で間違いないと思うわ」
リガルデル王国の王都はサーテルデールって街なのか・・・覚えておこうっと
「これで次に行く街は決まったわね・・・それとももう少し情報収集してから行く?」
「いや・・・とりあえず誰に会えるか分からないけど王都ミゼーナに行ってみよう・・・その後料理人も探さないといけないしね──────」




