328階 恋人
サラに会いたいと思いフラッとエモーンズに戻って来てこのまま行くと訓練の邪魔になるからと思い変身して宿舎に向かうとあら不思議・・・サラが見た事ない兵士達の前であられもない姿に・・・
初めはここにいる全員を皆殺しにしてしまおうとも考えたがどうやら主犯はメイド長のグレアのようだった
グレアはわざと周りに見られるようサラを地面に伏せさせあまつさえ襲ってもいいかのように言い放つ
その時点で彼女の人生は終わり・・・ただまあこれまでメイド長として頑張ってくれたから話くらいは聞いてあげよう
「・・・これはお帰りなさいませご主人様」
「アダムか・・・下手すりゃお前も同罪だな」
「・・・は?と申しますと?」
「話は後ろにいるグレアに聞け・・・サラ、着替えて来ていいよ。それと荷物は後で運ばせるから今後は私の部屋で寝るように」
「・・・そうね。分かったわ・・・とりあえず着替えて来るね」
「あ、あの・・・」
「気が利かないなアダムは・・・とりあえず主人が戻って来たんだ。飲み物でも用意しろ・・・それとも私にここで立ち話でもさせるつもりか?」
「い、いえ!直ちに準備致します」
ったく・・・サーテンより二回り以上も経験ありそうな面してサーテンより全然使えん・・・王都とエモーンズの使用人をそっくりそのまま入れ替えるか?
イライラしながら広間のソファーに座り振り返ると玄関で立ち止まっているグレア達・・・ようやく自分達が犯した罪の重さを感じたのかそれともどうやってここを乗り切る考えているのか・・・
「とりあえず座れ・・・まずは話をしようじゃないか」
さて・・・僕の中では執事がアダムではなくサーテンだったらこんな事にはならなかったという思いもある。サーテンが有能なのかアダムが無能なのかはさておき・・・このままだと長い期間屋敷を空けるのが難しくなる
各国へはサラと行くからサラは大丈夫だとしてもラルは・・・それにサラならあの場面でも大丈夫だっただろうけどラルだったら?・・・あっ、ダメだ・・・キレそう
「・・・お待たせ致しました・・・」
「ああ・・・じゃあアダムも・・・って座らないのか?グレア」
「・・・」
アダムを横に座らせて話をさせようとしたがグレア達は依然ソファーの後ろに立ったまま・・・返事もなく顔を伏せたままだ
「チッ」
僕は立ち上がりテーブルを越えて誰も座っていないソファーを掴むと持ち上げてグレア達の後ろに放り投げた
ソファーは激しい音を立てて壊れてしまうが仕方ない・・・物に当たるのは良くない事は分かっているけど人に当たるよりはマシだろう
「ソファーに座りたくないのならその場に座れ・・・アダムお前もだ」
再びテーブルを越えるとソファーに腰掛けその場に座るよう命令した
「ちょっと何なに何の音!?・・・あ、ロウニールお帰り」
2階にまでソファーを投げた時の音が聞こえたようでジェファーさんが慌てた様子で降りて来た
「ジェファーさんも聞く?コイツらがやろうとしていた事を──────」
「うわ・・・マジ最低・・・」
とりあえずさっきの一部始終をグレアの口から言わせた
まあ原因はサラがサボった事なのだがグレアがやろうとした事は決して許される事では無い
「あ、あの!・・・決して乱暴を誘発するような・・・その・・・懲らしめる意味で言っただけでして・・・」
「私にはこう聞こえたが?『自分達が去ったら好きなようにしていい』と。もし懲らしめる意味だとしたらそこまで言うか?普通」
「お、驚かせないと意味は無いと思いまして・・・懲りてもらえらばサボらなくなると・・・」
「うっわマジ最低・・・そういう行為を脅しで使うのって品性疑うわ・・・サボったら男達に乱暴されるってどんな地獄よ?」
うん、ジェファーさんの言う通り・・・悪い事をしたら罰せられるのは仕方ないのかもしれないけどサボったら犯されるってどうなんだよ
だったら悪い事をしなければいいと言うかもしれないけど、そもそも見習いであるサラはメイド長であるグレアが指導しなくてはいけないのに放置して宿舎を全て任せているのも疑問だ・・・サラだから平気だったけどこれがラルや他のメイドなら間違いがあってもおかしくない・・・サラが宿舎を任された時点でその事に気付くべきだったか・・・まあサラ自体はサボれて訓練出来ると喜んでいたから良かったのだけど・・・
「まあ脅す為だけだった・・・というのはナシにしよう。10人以上の兵士を焚き付けて嘘だと言って止められると思っている程間抜けとは思っていない。つまり脅しと言っているのはただ罪を軽くする為の言い逃れ・・・」
「ち、違います!本当に・・・」
「黙れ!」
「ヒィ!」
「さて・・・これが突発的な出来事なのか日常的に行われて来た事なのか・・・屋敷を管理してきたアダムに聞きたいのだが」
「・・・申し訳御座いません・・・」
「謝罪をして欲しい訳じゃない。行われていたのかいないのか知っていたのか知らなかったのか・・・それだけ答えろ」
「・・・知りませんでした・・・」
「そうか・・・まあ今回が初めてって事もあるかもしれない・・・けど日常的に行われて来ていたらその『知りませんでした』は『私は無能です』と同義になるけど・・・本当に知らなかったんだな?」
「・・・はい」
「分かった・・・さてグレア」
「は、はい!」
「君がやろうとしていた事はあくまでも彼女を脅す為であって実際には襲わせるつもりはなかった・・・そして今までもメイド長としてメイド見習いのサラをメイドに育てようと頑張っていた・・・これに偽りはないか?」
「はい!決してサラさ・・・サラ様をそのような目に遭わせよう等とは・・・」
「本当に?」
「はい!」
「ここで本当の事を言った方が罪は軽くなるぞ?」
「決して嘘などついておりません!私は誠心誠意辺境伯様にお仕えする為に王都よりやって来ました!私の全てを賭けても構いません!」
「なるほど・・・分かった。他のメイド達は?みんな仲良くやってきたか?」
全員が全員周りと顔を見合わせると自信なさげに首を縦に振る
サラからは別に何も聞いてないし本当なのかもしれないな
「良かった・・・これで日常的にサラに何かあったとしたら全員苦しみもがいて死んでもらうところだったよ・・・」
「・・・え?」
「じゃあ早速王都に行こうか?」
「・・・え?」
「『え?』じゃなくて・・・さっきの言葉をそのまま言ってくれればいいだけ・・・それで全てが分かるから」
「・・・どなたに何を言えば・・・」
「決まっているだろ?『真実の眼』を持つセシーヌに『私は今まで一切サラ・セームンに何もしていませんしさっきしようとしていた事もただの脅しで必ず止めようとしていました』と言えばいいだけ・・・それで嘘偽りないって分かれば無罪放免としよう。ただし少しでも嘘をついていると分かれば生まれてきたことを後悔させてやる!正直に話すのならまだしも嘘をついて・・・」
「テイ!」
「イタッ・・・サラ?」
頭に何かが落ちて来たと思い振り向くと着替えを終えた皿がいた
「なんでソファーがあんな事に・・・しかも大声で女性を脅しちゃって・・・」
「いや脅すって言うか・・・」
「さっきのはやり過ぎだと思うけどグレア様はこれまで私に色々教えてくれてた・・・先輩メイド達も同じ・・・だからこれ以上事を大きくしないで」
「・・・けどグレアのやろうとしていた事は許せない・・・」
「まあね・・・けど私にも非があるし・・・」
「主の恋人を事もあろうか兵士に襲わせようとしていたんだよ?極刑どころの騒ぎじゃないでしょ?」
「恋人だって言うのを隠してたんだから仕方ないじゃない・・・それにグレア様は聡明な方・・・私がSランク冒険者だから兵士達にどうこうされるはずはないって確信があってやった事よ」
いやいや知らなかったと思うけど・・・なぜならサラがそう言った瞬間にグレア達は明らかに動揺しているし・・・ただサラが何を言いたいかは分かった
「そっか・・・なら仕方ないか・・・」
「うん。だから、ね」
「・・・分かった。今回に限り不問にする。ただしサラ・・・もうメイドは終わりで」
「ええ!?」
「『ええ!?』じゃない・・・グレアだって主の恋人にあれしろこれしろって言い難いだろ?」
「・・・って事は私って無職?」
うんそうなるね
いや、待てよ・・・これから各国を回る時に僕は一応貴族として行く訳だから護衛よりも・・・
「いや!サラはこれから私の専属メイドだ!」
しかもエッチあり!
なんて甘美な響きなんだ・・・『専属メイド』
「え?ヤダ」
やなんかい!
それから必死にサラを説得して何とか専属メイドを引き受けてもらった
その時のグレア達の視線はそれまでの畏怖から憐れみに変わっていたのは言うまでもない
「あーあ・・・結局バレちゃったか・・・」
「まあまあ・・・いずれバレる事だし」
「随分と嬉しそうね?」
「そう?普通だけど・・・」
正直嬉しい・・・なんてったってこれからは堂々とエモーンズでもイチャイチャ出来る・・・そもそも付き合って間もないのに我慢するなんて無理って話だ
今も堂々とエモーンズの屋敷の自室にサラを呼んでイチャイチャ・・・はしてないけど2人っきりで話が出来ているし
「ふーん・・・まあいいけど・・・それで何だっけ・・・2人で国を回る?」
「そそ・・・各国の状況を調べて来いってさ。後は勇者捜索?まあこっちはフリでいいらしいけど」
「なんでロウと私?」
「僕が選ばれたのは各国に行った時に魔王復活の誤報の事を聞かれるからだと・・・魔王復活なんて世紀の大誤報がなぜ起きたのか・・・それを臨場感たっぷりに話せるのはあの場にいた僕しか出来ないってね。魔族と魔王を間違えたのにはそれなりに理由が必要って訳だ。それとサラは他の侯爵への理由付けらしい。ほら、Sランク冒険者って本来なら国預りになるだろ?それがなぜ僕の元にいるかって理由を各国を回る為の護衛にすればって事でね」
「ふーん・・・それでいつ頃発つの?」
「いつ発つかは決められてないけど期限は一年って言われた」
「一年か・・・って一年!?そんなの無理に決まって・・・」
「無理じゃないと思うよ?」
「だってフーリシア王国以外の国全てでしょ?行くだけでも・・・あっそっか・・・でもそうなると・・・」
「ゲートを使えば可能・・・って事は国はゲートの存在を知っている事になる・・・」
「となるとやっぱり内通者が・・・」
「だろうね。けどここの連中じゃない」
「え?」
まあここの連中もそうなのかもしれないけど・・・王様達にゲートの存在を教えたのは別にいる
「今回僕を含めた貴族達を王都に呼び寄せたのは1ヶ月以上前だ。ここいる連中がゲートの存在を知ったのはそれより後・・・多分呼び寄せた時には僕に行かせることは決定していたと思うからここの連中に聞いて依頼して来たのではないと思う」
「だとするとロウがゲートを使える事をここの人達より先に知っていた人が国王様達に?」
「そうなるね・・・まあ口止めした訳ではないから別にいいけど・・・」
ただ無闇矢鱈に話すような人達でもないんだよな・・・誰なんだろ?
「そっかー・・・まあロウが良いなら別にいいけど・・・ん?じゃあ今回は私とロウだけで行くの?」
「そうするつもり・・・各国には『使者がそちらに向かう』とだけ伝えているらしいから順番も任せるって・・・中々ゆっくりする時間がないな本当」
「今はそれでいいんじゃない?時間があるとろくな事しないし」
「そんな事ない・・・あっ、サラ」
「・・・なに?」
「さっき着ていた服・・・荷物と一緒に運ばれて来たから着てみて!いやぁ、すぐにあの時止めようとしたんだけどあまりにも斬新な格好で思考が停止しちゃって・・・さすがに別に奴に見られるのは嫌だったから止めたけど出来ればもう少し見てたかったんだよね」
「・・・ハア・・・やっぱりろくな事しない・・・」
「ん?」
「着るわけないでしょ!そんなの捨てなさい!」
「・・・え?」
「『え?』じゃないわよ!なに『意外』って顔して・・・あなたが捨てないなら私が捨ててやる!」
あ、この表情はマジのやつだ
でもせっかくだから逃げられながら何度も頼み込んだ
サラは優しい・・・なので最終的には嫌々ながらも着てくれた・・・満足満足──────




