296階 国王と宰相
サラは宴が開かれる会場へ連れて行かれ僕は王様の言っていた応接間へと案内される
そう言えばサラが呼ばれたのは分かるけどそもそも僕まで呼ばれた理由が分からない。普通に呼ばれたから来たけど今日はサラがSランクになるから王様に呼ばれていただけなのに・・・
「待たせたなローグ卿」
応接間の豪華なソファーに1人ポツンと座っていると王様・・・それに巻物を読み上げていた男が一緒に入って来た
僕は立ち上がり王様と男が対面のソファーに座り腰掛けるまで待つと王様は僕に座るよう合図する
「ローグ卿は初めてだったか?この者は宰相のクルス・アード・ノシャスだ」
「お初に掛かりますローグ卿・・・噂はかねがね・・・」
「初めましてロウニール・ローグ・ハーベスです。噂は全く・・・」
「・・・」
いや仕方ないだろ!初めて聞いたわ!
「・・・陛下、私の方から話しても?」
クルスが尋ねると王様はコクリと頷く
宰相か・・・見た目若いけど宰相って言えば国のNo.2みたいなもんだよな・・・単なる優男っぽいけど凄い賢いとかなのかな?
「まず卿をここに呼んだのにはいくつか理由があります。が、その前にひとつお聞きしても?」
「どうぞ」
「今回王都に来られた理由は?」
サラの付き添い・・・プラス優秀な人材の確保だけど・・・正直に話してもいいものだろうか・・・うーん・・・
「・・・思ったよりもやる事が多く人手が欲しくて・・・王都に来れば手伝ってくれそうな人が見つかるかもと・・・」
「なるほど。人材の発掘ですか・・・それなら私の部下に事務処理能力に長けた者がいます。その者を紹介しましょう」
「え?良いのですか?」
「はい。その者も実力を発揮出来る場がなく燻っていたので・・・後日卿の屋敷に向かわせましょう」
結構難航すると思ったけど簡単に見つかったぞ!・・・いや、実際に会ってみないとまだ分からないか・・・まあ宰相のクルスが紹介するくらいだから能力は高いのは間違いないと思うけど・・・まっ、会ってみて採用するかどうか決めればいいか
「では、卿をここに呼んだ理由をお話します。一つ目はSランク冒険者サラ・セームンと卿の関係です」
「・・・」
「同時期に王都に用事があった・・・なので一緒に来られたのは分かります。が、少し奇妙な噂を耳にしました・・・冒険者であるサラ・セームンがメイド服を着ているのを見た・・・そんな噂です」
そんな噂が立っていたとは・・・って、別にその辺は隠してないけど
「サラは今私のメイドをしています」
「・・・Sランク冒険者が・・・メイド?」
「本人たっての希望でして・・・冒険者では身につかないスキルを身につける為にメイドをしてみたいと・・・」
「そう・・・ですか・・・それは困りましたな陛下」
「うむ・・・」
「困る?何故ですか?」
「クルスの懸念しているのは戦力過多な状況だ。他の貴族から見たら辺境伯として領地を与えられ、Sランク冒険者を囲っていると見られる・・・そうなると隣接する領地の貴族は勿論脅威と感じてしまうだろう」
あれ?同じ国の話だよね?
「・・・陛下、もしかしたらローグ卿は・・・」
「そのようだな・・・」
「えっと・・・一体どういう事ですか?」
「ふむ・・・あまり公に言う事ではないのですが・・・国は貴族間の争いを黙認しています」
「・・・は?」
「爪は研いだら試したくなるもの・・・平々凡々と日常を送るよりそっちの方がいざという時に役に立つ・・・そう判断しての『黙認』です──────」
聞けば貴族とは無縁だった僕が知らないだけで貴族同士の小競り合いは度々起きているのだという
領地がどこからどこまでとか、通行税が高いとか、ただ単に気に食わないとか・・・理由はくだらないものがほとんどだし本格的な戦争って言うよりは小規模な争いらしい。ただそれを繰り返していると街の住民を巻き込んだ争いに発展する場合もあるがそうなったら国が介入して止めるのだとか・・・その前に止めろよ
「国が黙認している理由はいくつかありますが最大の理由は『いざという時の為の予行練習』になるからです。漫然と兵士として日々を過ごすのといつ争いが起きるか分からないと緊張感を持って過ごすのでは訓練の身の入り方も違うというもの・・・一度緩んだ気持ちを引き締めるのは難しいのでね」
それは分かる
門番をしていても平和な毎日が続けば気も緩む。いざという時を常に考えているのと何も考えてないのでは対処のスピードが違うだろうな・・・でも・・・
「争うとなると死者も出ますよね?同じ国同士なのに争って死人が出るのは・・・」
「多少の犠牲は仕方ないかと・・・貴族の私兵は有事の時は国を、領地を守る盾となります。その盾が機能しなければ被害は大きくなるばかりでしょう・・・冒険者にとって武具の手入れが必要なように国も有事に向けて備えが必要なのですよ」
有事・・・ね。それを起こらないようにするのが国の・・・上の務めじゃないのか?まるで起きる前提で話しているように聞こえるけど・・・
「・・・それで・・・サラが私のメイドであるのとどういう関係が?」
「国の方針としては貴族間で切磋琢磨して欲しいのです。なのでなるべく戦力の偏りを避けたい・・・その為にSランク冒険者の方には誰かに雇われたりしないようお願いしている次第です。Sランク冒険者は魔族を討伐せし者・・・過去に魔族1人に騎士団を壊滅された事もあると記されています・・・つまりSランク冒険者は1人で騎士団クラスという事なのです。一貴族が騎士団並の戦力を・・・しかもその貴族が魔王を討伐せし者であるのなら尚更です。一強他弱じゃ国は強くなれないのですよ」
最もらしい事を言っているが互いに争い力をつけ、その力を国の為に使えって事だな。その為には強い個は要らないと・・・
まあ確かに貴族の私兵一人一人がファムズやデクト程度なら何人来ようと負ける気がしない・・・僕1人で事足りるだろう・・・更にサラが加われば・・・負ける訳がない
「・・・で、どうしろと?」
「元々Sランク冒険者は国預りになるのが慣わし・・・サラ殿には王都に残り国の為に働いて頂きたい」
「本人の意思は?」
「申し訳ありませんが・・・」
「・・・そうですか・・・」
「ローグ卿・・・Sランク冒険者にはSランク冒険者としての義務があります・・・人それぞれ役割があるように・・・強き者には強き者の・・・賢い者には賢い者の・・・。強さも賢さも力です・・・使い方を間違えれば凶器になり得ますが間違えなければ国の繁栄・・・ひいては国民の為になるのです」
「生きていく為に強くなったのに強くなったら他人の為に生きろなんて横暴じゃないですか?それが本人の意思ならまだしも強制するのはちょっと・・・」
「強くあればそれに伴い責任も生まれます。そうでなければならないのです。共存共栄・・・それが成り立たなければ国は・・・滅びます」
「強い者が弱い者を助けるのは当然・・・そういう事ですか?」
「ええ。そういう社会を作るのが私達の義務です。誰もが安心して暮らせる国を目指す為に」
よく言うよ・・・確かに強者が弱者を守る社会は理想っちゃ理想かも・・・でもそれはサラを利用する為の建前上だろ?綺麗事を並べてサラという強力な力を手中に収める為の・・・
貴族が力をつけ過ぎないよう調整し、強い力は手中に収める・・・手綱をしっかり持ち、いざとなったら鞭を入れて戦争にでも向かわせる気か?
サラを渡す気は更々ないけどさて、どうやって断ればいいのやら・・・
クルスの言い分は『戦力が過ぎる』と『力は有効に使いたい』のふたつだ。どちらも理にかなっているように聞こえるし正論ちゃ正論だ
反対する理由がない
国は何も無償で働けと言っている訳ではなくちゃんと見合った報酬も払うのだろう・・・そうじゃなきゃキースが続けるはずないし・・・でもよくあのキースが大人しく言う事聞いているよな・・・
「ローグ卿?」
「え?あ、ああすみません・・・ちょっと考え事を・・・」
「そうですか。・・・本来ならSランク冒険者となった時点で本人に話しをするだけで終わりです。ですがまずローグ卿にお話を通している事実を察して頂ければと思います」
一応僕に気を使っているって事?・・・それなら少し・・・傲慢になってみようか・・・
「話は分かりました」
「それでは・・・」
「お断りします」
「ローグ卿!」
「話は理解出来ましたが納得はしていません。そもそもサラはメイドとして私の所にいるのです・・・戦力としてじゃありません」
「それは卿ではなく周りが決める事です。たとえ何も切れない剣を持っていたとしても切らない事を知らない人から見れば普通の剣と変わらぬのと同じように・・・Sランク冒険者が傍にいると言うだけで周りには脅威となるのです」
「確かにそうかもしれません・・・ですがサラが私の傍に居ないとしても変わらないと思いますが?」
「?・・・それはどういう・・・」
「サラが居なかったとしても・・・私に勝てる貴族がいるとお思いですか?」
「・・・それは少し言い過ぎでは?貴族によっては騎士団に勝るとも劣らない精鋭を・・・」
「精鋭だろうと何人いようと・・・ウサギじゃ獅子は狩れませんよ」
「・・・」
「私1人でも絶望的な戦力差があるのにサラ1人が抜けたところで差は変わりません。だからクルス卿は私からサラを引き離す事に尽力するのではなく、私に喧嘩を売らないよう動く方が余程建設的かと思いますが?」
「・・・それを貴族達が信じると?」
「信じる信じないは別に・・・事実を述べているだけです。もし疑うのなら攻めてみればいい・・・半日足らずで答えを出してみせますよ。国が仲裁に入る間もなく・・・ね。それを望まないのでしたら必死に説得するべきです・・・『ロウニール・ローグ・ハーベスには手を出すな』と」
「・・・」
実際問題貴族の私兵ごときに負ける気はしない。何千何万集まろうが関係ない。強いて言うなら殺さずに済ますにはどうしたらいいか悩むくらいか・・・ゲートで落とし穴でも作って落とすか・・・それとも魔物を大量に投入して脅かすか・・・
「ふっ・・・ハッハッハッ・・・さすがローグ卿・・・魔王殺しはダテじゃないと・・・クルスもうよい」
これまでほとんど発言せず僕とクルスの会話を見守っていた王様が突然笑い出す
もうよいって事はサラを諦めたって事か?
「ローグ卿よ・・・確かに他貴族と戦力を合わせるのは無理にしてもSランク冒険者には義務がある・・・それはどのようにするつもりだ?さすがに権利だけを得て何も協力しないでは他のSランク冒険者に示しがつかぬ・・・もし拒むならSランク自体を剥奪する他なくなるが・・・」
うっ・・・それは避けたい
なんだかんだサラはSランクって聞いた時嬉しそうだったからな・・・それに拒否するって事は一生Sランクに上がれないって事に・・・待てよ・・・義務か・・・
「その義務とは具体的には?」
「ふむ・・・クルス」
「はっ!特に決まってはおりません。その時々で変わるので・・・ほとんどがSランク冒険者にしか頼めないような内容・・・と思って頂ければ・・・」
「・・・それならば用事が出来た時に要請を受ける・・・ではダメでしょうか?」
「ふむ・・・ですがエモーンズともなると1ヶ月ほど来るまでに掛かります・・・そうなると急を要する事態の時に・・・」
「1ヶ月も掛かりません。魔物を使えば1週間・・・いや、それ以内に到着出来ます」
「魔物を・・・しかしそれでも・・・」
「それともうひとつ・・・もしサラのメイドを許して頂けるのであればサラと共に私も駆けつけます・・・サラと私は同等・・・つまりSランク冒険者を2人確保出来るという事です。もしそれでも許されないとなれば・・・2人のSランク冒険者を失う事になりますが・・・」
「・・・ローグ卿が・・・」
どうせサラと行動すると思うから僕も手伝う事になる・・・2人が僕をどう評価しているか知らないが低くはないはずだ・・・サラをメイドとして認めればサラと共に僕を使え・・・認めなければ・・・この国を出ても構わない
「クルスよ選択の余地はなかろう。我儘も強者の権利のひとつだ」
「・・・はっ。では私はローグ卿の仰られた通りに動くとします。納得させるのにだいぶ骨が折れそうですが・・・」
「・・・ローグ卿よ・・・それでも卿に手を出して来る者がいたとしたら手心を加えてくれ・・・卿の言うように同じ国の同志なのだから」
「畏まりました」
どうやら何とかなったみたいだ
かなり傲慢な物言いだったから怒らせるかなって思ったけど意外にすんなりと・・・それだけ認めてくれているって事かな?
まっ、とりあえず引き離される事は回避したけど一体何を頼んでくるのやら──────
ロウニールが去った後の応接間
国王ウォーグ・フォーレンス・フリーシアは大きく息を吐く
「・・・余を目の前にして大言を吐くとは・・・」
「国を去る事も辞さない・・・貴族と言うよりは冒険者に近い思考のようですね」
「うむ。個の力がある者はどの地でもやっていけると思うておる・・・実際彼を知ればどの国も諸手を挙げて歓迎するだろうからな。下手な交渉をすれば逃げられたやも知れぬ・・・ようやった」
「・・・2人の仲が事前に知れたのが大きいかと・・・」
「うむ・・・確かに見目も良いし実力も・・・彼奴のモノでなければ是が非でも欲しいと思ったやも知れぬな」
「陛下すら釣れるとは・・・かなり良餌のようですな。しかし獅子は餌の横取りは決して許さぬもの・・・その事をゆめゆめお忘れなきようお願い致します」
「分かっておる。それで獅子に何をやらせるつもりだ?」
「彼には見聞を広めてもらいたいと考えております」
「見聞を・・・時期尚早では?」
「いえ・・・ですが準備期間は設けるつもりです。魔物も溢れ出している事ですし全ては追い風となっております・・・なるべく早く彼には世界を見てもらいたいのです」
「・・・そうか・・・全てそちに任せる・・・余を中央に立たせる為に力を尽くせ」
「はっ!必ずや陛下を大陸の覇者に──────」




