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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
303/856

299階 因縁

喧嘩しようって言っているのに帰ろうとするコイツらの神経が分からない・・・けど、反対に奴らも僕を見る目が『何言ってんだこいつ』って感じだ


護衛自慢していたしてっきりやる気になったと思ってたのに・・・自信があるならかかって来いよと言いたい


〘貴族には貴族の様式美っていうのがあるんじゃないの?〙


〘様式美?〙


〘ほら、喧嘩って言っても貴族同士が殴り合う姿なんて想像つかないでしょ?多分暗黙のルールみたいなものがあるのよ・・・『相手の貴族は殺さない』とかね〙


なるほど・・・それならファゼンに余裕があるのも納得出来る。自分が安全圏にいると思っているからこその強気発言・・・でも残念ながらそんなルール僕は知らない


だから殺しても・・・問題ないな・・・


〘けど・・・侯爵っていくつも領地がある貴族なんでしょ?殺してもお咎めなしかもしれないけどその領地の人達はどうなるのかしらね?そもそもこの人間に家族はいるのかしら?貴族って世襲制でしょ?なら妻や子供はいて当然かもね〙


うっ・・・そりゃあ・・・いるよな・・・


〘サラと話したんじゃないの?やりたいようにやる・・・それは今のアナタが本当にやるべきだと思ったらって事じゃない?相手が2人のメイドを連れ去ろうとしたから・・・それが相手の人生を終わらせる理由になる?確かに会話で解決しそうにないのは分かるけど相手の背景も知らないまま殺していたらいつか後悔する時が来るわよ?輪廻はそうやって始まったのだから〙


〘輪廻が?どういう事だ?〙


〘それはまた後でね。今は目の前の事に集中した方がいいんじゃない?〙


おっとそうだった


膠着状態とはいえ戦闘中・・・ジリジリとにじり寄る護衛達・・・それと僕を睨みつけるファゼンとヤヌーク・・・まあ貴族の2人は攻撃を仕掛けて来ないだろうから護衛達をどうするかか・・・


やりたいように・・・って考えると後顧の憂いを断つ為にここでファゼンとヤヌークを処理したいところだけど・・・


考えろ・・・前の立場と今は違う・・・僕は辺境伯となり領地を治めている立場だ。無責任な行動は領地にも影響があるもしれない


話し合いは難しい・・・端からファゼンは僕を下に見て『言う事を聞くべき』と思っている・・・もし僕が同じ侯爵ならそうはならなかったかも・・・たかだかひとつ上の爵位なのに・・・ん?そうか・・・もしかして・・・


「勘違いするな護衛よ・・・貴様らの相手は私ではない・・・サラ!」


今にも飛び掛って来そうなファゼンの護衛を前に声を張り上げると奥の方から頼もしいメイド姿の女性が現れる


「お呼びでしょうか・・・ご主人様」


「・・・なっ・・・君は・・・」


どうやら僕の考えは合っていたようだ


ファゼンの態度から察するとどうも僕自身の事を単なる辺境伯としか思っていないように思えた


たかが辺境伯・・・侯爵には及ばないと


強さは全く関係なく権力の差だけで僕を見ている・・・だからあんなに強気でいれたんだ・・・成り上がりの辺境貴族・・・貴族になってから時間経っていないし兵力もないに等しいだろう、と・・・僕が辺境伯になった経緯など調べもせずに


僕の強さを見せればその考えも変わるかもしれない・・・けどそれだと罪もない護衛が痛い目を見る事になる。それも仕方ないのかもしれないけど・・・でも誰も傷付けないで解決する手段を僕はひとつだけ持っていた


それがサラ・・・無知な侯爵でもサラの存在くらいは知っているはず・・・もしかしたら昨日の宴にも参加してたかもしれない


フーリシア王国の新たなSランク冒険者・・・彼女が僕のメイドであると知れば・・・辺境伯プラスSランク冒険者・・・権力は足し算じゃないのかもしれないけどファゼンの意識は変わる


単なる辺境伯ではなく『Sランク冒険者を従える辺境伯』に


「・・・なるほど・・・貴殿が強気の姿勢を崩さなかった理由は・・・これか」


「そういう事だ。てかマドミヌ子爵は知っているはずだが?私がメイドとしてSランク冒険者のサラを雇っている事を」


「・・・」


「ヒッ!・・・ち、違うのです・・・その・・・」


ファゼンが睨みつけるとヤヌークはたじろぎ後退る


泣きついた時に都合の悪い情報は隠していたか・・・辺境伯にはSランク冒険者が傍にいる・・・その情報を伝えてしまえばメイド奪還を手伝ってもらえなくなるとでも考えたのだろう


「・・・Sランク冒険者は国の管理下にあるはず・・・一介の貴族に仕えるなど・・・」


「その件はローグ辺境伯様が『解決した』と」


無知のくせにそういう事は知ってるのな・・・でも残念、サラの言う通りその件については解決済みだ


「なに!?それはどういう・・・」


「国王陛下と宰相に許可を得た。しばらくしたらそちらにも通達が行くはずだ」


「・・・」


「つまりSランク冒険者の力添えは陛下と宰相公認って訳だ・・・貴殿の護衛が5人揃えばSランク相当だといいけどもし違えば・・・」


戦いが始まってしまえば後戻りは出来ないのは理解しているはず


僕はファゼンに『ここで死ね』と言った。今まではそれが戯言と思っていただろう。けど今は違う・・・Sランク冒険者サラ・セームンの出現により形勢は逆転した・・・護衛がやられれば次は自分かもしれない・・・そう考えるようになったはずだ


僕の予想を肯定するようにファゼンは苦虫を噛み潰したような顔をする


「・・・今日のところは見逃してやる・・・精々サラ殿を手放さない事だ・・・手放した瞬間に貴様の領地で不慮の事故が多発するかもしれないからな」


そこは『手放したらお前の喉元を噛みちぎってやる』くらい言えないのかよ・・・



結局招かざる客はそのまま逃げるように屋敷を出て行った。今頃は馬車の中でヤヌークがファゼンに責められている事だろう・・・何にせよ助かった


「ご、ご主人様!ありがとうございました!」


「もうダメかと・・・」


「気にするなマーノ、クリナ・・・私のメイドになったという事は家族同然・・・私は当たり前の事をしたまでだ」


「!・・・あ、ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


2人は頭を下げて奥へと戻って行き、すれ違うようにサラが僕の傍に


「・・・今夜は部屋に行かない方がいいかな?」


「どうして?」


「私のご主人様はどうやらメイドの心を掴むのがお上手なようだ・・・私が行かなくても誰ぞは来るだろうな」


「・・・もしかして妬いてる?」


「コーヒーが冷めてしまっているようだ・・・熱々のコーヒーを入れて来てやろう・・・ご主人様」


「・・・お気遣いなく・・・」


嫉妬されるのは嬉しい反面恐ろしい・・・そんな気は全くないけどはっきりと否定した方が良かったかな?・・・持って来るコーヒーは気を付けないと火傷しそうだ


〘ダンコ・・・さっきの事だけど・・・〙


〘輪廻の事?〙


サーテン以外が広間から居なくなったので、ダンコに話し掛ける


輪廻・・・聞き捨てならない言葉だ


〘魔族は不死を得て人間は輪廻を繰り返す・・・その始まりは原初の魔王と勇者から発生したの・・・それを因縁と言うわ〙


〘原初の魔王・・・ヴォルガードとは別の魔王?〙


〘本人よ。一度も復活してない状態の、だけどね〙


〘その魔王と勇者が・・・因縁?〙


〘魔族の王となったヴォルガードは人間をも支配しようとした。人間は抵抗しその人間の中からヴォルガードに勝るとも劣らない人間が生まれた・・・それが勇者よ。互いに凄まじい力をぶつけ合い死力を尽くした・・・結果魔王も勇者も共に倒れ世界は平穏を取り戻す事になるのだけど・・・その時の魔王ヴォルガードと勇者の間に深い因縁が生まれてしまった・・・魔王は勇者を倒す為に、勇者は魔王を倒す為に・・・2人は死してなお相手を倒そうとしたの・・・それが理の始まり。以来全魔族と全人類を巻き込んだ輪廻が始まったの〙


〘はた迷惑な・・・でもそれを僕が断ち切ったんだろ?なら・・・〙


〘断ち切ったのは今言った輪廻だけよ。非常に強力な輪廻・・・それ故にその輪廻に引っ張られるように魔族も人間も生きてきた〙


〘えっと・・・∞って感じの流れだっけ?〙


〘そう・・・何の因縁がなくともその強力な輪廻に引っ張られ生まれ変わっていた・・・でも今は断ち切られて因縁はなくなった・・・これからは新たな因縁が生まれる〙


〘で?背景を知らないととか言ってた意味は?〙


〘例えばあの人間に死にたくない理由があったとするわ・・・でもアナタがあの人間を殺してしまったら・・・あの人間は酷くアナタを恨むでしょうね。そしたら因縁が生まれるかもしれない〙


〘そんな簡単に?〙


〘たらればの話よ。ただ死にたくないじゃそうはならないでしょうけど、死ねない理由が強ければ強いほどアナタに恨みも持つだろうし無念にも思う・・・その思いがアナタとの因縁となり来世に繋がる〙


〘・・・ぶっちゃけて言うと・・・だから?って感じなんだけど・・・例えばファゼンと因縁が出来たとしても関わるのは来世だろ?来世の事を心配して生きていくつもりはないけど・・・〙


〘・・・そういえば言ってなかったわね。アナタ多分普通の人間の寿命では死なないわよ?だからあの人間と因縁が生まれれば関わってくる可能性があるの。いきなり斬りかかって来るとかも有り得るの・・・面倒でしょ?なるべく因縁は生まない方がいいわよ・・・負の感情でなければいいけど・・・〙


〘ちょっと待て・・・今さらっと重要な事を言わなかったか?〙


〘そう?考えれば普通分かるでしょ?不死の魔族と同化したのよ?下手したら不死になっているかも・・・可能性はあるわね〙


〘ふ、不死!?で、でも魔族は不死じゃなくなったって・・・〙


〘ああ・・・不死だとそうなるわね。正しくは不老かしら・・・とにかく魔族は殺されなきゃ死なないのよ・・・だからアナタも人間のように寿命で死ぬ事はないかもね〙


待て待て・・・マジか・・・これからサラと一緒に歳をとっていき老後を共に笑って暮らす計画が!!


〘無理よ。サラだけが歳をとりアナタは若いまま・・・〙


心を読むな!!


ん?待てよ?


〘だったら5歳の時から変わらないはずじゃないのか?その不老ってやつなら〙


〘成長と老いは違うわ。成長は続け老いる事はない・・・つまり一番成長し切った状態で居続けるのが不老よ。魔族に子供は居るけど老人は居ないのはそれが理由〙


いや、魔族自体魔王とダンコしか知らんけど・・・って魔族の子供??


〘あれ・・・魔族って子が出来ないんじゃ・・・〙


〘前に言わなかった?魔族同士は出来ないけど別の種族となら子を成せるって・・・試しにサキでやってみれば?まあロウが魔族なのか人間なのか微妙なところだけど〙


試すか!


そっか・・・魔族が出て来たらそういう問題も・・・


魔族の子・・・人間と魔族の・・・


存在するのかな?・・・もし存在していたとしたらなるべく関わり合いになりたくないな──────

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