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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
311/856

307階 ロウニールの理想

「さてと・・・今日はケセナダンジョンの10階を目指しますか」


「・・・はい・・・」


昨日とは打って変わって気だるそうに返事をする3人・・・それもそのはず昨日の夜の風呂場でくんずほぐれつの大合戦・・・イッたとかイかなかったとか何をやってんだか本当に


「今日からは全員一緒にお風呂に入るの禁止な。まったく・・・風呂に入って疲れてどうする・・・」


「・・・面目ございません」


「私も少し悪ノリし過ぎました・・・でもサラ様を責めないであげてください・・・ロウニール様を守る為に凄かったのですよ?『まだだ・・・私はまだイッていない!』と立ち上がられて・・・」


「・・・セシーヌ様・・・」


いやいや、何『友情が芽生えた』みたいになってんの?おかしいでしょ


「しかしファーネ殿の『超絶技』は凄まじい・・・あのような技をどこで・・・」


エミリまで・・・もういっそう風呂自体禁止にするか・・・




エモーンズに着くまでの3週間・・・初日は色々あったけどその後は順調で全く問題なくダンジョン攻略に集中出来た


序盤はほぼセシオンの活躍のみで攻略、5階くらいからは全員で力を合わせて攻略し、エモーンズに着く前日には20階まで降りて来れた


しかしさすがにこのパーティーで20階のボスに挑むのは無謀だろうとボス手前で断念し今回の冒険を終えた


「楽しかったです・・・怖い思いもしましたけど・・・冒険者という職業が少し分かったような気がします」


率直な感想を述べるセシーヌに僕は頷いた


冒険者としての経験は僕も少ない。本格的に潜ったのはカルオスの人喰いダンジョンくらいだからね


魔物を恐れて・・・それでも勇気を出して倒し続けて・・・少しだけ強くなったような気がして・・・最後に報酬を貰った時の達成感は冒険者ならではの感覚だろう


「私も良い経験が出来ました。前の仕事の時は依頼を達成しても何も得られませんでしたが・・・冒険者とは良いものですね」


「侍女を辞めて冒険者になりますか?エミリ」


「セシーヌ様が聖女を辞められたら考えます」


セシーヌが聖女を辞めるはずもなくエミリが侍女を辞める事もない・・・だからこそ2人は悲しい素振りを見せずに笑い合う・・・まるで自分達はやりたい事をやっているのだと言い聞かせるように


「・・・2人は聖女と侍女がお似合いだけど、たまには冒険者をやるのも良いかもな」


「そうですね・・・たまには良いかもしれません」


「けどオッサンの格好だけどな」


「それが玉に瑕ですね」


「むぅ・・・私もたまにはヒーラーをやりたいと思っていたところだ・・・行く時は私も行くぞ!」


3人で談笑していると除け者扱いされたと感じたのかサラが強引に話に加わる・・・でも・・・


「えっと・・・もちろんサラ様もご一緒に・・・でもヒーラーは・・・」


「そ、そうですね・・・サラ殿は近接アタッカーでなければ・・・タ、タンカーはどうでしょうか?ロウニール様はヒーラーも出来ますし・・・」


「・・・」


2人がサラのヒーラーに対してあまり好印象を持っていないのには訳がある


ヒーラーアントの魔核を付与した杖・・・マナを流せば回復の効果を発揮する優れものだ


しかしちょっと絵面的に・・・


杖にマナを流すと先端から液体が出て来る。その液体は回復効果のある液体だ。浴びればたちまち傷が治るので間違いなく効果はあった


ある時セシーヌが怪我をしてサラが回復しようと杖にマナを流しセシーヌに向けると大量の液体がセシーヌに降り注いだ。当然セシーヌは液体まみれとなってしまった


初めて見たな・・・セシーヌの感情が『無』になるところは


それからというものセシーヌとエミリはなるべく怪我をしないように立ち回るようになった


セシーヌの姿ならまだしもセシオン・・・オッサン姿だからな・・・僕も出来れば見たくないと思ってしまった・・・液体まみれのオッサンなんて


「・・・そんな・・・」


項垂れるサラ


助け舟を出したいところだが・・・すまん


ヒーラーアントの杖は宝箱に入れたり売りに出すのは止めておこう・・・回復の杖は改善の余地ありか・・・サキとダンコに他の魔物を教えてもらうか・・・




その日はダンジョンに行かず雑談をしてゆっくり過ごした


セシーヌがエモーンズに訪れる目的は布教活動という名の長期休暇みたいなものらしい。ゼンがよく許したものだと思ったがそれほど次代の聖者聖女我慢確定したのが嬉しかったのだろう


フーリシア王国に残れる権利と言うよりは他国に行かなくて済む権利と言った方がいいのか?他国の聖者聖女はかなり過酷な環境で過ごしているのかも・・・


国は『国の至宝』とか言いながら聖者聖女を『毒』扱いしていると聞いた・・・それはフーリシア王国にとって武器としての『毒』であり他国にとっては『毒』のようなものという意味だ


他国にとって聖者聖女が居なくなると『魔蝕』を治せる者が居なくなると同義・・・『魔蝕』は進行すると死に至るか魔人となり人を襲うようになる。『魔蝕』が広まれば国はまるで毒に侵されたようにじわりじわりと衰退していきやがて国として機能を果たさなくなってしまう


魔人は強大な力を持ち魔力を使う・・・ランクと強さは必ずしも直結しないがあえてランクで表すならAランク冒険者くらいの実力者じゃないと太刀打ち出来ないだろう


そんなものが溢れたら・・・そりゃあ確かに国は機能しなくなる


ここ最近『魔蝕』になる人の数が少ないのは大気に含まれる魔力が少ないからだそうだ・・・逆を言えば大気中の魔力が多くなれば『魔蝕』になる人も増えるという事・・・魔力は人間の負の感情が影響するから下手すると今後『魔蝕』に罹る人が増えるかもしれない


魔物がダンジョンから出て来て人の不安を煽ればそれは間違いなく負の感情だから


これまでの生活が崩れていく


いずれ環境の変化に対応する事は出来るだろうけど、それは犠牲の上で成り立つ・・・いや、僕は運良く現状を知る事が出来た・・・なので犠牲を出さずに対応するのが領主としての務めではないだろうか


魔物が当たり前のように外を闊歩する世の中・・・それを想定して早目に対処すれば犠牲は出なくて済む


「・・・ちょっと前の馬車に行って来る」


「はい、行ってらっしゃい・・・ってロウ!?」


走る馬車の扉を開けて身を乗り出す


前の馬車との距離はそこまで離れていない・・・僕は馬車の上に上がると勢いをつけて飛び上がる


『暗歩』を駆使して前方を走る馬車に追い付くと上に乗りそのまま降りて扉を開けた


「うわぁ!・・・辺境伯様!?」


「悪い、驚かせた・・・2人に話があってな」


セイムとナージが乗る馬車に乱入するとセイムは驚きナージは無言でこちらを見た。両極端な反応だけど3週間も馬車の中でどうやって過ごしていたのだろうか・・・気になる・・・


「お話・・・ですか?」


「ああ・・・2人に考えてもらいたいんだ・・・領地を如何にして守るかを──────」




2人にはダンジョンブレイクが起きていないのに魔物が外に出て来ている事を話した。そして今後は魔物が普通に外を歩く時代が来る可能性も


「そ、そんな事が・・・」


「閣下はどうお考えなのですか?」


「どうとは?」


「安全を取るか利益を取るか・・・それによって考え方の方向性が変わりますので」


「そりゃあもちろん安全だろ」


「ならば冒険者を雇い領地内にあるダンジョンを破壊してはどうですか?」


「・・・なに?」


「魔物が発生するのはダンジョンでは?でしたらその根源を断つのが最も効率的かと・・・ただダンジョンが無くなれば冒険者はいなくなり、それに伴う人口の減少と収益の低下は免れませんが・・・それと冒険者がいなくなると他の領地から移動して来た魔物の対応を兵士で対応したくてはなりません。となると兵力の増強は不可欠となり財政は傾くかもしれません」


「でもいつ来るか分からない魔物に費用を投じれば住民の方の顰蹙を買う事になりかねません・・・あまり得策ではないのでは?」


「安全のみを考慮した場合の話です。逆にお聞きしますがセイム殿の言う『得策』とは何を指すのでしょう?」


「え?・・・それは・・・住民の方が納得するような・・・」


「その考えは危険です。住民の目を気にして政策を行えば一時は支持を得られるかも知れませんが長い目で見たら住民自身の首を絞める事になるでしょう。今回の魔物の件に限らずです。過ごしやすい街がいい街とは限らないのですよ・・・セイム殿」


「・・・なあナージ・・・じゃあ『いい街』の定義は?」


「?・・・閣下が仰ったじゃないですか・・・安全な街です」


「私が?・・・いや確かに安全を取ると言ったけど・・・」


「それが全てです。領主である閣下の意向が『安全な街作り』でしたらいい街とは『安全な街』であり、それに向けて予算を投入する・・・当然の事では?」


「じゃあ『住民が納得する街作り』を目指したらどうなる?」


「全ての・・・というのは不可能でしょうけど可能な限り住民に添った街作りとなるでしょう。その為には住民の意見を聞くのが手っ取り早いかと。ただし住民の求めるものがどうであれ責任は領主である閣下のものとなりますが・・・」


「どちらにしろ『私の意向』という形になるわけか・・・住民の意見を聞こうが聞かまいが」


「はい」


まあそれはそうだろうな・・・決定権は僕にあるのだから当然責任も・・・


「ただ私は住民の意見を聞くのは賛成致しません」


「え?・・・街に住まれている住民の方の意見が最も街作りの参考になるのでは?」


「そうでしょうか?例えば街の飲食店を増やしてくれと要望があったとします。セイム殿はどうされますか?」


「それはもちろん誘致してお店を・・・」


「では、既存の飲食店が反対していたとしたら?」


「それは・・・」


「要望を出した人は『店が遠いから近くに欲しい』と要望を出したとします。けど既存の飲食店は新たに店を出されるとその分売上が減ります。相反する要望が出された時、どちらか一方の要望を叶えないといけないとなると・・・セイム殿はどちらの要望を叶えますか?」


「・・・」


「必ずしも誰もが要望を叶えたから過ごしやすくなるとは限らないのです。誰かが得すれば誰かが損をする・・・今のセイム殿のように悩み苦しむのは要望を出した住民ではなく決定を下し責任を取る閣下となります」


「でも住民の意見を聞かないと何が足りないとか何が欲しているとか分からなくないか?」


「参考程度に聞くのは良いかと思います。が、気を付けないといけないのが聞いた側と聞かれた側の認識の相違がある場合があるのでご注意を」


「と言うと?」


「閣下が参考程度に聞いたとしても聞かれた側は約束したと認識してしまう可能性も・・・そうなると叶えられなかった時に裏切ると思う住民も出てくるかも知れません」


「・・・難しいな・・・」


「難しく考えるのではなく閣下は理想を・・・私共はその理想を如何に効率良く叶えるか考える・・・その為に私共は居るのです」


好戦的な奴だと思っていたがなるほど・・・考える事自体が好きなのか


僕が理想を掲げ、ナージ達がそれを実現する為にどうすればいいか考えそれを実行する・・・そう考えるとこの2人を雇って正解だったかもしれない。ナージは現実的でセイムは住民に寄り添う・・・2人の意見を合わせればかなりいい案が出てきそうな気がする


「ナージ、セイム」


「はっ」「は、はい!」


「私の理想は『安全かつ過ごしやすい街作り』だ。優先は安全だがそれで過ごしにくかったら意味が無い。それを踏まえて考えてくれ」


ふたつを両立させるのは難しいだろうけど・・・それでも2人なら・・・


「それとナージ・・・ダンジョンを壊すのはあくまで最終手段だ。危険だと思ったらやむなしだがなるべくダンジョンを残したまま安全に過ごせるよう考えてみてくれ」


「畏まりました」


エモーンズは安全だけどムルタナとケセナか・・・考える事が多過ぎて頭が破裂しそうだ


もっと人を増やさないとそれこそ休む暇もなくなってしまう


・・・あの人にも声を掛けてみるか──────

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[良い点] 魔王討伐後は成長したなと感じること
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