304階 初陣
ケセナに行った事がないのでまずはムルタナ近くにゲートを開く
そして空高く飛び上がるとケセナ方面を見つめて再びゲートで移動した
それを繰り返すとあっという間にケセナが見える場所まで来れた
僕は人気のない場所を探すと馬車にゲートを繋いだ
ゲートから出て来たオッサン3人組・・・本当の姿なら誰もが振り返るくらいの美女揃いなのだけど今は誰もが目を背けてしまうくらいの妙な迫力がある
「あの村がケセナなのですね・・・なのだぜ」
「セシ・・・オンさ・・・セシオン、その場合は『あれがケセナか・・・しけた村だぜ』が正解で・・・だ」
セシーヌもセシーヌだけど・・・エミリ・・・僕達は別に荒くれ者ではないのだが・・・
「話し方に自信がないのなら無理に喋らなくていいぞ?話し掛けられたら僕が対応するし」
「そうですね・・・やはり慣れるまで時間が掛かりそうなのでそう致します」
いきなり聖女からオッサンだもんな・・・セシーヌの性格から言って慣れるまで相当時間が掛かりそう。そもそも話す機会も少ないだろうし慣れる必要はないかも
僕がこの場所に来るまでに3人はそれぞれ僕が渡した装備に着替えていた
近接アタッカーのセシオンは鎧を身に着け、ヒーラーのサラートは修道服に・・・エミオスは魔法使いらしくローブに着替えてパッと見で適性が分かる感じになっている
「じゃあ行こうか」
「は、はい!」
緊張しまくりのセシオンと共に村へと歩き出す
先頭に立ち歩いていると後ろから歩き方を指導する声が・・・
「もっと大股で歩いた方がいいですよ」
「こう・・・ですか?」
「はい。あまり内股にならないように・・・そうです!それと背筋はあまりピンと伸ばさない方がよりそれっぽいかと・・・そうですねそんな感じです」
エミオスの熱血指導でセシオンはよりオッサンぽくなっていく・・・ところで性別が変わると当然身体の構造も変わるよな・・・イメージだけだと外見だけだがアレはどうなっているのだろう・・・まさか見せてとは言えないし・・・気になる
到着して何事もなく入る事を許可されると初めてケセナに足を踏み入れる
第一印象は『活気がある』だ
ムルタナは最初どんよりとしていたし村の時のエモーンズはどこかほのぼのとしていた。でもケセナは子供達が走り回り村人達が談笑していたり至る所から声が聞こえてきた
「・・・明るい村ですね・・・」
「うん・・・明るいね」
セシオンも同じ印象を受けたようだ
「あら?冒険者さん?こんにちは」
「どうも・・・こんにちは」
僕達を見て警戒する事もなく挨拶を交わす
ふらりと冒険者がやって来た・・・その程度の認識みたいだ
警戒されないのは平和な証拠か・・・でもあまりにも無警戒過ぎるような気も・・・野盗などに目を付けられたらどうするつもりだ?
少し心配になりながら村を歩いていると冒険者ギルドの建物を発見した
あまり裕福とは言えない村の中で冒険者ギルドの建物だけはしっかりとした造りになっている。村が建てたのではなく国が建てたからだろうけど違和感ありまくりだ
初めてのギルドはやはり緊張する・・・ダンジョンで命を懸けて一稼ぎしようって人達の集まる場所だ。必然的に荒くれ者が多く集まる為にトラブルも起きやすい。組合の影響か団結力も高い場合が多く余所者に対して冷たいイメージもある
絡まれるのがお決まり・・・そう思っていた方がいいだろうな
意を決して扉を開けると軽く中の様子を伺う
割と大きい室内にちらほらといる冒険者・・・掲示板には何も貼られていない・・・もしかしたら組合がないのかもしれない
受付カウンターの位置を確認するとそこを目指して歩みを進める。通常ならそこまでの間に一悶着あるはずだがギルド内にいた冒険者達はこちらを見ても興味はなさそうな素振りだ
「こんにちは。ダンジョンですか?」
「ああ、この4人で入りたい」
「ではギルドカードの提示をお願いします」
恰幅のいい元気な受付の女の子にギルドカードの提示を求められ僕達4人はギルドカードを差し出した
女の子はギルドカードを確認すると1人100ゴールドになると告げ僕がまとめてお金を支払った
「この村は初めてなんだけどダンジョンはどこにある?」
「東の方角にあります。村を出ると人が通った跡がありますので迷わず行けると思いますよ」
「ありがとう」
「いえ、ではこちらが許可証になります。ダンジョン入口の職員にお渡し下さい」
「分かった・・・何か気を付ける点はあるか?村特有のルールとか・・・」
「?いえありませんよ。・・・あ、村に宿屋がないのでご注意下さい。村の空き地ならテントなどを立てても問題ありませんが朝には撤収をお願いします」
「そうか・・・ありがとう。では行ってくる」
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
すんなり・・・本当にすんなり終わってしまった
いや、何も無い方がもちろん良いんだけど・・・警戒し過ぎたせいか拍子抜けしてしまった
「あの様子を見ると組合もなさそうだな・・・わざわざ組合を作る必要もないのか何か問題があるのか・・・まあ村の様子を見る限りは前者だろうな」
サラートも掲示板や冒険者の様子を見てそう感じたらしい
組合があれば掲示板に何かしら貼り付けている可能性が高いし見た事ない冒険者が現れれば勧誘もするはず・・・旅の冒険者か移住するつもりかはパッと見では分からない為にそういう探りも含めて話し掛けて来ると思ったのにそれもない
「ギルド長に会っておくべきかな?」
「やめておけ。一介の冒険者がギルド長に会って何を話すつもりだ?」
「それもそうだな・・・今の俺は単なる冒険者ロウハーだった・・・今度暇な時に訪ねてみるよ」
でもな・・・辺境伯って僕が思っていた以上に地位が高いみたい・・・だから僕の事を知らないで辺境伯として接すると萎縮してしまったり畏まり過ぎてしまう。そんな状態では本音は聞き出せないかもしれない
お忍びで村の様子を見て辺境伯として村を訪問して本音かどうか見極めるしかないか・・・パッと見だとこの村はこのままの方がいいのかもしれない・・・無理に発展させて外から人を入れるよりゆっくりとしたペースで必要に迫られたら発展させる感じで・・・
「ロウハー様?」
「うん?・・・ああ、ごめんごめん考え事をしていた。早速ダンジョンに行こうか」
今は領主ではなく冒険者ロウハーとしてダンジョンに集中しよう
僕の役割はタンカーだ。3人とも慣れない役割を担う為に何が起こるか分からない・・・1階からとは言え油断は禁物・・・誰も傷つかないよう僕がしっかりしないと
受付の子に聞いた通り村を出て東へ進むと何度も人が通ったからか整備されてはないのにしっかりとした道となっていた
その道なき道を突き進むとダンジョンの入口が見えてきた
入口には2人のギルド職員と思わしき人が立っており僕達を迎えてくれた
「初めて見る顔ですね・・・旅の冒険者ですか?」
「そんなところだ。これを」
「はい4人分ですね。ではお気を付けて」
さて・・・ようやくダンジョンに辿り着いた
じっとりとした空気に何とも言えない臭い・・・先を見通せない薄暗い通路を見つめて心を躍らせる
「近接アタッカーのセシオンが先頭・・・俺がその後ろで2人は並んでついて来てくれ。スカウトがいない状況なので常に正面はもちろん背後にを気を配り魔物が出たらみんなに報せてくれ」
「私が探ろうか?」
「サラート・・・ヒーラーはそんな事しないぞ?」
「むぅ・・・そうか・・・」
「みんな役に徹してくれ。どこで誰が見ているか分からない・・・それに演じた方が楽しめるだろ?」
はっきり言ってこのメンツなら一日で踏破も夢ではないだろう。冒険者の数も多くなさそうだしダンジョンが溜めているマナもたかが知れている・・・なのでそんなに深くはないはずだ
「き・・・緊張するします・・・だ」
「そんなに緊張したくても大丈夫・・・俺が後ろに控えているしいざとなったら普通に戦う。だから気軽に行こう」
「!・・・はい!」
うん健気・・・見た目オッサンたけど
「・・・お優しいですね・・・ご主人様」
背後から声が聞こえて振り向くとジト目をしたオッサンが・・・嫉妬・・・なのだろうか?サラに嫉妬されるのは何ともこそばゆい感じがして嫌いじゃないがサラートの見た目で嫉妬されるとただただ怖い
「さ、さあ行こう!あまり遅くなると夕食の時間に間に合わなくなっちゃうからな!」
なるべく夕食前には馬車に戻りたい
どうせサラ達は夕食後にお風呂に入るだろうから嘔吐の屋敷にも戻らないといけないし・・・本来なら馬車の中で何もすることがなく暇で仕方ない時間のはずなのにやる事がいっぱいだ
「えい!」
ケセナダンジョンでのファーストコンタクトはゴブリンだった
セシオンがおぼつかない感じで剣を力いっぱい振り下ろすと真っ二つになって絶命する
まだ1階だからか単体の出現の為に僕達の出番は当分なさそう・・・何気にセシオンは躊躇いがない。想像していたのは『ダメです~やっぱり殺せません~』って感じになって早々に近接アタッカーを諦めると思っていたが・・・
「これが魔物・・・これが・・・次行きましょう!次!」
目をキラキラさせて次の獲物を求める
実は意外と好戦的だった?見た目からじゃ分からないものだな
その後もサクサク進み、あまりに出番がない為にセシオンを一旦下がらせ僕が先頭に立ちエミオスが出て来た魔物を魔法で攻撃する事に
杖にマナを込めて振りかざすと水が槍と化し魔物に突き刺さる
さすが元暗殺者の侍女長・・・たとえ慣れない魔法使い役でも戦闘センスを感じさせる一撃だ
「元々は魔法使いだったか?」
「前世はそうだった・・・かもね」
軽く冗談を言って笑い合うと背後から視線を感じた
振り返ると何故かジト目が増えている・・・サラートだけではなくセシオンまで・・・
「と、とりあえず1階はこんなもんだな・・・2階への階段は見つけたし今日はこれで帰ろう」
小さくゲートを開いて覗き見る
そしてダンジョンの入口付近に誰も居ない事を確認すると人が通れるくらいのゲートを開いた
「おっ!無事に戻って来たみたいですね。成果は?」
「ボチボチだな」
入口に立っているギルド職員と軽く会話を交わすと村に向けて歩き出す
ゲートで村まで戻ってもいいがそこまでの距離ではない為に歩く事にした
「もう汗でベトベトです・・・お風呂に入りたい・・・」
「そうですね。ダンジョンの中はかなりジメジメしていて空気がまとわりつく感じでしたし・・・」
「でも村にはそういう施設はなさそうでしたし諦めるしか・・・」
「入れますよ・・・お風呂」
「え?どうやってですか?」
「ロウの王都の屋敷に行けばいつでも入れます。行きもロウに送ってもらってみんなで入っていたので」
「まあ!」
「私も入れてもらっても・・・」
「もちろんです・・・と言っても私の屋敷ではないのですが・・・」
「エミリも当然入っていい・・・けど君達・・・ちょっとは自覚してくれ。今の見た目を」
会話は見事に女子なのだが見た目が汗だくのオッサンだ。誰かに聞かれたらおぞましいパーティーがいると変な噂になりかねない
「ハ、ハハッ・・・」
笑って誤魔化す3人に呆れながら歩くと村に辿り着く
「無事戻って来たようだな・・・にしても汗臭いぞお前ら」
「・・・だよな」
ギルドカードはギルドに預けている為にダンジョンが外にある村や街では門番に覚えていてもらうしかない。という事はもし他に変身出来る人間が僕達がダンジョンに行っている間に村に入ろうとしても顔パスで入れてしまう事になる。変身出来る人間なんて限られているだろうけど万が一もあるし要改善だなこの辺は
「・・・汗・・・臭い・・・」
村に入った後も門番に言われた言葉がショックだったのか顔を真っ赤にして俯くセシオン
聖女に汗臭いなんて誰も言わないだろうし生涯で初めて言われてショックだったのだろう・・・まっ、これも経験だ
ショックを引きずるセシオンは放っておいて冒険者ギルドに戻りギルドカードを返してもらうと今日得た魔核を買い取ってもらった
「はい、みんなの取り分だ」
二束三文にしかならなかったけどギルドから出た後できっちり4等分してそれぞれに渡した
「え?・・・これは・・・」
「魔物を倒した後、その魔物の魔核を拾っておく。それをギルドに渡すとお金に変えてくれる。それが冒険者の稼ぎになる。パーティーの人数で割った金額が今渡したお金だ」
「冒険者として・・・稼いだお金・・・」
まっ、本当は入場許可証代を差し引くと赤字だけど・・・細かい事は言わなくてもいいだろう
「そのお金で何を買おうが自由だ・・・貯めてもいいしね。さっ、日も暮れてきたことだし帰ろう」
村を出てゲートを開いて馬車の中へ
こうして馬車の旅の退屈な一日が終わりを迎えた──────




