320階 魔物と魔獣と・・・
〘いつ来たの?まさか5歳より前って訳じゃないわよね?〙
カレン達と別れて店を出るとすぐにダンコからのツッコミが・・・もちろんこの街に来るのも初めてだしダンジョンも行った事ございません
〘1階からだと面倒だろ?長々と付き合うつもりもないし・・・21階からならそう時間も掛からないと思ってね〙
〘だからどうやって21階から行くのよ・・・ダンジョンのゲートは向こうから戻って来てないと使えないわよ?〙
〘知ってるよ・・・だったら一度21階に行って戻ってくればいい〙
〘まさか今から行く気?どんなダンジョンか分からないのに・・・アナタなら手間取るとは思えないけど広さとか道も分からないのに・・・〙
〘大丈夫・・・10階のボスと20階のボスを倒せばいいだけだから〙
〘簡単に言うけどそれが時間掛かるって言ってるの〙
〘ひとつ考えがあるんだ・・・簡単に手間なくボスだけを倒すやり方が──────〙
20階のボスを倒す為に僕がまず向かった先は・・・宿屋だ
お金を払って案内された部屋に入るとそこはベッドだけが置かれた質素なものだった
〘ロウ?アナタ一体何を・・・〙
ベッドに腰を落ち着かせ目を閉じるとダンコの声が脳裏に響く
ゆっくりしている時間はないはず・・・ダンコはそう思っているが・・・
〘分かっている・・・さて、じゃあちょっくら行きますか〙
僕はそう言うと目の前にゲートを開いた
僕の目の大きさ程の小さなゲート・・・そのゲートから見えるのは先程通ったばかりのアジートの入口だ
〘・・・アナタまさか・・・〙
〘うん・・・このまま見える先にゲートを繋いでとりあえずダンジョンの10階の待機部屋まで行く・・・さすがにボスを倒さないと11階への扉は開かないからボスは倒す必要はあるけど途中の魔物に襲われる事もないし迷ってもすぐ引き返せるし・・・これなら1日も掛からずに21階まで行けそうだろ?〙
〘・・・呆れた・・・まさかそんなゲートの使い方をするなんて・・・〙
ゲート入った事のある場所に繋ぐ事が出来る・・・それと見た場所にも・・・小さいゲートを繋いで視線の先にまた繋げば実際に行かなくても遠くまで行ける。それがたとえダンジョンの中でも・・・
僕はまず上空に繋げて辺りを見回しダンジョンを探した
運良く冒険者らしき人達が街へと戻って来る姿を発見したのでその人達が来た方向に向けてゲートを繋いだ
すると少し離れた場所にダンジョンの入口を発見・・・本来なら入場許可証が必要になるが今日は勘弁してもらおう
入口に立つギルド職員の背後にゲートを繋ぎ、更にダンジョンの奥へと繋いでいく
ゲートから流れ込む冷たい空気が心地良い
下を見ると魔物が何食わぬ顔で歩いている姿が見えた
まさか頭の上を通過しているとは夢にも思うまい
僕はベッドに寝転びながら鼻歌交じりで奥へと進み、次の階に行くとまた繰り返す。そうしてあっという間に10階の待機部屋まで到着すると周囲に人気がないのを確認しゲートを拡げて宿屋からダンジョンに降り立った
「さて・・・本当はここもスルーしたいところだけど仕方ない・・・」
待機部屋の奥にある扉は開いているがその更に奥にある扉は閉じられている
ボスを倒す事で開かれる扉・・・これだけはゲートを使って通過する事は出来ない
まあ・・・ボスを無視して扉を破壊してしまえば・・・
〘やめて〙
〘・・・はい・・・〙
ダンジョンコアであるダンコからしてみればそんなやり方されたらたまったもんじゃないのだろう・・・別のダンジョンとはいえそのやり方は邪道過ぎて看過出来なかったようだ
「まっ、扉を破壊するよりボスを倒す方が楽・・・だろうしね」
所詮は10階のボス・・・そこまで強力な魔物が配置されているはずもなくそのまま足を踏み入れるとボスの姿が確認出来た
「・・・へえ・・・こういうボスの置き方もあるんだ・・・」
大概ボス部屋は広く作ってある事が多い
だから道中に置けないような大型の魔物を配置するもんだと勝手に思い込んでいたけど・・・
「コボルトが・・・五体・・・広さを大きさじゃなくて数に対して有効活用したってわけか」
〘一応ただのコボルトじゃないけどね〙
「・・・言われてみれば少し毛が黒いかも・・・」
〘コボルト亜種・・・まあコボルトの魔獣に近い存在かしら〙
「・・・へえ・・・」
〘アナタねえ・・・まさかもう忘れたの?〙
「お、覚えてるよ!魔物はマナで創ったもの、魔獣は魔力で創ったものだろ?けど亜種なんて初めて聞いたぞ?」
〘そうだったかしら?・・・まっ、創る間もなく魔王を復活させちゃったしね・・・〙
魔王を復活させちゃったって・・・軽いな
〘簡単に言えば魔物を創る際に魔力を織り交ぜて強化したのが亜種よ。結構バランス調整が難しいからあまり多くは創れないけど・・・〙
「ふーん・・・つまりコボルトよりは強いってわけか・・・てかさ・・・ひとつ聞いていい?」
〘なに?〙
「わざわざマナで魔物を創らないで魔力で魔獣を創ればいいんじゃない?」
〘あのねぇ・・・魔獣が何をエサに動くか知ってる?〙
「・・・知らない」
〘魔力よ。人間達がのべつまくなしに戦争でもしていてくれれば別だけど、魔獣を沢山創って魔力の濃度が薄くなればいずれ自滅するのは目に見えているわ。自ら攻めるには向いているけど待ち構えるダンジョンのような場所に配置するには向いてないの〙
魔力って人間が生み出しているんだっけ・・・負の感情とか何とか・・・ほぼ無限に存在すると思われるその魔力も使えば使うだけ無くなりゃしないけど濃度は変わる・・・いや、もしかしたら魔獣が沢山居たら無くなるなんて事が有り得るのかも・・・
そうなると魔力を核でマナに変換している僕達もそれが出来なくなるって事に・・・つまり魔力を食い尽くす程の魔獣が存在したら人間はマナを使わずに魔獣を相手にしないとダメってことか?・・・恐ろしい・・・
「・・・色々と複雑なんだな・・・」
〘アナタが何も考えないだけでしょ?ほら来るわよ?〙
亜種になると強さの他に知能も上がるのかバラバラに攻撃してくる訳でもなくそれぞれ間隔を開けてジリジリと近付いて来ていた
「亜種か・・・今度ウチのダンジョンにも取り入れてみようかな・・・」
流れるような連携攻撃・・・とまではいかないまでも互いに攻撃が重ならないように且つ途切れないように繰り出して来るのは流石だった
これが従来のコボルトなら我先にと攻撃してわちゃわちゃしてしまってたはず・・・訓練した後のコボルトでも・・・うーん・・・
「おっと!・・・とりあえず躾のなってない犬には・・・{伏せ}」
一通り躱したけどこれ以上何も出て来ないようなので言霊を使ってみた
すると五体全てが地面に伏せた後、必死に起き上がろうともがき続ける
「痛ぶるのは趣味じゃない・・・すぐに楽にしてやるよ」
魔力で剣を5本作り出すとそれぞれの頭に落とした
抵抗虚しくコボルト亜種達は息絶え奥の扉がゆっくりと開く
〘・・・命令した後に殺すのはあまり好きではないわ・・・〙
「そうだね・・・今後はやめとくよ・・・」
確かに後味は良くなかった
人間に対してはあまり感じなかったけど・・・もしかしたら僕は既に・・・
〘ロウ?〙
「・・・何でもない・・・さー、残りもチャチャッと終わらせて明日に備えよう」
開いた扉の先に進むと再び宿屋に戻って探索を開始する
魔物を相手して歩くよりも断然早く、あっという間に20階の待機部屋に到着すると今度のボスを見て頬を掻く
「ダンコ・・・20階もって事は30階も同じって可能性高いよな?」
〘まあそうでしょうね〙
20階のボスは若干肌の色が黒く染って見えるリザードマン・・・つまり亜種だ。数はコボルト亜種より一体少ない四体だが・・・
「30階のバフコーンも亜種で複数体とみた方がいいってことか・・・ちょっと不安になってきた」
〘アナタなら余裕でしょ?〙
「僕なら・・・ね」
ただ戦うのは僕ではなくカレン達だ・・・僕はあくまでもサポート・・・ヒーラーとして参加するだけ
3人の実力は知らないけど果たして上級魔物のしかも亜種を複数体相手に出来るのか?
〘無理なら無理でいいんじゃない?アナタが倒せば〙
「いやまあそうなんだけどね・・・」
ゲイルさんみたいに何か因縁があってとかならそうもいかないし・・・まあでもこっちから根掘り葉掘り聞くのも何だしなぁ・・・
〘・・・それで?リザードマン亜種の感想は?〙
「ん?・・・ああ、考え事をしてたからあまりよく見てなかった・・・普通のリザードマンより強い・・・かな?」
〘あのねぇ・・・まあいいわ・・・で?どうするの?〙
「一応ここで終わりにするよ。21階のゲートを使えるようになるのが本来の目的だしこの先は見なくても問題ないでしょ」
〘だと良いけどね〙
「・・・多分大丈夫さ・・・多分・・・」
リザードマン亜種を倒した後に21階まで降りて備え付けのゲートを通る
そしてゲート部屋に戻ると宿屋にゲートを繋いで三度ベッドに身を委ねる
明日はアジートダンジョンを21階からカレン達と正規のルートで攻略だ・・・もしかしたら何日か掛かるかも・・・通信道具は倉庫に入れて置いた方がいいな・・・それと用意する物は・・・
考え事をしながら僕はそのまま眠りについてしまった
この時の僕は失念していたんだ
ダンジョンは生き物であるということを──────




