314階 ロウニールVSシークス
それは突然の連絡だった
サキから『20階の待機部屋を見るにゃ!』と言われて見てみると・・・そこにはシークス達のパーティーと何故かセシーヌが居た
なぜセシーヌがシークス達と・・・そもそもダンジョンになぜ入れる?エミリはなぜ一緒じゃないんだ?
疑問は尽きないがここで考えていても答えは出ない
部屋で休んでいたが居てもたってもいられずアダムに誰も入れるなと伝えると武道着に着替えた後でゲートを開き突入した
「・・・本当に来やがった・・・」
僕を見るなりシークスの仲間達はガッカリとした表情・・・だけど当のシークスと彼に拘束されているセシーヌは他の者達とは明らかに違う表情を浮かべる
「ハッ!ノコノコやって来るとはね・・・初めからこうしておけば良かったよ」
「・・・ロウニール様・・・」
微笑みを浮かべる2人
全く意味の違う微笑みなのだろうけど2人は僕を見て微笑んでいた
「・・・どういう状況か説明してもらおうか」
「説明がいる状況か?男が女を襲おうとして助けが来た・・・ただそれだけだよね?」
「つまり自殺願望があると?」
「魔王を倒した奴は言う事が違うね・・・どうしてここまで差がついた?」
「日頃の行いの差じゃないのか?」
「面白い冗談だね・・・女を捕まえておけ・・・ボクが勝ったら犯していいよ」
「おっ、おお!心の底から応援するぜ!」
セシーヌの身柄を仲間に託すとシークスは構える
そして・・・
「行くよ・・・『黒蝕招来』」
体全体が黒ずんで行く
魔力をマナで強引に操る技・・・それが黒蝕招来の正体だ
暴れる魔力をマナで抑えつけ操ろうとすれば体への負担もあるし最悪魔人化してしまうリスクもある
見よう見まねで使った事がある技だが今の僕にとってはリスクだけで何の旨味もない技だ
「辛くないか?魔力が暴れて大変だろう?」
「・・・それが分かっているな・・・さっさと死んでくれるかな?」
シークスは床を蹴り瞬時に間合いを詰め掌底を放ってきた
以前の僕なら慌てふためき為す術なく食らっていたかも・・・スピードだけで言えばサラより上かもしれないな
「・・・っ!・・・やな奴だね・・・君は」
「そう?本当の魔力の使い方ってやつを教えてあげようかなってちょっとした親切心だったんだけど・・・」
鳩尾を狙った掌底・・・普通なら腕で防ぐか後ろに下がって躱すしかない・・・けど僕はあえて攻撃を受けた。もちろんそのままではなく魔力を纏って
魔王は魔力を纏い僕達の攻撃を防いでいた。ただそれを真似しただけだけどなかなか便利だな
「それは嬉しいね・・・そのまま死んでくれるともっと嬉しいんだけど・・・ねっ!」
シークスの猛攻が始まる
流れるような動き
ひとつひとつが一撃必殺であるのが分かる
急所を的確に狙ってくる・・・殺意を込めて
「このっ!どうしてっ!」
分かる分かる
その絶望感は僕も味わった
届きそうで届かない攻撃・・・自分の攻撃は一切通用しないのでは?と不安になり焦り出す
こちらが攻撃せずにそんな状態が続くとどうしても攻撃は大振りになり・・・
隙が出来る
シークスが拳を引いた瞬間に踏み込み懐に入ると胸の辺りに拳をめり込ませた
魔力に纏われた拳は肉を潰し骨を砕く
血を吐きそれでも闘志は衰えず引いていた拳を放ってきた
「・・・くっ・・・なぜ・・・届かない!」
拳は確かに僕の顔面に当たったはずだった・・・シークスにとっては痛みに耐え抜いた後の渾身の一撃だったはず。だけどその一撃すら僕には通じなかった
これは強さの差ではなく質の差と言えるのかもしれない
マナは魔力を人間に適した力に変換した力
魔力は魔族以外のものを破壊する為に生まれた力
力の質の差が僕とシークスに決定的な差を生み出してしまっている
「どうして・・・どうしてだ!!どいつもこいつもボクを舐めやがって!!」
「真っ当に生きるって約束すれば教えてやるよ」
「ふざ・・・けるなっ!」
怒りに任せての大振り・・・それを躱して再び懐に入ると今度は両手を突き出した
単なる双掌打が思わぬ威力を発揮してシークスは離れた壁まで吹っ飛び倒れ込む
あれだけ強かったシークスを圧倒してしまうこの力・・・ダメだ・・・このままじゃ・・・
「・・・な・・・舐めるな・・・ボクはこんなものじゃない・・・ボクは・・・ボクは!!」
え?
シークスは立ち上がると叫んだ
叫びながら再び黒蝕招来を使おうと・・・しかしコントロールを失ったのか魔力がマナを上回ってしまっている
このままだと魔力がシークスの身体を侵食し魔人に・・・気絶させてでも止めないと!
「近寄るな!!」
僕の意図が分かったのか駆け寄ろうとした僕を威圧する
言霊とまではいかないけど魔力の波動が行く手を阻む
「あ!お、おい!」
僕が足を止めたその時、シークスの仲間が声を上げた
見るとセシーヌが掴まれていた腕を振り切りシークスの元へ向かっていた
今のシークスは危険だ。錯乱状態で誰彼見境なく攻撃する可能性がある
止めないと・・・そう思い止めた足を再び動かす
「邪魔だ!近寄るな!!」
「・・・」
まだ自我があるのか自分を必死に抑え込み近寄るセシーヌを攻撃しないようにするシークス
セシーヌはそんな危険な状況を見ても足を緩めず真っ直ぐにシークスの元へ向かうと背後に回り両手を背中に当てた
「っ!君は・・・」
「黙ってて下さい!」
セシーヌの両手から眩い光が放たれシークスの背中から全身へと流れ込む
シークスの身体を侵食しようとしていた魔力よりも遥かに多い神聖な光が次第に魔力を消していき、やがて全てを覆い尽くすとふたつの相反する力は消え去った
「・・・良かった・・・」
額に浮かぶ汗を拭きながらホッとひと息をつくセシーヌ・・・その彼女に対して魔力をが消えた自分の身体を見たシークスは振り返るとセシーヌと対峙し・・・
「・・・え?」
平手打ちを食らわせた
驚き赤くなった頬に手を当てるセシーヌ
なぜ自分が叩かれたのか分からないといった感じでシークスを見た
「ふざけろ・・・邪魔しやがって・・・」
「シークス!」
「君は黙っててよ!ようやく・・・ようやく追いつけそうだったのに・・・」
まさか自らの意思で魔人化しようとしたのか?だからそれを止めたセシーヌを叩いたと?
「・・・わ、私は・・・」
「君がやろうとしていた事と同じなはずだ・・・自らの命を顧みず目的を達成しようとしていた君と・・・だから君の策に乗ってあげたのに・・・興醒めだよ・・・行くぞ!お前達!」
セシーヌの策?一体何の話だ?
シークスは仲間達と共にボスへの扉を開き行ってしまった
扉は閉まりこれでシークス達が20階のボスであるスモークフラッグを倒すまで扉は開く事はない。ゲートを使えば追いかける事は可能だけど今は・・・
「策って・・・どういうこと?」
ここにシークス達とセシーヌが居ること自体が不思議だった
いつも傍に居るエミリが居ないことも・・・そもそもセシーヌとしてはダンジョンには入れないはず・・・入ろうとすればギルド職員が止めようとするはずだし強引に入れば騒ぎになるはずだし・・・
「・・・申し訳ありません・・・」
「え?」
「私達が魔王と対峙している時、シークス様が広場でエミリやお父様、ランス達を助けてくれたと聞き及んでいました。それでお礼を兼ねて何か贈ろうとシークス様の事を調べているとある噂をお聞きしまして・・・」
「ある噂?」
「シークス様とロウニール様があまり仲がよろしくないと・・・それでシークス様はロウニール様のお命を狙っていると・・・」
うーん・・・まあ仲は良くない・・・かな?命を狙われているかどうか分からないけどシークス達が残っている理由はエモーンズのダンジョンを破壊すること・・・そうなると僕の命を狙っていると同じことか・・・
「それでどうして・・・」
「・・・私は『場』を提供しますと約束しました。もし来なければ私を好きにしていいとお伝えして」
・・・は?それってつまり・・・
「ロウニール様は来てくださいました。私を助けに・・・そして戦ってくださいました・・・私の為に」
「ちょっと待ってみようか・・・セシーヌは自ら人質になり僕をこの場所におびき寄せシークスと戦うように仕組んだって事か?それで僕が来なかったら・・・」
「ロウニール様が負けた場合も私は生きてここを出るつもりはありませんでした」
来なくても負けても死ぬつもりだって!?
「何を考えているんだ!」
「・・・自分でもとんでもない事をしてしまったと思っております。でも・・・自分で幕を下ろせないのです・・・誰も犠牲にならず諦めがつく方法が・・・思い付かないのです・・・ならばいっそう諦めがつく方法を考えてそれを自ら実践すればいいと考えました。勘違いしないでください・・・ロウニール様が負けてしまうなど露ほどにも考えてはおりません。今回私が死ぬとしたら・・・それはロウニール様が私の事に気付かなかった時だけです」
「いやいやいや・・・サキがたまたま僕に報告してくれただけでその報告がなければ僕は気付く事はなかった・・・ただの偶然なんだよ!それを・・・」
「でも気付いてくれた。もし運命というものが存在するのであれば、ロウニール様はきっと気付いてくださると信じていました。もし運命が2人を引き裂こうとするならばロウニール様は気付かず私はここで果てていたでしょう」
果てていたでしょうって・・・ダメだ完全に暴走している。気を引きたくてちょっと無茶しちゃいましたってレベルじゃない!
「セシーヌ!」
「はい」
止めないといけない・・・それこそさっきシークスがやったように叩いてでも!・・・でも・・・
「・・・もうこんな事はやめてくれ・・・セシーヌが聞きに陥れば僕は何度でも助ける・・・けど・・・今回みたいにわざとやるのなら・・・僕はもう君を助けない」
「・・・申し訳ありませんでした・・・もう致しません・・・」
元々そういう事をする子じゃないはず・・・だからもうする事はないだろう
それにしてもエミリの奴・・・なぜセシーヌの暴走を止めなかったんだ?いつもなら率先して止めるか何がなんでも着いて来るはずなのに・・・
僕に怒られて落ち込んでいるセシーヌには聞けそうにないので後日エミリに直接聞く事にした
セシーヌをゲートを使って協会まで送ると屋敷に戻り自室のベッドに横たわる
なぜセシーヌはあんな事を・・・
いまいち女心が分からず頼れる彼女に聞いてみようと通信道具に手をかけた
それが彼女の逆鱗に触れるとは知らずに──────




