325階 カレン・グルニアス・トークス
ダンジョンを出て1人街に戻っているとカレン達は街に入らず僕を待っていた
「えっと・・・本当に本当にさっきの人と同一人物ですの?」
「・・・カレンさんはどう思いますか?」
「正直言うと未だに分かりませんわ・・・ここに来る前に入れ替わった可能性も・・・」
「ならこれでどう?」
仮面にマナを流すのを止めて仮面を少しズラして顔を見せると3人共いい顔でリアクションしてくれた
「・・・驚きですわ・・・本当に・・・」
「秘密でお願いしますね・・・私もカレンさん達の事は何も話しませんし見た事も忘れます」
「?」
「見た事?」「一体何を見たのですか?」
「〜〜〜!!あ、あっはー!そ、そうですわね!あの場で何も見なかった!ですわね!」
何の事だか思い出したのかカレンは慌てて話を打ち切った
ダハットとアンガーは見てないからな・・・カレンがひん剥かれていたのを
・・・とにかくこれで一件落着・・・ギルドに報告してギルドカードを返却されると僕達は会話する事なく別れた
もう会う事もないだろう──────
「・・・これで一流冒険者の仲間入りですね・・・カレンお嬢様」
「名実共に・・・とはいきませんでしたが、ね。それでも御館様はお認めになって下さいますでしょう」
「あっはー!ダハット、アンガー・・・今までご苦労様でした。最後は少し・・・いえだいぶ怪しかったのですが見事成し遂げる事が出来ましたわ。これで御父様もお認めになって下さるはず・・・政略結婚など吐き気がしますわ!」
「『全ては家門の為に』が家訓ですからねトークス家は」
「しかし情報を得る事が難しかったとはいえバフコーンが魔法耐性を持つとは・・・彼が居なかったらと考えるとゾッとします」
「確実に全滅していましたわね。いえわたくしなどもっと酷い目に・・・ロウハー・・・彼は一体何者なのでしょうか?」
「さあ?いずれ縁があれば会えるのでは?本来の姿の時に」
「そうなればお嬢様のあまりのギャップの差に惚れてしまうかもしれませんね・・・おや?顔が赤いようですがまさかお嬢様も?」
「な、何を・・・これは達成した事で興奮して赤くなっているだけですわ!さ、さあ帰りますわよ!早く御父様に御報告しないと・・・」
「そうですな」「そうですね」
「キー!2人して・・・もういいですわ!1人で帰るのでお2人は一生冒険者してなさい!」
彼女の名前はカレン・グルニアス・トークス
彼女はいずれロウニールと再会する
立場を変えて──────
アジートからエモーンズに戻ろうと考えたけどやめて王都へと向かった
その理由は二つ
一つはサラだ
彼女は本気で僕を・・・いや、僕とダンコを超えようと必死に頑張っている
強さで言えば当然僕なんかより強い・・・でもそれはあくまでダンコがいなかった場合の僕でありダンコと同化した僕だったら・・・今は僕の方が強いだろう
その僕に彼女は本気で勝とうとしている・・・僕の横を歩く為に・・・それを僕が邪魔する訳にはいかない・・・寂しいけど
もう一つは先に王都に送った2人のメイドの事が気掛かりだったからだ
マウロとラル・・・上手くやれているのだろうか
まあサーテンがいるしチル達も2人を邪険に扱う事はないと思うけど・・・
王都にある屋敷の自室を訪れると人の気配を感じて振り返る
そこにはたまにしか来ない部屋の主人の為に汗水垂らして部屋を掃除するいたいけな少女の姿が・・・おのれ彼女に掃除などさせるなんて・・・・・・・・・いや、掃除は普通か
「?お兄ちゃん!じゃなくてご主人様!」
僕な気付くといたいけな少女・・・ラルは掃除をする手を止めて満面の笑みでパタパタ走って近寄って来る。その様子は尻尾を全力で振ってくる小動物のようで非常に愛らしい姿だった
「ラル、誰にも意地悪されてないか?」
「うん!みんな優しいよ・・・です!」
「それは良かった・・・一緒に下に行く?」
「うん!・・・じゃなくてはい!」
うんうん、素直でいい子だ
本当は普段通りに喋っていいと言いたいところだけどサーテンはともかくエモーンズの屋敷の2人、アダムとグレアはその辺の礼儀作法には厳しいから無理だろう
下に降りると僕に気付いたサーテンとメイド達が勢揃いで御挨拶・・・と、後ろの方で見た事ない人が2人ほど恐縮しながら頭を下げているがあれは・・・
「もしかして・・・料理人?」
「はい。御要望通りの者を2名程・・・ホトス・カーテンとエダス・ドルチェです」
「ホ、ホトスと申します!よろしくお願いします!」
「エダスです!辺境伯閣下にお会いできて大変光栄に思います!」
「ああ、よろしく頼む」
うん、2人共爽やか好青年だ。これなら女性陣も・・・ん?
チル達の2人を見る目が何故か冷ややかだ。まさか好みじゃない・・・いや、好みじゃないくらいであんな冷ややかな視線を送るか?
「・・・サーテンちょっと」
僕はサーテンを呼んでみんなに聞こえないようにメイド達と料理人2人の間に確執がないか聞いてみると答えは『ノー』だった
確執はない・・・なのにあまり歓迎ムードじゃない・・・もしかして作る料理がめっちゃ不味いとか??
だがそれもすぐに否定された
昼時になり早速腕を振るってもらったが流石料理人を名乗るだけあって美味い・・・しかも料理の腕前だけでなく見た目も綺麗に盛り付けられていたり食事のバランスも考えられている感じで大変好感が持てた
爽やかイケメン好青年だし料理も美味い・・・なのにメイド達はなぜ・・・
疑問に対する答えは結局出なかったが、とりあえずラルとマウロがここでの生活で特に問題ない事はすぐに分かった
ラルはみんなの言う事を素直に聞いているらしくかなり可愛がられており、マウロはここのメイド達よりも位が高いみたいで頼られている感じだ
特に問題ない事を確認して自室に戻ると黙っててもやって来るある男を待つ
「失礼致します」
「待ってたよサーテン」
「?御用があればお呼び下されば・・・」
「呼ばなくても来ると思ってな・・・また同じ事を聞くようだけど・・・メイド達と料理人の2人は本当に確執はないのか?」
「はい。ございません」
ふむ・・・もしかして4人のメイドに男2人ってのがバランス悪いのかな・・・
「庭師はどうした?雇わないのか?」
「これだけメイドがおりますと庭師まで雇ってしまうと仕事が無くなってしまいます。週に一度は入れるようにしていますが常駐する程では・・・」
「・・・何か不便はないか?人が必要なら雇って全然構わんが・・・」
「特に・・・ご主人様がお住いになるのでしたら色々と必要になるかもしれませんが今のところはこれといってございません」
「ふむ・・・そっか・・・そうだ!門番はどうだ?2人程日中だけでも立たせておくっていうのは?」
「あまり必要ないかと・・・王都内は衛兵や騎士団によって治安が良い状態ですし、主のいない屋敷に訪ねてくる客など居らず何もせず日がな立っているだけとなりますので」
「でも私が居ないと知ってて入って来る者もいるかもしれないぞ?それこそ前の貴族みたいな奴らが」
「ご主人様は門番2人にそれを止めろと?」
「・・・無理か?」
「無理ですね。止めようとすれば難癖つけて殺されるのが関の山です。武力で止めようとするならそれ相応の武力がなくては意味がありません。かと言って来るか分からない輩の為に高い能力を持った者を門番として雇うのもどうかと思います。結局武力ではなく対話でお帰り頂くのでしたら下手に刺激しない私のような執事が行う方が無難でしょう」
言われてみればそうだな・・・侯爵が来た時もかなり強い護衛を引き連れていたし門番2人じゃとても追い返せないだろう
「・・・いっそうキースでも雇うか」
「逆に目立ちますしいくらお金があっても足りません。そもそも受けて下さらないでしょう」
「冗談だよ・・・となると人を増やすのは無理か・・・」
「はい・・・必要ございません」
必要ないだけで無理矢理ねじ込むことは出来そうだけど・・・止めておこう
ここにずっといるならまだしもほとんどいる予定はないからな・・・無駄な人員を増やしてサーテンを怒らすと厄介な事になりそうだし
それから夕食をみんなで食べて久しぶりにこの屋敷のお風呂を頂く事に
マウロが『御一緒致します』と意気込んでいたがチル達に無事止められて広いお風呂を独り占め・・・のはずだったのに・・・
「し、失礼致します・・・辺境伯閣下・・・」
「お背中流しに参りました!」
だから風呂は1人で入ると・・・ん?入って来たのは料理人の2人・・・ホトスとエダスの2人だ。もちろん2人は男・・・だから別に追い出す必要もないか
「共に入るのは構わないが背中を流すのとかは遠慮する。2人も風呂くらいは気兼ねなく入ってくれ」
「・・・は、はい・・・」
「分かりました!」
せっかく1人でゆっくりと入ってたのに・・・そうだ!この機会に聞いてみるか
「そう言えば2人は・・・メイド達の中で好みの子はいるか?」
「こ、好みの人など!」
「滅相もございません!」
・・・面食いか?いやいやサラには劣るとは言え4人ともそこそこ美人だと思うけど・・・
もしかして・・・
『貴方達が新しい使用人ですね。よろしく私はチル・・・』
『ケッ気安く喋りかけんなブスが』
なんて会話が繰り広げられていたりして・・・考え過ぎか
「あ、あの!」
「うん?そんなに緊張せず気軽に話し掛けてくれ」
「は、はい・・・辺境伯閣下はそちら側の方というのは本当でしょうか!」
・・・ん?そちら側の方??
「その・・・募集内容が料理の腕前云々ではなく見目だと聞きましたので・・・しかも男のみで・・・」
「サーテン様に聞きました。メイド達には一切手を出されていないと」
そりゃあメイド達に出会いのきっかけをと思って・・・手を出さないのも僕はサラ一筋だし・・・んん?そちら側の方ってそういう事!?
「ま、待て・・・ちょっと待て!私は・・・」
「私達に拒否権がないのは分かっています・・・しかし・・・」
ようやく合点がいった・・・だからメイド達は彼らを敵視するような視線を送っていたのか・・・
「どこでどう勘違いしたか知らないが私は決まった相手がいるから他のメイド達に手を出さないだけだ。もちろんその相手は女性だ・・・サーテンかメイド達から聞いてないのか?」
「そ、そうなのですか!?私はてっきり・・・」
立つな立つな!
驚いて立ち上がった2人からなるべく離れて僕は2人になぜ若い男性を料理人として選ぶよう指示したか教えた
「・・・はあ・・・メイド達に出会いを・・・」
「だからって無理矢理恋人同士にならなくてもいい・・・キッカケになればと思ってな。ほら、ここに居ても出会いはないだろ?」
「確かに」
「私は常々彼女達に好きな人が出来たらその人と付き合っていいと話してあるしメイドを辞めたくなったら辞めてもいいと言っている。普通の生活出来るよう一般教養も教えている・・・とにかく他の貴族は知らないが私はメイド達に手を出す気は全くないしむしろ幸せになって欲しいと願っているくらいだ」
「・・・じゃあ私達が襲われる事も・・・」
「ない!!」
「・・・良かった・・・」
どういう勘違いだよまったく・・・まあでもそういう貴族もいるって事か・・・
「とにかく恋愛は自由だ・・・けどもし無理矢理襲ったりしたら・・・」
「そ、そんなことしません!」
「・・・ならいい・・・」
誤解が解けて良かった・・・てか2人はもしかして覚悟を決めて風呂に入って来たのか?・・・・・・・・・それはそれでちょっと怖いぞ──────




