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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
305/856

301階 参謀

「朝早く申し訳ありませんローグ辺境伯閣下」


応接間に入ると頭を下げて僕を迎えたのは見覚えのある顔だった


中肉中背で痩せ型、目付きの鋭さが特徴的な男


ファゼンの護衛の中、1人ローブを着ていたので印象に残っていた・・・コイツがナージ・カベインか・・・


「掛けてくれ。昨日ここに来たよな?侯爵と共に」


「はい。グルニアス侯爵閣下に雇われていたナージ・カベインと申します」


僕がナージの対面に座ると彼も合わせて座る


やはり昨日の男か・・・それにしても・・・


「雇われて()()?」


「はい。昨晩辞めさせて頂きました」


「・・・そうか・・・で?」


「ローグ辺境伯閣下に雇って頂きたく参上致しました」


どういう事だ?まさか昨日の一悶着が原因で辞めさせられたから責任を取って雇えと?いや、辞めたと言っているから自分の意思か・・・そもそもコイツは何者なんだ?


「突然雇えと言われてもな・・・そもそも何で雇えばいい?護衛か?」


「軍略家・・・参謀として雇って頂ければと」


「参謀?」


「はい。主に作戦や策略などを立てる役割を担います。その他頭を使う物事には全て精通していると自負しておりますのでお任せ頂ければ幸いです」


「私は頭が悪そうに見えたか?」


「いえ」


「じゃあなぜわざわざ侯爵を離れ私の元に?昨日の今日だ・・・間者と疑われても仕方ない状況で私を選んだ理由は?」


「風の噂でグルニアス侯爵閣下は好戦的だと聞いたので雇用した頂きました。しかし蓋を開けてみれば自分より上には尻尾を振り、下には威圧的に接する典型的な小物・・・なので好戦的でも力任せに解決する問題ばかりでして・あまつさえ多少の魔法を使えるからと私を護衛扱いする始末・・・愛想が尽きかけていた時に昨日の件がございましたので辞めてきました」


「元主人とはいえ辛辣だな。残念だが参謀なんざ必要としていない・・・他を当たってくれ」


もっとマシな理由があると思いきやただ自分の思い通りにならなかったからか・・・確かにファゼンはあまり尊敬出来る人物じゃなさそうだけど仕えた奴の悪口を言う奴もどうかと思う。それに志望の動機もな・・・僕ってそんなに好戦的に見えるのか?


「閣下には私のような人材が必要かと存じますが?」


「へえ・・・なぜ?」


「あまり後先考えずに行動される方とお見受けします。それでもこれまでは何とかなっていた・・・私がまだグルニアス侯爵閣下に雇われており意見を聞かれたらこう答えるでしょう・・・『真正面から当たるのではなく搦手で行きましょう』と」


「搦手?」


「グルニアス侯爵閣下は知りませんでしたがローグ辺境伯閣下は魔族を倒してその地位になったのは有名な話・・・武力で言えば侯爵を凌ぐかも知れません。ですがそれは個の力・・・たとえSランク冒険者のサラ殿が加わろうが個の力が増えたに過ぎません。個の力では守れるものは限られる・・・それを上手く突きます。例えば閣下がエモーンズに戻られてから屋敷を訪問する・・・それだけで『メイドを取り戻す』という目的に関しては簡単に達成出来るでしょう」


そいつはどうかな?僕にはゲートがある・・・と言い返したいところだけど・・・言えない


ナージの言っている事は僕が懸念していた事と同じだ。つまり彼がそう助言していたら僕達が帰った後でマーノとクリナは連れて行かれたかも・・・ヤヌークから2人を連れ戻すのは容易い・・・けど連れ去られて無事でいられる保証はない


「・・・それで?雇わなければ侯爵にその作戦を告げると?」


「いえ。あくまでも私の有用性をお伝えしようとしただけです。私を雇って頂ければこういった作戦を練る事が出来る、と」


「そっか・・・なら必要ないな」


「そうでしょうか?閣下がそのような事を良しと思われていないのは百も承知です。だからこそ相手がどのような行動を取るか分からない事も。私を雇って頂ければ相手が取る行動を事前に知り止める為の策も用意出来ます」


「矛盾してないか?戦いたいのだろう?」


「それも戦いのひとつです。むしろそういった頭を使った攻防こそが私の望むところですから」


ふむ・・・そういう戦いもあるのか・・・そう言われると必要なのかもと思ってしまう・・・未然に防ぐに越したことはないし僕はどちらかと言うと起こってから勝負って感じだしな・・・でも・・・元の主人をこき下ろしたりとあまり性格がよろしくないような・・・近くに置きたいかって言われれば・・・正直置きたくない


「それに私は雇って頂けると確信しているからこそ辞めることが出来たのです」


「・・・なんだその自信は・・・私は別に・・・」


「縁もゆかりも無いメイド2人を助けたと聞いております。そしてそのメイドを助ける為には侯爵閣下と戦う事も辞さない姿勢・・・非常に感服致しました。そのような理由から私も雇ってもらえると確信しております。もし拒絶するとしたらそれ相応の理由があるかと・・・例えば男女の違いなど・・・」


べ、別に女の子だから助けた訳じゃ・・・けどコイツなら断ったら周りに言いふらしそうだよな・・・『辺境伯は女は助け男は助けない。その理由は言わずもがな・・・』とか・・・下手したら1週間後くらいには変態貴族として名を馳せているかも・・・恐ろしや・・・


雇うか?でもぶっちゃけ勝手に辞めて来たのだから雇う義理はないよな・・・頭の回転は早そうだけど性格に難がありそうだし・・・そうだ!


「・・・雇っても構わないが使えないと分かったら解雇する・・・それでも構わないか?」


「役に立たない者は切って当然です。必ずや役に立ち続ける事をお約束します」


結局雇う事になってしまったけど無理難題を押し付けて遺憾無く無能っぷりを発揮してもらおう。そうすれば僕が辞めさせるまでもなく自ら辞めていきそうな雰囲気だし・・・



この頃はそんな甘い事を考えていた


けど実際は・・・


とにかく王都に来て収穫はあった


事務処理担当のセイム・・・それに参謀のナージを得ていざエモーンズへ


・・・やり残した事は・・・ないよな?



「セシーヌ様にはお会いになられないのですか?」



久しぶりにゆっくりとした時間を過ごせると自室でくつろぎながらコーヒーの入ったカップに伸ばそうとしていた手が止まる


メイドとして僕にコーヒーを持って来てくれたサラの一言で一瞬頭の中が真っ白になる


「・・・特に用事はない・・・かな・・・」


「共に魔王を倒しに行った仲・・・はるばる王都まで来たのですからお会いしてみては?」


「それを言うならディーンとキースにも会うべきでは?」


「御二方は城でお会いしていると聞いておりますが?まあ一悶着あったようですが顔を合わせるだけでも安心するものです・・・ですがセシーヌ様には会っておりません」


ディーンとキースとは城にいる時にサラの言う通り一悶着あった。まあアレはキースの自業自得だ・・・


それはそうと・・・どの面下げて行けと?


サラも僕がセシーヌに会いにくい事は重々承知のはずなのに・・・


「あまり会っていないと会いづらくなりますよ?」


既に会いづらいのですが・・・


僕は好意を持ってくれているセシーヌを振りサラを選んだ。その僕をセシーヌが今どう思っているのか・・・振られた経験もなければ振った経験も初めてな僕には皆目見当もつかない


サラが僕の事を振って別の男と付き合ったとしよう・・・そのサラと僕は会いたいと思うだろうか・・・うーん・・・


「もし好意を抱いていた相手が別の方を選んだとして・・・それで相手との関係が断たれてしまうとしたら・・・次に進む時に二の足を踏んでしまうかもしれません。私はそれが恐ろしかった・・・『この関係が壊れてしまうのならいっそう身を引こう』そう考える程に」


「・・・そういうものか?」


「そういうものです・・・少なくとも私は・・・ですけど」


そう言ってサラは僕の為に置かれたと思われるコーヒーを口にする


確かに振った振られたでこれまでの関係が途切れるのは嫌かも・・・


「・・・会いに・・・行くか・・・」


「行ってらっしゃいませご主人様」


早いなオイ


時間を置けばいずれセシーヌに彼氏か結婚相手が出来て・・・それなら平気で会えそうな気もする。今会うのが正解なのか間違いなのか・・・僕には分からないけどサラが言うのなら会ってみよう・・・なんだかとっても怖いけど


「・・・出掛けて来る」


「はい」


サラは当然ついて来る気はないようだ


そりゃあそうか・・・他のメイドも連れて行く訳にはいかないし・・・セイムでも連れて行くか?


()()()()行きますよね?」


どうやら考えている事が筒抜けらしい


僕はコクンと頷いてとぼとぼと屋敷を出た


せめて話のきっかけが欲しかったのだが・・・『何しに来たの?』って目で見られた時の保険で


実際セシーヌはどう思うのだろう・・・振った相手がふらりと現れ困惑しないだろうか?


自惚れではなくセシーヌは僕の事を好きでいてくれたと思う。初めのきっかけはマナ量だったとしても・・・本気で好きでいてくれた


その気持ちを受止め拒絶した・・・僕にセシーヌに会う資格はあるのだろうか・・・


そんな事を考えている内に教会に辿り着いてしまった


以前と変わらぬ行列・・・彼女はこの列の先にいる


僕の足は自然とその列の最後尾に向かうと一定の間隔で進む度に歩を進める


まるで死刑執行に進む囚人のよう・・・生きた心地がしない


どんな顔をすればいい?どんな言葉をかければいい?


サラは会った方がいいと言うが本当に会った方がいいのか?セシーヌは会いたくないのでは?


答えなど分かるはずもないのに疑問が次々と頭の中に浮かんでくる


そしてとうとう・・・


「お次の方どうぞ」


侍女の声だろうか


僕の前には誰もいない


つまり・・・僕の番だ


「今日はどうなさ・・・れ・・・」


「や・・・やあ・・・」


振った日以来の再会・・・セシーヌは目を丸くして僕を見る


「・・・エミリ・・・今日はマナが尽きました。続きはお父様に」


「・・・畏まりました。並ばれているの方々に一時中断を伝えて。それとゼン様を呼びに行きなさい」


「はい」


セシーヌの傍に立っていたエミリはセシーヌの言葉にすぐに対応し侍女に命じる


「・・・こちらへ」


セシーヌはそう言って僕の手を取り教会の奥へ・・・そして階段を上ると見覚えのある部屋まで手を引き続ける


そのまま部屋のドアを開けるとセシーヌ、僕、そしてエミリが部屋の中に入りドアは閉められる


今から一体何が・・・始まるんだ??


「・・・もう・・・お会い出来ないかと思っていました・・・」


「え?・・・あ・・・いや・・・」


「サラ様を諦めて私の元に来て下さったのですね・・・ロウニール様・・・」


違っ・・・っ!?


振り向きざまに抱きつかれて固まってしまう


エミリに助けを求めようにも動けない・・・いや、ガチャって音が聞こえたがもしかしてカギを閉めた?エミリが??


まさかエミリもグル・・・まだ理性は保っているがサラとは違った甘い匂いが鼻腔をくすぐり思わず反応してしまいそうに・・・


「って言うのは冗談です・・・驚きました?」


僕の胸を両手で押して離れた際にセシーヌは舌をペロッと出して笑っていた


冗談・・・冗談!?


「私を振った仕返しです・・・それと会いに来るのが遅い事への抗議も含まれています。これに懲りたら今後王都に来た際には真っ先に会いに来て下さいね」


本当に・・・冗談?・・・なんてタチの悪い冗談だ・・・心臓が止まるかと・・・


「あ、それと今でもお慕い申していますので別れた時も真っ先に会いに来て下さいね?」


舌を引っ込め微笑みを浮かべて言うセシーヌはとても以前の純粋無垢なセシーヌと同一人物とは思えなかった


何がここまでセシーヌを変えたのか・・・聖女に対してこんなイメージはどうかと思うが・・・僕を困らせるその微笑みを浮かべる姿は『小悪魔』という言葉がピッタリなような気がした──────

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