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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
312/856

308階 新メンバー

ようやく長い道のりを経てエモーンズに到着するとセシーヌ達とは教会の前で別れて街の一番奥にある屋敷へ向かった


アダムとメイド達に迎えられ、その中にはメイドとなったラルの姿も


初々しいメイド姿のラルは僕を見て思わず『お兄ちゃん』と呼んでしまいグレアに叱られてしまった


僕としては『お兄ちゃん』でも良いのだけど・・・まあ仕方ないか



屋敷に入るとまずはセイムとナージの部屋を決めた


そして自室にてひと息ついたのも束の間、ナージから一言言われてしまった



人手が足りない、と



これから何をするにしても『僕がやる』という訳にはいかない。それだと時間ばかりが掛かってしまい上手く回せないとか


今何をするべきか考えるのに直接その場を見る必要が出てくる・・・その時に今までなら僕がゲートを使い直接現場を見ればいいと思っていたけどそれだと体がいくつあっても足りないようになる


ナージやセイムに任せるなら2人を守る為の兵士が必要だ。それと2人が円滑に仕事が出来るように配下も


そうしないと今回みたいに僕が長期間エモーンズから離れてしまうと何も出来なくなってしまう。現に自室に戻った時に見た机の上に置かれている書類の山は僕が不在の時に築かれたものだった


「必要なものであれば私に聞かずに揃えて構わない。2人に任せる」


「畏まりました」


投げやりだが貴族に仕えていたナージの方がその辺は詳しそうだし2人が必要となるものを僕が聞いてから揃えるより効率的だろう


「セイム、必要なものが揃ったらこの種類に目を通しておいてくれ。私の決済が必要なものをピックアップしセイムが処理可能ならそのまま頼みたい」


「は、はい!」


これでよし・・・後は2人に任せて僕は僕で動くとするか


2人が部屋を去るのを見届けると部屋の隅で立っている老執事アダムを見た


「サラを呼んでくれ。人に会いに外に出る」


「畏まりました」


帰って来たばかりで慌ただしい感じもするけど早いに越したことはない。遅くれば遅くなるだけ負担が今いる人達にのしかかるからな


「お待たせしましたご主人様、お呼びでしょうか?」


「戻ってそうそう悪いね。これからちょっと人に会い行くんだけど着いて来てくれないか?」


「畏まりました。ちなみにそれはメイドとしてでしょうか?それとも・・・」


「どちらでも構わない。向こうはサラの事も知ってるしね」


「?・・・畏まりました」


そう・・・今から会いに行く人はサラも知っているあの人だ


快く迎えてくれるか分からないけど知った顔が多い方が懐柔しやすいと思いサラにも着いて来てもらう事にした


その相手とは──────




「久しぶりです・・・ジェファーさん」


組合『ダンジョンナイト』で会計をしていて、『ダンジョンナイト』解散後は『エモーンズシールダー』で会計を務めているジェファーさん


ギルドの2階に住んでいたけど今は借家暮らしと聞いていたのでその家を訪ねるとドアが開き彼女が出て・・・


バタン


僕の顔を見るなり閉めやがった


「ちょ!?ジェファーさん??」


「何ようるさいわね・・・偉い偉いロウニールが私なんかに何の用?・・・ってサラさんじゃない?コスプレ?」


「コス・・・今はロウニール様のメイドをやらせてもらっている。つまりこれは制服だ」


「ああ、そう・・・ってメイド!?・・・お互い落ちる所まで落ちたわね」


「落ちた?」


「・・・まあいいわ。入りなさいよ。話があるんでしょ?」


彼女は一度は閉じたドアを開け放ち僕達を迎え入れる


中に入ると乱雑に置かれた服やら何が書かれているか分からない紙やら食べかけ飲みかけの食器が床に散乱していた


ぶっちゃけ足の踏み場もない・・・墓地近くの僕の家の方がよっぽどキレイだぞ?


「で?何よ」


ジェファーさんはおそらくいつもそこに座っているのだろうと思われる場所に座るが僕達は座る場所が見当たらない・・・仕方ないので立ったまま話す事にした


「今の仕事はどうですか?」


「どうもこうもないわよ・・・給料は下がるわこき使われるわで散々・・・部屋を掃除する暇もないわ」


「そんなに?」


「見りゃ分かるでしょ?意外とダンって細かいのよ・・・冒険者毎の収支や攻略した階層の管理、それと組合全体としての売上にサポートの手配・・・細かいのはいいけど全部私に押し付けてくるもんだから休みなしの暇なしよ・・・最近では冒険者の顔を見るだけで吐き気がするわ」


「断ればいいんじゃ・・・」


「断ろうとしたわよ!でも『代わりはいくらでもいるからイヤだったら辞めてもいいぜ?』なんて言われたら・・・今から再就職先見つけるのも大変だし・・・ハア・・・」


だいぶ疲れた様子・・・足元に置かれている紙を見ると冒険者の名前と詳細が書かれていた。つまりこの床に散らばっている紙は全部冒険者の個人情報?


「あーちょっといじらないで!動かすとどこにあったか分からなくなるから!」


僕が紙を拾おうとしたら凄い剣幕で止められた


どうやら彼女なりに配置し記憶しているらしい


「整理したらどうですか?」


「初めはしてたわよ・・・でもまとめていたファイルを落とした時に床にちらばったのを見て何かがキレてしまったの・・・もうこのままでいいやって」


「な、なるほど・・・」


「で?まさか今の仕事がどうか聞きに来た訳じゃないのでしょう?何しに来たのよ」


「・・・今の仕事を辞めて僕のところで働きませんか?もちろん待遇は・・・」


「やるわ」


食い気味に即答かよ・・・


「まだ何をしてもらうとか条件とか言ってませんけど?」


「辺境伯だっけ?偉くなったんだから高待遇で高給なのは間違いないわ。それにサラさんも居るしね」


「いやそうするつもりだけどせめて内容くらい聞いてから・・・」


「必要ないわ。以前ロウニールがサラさんに私を紹介したでしょ?それってつまり組合の会計の仕事を私になら任せられると思ったから紹介したのよね?そのロウニールが仕事を頼むって事はドブさらいをしろとか言わないはず・・・聞くまでもなくお金関係の仕事でしょ?」


「・・・その通りです・・・」


「ならやるに決まってるわ。・・・でも数日待って欲しいの・・・」


「そりゃあ待ちますけど・・・何かあるのです?」


「コレよコレ・・・さすがにこの状況で辞めるなんて言えないわ。これまで書き溜めたものをファイリングし渡してようやく辞めることが出来る・・・じゃないと次の子が可哀想でしょ?」


言われてみればそうだな


確かにコレを整理整頓するには数日掛かりそう・・・かと言って手伝う暇は・・・いや・・・


「この書類は他の人が見ても?」


「ん?別に構わないわよ。見られて困るような事は書いてないし」


「そっか・・・それなら・・・」


僕は懐から通信道具である石を取りだしマナを送ると石に向かって喋りかける


「アダム、聞こえるか?」


〘はい〙


「可能な限りのメイドを今から言う場所に向かわせてくれ。大掃除を頼みたい──────」




そんなに離れた距離ではないけどわざわざ馬車に乗ってきた


送り込まれたのは4人のメイド


早速ジェファーさんの指示の元、家の中の大掃除をしてもらう事に


「これだけの人数でやれば一日で終わりそうね助かるわ・・・あっ!それは捨てちゃって!もう着ないから」


喋りながらとテキパキと指示を飛ばすジェファーさん


この様子なら本当に今日中に終わるかも・・・


「用事があるので僕達はこれで・・・また様子を見に来ます」


「ええ、分かったわ」


手伝いに来たメイド達だけ置いて僕とサラはジェファーの家を離れた


「何かこの後ありましたか?もしなければ私も残って・・・」


「用事はあるよ。ジェファーさんの家を見てて思い出したんだ」


「?」


忘れてた訳ではないけど来る暇も必要もなくなってしまった場所・・・1ヶ月前くらいにサラとファーネがお風呂だけは使ったけどそれ以外は使用してないからな・・・掃除して風を通してやらないと・・・


「なるほど・・・そういう事ですか・・・」


どうやらサラもどこに向かっているか分かったみたいだ


でも勘違いしているみたい・・・別にやましい事なんて考えてない・・・とは言わないけど・・・まあ時間が余ったら・・・そりゃあねえ・・・


あえて反論はしない・・・3週間も我慢したんだ・・・掃除している時にちょっとイタズラしてそのまま・・・なんて考えてもいいはず・・・ここで反論しちゃうと嘘になるからな・・・


チラッとサラを見たけどまんざらでもなさそう・・・これは掃除は後回しにして久しぶりに2人っきりでイチャイチャと・・・ん?


期待に胸を膨らませルンルン気分で家の近くまで来ると誰も居ないはずなのに家の中から声が聞こえる


「ご主人様」


「ああ・・・知り合いならいいけど・・・」


勝手に誰かが僕の家に上がり込んでいる


ジケット達ならともかく他の者ならどうしてくれようか


聞こえて来る声で既にジケット達ではない事は確定している・・・しかも下品な笑い声からあまり歓迎出来ない奴らのようだ


せっかくのルンルン気分が台無し・・・少しキレそうになりながら真っ直ぐ家に近付くと思いっきりドアを開けた


「・・・あん?」


開けて見てみると5人の冒険者っぽい奴らが昼間っから人の家で酒盛りしてやがった


「なんだ?その格好・・・商人の坊ちゃんか?」


「何しに来やがった・・・邪魔すんなあっち行け」


凄い言われようだな・・・人の家に勝手に上がり込んで・・・


この冒険者達に見覚えはない・・・もしかしたら僕がエモーンズに居ない間に他所から来た奴らか?


「ここは僕の家だ。勝手に入るな」


「あん?僕の・・・家?」


そう言うと冒険者達は顔を見合せ突然笑い出す


「そうか!僕ちんの家か!そりゃあ悪かったな!」


「ずっと誰も居ないから空き家だと思ったぜ・・・許してくれ僕ちん」


「やめろよお前ら可哀想だろ?ほら、僕ちん震えちまってるぜ?」


・・・コイツら・・・


「いいからさっさと出て行け」


「・・・出て行け、だぁ?よお僕ちん・・・口の利き方ってのを知らねえのか?・・・お?」


1人が立ち上がり僕に詰め寄ろうとした時、すかさずサラが僕の前に立つ


するとサラを見て男達の目の色が変わった


「僕ちん・・・いいメイドを連れてるじゃねえか。そのメイドを置いて行くのなら今の発言は許してやるよ・・・なあ悪い取引じゃねえだろ?」


「・・・取引?」


「僕ちんは無事パパの元に帰れる・・・俺らは愉しめる・・・商人の卵ならこれがどれだけいい取引か理解しねえとパパのような立派な商人になれないぞ?」


コイツらの中で僕は『商人のどら息子』で確定なのか・・・まあエモーンズでこんな格好しているのって商人くらいだからそう思うのも無理ないか


コートは暑くて脱いでるけどシャツの上にベストを着ているだけでエモーンズでは目立つ・・・本来ならこれにリボンタイも着けるのが普通らしいけど首が苦しくて城に行く時だけしか着けてなかった


一応アダムとサーテンの2人の執事から屋敷に居る時は貴族らしい格好をと言われているからそのままの格好で来てしまったけど本来なら武道着が着たい今日この頃だ


「おい!僕ちん聞いてんのか!?さっさと回れ右だ!」


「おっと!女はそのまんまだぜ?酒の相手をしてくれよ・・・何もしねえからさ」


下卑た笑いを浮かべながら『何もしない』とはこれ如何に


怒りを通り越して呆れてきた僕にサラが振り返り尋ねる


「・・・ご主人様、如何致しますか?」


「『何もしない』・・・か。サラ・・・彼らの言う通りにしてみようか」


「へ?・・・ご主人様?──────」

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