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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
321/856

317階 賭け

「なるほどね・・・つまりコソコソ他の女性と会っていたロウニール様を懲らしめる為に連絡を無視した・・・と」


屋敷での話を終えたファーネが私のいる宿舎に来て事の経緯を話してくれた


王都行きが決まったのは昨日の事だったらしい。恐らく彼はそれを伝えようと私に通信道具を使った・・・けど私はそれに出ず今日を迎えてしまい彼はどうする事も出来ずに王都へと旅立ってしまった


「きょ、今日は話そうと思ったんだ・・・それで話を聞いて・・・」


「と思ったら王都に行ってしまっていた、と。他のメイドは知ってたはずなのになぜ貴女だけ・・・」


「・・・私は見習いだし今の担当はこの離れの宿舎だから中々顔を合わす機会がなくて・・・」


顔を合わしたところで教えては貰えなかっただろうけど・・・


「一応聞いたらロウニール様に同行しているメイドはマウロとラルってメイドらしいわ。ラルってムルタナの子よね?あの子は大丈夫だと思うけどマウロってメイドはどうなの?」


「どうなのとは?」


「決まっているじゃない・・・ロウニール様を襲うか否か、よ」


「・・・」


襲う・・・誘惑するかどうかって事か・・・


「非常に危険だ・・・と思う」


「・・・貴女・・・このままだと本気で終わるわよ?」


「え?」


「え?じゃないわよ。いい?今のロウニール様は不安になっているはず・・・付き合っている相手に無視されてそのまま離れ離れになって・・・色々考えてしまうと思うわ。『嫌われたのではないか』『もう元の関係に戻れないのではないか』・・・そんな事を考えている時に他の女性から襲われてみなさい・・・男なんて単純なんだからコロッと・・・」


「き、嫌ってなど断じて・・・」


「貴女がどうこうじゃない・・・相手がどう思うかよ。貴女はそれを相手に伝えていないでしょ?だったらいくらそう思っていても意味はないわ」


「な、なら今すぐに彼に伝えれば・・・」


「そうね・・・でも彼が出てくれれば・・・だけどね。貴女も経験したから分かっていると思うけど旅の間はずっと・・・それこそ片時も離れずにメイドって傍にいるじゃない?そんな状況で出れると思う?」


「別に離れる事は出来るだろう?用を足しに行くと言えば一人の時間も・・・」


「そこまでしてくれればいいけどね」


「・・・どういう意味だ?」


「そのままの意味よ。前日に連絡が取れなかった相手・・・その相手から連絡が来たらどう思うかしら?素直に喜んで連絡してきてくれたと思ってくれればいいけど、『今更何の用だ?』なんて思われたら・・・」


「そ、そんな事彼が思う訳ない!」


「どうかしら?そこまで信用しているのならなぜ貴女は彼を信用しなかったの?エミリ殿と浮気しているのでは?と疑ったから懲らしめようと通信を取らなかったのよね?貴女が疑ったのに相手は疑わないとなぜ言えるの?」


「う、疑った訳ではなく一言も相談もなく他の女性と食事をしていれば彼女なら怒って然るべきだろう?だからそれを・・・」


「そう?信じているのなら何か事情があって仕方なく2人で会っていたと考えると思うけど?だから怒りもしないし追及もしない・・・それに事前に話そうにも前日に口論したらしいじゃない・・・そんな時に『明日エミリと会う』なんて言えると思う?そんなの火に油を注ぐだけだから言えないわよね?」


「・・・」


ファーネの言う通りかもしれない・・・エミリ殿と会ったのは恐らくセシーヌ様の件に違いない。セシーヌ様の件であれば他の人に聞かれたら不味い可能性が高いから2人で会うのはやむなし・・・彼は『浮気』なんて全く頭になかった。だから白昼堂々と2人で歩けた・・・


「・・・ファーネ・・・」


「なに?」


「・・・どうしよう・・・」


1人で怒って勝手に勘違いして連絡も無視して2ヶ月も離れ離れに・・・距離だけでなく心もなんて事になったら私は・・・


「別にサラが悪いって訳でもないけど・・・ロウニール様の配慮に欠けた行動が今の現状を作った訳だし・・・けどタイミングも悪かったから諦めるしかないわ」


「え?諦めるって・・・」


「どちらかをよ・・・メイドを諦めて今から追いかけるかロウニール様を諦めてメイドを続けるか・・・二つに一つ・・・」


「・・・どうしてメイドを続けると彼を諦める事に?」


「諦めるって言っても別れるって事じゃないわ。独占するのを諦めるって事よ。2ヶ月の間何もないと思う?貴女は決断しないといけない・・・他の女性に手を出したロウニール様を許し共に歩むか許さず別れるかを」


「・・・手を出さないって考えはないのか?」


「そんなファンタジーが起きると思う?ロウニール様の立場になって考えてみなさいよ」


ロウの立場・・・私が彼なら・・・


「いや、出さないぞ?」


「・・・なら賭ける?向こうで何日過ごすか分からないけど行き帰りで2ヶ月はかかる・・・その2ヶ月でそんなファンタジーが起きるかどうかを」


「・・・何を賭けるの?」


「貴女が勝てば私は今後一切ロウニール様を誘惑しないわ。でも私が勝ったらロウニール様の妾に推薦して・・・大丈夫・・・貴女から奪ったりはしないから──────」





「お兄ちゃんあそこに見えるのムルタナじゃない?ほら、煙が出てて・・・」


「ラルさん、『お兄ちゃん』ではなく『ご主人様』ですよ。まあここにはご主人様と私とラルさんしかいないので大丈夫ですが人前では気を付けましょうね」


「あ、はい!マウロさん」


馬車の小窓から外を眺めはしゃいでいるラルを窘めてチラチラと僕を見るマウロ・・・この3人で1ヶ月近く馬車の中か・・・ラルだけならともかく・・・


「ご主人様?お疲れでしたら横になられては?枕でしたらここに・・・」


と言って自分の膝を差し出してくる


「いや、平気だ。それより少し考え事をしたいのでそっとしておいてくれ」


「・・・畏まりました」


マウロは何故か少し残念そうに頷いた


さて・・・どうしてこうなった?


せめてもう少し時間があればサラと共に楽しい旅が出来たというのに・・・まさか通信を一切無視するくらい怒っているとは思わなかった


やはりセシーヌの件で?それともエミリと2人で会ってた件だろうか・・・よくよく考えると浮気しているように見えなくもない・・・そんなつもりは全くなかったので気付かなかった


少し甘え過ぎていたのかも・・・サラなら分かってくれると・・・考えてみれば逆の立場ならモヤモヤしてしまうだろうな・・・サラが他の男を助けに行ったり日中2人で食事をしているのを目撃してしまったら・・・当然嫌な気持ちになる


なのに僕は・・・ハア・・・


とにかくこの状況をどうにかしないと・・・となると・・・


今馬車の中にいるマウロとラルを見た


ラルは問題ないにしてもマウロにゲートの事がバレても問題ないだろうか・・・僕のメイドだし他に話したりはしないと思うけど・・・


ゲートの存在を知られるとかなり厄介だ。これまであまり気にせず使っていたけど信用出来る人の前以外では使わない方がいいだろう


かと言って王都に行って帰って来るまでこのままにしておくのは・・・くっ、仕方ない


「ラル、ケインに馬車を止めるよう言ってくれ」


「?うん分かった・・・じゃなくて分かりました!」


ラルは小窓から元気よくケインを呼ぶと馬車を止めるようお願いした


すると馬車は速度を緩め完全に止まった


〘ロウ・・・アナタまさか・・・〙


〘いずれバレる事だ・・・味方には話しておく。もしそれで他にバレたら・・・その時はその時だ〙


〘・・・まあアナタがそれでいいなら別に止めないけど・・・有用な力はそれだけで恐怖の対象になる・・・隠しておいた方が平穏な日々を過ごせるわよ?・・・いいの?〙


〘構わない・・・けどまあなるべく隠すようにはするけどね〙


「休憩を所望・・・って事でいいのか?辺境伯」


馬車の扉が開け放たれ呆れた様子でケインが言う


元部下が上司となった複雑な状況は分かるけどもう少し取り繕って欲しいもんだ


「いや、休憩じゃない。みんなに話しておきたい事があるんだ」



馬車から降りて集まってもらったのは御者4名にケイン達護衛4名そしてメイド2名の計10名


何事かと集まるその人達に僕は今まで秘密にしていた能力の事を話した


ゲート・・・行った事のある場所へ瞬時に行ける能力


悪用しようと思えばいくらでも出来るこの能力はなるべく知られないようにしてきた。今回や前回も馬車に乗って王都に行っているのはバレないようにする為の偽装工作だ


「便利な能力だな・・・いっそう馬車ごと運んでくれればいいものを」


「そんな事をすればバレるだろ・・・一応は完全にバレるまでは隠しておきたい。理由は・・・分かるだろ?」


「まあな。で?それを話したって事は抜けてどっかに行くつもりか?」


「ああ。なのでまず王都にメイドの2人を送る。他の者達は空の馬車を無事に王都まで届けてくれ」


「それは気楽でいいが・・・街に寄るなって事か?」


「そうなるね」


街に入るには馬車の中も見せないといけない。流石に空の馬車を見せたら怪しまれるし・・・


「とりあえず何かあったら連絡くれればすぐに戻るようにする。どうしても街に寄りたければその時だけ戻っても構わない」


「分かった分かった・・・用事があるのだろう?だったらさっさと行け。どうせなら早く王都に着いて一杯やりたいからな」


「はいはい・・・じゃあラルとマウロ・・・2人を王都に送るよ。その後で私はちょっとエモーンズに用事があるけど基本的には王都にいるつもりだから安心してくれ」


「は、はい」「うん!」


「じゃ、よろしく頼む」


「ああ」


ケインの返事を聞いてから目の前に王都の屋敷へのゲートを開き3人で中へ


これで後は馬車が王都に着くまでは自由な時間だ・・・エモーンズに居るみんなにはゲートの事を話しておこう・・・それでバレても──────




「行ってしまいましたね・・・本当にそんな能力が・・・」


「まあ『ダンジョンナイト』と呼ばれている時から神出鬼没だったからな・・・何かしらあると思ったが・・・」


「隊長・・・もし国にバレたら・・・」


「いずれバレるだろうな。アイツもそれは覚悟の上だろう・・・ただどうするかは話は別だが・・・」


「どうするかってまさか・・・」


「・・・下手すりゃ7()()()()()の誕生だ・・・」


「やはりそっちになりますか?」


「どうだろうな・・・まっ、それを覚悟して俺達に話したんだ・・・よっぽど大事な用事があるのかそれとも・・・何も考えてないのかだ」


「後者のような気がしてならないのですが・・・」


「・・・チッ、お前達全員今日の事は口外禁止だ!言えば必ず戦争が始まる・・・喋った奴は俺が軽い口を永遠に開かぬよう閉ざしてやる!分かったか!分かったら出発するぞ!どうせ中身は空っぽだ・・・馬の休憩以外は止まらないと思え!」


「はっ!」


ケインの言葉に隊員と御者が返事をすると各自馬と馬車に乗り込み出発の準備を開始する


それを見ていたジェイズがケインの横に並び深くため息をついた


「意味あります?その脅し」


「気休めだ」


「・・・騎士団から辺境の地に飛ばされて、今度は辺境伯の私兵となって果ては祖国と敵対ですか・・・両親をエモーンズに呼んでおいた方がいいですかね?」


「アイツはそっちを選ぶと思うか?」


「隊長はそう思っているのでしょう?」


「・・・国が知れば軍事活用するだろう・・・そうなれば戦争が始まる。だがもし従わなければ・・・国と対立し戦う祖国と戦争だ」


「どっちにしろ戦争・・・本来なら裸足で逃げたくなるような状況なんですが・・・」


「勝ち戦を前にして逃げる奴もいないだろう?もしアイツが国を興せば勝てる国などない・・・たとえ覇王国と呼ばれるリガルデルでも、な──────」

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