297階 立場
サーテンの待つ待合室に行くとまだサラは帰って来ていなかった
まあ宴とか言ってたしそれなりに時間は掛かるか・・・その間何していよう・・・暇だな
「ご主人様、顔を出してみてはどうでしょうか?」
「・・・やだよ面倒くさい」
サラに群がる貴族達を見たら何するか分からないし
「それもそうですね。城内で手を出せばさすがにご主人様でもお咎めなしは難しいと思いますし・・・」
「・・・面倒だと言ったのだけど?」
「面倒事になるのが煩わしいという意味で仰ったのかと・・・」
付き合い短い割に筒抜けだ・・・有能執事怖っ
「でしたらここでも何か頼みますか?」
「何ここ店なの?」
「辺境伯ともなれば多少の無理は聞いてもらえます。私としましてはご主人様が部屋に入られソファーに座ると同時くらいに飲み物をお持ちするくらいの気概を見せて欲しかったのですが・・・」
「そうなのか・・・って城の人を査定するなよ。どうやって頼むの?」
「私が伝えて来ます。御要望はございますか?」
「とりあえず飲み物・・・サーテンは?」
「お気遣いなく・・・コーヒーでよろしいでしょうか?」
「うーん、果実系がいいかな?」
「畏まりました」
サーテンが飲み物を取りに行き帰って来てからしばらく暇を持て余す
サーテンと2人っきりだと場が持たないな・・・話すネタも尽きてボーッとしているとサラが貴族に囲まれて困っている姿が浮かんでしまう
そうだとしたらサッと現れて助けた方が彼氏っぽいか?でもSランク冒険者に下手な事する貴族なんていないだろうし杞憂に終わる可能性の方が高いか・・・いや、今はか弱い女性に見えなくもない・・・酒の勢いで・・・って、城の中でそんな事をするバカはいないか・・・
「お気になるようでしたら覗いて来ましょうか?」
「・・・いや、いい」
気になる・・・気になるけどここは我慢だ
でんと構えて帰りを待つ・・・それが正解なはず
と、その時・・・
「・・・お待たせ・・・」
「サラ!」
サラが帰って来た!・・・来た時よりやつれた?
「とりあえず帰ろう・・・早く外の空気を吸いたい・・・」
「う、うん。サーテン、手配を頼む」
「畏まりました」
どうやら精神的に参っているようだ。サーテンがすぐに出てったからいいようなもののソファーにドカッと座るとあられもない姿になっている
「・・・そんなに?」
「うん・・・魔物の大群に囲まれて手を出せない状況・・・そんな感じ」
「そりゃあ・・・おつかれ」
やはり僕も行くべきだったか・・・まああの圧力に対してあんまり力になれなかったかもしれないけど・・・
サラはサーテンが戻って来た頃には何とか平常に戻っていた。それから城を出て馬車で屋敷へ・・・その中で何があったか少しずつ話し始めた
「自己紹介と自分がいかに優れているかの自慢話・・・それに手伝って欲しい案件があるとか領地のダンジョンを攻略してくれだとか・・・そういった話を延々とされて食事をする暇もない・・・移動すら出来ずにずっと同じ位置で愛想笑いを浮かべていたら最後の方は顔が引きつってしまった・・・あれを長時間続けるのは私には無理だ・・・」
「僕にも沢山寄ってきたけどそこまで酷くなかったな・・・貴族と冒険者の違いか男と女の違いか・・・」
「どうだか・・・まあそれよりも気になる事を言っていた貴族がいたよ」
「気になる事?」
「地上に魔物が出たって・・・まだ調査中だけど目撃者も多く信憑性のある情報らしいわ。他の貴族はその話を聞いて馬鹿にしてたけど・・・」
「『魔物が外にいる訳がない』・・・ダンジョンブレイクの原因が分かった今、そう考えるのが普通だからね。でも現実にはそれが起きている・・・国はどうするつもりなんだろう・・・このままだといずれパニックに・・・」
「そうね。でもそれは国が考える事でロウは自分の領地でまずどうするか決めた方がいいんじゃない?」
サラの言う通りだ・・・国がどうするかを待つのではなくせっかく早目に知れたんだ・・・何か被害が起こる前に対策を練っておけば・・・
「それとロウ・・・あなたは呼び出されて何の話をしていたの?」
「うん?ああ・・・どうやらサラが僕の所でメイドをしているって知ってたみたいでSランク冒険者を独占するな的な事を言われた」
「・・・それであなたはどう答えたの?」
「サラがメイドを続けていいなら僕も協力する・・・けどダメならサラも僕も協力しないって答えといた・・・ごめん勝手にそんな事言って・・・」
「ぷっ・・・それを誰に言ったの?」
「王様と宰相?」
「この国でその2人にそんな事を言えるのはあなたくらいよ・・・思っても普通は言えないわ」
そうなのか・・・確かに王様ってこの国で一番偉いし本来なら僕なんか一生話すどころか見る事すらありえなかったかも・・・そんな王様相手に・・・
「ありがとう」
「え?」
「あなたは国と私を天秤にかけて私を取った・・・その気持ちに感謝しただけ」
「・・・サラ・・・」
「ちょ、ちょっと・・・ロウ?」
微笑む彼女・・・サーテンは気を使ってか御者と共に前に乗っている・・・2人っきりの空間で妖艶なドレスに身を包む彼女を前に我慢出来る訳もなく・・・
「ご主人様、到着しました」
いつの間にか馬車は止まっており外からサーテンの声が・・・タイミングが悪いというかなんというか・・・この昂ったものをどうすればいいと言うのだ──────
4人のメイドに迎えられ屋敷に戻るとサラはすぐにドレスからメイド服に着替えてメイドモードに
和気あいあいと仕事をするサラをひとしきり眺めた後、自室に戻りこれからの事を考えてみた
まずはダンジョンから出て来た魔物だ。まだ数が少ないのか騒動にまでは発展していない・・・けどいずれは地上に魔物が溢れ被害が出るのは間違いなさそうだ。それと同時に冒険者もダンジョンから地上に・・・目撃情報や被害にあった人からの依頼を受けるスタンスに変わる
護衛の依頼も増えるかもな・・・野盗相手の護衛から魔物相手の護衛に変わるのだから魔物相手の専門家である冒険者は引っ張りだこだろう
しかしそうなるとダンジョンに入る冒険者は減りマナが溜めづらくなるのでは?いずれ枯渇して魔物を創れなくなるのは目に見えている・・・いや、魔王を復活させるのに大量のマナが必要だった・・・それを使わなくて済むようになったから他のダンジョンのコアは大量にマナを持て余している可能性も・・・
「何を考えているの?」
「ダンジョンと魔物と冒険者について」
「なかなか興味深い議題ね」
「でも今は興味が他に移っちゃったけどね」
多分ノックしたけど反応がなかったから入って来たのだろう・・・サラは僕の目の前にコーヒーの入ったカップを置くと不思議そうに首を傾げる
「どういう事?」
「目の前で興味のそそられるものが揺れたから・・・」
「・・・ご主人様の性欲は休む事を知らないのですか?」
「休んでいたものを起こしたのはサラだろ?」
「今後揺れないようにしっかり固定しておきます」
「それはそれで寂しいような・・・ところで謁見の間で貰った巻物には何と書いてあったの?」
「褒美の内容よ。屋敷だのお金だの・・・お金だけ後日ここに送ってもらって後は寄付するって伝えといたわ」
「いいの?」
「要らないでしょ?」
屋敷か・・・確かに要らないな
「名工の武具なんてものもあったけどどっかの誰かさんよりいいものを作れるとは思えないしね」
「お望みなら僕にだけ透明になる服なんかも作るけど?」
「それ望んでいるのあなたでしょ?それより探さなくていいの?人材を探しに来たのでは?」
「それなら宰相のクルスが紹介してくれるって・・・なのでそれ待ちかな」
「そう・・・大丈夫?」
「何が?」
「国はあなたを利用しようと躍起になっているみたいだし・・・」
「どうだろうね・・・けど改めて考えてみたら国に何されても何を言われても平気かなって・・・ムカついたら国を出ればいいし武力行使してきたら返すだけだし・・・」
「まあそうね・・・私はそれで構わないけど他の人達はどうするの?」
「他の人達?」
「うん。私はあなたのやりたいようにやればいいと今でも思っているわ。けど状況が変わってきている・・・魔王が討伐され平和が訪れると思ったら今度は魔物が地上に出て来たり魔族が動き出すとか物騒な話がちらほら・・・となると戦う力を持たない者が犠牲になる可能性がある・・・あなたの領地の民になった人達・・・もし国を出るとしたらその人達を見捨てる事になるわ」
そうか・・・そうなるよな・・・
これまで通りにはいかない・・・領地を与えられ僕はそれを受けた・・・その瞬間から領地にいる人達の生活は僕が責任を負う事に・・・過ごしやすい安全な生活は僕が責任を持って保証しなくてはいけないんだ・・・それが領主の務め
もし僕ら2人が無責任に逃げたら領地の人達はどうなる?彼女の言うように平和な世なら問題ないかもしれないけど今は何が起こるか分からない
「サラの言う通りだな・・・逃げるのはなし・・・正面から叩き潰して・・・」
「それも止めた方がいいわ」
「なんで?・・・まさか勝てないとでも?」
「勝てると思うわ。魔物を駆使すれば数はどうにでもなるし個の力ではあなたの右に出る者などいないはず・・・でも力で国を滅ぼしてどうするの?フーリシア王国を治める?それとも滅ぼすだけ滅ぼして放置する?」
うぐっ・・・国と喧嘩するって事は勝った後の事を考えないとダメって訳か・・・今の王様に代わって王様になる気はないし・・・うむむ・・・
「私だって気軽にソロ冒険者を続けていたいって思った時期がない訳でもないわ。でもケン達やジケット達冒険者を放ってはおけなかったし面倒を見るのは嫌ではなかったし・・・最初の頃はエモーンズに高ランクの冒険者は私くらいだったからね・・・仕方ないって面が大きかった・・・けどそれでもみんなを見ていると私がやらなきゃって思うようになっていたわ」
「力を持った者の・・・義務・・・」
「そんな大袈裟なものじゃないけどね・・・でもやれる人がやるのは当然の流れなのかも・・・ほら、勇者ってだけで魔王討伐を課せられていたりとか・・・そういった意味では義務になるのかもね」
ふむ・・・ん?
「ねえ・・・魔王がいない今、勇者って何するんだろう?」
「・・・さあ?少なくとも魔族とかは倒してくれるんじゃない?ほら、魔王を倒す前の試練的な感じで魔物や魔族を倒すし」
そうか・・・いまいち勇者の行動が分からない・・・今度本格的に読んでみるか・・・過去の魔王と勇者が紡いだ物語を──────




