326階 会議
「サーテン・・・少し話がある」
昨日の風呂場での話し合いの後、モヤモヤしながらもその日は寝た。そして朝一番で執事であるサーテンに経緯を確認する
「何でしょう?」
「なぜか新たに雇った2人が私を誤解していたのだが心当たりは?」
「誤解とは?」
「だからその・・・私が女性に興味なく男性に・・・」
「そうなのですか?」
「違うわ!・・・そう勘違いしてしまった理由が知りたいんだ!」
「理由・・・それはもしかしたらメイド達の中でまだご主人様を諦め切れない部分があるからかもしれませんね」
「私を?」
「はい。なのでたとえ男性でもライバルと思われているのでは?そういう趣味趣向の方もいらっしゃいますしおかしくはないと思います」
やっぱりそうなのか?まあ別に否定するつもりはないけど・・・
「じゃあサーテン・・・お前がそれとなく軌道修正しといてくれ。彼女達が彼らをライバルと思わないように・・・そして私を諦めるように」
「畏まりました」
「あっ、それとお前も別に好きな子が出来たら付き合っていいんだぞ?執事のルールとかそういうの無視して」
「私は大丈夫です。そもそも女性に興味がないので・・・もちろん男性にも」
「そ、そうか・・・ま、まあよろしく頼むよ」
そういう考えも・・・あるよな──────
面倒な事は全てサーテンに任せてこの話は終わろう・・・これで一組でもカップルが誕生してくれると嬉しいのだが・・・
エモーンズの方は・・・まあ、あっちは私兵とかも出入りするし何とかなるだろう。ぶっちゃけアダムに頼めないし人の恋愛どうこう言っている暇はないしね
差別する訳じゃないけどこっちのメイド達の方が何故か何とかしてあげたくなってしまう・・・エモーンズの方は・・・ラルくらいかな?
そのラルもまだまだ恋愛って歳でもないだろうし後々好きな人が出来たら応援してあげればいいだろう
それからしばらくは王都にて平穏な日々を過した
外に出る時はロウハーとはまた違った人物となれば良かったので姿を変えてラルと王都を見て回ったりと自由な時間を満喫する
どういう風に話したか分からないけどメイド達もホトスとエダスを敵視せず普通の男性として扱うようになっていた
まあ対応は『異性の同僚』程度だがライバル扱いからはかなり改善されたと思う
そんなある日ケインから報せが来る
もうすぐ王都に着くから戻って来いとの報せだ
僕とラルとマウロの3人は束の間の休息を終えて馬車へと戻った
後に聞いたのだがラルと優先的に遊び過ぎたせいで今度は『少女趣向』の疑いをかけられていたらしい・・・何でもかんでも手を出さない理由を趣向と結び付けるのは本当勘弁して欲しい・・・まあこれも他の貴族がエロ貴族なのが原因なのだが──────
王都に入ると真っ先に屋敷に向かう
つい先程まで居た場所にまるで久しぶりに帰ったかのように振る舞っていると早速城より使者が来た
どうやら僕が一番最後だったらしい・・・明日には呼び出した理由である『会議』が行われるから城に来いとのお達しだ
行く際の服は前回着て行った服があるし靴も大丈夫・・・連れて行く者は・・・まあ待機させておくのも可哀想だし僕だけで行くか
そうと決まってからは話が早い
屋敷で適当に過ごしてご飯を食べてお風呂に入って寝て・・・起きると使者が迎えに来たからそれについて行けばいいだけだった
城に入り通された部屋はかなり大きな円卓のテーブルにズラリと座る侯爵公爵の面々・・・見覚えのある顔もチラチラいるが基本名前は覚えていない・・・まあその辺はダンコが覚えているから問題ないだろう
唯一名前を覚えているファゼンが僕を一瞬睨んで来たけど逆恨みもいいとこだ・・・喧嘩売るなら買ってやるぞ?
居心地悪い空間で少し周りの様子を見てみたが仲のいい貴族同士もいるようでそこまで殺伐とした雰囲気ではなかった。もっと貴族同士仲が悪いと思ってたけど・・・侯爵の中でも派閥的なものがあるみたいで派閥同士で仲良さげに話していた
その中で1人僕の方をじっと見ているオッサンが・・・しかも敵意ではなく興味といった感じの視線を向けていた。成り上がりが嫌いな貴族の中で特異な奴も居るもんだなって思っているとようやくこの場を開いた張本人と思われる2人が部屋へと入って来た
王様と宰相・・・2人が現れた瞬間に全員立ち上がった為に僕もそれに倣う。そして2人が席に着き王様が座るよう命じた後で全員が座ったので同じように行動する
僕一人だったらよく分からないが他の人がいる分真似すればいいから楽だな
んで、長々と集まった事への感謝と始まりの挨拶みたいのを繰り返した後、目付きが変わると本題に入る
今回これだけの貴族を集めた理由・・・それは・・・
『魔物の氾濫』
知っている貴族も居たが知らない貴族も多く居たようでしばらく部屋はザワついていた
基本的に魔物はダンジョンの外には出て来ない
出て来るとしたらダンジョンブレイクが起きて一時的にそのダンジョンから魔物が溢れ出るだけだ
当然溢れ出た魔物は全て討伐され、ダンジョンブレイクが起きたダンジョンも破壊されるので一時的なものであったが今回は様子がそれとは違う
各地のダンジョンから少しずつ魔物が出て来て少なからず街や村への被害も出て来ているらしい・・・そしてそれが起きるのは歴史的に見るとある出来事の兆候だという
魔王の復活
魔王の復活の前触れ的な現象が『魔物の氾濫』なんだとか
これはフーリシア王国だけではなく他の国でも起きている事は調査済み・・・つまり大陸全土で同時多発的に起きているのでもはや疑いの余地はないと・・・まあそりゃあそうだよな・・・現に魔王は復活した・・・もう討伐しちゃったけど
んでだ・・・ここからが今回の本題らしく、どうやら王様は各国の状況ともうひとつ・・・勇者の行方をこの中の誰かに探って来て欲しいのだと
当然の如くか知らないのだけど各国には諜報員を送っていて何となくは情報は掴んでいるがそれとは別に公式に使者として訪問し各国の生の声を聞いて欲しいと
そしてもうひとつ・・・勇者については魔王が攻めて来た時に人類の唯一の希望である勇者と知己となり助力を求めるツテを得て欲しいって事らしい
まあふたつめはあくまでフリだろうな・・・王様と宰相は魔王がもう存在していない事を知っている・・・けど各国にはそれは知られていない・・・これで一国だけ勇者を探してなかったら『フーリシア王国は魔王不在を知ってたのでは?』と疑われてしまうからだ
さて問題はその使者を誰がやるかってところだ
他の5ヶ国に合わせて5人派遣するのかそれとも・・・何だかさっきから王様と妙に目が合うけど・・・気の所為だよな?
そんな面倒なの嫌だぞ?行くだけならまだしもその国の偉い人と会ったりしないといけないんだろ?他の貴族は出世チャンスと思ったのか何人か立候補したりしているが僕は真っ平御免だ
だが・・・
「・・・皆の意見は非常に参考になるがもう既に行ってもらう者は決めておる。その為に新たにSランク冒険者となった者を傍に付けておるしな」
おい
「ロウニール・ローグ・ハーベス辺境伯・・・そなたに各国への訪問と勇者の捜索を命ずる」
このタヌキ爺・・・何が『その為に』だ!全然話が違うじゃねえか!
テーブルを囲む貴族達が一斉に僕を見る・・・誰も居なけりゃ文句のひとつでも言いたいところだけど流石にこの場じゃ言えないし・・・クソッ
しかし他の貴族からは次々とその決定に対して否定的な意見が挙げられる
大体の内容が『成り上がり貴族を送るのは失礼に値する』とか『礼儀作法もなってない田舎貴族に相応しくない』とかまあそれらの言葉をなるべくオブラートに包んで言っている感じだ・・・概ね合ってるしもっと言ってやれ
だが・・・宰相の一言で全ての貴族が黙ってしまった
なぜその一言で黙ってしまったのかよく分からない・・・奴はただ『近々聖者聖女を各国から撤退させる』と言っただけなのに・・・
「各自必要に応じて備えよ。使者となるローグ卿は別室で話がある・・・ではこれにて解散とする」
結局一言も発する間もなく会議は終了を迎えてしまった
結果僕は各国の状況確認と勇者探しを命じられる事に・・・これって何年かかるんだ?まさか勇者を見つけてくるまで帰って来るな・・・とかないよね?
僕以外の貴族が部屋を去った後、残った僕に微笑む宰相クルス・・・どうせ僕を選んだのもコイツだろ
「ローグ卿・・・セイムはお役に立っていますか?」
「ええ・・・存分に」
「それは良かった。それで今回の件についてですが・・・」
「なぜ私なのですか?やる事はある程度理解出来ましたが私でなくとも・・・それにサラの事もだいぶ話が違いますけど?」
「サラ・セームンの事は謝罪します。こじ付けでも理由がある方が彼らを納得させられると思いまして・・・卿の選考理由ですが単純な理由です。今回各国に行ってもらうのは各国の現状を実際に行って確かめてもらいたいのと各国からの質問に答えて頂きたいからです」
「質問?それは・・・」
「魔王復活の誤報・・・既に現地の勘違いと訂正しておりますが各地で起きている『魔物の氾濫』により再び注目され始めているのです・・・なぜそのような誤報が起きてしまったのかと」
「・・・まさか今更誤報ではなかったと言うつもりですか?」
「いえ・・・各国はこれから魔王に対して過敏になります。いつどこで復活するか・・・それによりひとつの国が消え去る可能性があるからです」
「国が・・・滅ぶ・・・」
「過去魔王が復活した場所には魔王城が現れそこから幾多数多の魔物が発生しその国を苦しめます・・・場所はランダムなのか決まりはありませんので魔王復活の兆候を期に各国は対応に追われているのです」
「対応・・・勇者ですか・・・」
「はい。魔王に対抗出来るのは勇者のみ・・・自国に魔王が復活してしまった場合、出来る限り被害を抑えようとするならば勇者の存在は不可欠・・・いくら軍を強化しても魔王城に突入出来るのは6人の選ばれし者だけですからね」
6縛り・・・選ばれし者と言うより6人以降入らなくなる結界だけどな
まあ国が滅ぶってのもあながち間違いではないか・・・もしあの時魔王を討伐していなければ魔王は魔獣を使って人間を脅かそうとしていた・・・エモーンズはもちろん近隣の村や街も魔王が討伐されるその日までその勢力は拡大していっただろう
無限に生まれる魔獣に各地のダンジョンから魔王に呼応し出て来る魔物や魔族・・・大陸全土で対応に追われ望みは勇者に託される
勇者の出現が早ければ早いほど人類が受けるダメージは少ないが逆に遅れれば遅れるほど深刻となる・・・魔王復活の地に選ばれた国は滅びたとえ勇者が魔王を討伐したとしても手遅れとなるだろう
「各国は先程も言ったように魔王に関して過敏になっています。そんな中で何も知らない者を使者として送り相手国の怒りを買うのは愚の骨頂・・・なので全てを知る卿に行ってもらいたいと考えました」
「魔王だったと話せと?」
「いえ、魔王と勘違いした理由を話して頂きたいのです。もちろん6縛りの結界など魔王と確定する話を除き如何に魔王復活と勘違いしてしまうほどの脅威であったかを」
なるほど・・・魔王じゃなかったけどそう思わざるを得ない程厳しい戦いだったと言えば過敏になっている国も『それなら仕方ないね』って思ってくれると・・・そうじゃなく何も知らない貴族を使者に仕立てて聞かれた時に適当な感じで答えたら逆に何か隠していると怪しまれるかも・・・と考えてるのか
「・・・今更あれは『魔王だった』って言ったらどうなりますかね?」
「証明するものはありません。それに本物の勇者が現れたら嘘と認定されるでしょう・・・『魔王は勇者しか倒せない』というのは各国共通の認識ですから」
勇者が現れ『倒してないよ?』って言われたらお終いって訳か・・・その勇者が偽物とは考えないのかね・・・
「先に相談するべきでしたが独断で決めてしまい申し訳ないと思っています・・・もちろん必要な資金や物資は出し惜しみしません。計画も全てお任せします・・・いつ行きいつ戻って来ても構いません。ただし期限は一年でお願いしたいと思います」
はあ!?一年!?
「ちょ・・・それはいくら何でも・・・」
「卿なら出来ると確信しております・・・期限と言いましたが過ぎても特に何もありません・・・なるべく一年で終わらせて頂きたい・・・その思いからの期限ですから」
「ローグ卿・・・余からも頼む。これは必要不可欠であり早ければ早いほど効果を発揮する・・・他の者なら最低二年は掛かるだろうが卿ならば・・・」
ああ・・・そうか・・・この2人は・・・
「・・・分かりました。期限は守れるか分かりませんが各国の状況確認と勇者の捜索・・・お引き受け致します──────」




