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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
322/856

318階 存在

ファーネと別れてから何時間が経過しただろうか


床に滴る汗の量がその時間の長さを唯一教えてくれる


この量だともうすぐ夕飯の時間だろう・・・そろそろお腹を空かしたアイツらが私を呼びに来る時間・・・そんな事を考えているとタイミングよく階段から降りてくる人の気配がした


「もう夕飯の時間・・・か・・・」


「その姿は久しぶりだね。ん?仮面で姿を・・・なるほど・・・修行をするだけならそれで十分か・・・」


「なんで・・・」


降りて来たのはマッド達ではなかった


階段を降り何を思ったか彼は仮面を取り出すと変身する


私と同じように見た目はそのままで服装だけを替えて


「ひとつ手合わせをお願いしても?」


「・・・そろそろ相手が欲しいと思っていた・・・望むところだ」


構える彼は余裕の表情・・・その余裕を・・・すぐに消し去ってやる!



示し合わせたように互いにマナを使わずに体術だけで戦う


そうなるとさすがに私の方に一日の長がある・・・初めは五分の勝負だったが次第に攻撃は当たるようになり彼の表情から余裕が消えた


「手加減してくれても・・・いいよ!」


「本気で望むなら手加減してやる・・・望んでいないだろ?」


「買いかぶり・・・だよ!」


彼が放つ蹴りは鋭い・・・しかし軌道は単純で読みやすい


正確に頭部を狙った蹴りを少し引いて躱すと私も同じ蹴りを放つ


彼は蹴りを放った後で隙だらけ・・・これで決まりだと思ったが彼はわざと体勢を崩し地面に倒れ込むよにして蹴りを躱す


だが・・・


「その体勢で次が躱せるか?」


倒れた彼に蹴り足を止め踵を振り下ろす


倒れた状態では受けるしかない・・・そう思った瞬間に彼の体は・・・沈んだ


「・・・ゲートは卑怯だぞ?」


背後に気配を感じて振り返ると彼が立っていた


「誰も使わないとは言ってないし・・・てか彼氏を本気で蹴ろうとするのはどうなの?」


「それを言うなら彼女の顔面を蹴ろうとするのはどうなんだ?」


「・・・躱すと思ってたし・・・」


「では私も躱すと思っていた・・・という事にしておこう」


「しておこうって・・・次で最後にしよう・・・そうしないと怪我をしそうだ」


「どっちが?」


「もちろん・・・サラが、ね!」


速い!


マナを使わずにこの速さ・・・一瞬で懐に入り込まれ掌底が私の顎を捉えようとする


仰け反りそれを躱すと足を振り上げ彼の顎を狙う


だが彼は間一髪で躱すと更に踏み込んで来た


私は躱された蹴りの勢いを利用して回転し床に足を着けると次に来るであろう一撃に備える・・・が・・・


「んん!?」


彼は攻撃ではなく口撃・・・と言うのだろうか・・・顔を上げた瞬間の私の唇を唇で塞いだ


しばらくぶりの感触・・・そのまま目を閉じて感傷に浸っていたがふと我に返り彼を突き放す


「プハッ!ロウ!?」


「・・・つい・・・」


「『つい』じゃない!・・・ったく・・・それで?どうして戻ってきたの?確か王都へ向かってたはずじゃ・・・」


「馬車の中は暇だからね」


「じゃあ・・・え?どうやってここに?まさかゲートを使って?」


「うん」


「うんって・・・ゲートは信頼出来る人にしか見せないんじゃなかったの?」


行き先が固定されている簡易ゲートですら画期的な道具なのにそれを遥かに上回る能力が世間にバレたら大変な事に・・・


「そう思ってたんだけどね・・・いざ使う時にそういう制約があると動きづらいし・・・なるべくバレないようにするけど身近な人にはバレる前にバラした方が楽だと考えたんだ」


「それはまあ・・・そうかもしれないけど・・・」


多分今一緒に行っている人達にはバラしたって事よね・・・他の人に話さなければいいけど・・・特に王様とかにバレでもしたら・・・


「それはともかくやっぱりサラは強いな・・・ゲートやマナを使うつもりはなかったのに思わず使っちゃったし」


「褒めても何も出ないわよ・・・ってマナも使ったの?」


「うん、ほら最後に飛び込んだ時に・・・」


「ああ・・・通りで速いと思ったわ。・・・・・・ってなんとなく普通に話してるけど・・・ねえロウ・・・貴方はなんでここに?」


「サラに会いたかったから・・・じゃ理由にならない?」


「っ!・・・なるけども・・・ほら、だって昨日・・・」


「怒っていたのは分かっている。それで連絡しても出なかったんだろ?・・・怒っている理由も分かっている・・・僕が全面的に悪かった・・・ごめん・・・」


「・・・謝る必要はないわ。それに多分・・・ロウが思っているような理由じゃないの・・・」


「え?」


「貴方が強いのは十分知ってるしセシーヌ様が危ないと感じたから急いで助けに行ったのも分かる・・・けど・・・」



私は自分の気持ちを正直に話した


ロウの家に不法侵入していた5人組・・・その内の1人を彼は表情も変えずに殺してしまった。私はその判断が正しいか正しくないかではなく・・・躊躇なく人を殺してしまうロウに対して恐れを抱いてしまったのだ・・・


「・・・剣奴として生きるか死ぬかの闘いを強いられていたのは分かっている。相手を殺さなきゃ自分が殺される極限状態が続いたのだ・・・人の命が軽く思えてしまうのも仕方ないのかもしれないし染み付いたものを払拭するのは難しいだろう・・・だから私は・・・貴方がなるべく戦わないよう強くなろうと決めた。強くなりロウが戦いに身を投じなくて済むように・・・強くなろうと・・・けどその矢先に・・・」


「サラの知らない所で僕が戦っていた・・・か」


「ええ・・・助けに行くのは当然だと思う・・・私がロウの立場でも同じ事をした・・・それはもちろんセシーヌ様を助けたいからだけど・・・それでも私はロウに戦って欲しくなかった・・・たとえセシーヌ様がどうなろうとも・・・戦って欲しくなかったと思ってしまったんだ・・・」


「・・・」


「人の命よりも貴方の事を心配してしまった。その浅ましさに自分に嫌悪し貴方に八つ当たりして・・・」


「なんだ・・・そうだったんだ・・・僕はてっきり嫉妬したのかと・・・」


「しっ・・・と・・・」


む、むむっ!イカン・・・顔が熱くなる・・・悟られてはダメだ・・・悟られては・・・


「でも今の話からするとセシーヌの件は分かるけどエミリの件は・・・」


「あ、あれは・・・そ、そう!私が悩んでいるのに呑気にしているロウを見て腹が立ったのよ!別に嫉妬なんて・・・」


じっと私を見つめるロウ・・・思わず視線を逸らすと彼が少し笑ったのが見えた


「・・・次はマナを使っての手合わせといこうか・・・」


「ちょ、サラ!?それは少し危険なような・・・」


「問答無用!」


恥ずかしい!きっと彼にはバレたはず!


この私が嫉妬なんて・・・今はとにかく彼の記憶を消さないと・・・みっともなく嫉妬した私の過去を!





「姐さーん・・・そろそろ腹が・・・って!?」


「もうそんな時間か・・・待っていろすぐに取って来る」


「あ、姐さん?そのお尻に敷いているのは・・・」


「ああ、記憶喪失の通りすがりの青年だ・・・分かったらお行儀よく待ってろ・・・お前も記憶喪失になりたくなければな」


「は、はいぃ!」


ふぅ・・・これで本当に記憶が飛んでくれているといいが・・・それにしても少しやり過ぎたかな?


私相手に本気を出せないロウに対して全力をぶつけてしまった・・・さすがに風牙龍扇を出した時はかなり焦っていたな・・・ん?


倒れるロウの上に乗っていたらお尻に手の感触が・・・気絶寸前まで痛め付けたのにまだスケベする根性が残っているとは・・・


「ロウ?」


風牙龍扇の先を背中に当てて名前を囁くとお尻にあった手はサッと引かれた


どうやらまだまだ元気のようだ・・・仕方ない


「私はマッド達に食事を運ぶ必要がある・・・その後は基本的に自由時間なのだが・・・久しぶりに屋敷ではなくロウの家でお風呂でも入ろうかと思う」


「・・・」


ふむ・・・無言でピクっと反応したな


「嫉妬などという下らない事を言わなければ一緒に入るのも吝かではないが・・・」


「・・・」


ピクピクっと2回反応・・・これは忘れると受け取っても良いだろう


「では、私は行って来る・・・ここで大人しく待ってるのだぞ?」


「・・・はい・・・」


か細い声でだが返事が返って来たので立ち上がり仮面を取ってメイド服に戻る


階段を上がり1階へと戻っている途中に『ヒール』と聞こえ地下の部屋が一瞬明るくなった・・・もしかしたら今日は寝かせてくれないかもしれないな・・・明日も仕事と訓練があるというのに・・・


そう言えばファーネとの賭けはどうなるのだろうか・・・2ヶ月間の賭けだが初日で終わってしまったような・・・まあ無効にせよ継続にせよ私の勝ちは揺るぎないがな──────




次の日・・・


「なんで私が貴女の腰をマッサージしないといけないのよ!」


「勝者の特権だ。冷静に考えるとあの賭けは私に何の旨味もなかったからな」


「勝手に報酬を追加しないでよね・・・一体何回やったらSランク冒険者の腰がやられるのよ・・・」


「・・・言うな・・・」


何回・・・最初の内は数えていたが途中から数える暇もなく・・・あえて答えるとしたら『数え切れぬほど』か・・・


「あー羨ましい・・・私も混ざりたいわ・・・」


「混ざりたいってなんだ・・・まさか3人でって事か?」


「それ以外何があるのよ?まあ当分は無理でしょうね・・・やる事やってる割にはウブだし」


「当分も何もグッ・・・そこを強く押してくれ・・・」


「ハイハイ・・・でもいいの?」


「何が?」


「ゲートよゲート・・・エモーンズにいる人達には話すって言ってたんでしょ?」


「・・・王都の屋敷にいる人達は全員知っている。エモーンズの・・・せめて屋敷で働く者には知っておいてもらった方が何かと動きやすいはずだ」


「耳が増えれば当然口も増えるわよ?」


「そうだな・・・箝口令を敷いても無駄かもしれない・・・」


「果たして聞いた者はどう思うでしょうね?心強い?それとも・・・怖い?」


ゲートは使う者にとってこれ以上にないほど便利な能力だ。見知った事のある場所限定とはいえ瞬時に移動が出来る。使い方によっては多大な富を生むことも可能だし戦闘でも優位に運べるだろう。そして・・・


「敵対する相手ではなくとも恐怖を感じるだろうな・・・もし彼の機嫌を損ねたら・・・」


「暗殺、海の上にドボン、剣の雨を降らせる・・・なんでもござれよね。敵に回したくない・・・けどいずれ敵に回る可能性があるならいっそうのこと・・・」


「そうなる前に殺してしまえ・・・となるだろうな」


彼曰くそこまで万能な能力ではないらしいが知らない相手はその事を知らない・・・想像し恐怖し彼自身をも恐れ始め敵視する。今まで彼がゲートの事を話して来た相手なら問題ないだろう・・・けど・・・


「今屋敷にいる人達は信用出来るの?」


「・・・正直難しいな。知り合って日も浅い・・・ナージは揉めていた侯爵家から来た者だしセイムは宰相の下で働いていたという・・・執事のアダムを筆頭にメイド達も王都から派遣された者が多い・・・誰が誰と通じているかは分からないが・・・普通に考えたら間者はいるよな?」


「でしょうね。下手したら全員かもしれないわよ?なんてたって平民だったロウニール様を辺境伯にするくらいだもん・・・国は取り込む気満々・・・なのに誰も送らないって事はないでしょうからね」


「・・・彼もそれは分かっているみたいだが・・・」


「それでもエモーンズに戻りたかった・・・愛する彼女に会う為に・・・か・・・」


「・・・いや別に私に会う為という訳では・・・」


「他に理由ある?私がロウニール様なら絶対にバレないように誰にも言わないわ。だって国を敵に回すかもしれないのよ?ゲートがあれば逃げるのは楽かもしれないけど逃げた先でも追われる立場になるかもしれないし・・・けどそうなったとしてもいいって考えたからロウニール様はゲートをバラして戻って来た・・・そりゃあ誰にも渡したくないって気持ちも分からないでもないわ」


「ファーネ!・・・アグッ!?」


起き上がり文句を言おうとしたが腰を思いっきり押されてあえなく撃沈・・・ううっ・・・ここまで腰にくるとは・・・


「サラ・・・ロウニール様は辺境伯であり魔物も創れてゲートも使える・・・恐らくこの世界で唯一無二の存在よ?その人を・・・果たして貴女1人で支えられるかしら?」


「・・・」


ファーネの言葉に胸が疼く


支えてみせる・・・その言葉は口から出ることなく時間だけが過ぎていった──────

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