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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
302/856

298階 侯爵

光り輝く剣が魔王の胸を貫く


「見事だ勇者よまた相見えようぞ」


「まだ懲りないのかその時はまた倒しやる魔王」


魔王の体は消えてなくなり勇者とその仲間達だけがその場に立っていた


「姫帰ろうか」


「ええようやく挙げれますわね私達の結婚式が」


こうして魔王は倒され勇者と姫は結婚するのでした


めでたしめでたし



「・・・なんだこれ」


図書館で借りて来てもらった本を読み終えた感想は・・・所詮子供向けかって感じかな


魔王が復活し大陸が混沌に陥り勇者が立つ・・・そこからは勇者の無双が始まり一気に魔王討伐へ・・・もう少し大人向けの本はこの本より分厚くこと細かく書かれているみたいだけど・・・内容的には同じみたいだ


そもそも一国の姫様が勇者パーティーに入るのか?強ければ入るだろうけど・・・なんだか強引だな


「ご主人様お客様が参られました」


ドアの外からサーテンの声


僕は本を閉じて窓から外を見ると馬車は止まっていない


となると歩きで来た客か・・・まさかキースじゃないよな?


部屋を出て客の待つ1階に恐る恐る行ってみると見知らぬ顔の男がポツンと座っていた


誰だ?


「お待たせしました・・・ロウニール・ローグ・ハーベスです。えっと・・・」


「こ、これは御丁寧に・・・ボ、いえ私はセイム・キョロスと申します。クルス・アード・ノシャス様の命によりローグ辺境伯様の元に馳せ参じました」


「クルス・・・様?と言うと君が私の手伝いをしてくれるという・・・」


「はい!未熟ながらローグ辺境伯様のお手伝いが出来ればと」


「そ、そう・・・内容は聞いてる?」


「はい!事務処理を手伝うと聞いております」


うん、出来れば全部やって欲しい・・・と、最初から言うと引かれるだろうから今は言わないでおこう


それにしても若いな・・・15くらいか?宰相の紹介だから下手な人材ではないだろうけど・・・


「さ、算術は得意です!あ、あと本が好きであらゆる本を読み漁っておりまして・・・ち、知識だけは誰にも負けないと自負しております!なのでどうか・・・ボクを使ってくれませんでしょうか!」


立ち上がり必死に訴えるセイム。そんなに雇われたいのか?・・・ってんな訳ないか


「ぶっちゃけ最初は何も出来なくとも覚えてくれればいい・・・けど気になるな・・・なぜそんな必死になる?」


「・・・それは・・・」



簡単な話だ


宰相が仕切るのは政務全般・・・セイムはその宰相クルスの手足となって働く政務官という職に就いていた


セイムは幼い頃より頭の回転が早く学校でもすぐに頭角を現した。それがクルスの目に止まり学校を途中で辞めされられ政務官として働き始めたのだが・・・馴染めなかった


右も左も分からないセイムを本来指導するはずの先輩政務官はセイムの才能に嫉妬し何も教えない。孤立するセイムだったが勉強ばかりしていたせいでコミュニケーションの取り方など知るはずもなく打開することは出来なかった


仕事が出来ないのではなくさせてもらえなかったのだ


仕事もしていないのに給金を貰う罪悪感、何もしないで一日一日を過ごす虚無感、何も出来ない無能感・・・セイムは政務官になり一年足らずで全てを投げ出して辞めたくなってしまっていた


でも・・・


「お母さんとお父さんのボクが政務官になると聞いて泣いて喜んでいたんです・・・なのに辞めたと聞いたらどんなに悲しむか・・・」


「そこでこの話か・・・」


辞めずに済むし嫌な同僚とも離れられる・・・仕事もさせてもらえるし渡りに船なこの話を何としても受けたいと


「はい・・・一生懸命働きます!辺境伯様の手となり足となり何でも致します!ですのでどうかボクを雇って下さい!」


「雇う」


「そこをなんとかお願い致します!・・・え?いいんですか?」


「うん、別に断る理由ないし・・・逆になんで断られると思ったの?」


「いえ・・・ボクなんてまだ未熟なので他の経験豊富な先輩達の方が良いかと思いまして・・・」


「そんな事はないよ。それで手続きとかはどうすればいい?クルス様に連絡すればいいのかな?」


「いえ!ボクが帰れば他の人を送ると仰ってましたので・・・帰らなければ成立したという事に・・・」


「なるほど・・・余計な手間が要らないようにしている訳だ・・・」


こちとらセイムの言う『経験豊富な先輩』なんて奴が来られた日には追い返すつもりだった・・・いくら能力が優れてても性格が悪ければ傍に置きたくないしね



この時はそう思っていたのに・・・



セイムは一旦荷物を取りに家へ・・・明日からはこの屋敷で過ごし一緒にエモーンズに行く事になる


しばらく会えないから甘えてこいと言っておいたが・・・まあ甘える年齢でもないか


「ご主人様」


「なんだ?来客か?」


「はい。お通ししてもよろしいでしょうか?」


セイムが去った後、1階の広間で寛いでいるとまた来客の報せが・・・エモーンズに居てもそうだがゆっくりする暇なんて与えないと言わんばかりに来客が続くな本当


「お次は誰だよ・・・ってお前か・・・それと・・・」


入って来たのはヤヌークと・・・見覚えのないオッサン・・・


〘ロウ・・・パーティーで会っているよこの男・・・名はファゼン・グルニアス・トークス・・・爵位は・・・侯爵〙


さすがダンコ・・・全く覚えてなかったけど会ってたのね


数少ない僕よりも地位の高いお偉いさんって訳か


ヤヌークの顔があの店に入って来た時と同じなのもその為か


「先日は失礼致しました辺境伯様。こちらの方は・・・」


「ファゼン・グルニアス・トークス侯爵様・・・でしたよね?」


「覚えてもらえて光栄だ。ローグ卿」


ファゼン達の後ろには護衛と思わしき兵士達とローブを着た男が1人・・・全員の表情を見る限りあまり友好的な話をしに来た様子じゃないみたいだな・・・




僕の前に座るファゼンとヤヌーク


すかさず飲み物を運んで来たメイドのチルを舐めるように見つめるヤヌークを殴り飛ばしたいのを我慢して口を開く


「それで・・・今日は何用で?」


「っ!ローグ卿!グルニアス侯爵閣下にそのような口振りを・・・」


「構わない・・・用は単純明快だ。マドミヌ卿より()()()メイド2人を返してもらおう」


「・・・奪った?」


どんなストーリーに変換されたのやら・・・僕がヤヌークが睨むと咄嗟に目を背けやがった。全てファゼンに任せて自分は知らんぷりって訳か


「他者のメイドを奪う事は法で禁じられている。だからこそメイドは常にメイド服に身を包み『誰かのモノ』である事を主張しているのだ。本来なら表沙汰にして強引に奪い返してもよいところだが・・・」


「表沙汰にしてくれてもいい。奪ったのではなく譲り受けたのだからな。確認してもらってもいい・・・店の店員は全てを・・・」


「市井の者の言葉に何の意味もない。()()マドミヌ卿から奪われたと聞いて()()取り戻しに来た・・・それだけが真実だ」


・・・は?


何言ってんだこいつ・・・正気か?


〘ハア・・・ロウはどうしてそんなにいつまでも純粋なのよ・・・人間なんてこんなものよ?与えられた権力を自らの力と勘違いして振りかざす・・・この男の頭の中ではこの空間で自分より上がいないから自分の言葉が全てと思い込んでいるのよ〙


〘なるほど・・・つまりバカ・・・って事か〙


〘そういう事〙


ようやく理解出来た。侯爵だから何でも許される・・・自分の意見が全て正しい・・・そう生きてきたから今も自分の思い通りになると微塵も疑っていない・・・こんなバカを生み出したのは誰だ?こいつの親か?それとも・・・国か?


「ローグ卿・・・私も暇ではないのだ。さっさとマドミヌ卿から奪ったメイドを連れて来るのだ」


「・・・サーテン、2人をここに」


「畏まりました」


僕の指示に従いサーテンは直ぐに2人を連れて来る


体を震わせながら怯えきった目で下卑た笑みを浮かべるヤヌークを見る2人を


「この2人か?」


「はい・・・この2人です」


「詫びとして他のメイドでも・・・」


「マーノ、クリナ」


「は、はい・・・」


僕がファゼンの言葉を遮るように言葉を発するとさすがにムッとしたのか奴は僕を睨みつける。けど僕はそんな事を気にせずに2人に続けた


「どうやらマドミヌ卿は君達に帰って来て欲しいらしい」


「っ!・・・そ、そう・・・ですか・・・」


「それで君達の意見を聞きたくて呼んだんだ。マドミヌ卿の所と私の所・・・どちらで働きたい?」


「え?・・・どちらで?」


「ローグ卿・・・貴殿は何を言っているのだ?メイドに選択権などありはしない。2人のメイドはマドミヌ卿の所有物・・・それ以外の何物でもない」


「へえ・・・所有物・・・ね。それは知らなんだ・・・私には立派な人間に見えるが・・・貴殿には人間に見えないと?」


「貴殿?・・・ハア・・・物を知らぬばかりではなく礼儀も知らぬか」


「すみませんね・・・辺境の成り上がり貴族なもんで」


「・・・話にならん。メイド2人は連れ帰る・・・これは決定事項だ」


「彼女達の意思を聞いていない」


「メイドの意思など知るか!私が連れ帰ると言ったら連れ帰るのだ!身の程を知れ!辺境伯!」


ははっ・・・まるで子供の駄々をこねる姿と一緒だな・・・大丈夫か?この国・・・


「許可は得ている」


「なに?」


「昨日の事だ・・・貴族のいろはを教わってきた・・・貴族は揉めてなんぼ・・・国は黙認すると言っていた」


「・・・私と揉めると言うか・・・辺境伯」


「彼女達がここで働きたいと言ったらな。彼女達がどうしてもマドミヌ卿の所で働きたいって言うなら止めはしない・・・連れて帰るといい。けどここで働きたいと言った場合は・・・ここで死ねファゼン侯爵閣下様」


「・・・なん・・・だと・・・」


「さて、マーノにクリナ・・・2人の忌憚ない考えを聞かせてくれ」


「え、えぇ・・・」


何を悩む必要があるのだろうか・・・ヤヌークの所でかなり辛い目にあってたみたいなのに・・・もしかしてここで働きたいと言えば僕に迷惑が及ぶと考えているのかな?


「あまり深く考えなくてもいいよ。2人はただどちらで働きたいか言えばいい・・・私はそれを全力で支持するだけだ」


「・・・こちらで・・・働きたいです・・・」「わ、私も・・・ご主人様の元で・・・」


「という訳だ侯爵様・・・私は2人の意思を尊重する」


ファゼンは勢いよく立ち上がり僕を凄まじい程の怒りを滲ませ睨みつける


「・・・後悔することになるぞ?」


「どうだろうな。ところで死ぬ前に言い残す事はあるか?遺言なら聞いてやる」


「・・・私の護衛がただの私兵だと思うか?魔族を倒したからとて調子に乗っていると痛い目を見るぞ?」


確かに強そうに見える・・・冒険者で言うとBランクくらいは全員ありそうだな


護衛の人数は5人・・・一斉に飛び掛って来たらちょっと厄介そうだ・・・さて、どうしたもんか・・・


「どうせ最後には国が介入してきて中途半端で終わるだろうが・・・それでも侯爵と辺境伯の差をまざまざと見せつけてやろう・・・貴様の発言が如何に愚かだったかをその時になって悔いるがいい」


そう捨て台詞を吐いて立ち去ろうとするファゼン


慌ててヤヌークもそれに続く


「・・・どこに行く気だ?」


「なに?貴様まだ・・・」


「人がどうやって向かって来る護衛達をなるべく傷付けないように倒そうか考えている最中に帰ろうとするなよ。さっき言ったろ?『ここで死ね』って・・・聞いてたか?」


「・・・どこまで・・・」


「さっさとやって終わらせよう・・・なるべく殺さないようにするから・・・かかって来いよ護衛共──────」

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