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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
30/856

27階 生存本能

「おい!早く入れろよ!何トロトロしてんだ!」


「は、はい!」


ガラの悪い連中がやって来たと思ったら冒険者か・・・冒険者って言うより山賊だろ・・・


コイツらが村に向かって歩いて来てる時は応援を呼ばないでいいかヘクト爺さんに聞いたほどだ


人相、格好、雰囲気・・・どれとっても冒険者のそれじゃない


「おいやめろ・・・悪ぃな兄ちゃん」


良かった・・・リーダーっぽい人が僕を急かす仲間を窘めてくれ・・・


「けど俺の時間を無駄に消費するじゃねえよ。さっさと入れろ」


こわっ!


耳元でヘクト爺さんに聞こえないように囁く


別に特別時間がかかってる訳でもないのに・・・気短過ぎだろ!


「か、確認出来ました・・・エモーンズ村にようこそ・・・」


「おう・・・次からはもっとスムーズにやれよな。てか、もう顔パスだろ」


それは無理・・・とは言えない。けど、ハイとも言えずどう返答しようか迷っていると彼らは僕の返答も聞かずとっとと村の中へと行ってしまった


「ロウ坊・・・ドカートに彼らの特徴を伝えよ」


「え?やっぱり悪党なんですか?」


「それは分からぬ・・・が、警戒しておいて損はないだろう」


「わ、分かりました!」


久しぶりに見たヘクト爺さんの寂しそうな顔・・・ダンジョンが出来てすぐに言ってた事が起きてしまうかもしれない・・・


振り子は左右に振れる・・・良い事もあれば悪い事にも・・・



《ロウ・・・最後にアナタに話し掛けてきた人間・・・あの人間・・・アナタより強いわ》


「え?」


ドカート隊長の居る兵舎に向かって走っているとダンコがそう呟いた・・・まさか・・・


「他の人達は僕より弱いってこと?」


そっちの方が驚きだ


7人居て全員僕より全然強そうに見えたのに・・・


《あのねぇ・・・少しは自信持ったらどうなの?アナタに勝てる人間なんてこの村じゃ2,3人ってところね。ドカート、サラ・・・そして今の人間・・・それくらいよ?》


そうだったのか・・・ぜんぜん実感湧かないけど・・・


《ダンジョンが拡がれば黙ってても強くなるのに・・・最近だとスラミ相手にかなり頑張ってるからね。頑張ってれば1年後くらいにはあのディーンって人間にも勝てるんじゃない?》


「いやそれはない」


《ツッコミ早いわね・・・まっ、信じないならそれでもいいけど・・・》


ないない・・・絶対ない!


至高の騎士だよ?


ダンコは分かってないんだ・・・ディーン様の強さを・・・僕も分かってないけど・・・ん?


「ねえ・・・ダンコはどうやってその人の実力を見てるの?」


兵舎に向かう足を止めて周りに人がいない事を確認すると少し声のトーンを下げて聞いてみた


サラさんは魔物と戦っている姿を何度か見てるし僕より強いっていうのは分かるけど・・・ドカート隊長とさっきの男の戦っている姿なんて見た事ないはず・・・なのに・・・


《なるほど・・・人間の生存本能が低い理由が分かった気がするわ》


「どういう事?」


《そうね・・・もし仮にダンジョンに配置する魔物に何も命令しなかったとするわね?すると低階層の魔物はほとんど人間に攻撃しない・・・何故だか分かる?》


「・・・そりゃあ命令を受けてないから・・・」


《違うわ・・・怖いからよ》


「人間が?」


《死ぬのが、よ》


「・・・え?」


死ぬのが怖い・・・生物なら当たり前の事なのに意外に感じてしまった


魔物は道具・・・死など恐れない・・・そう思っていたのに・・・


《あー、勘違いしないでね?命令がなければ生きたいって訳じゃない・・・命令を与えられず死ぬのが怖いのよ。創られた理由も分からずダンジョンで朽ち果てる・・・そんなの誰だって嫌でしょ?つまり命令がなければ本能で自分を殺せる人間を避けてしまう・・・それが生存本能》


殺せる人間・・・そうか・・・ダンコは会って感じたんだ・・・この人と戦ったら僕は負けて死ぬ、と。僕が死ねば当然ダンコも・・・


「人間はその生存本能が欠如している・・・って事?」


《そういう事。だからダンジョンでも勝てない魔物に挑み死んでいく・・・はた迷惑な話しよね?もっと生きてマナを使ってくれればいいものを・・・》


はた迷惑って・・・でも勝てないと思ったら避ける・・・普通はそうなんだろうか・・・いや、魔物だからそうであって人間は・・・でもどっちが賢いかって言ったら避ける方が賢いよな・・・


「ダンコ・・・彼らの会話を聞いたら僕に教えてくれないか?」


《いいけど・・・ダンジョン内だけよ?私が聞けるのは》


「それでいい」


《・・・ひとつ約束して。どんな会話だろうと関わらない、と》


「・・・勘違いしないでよ・・・僕は賢くなる為に聞きたいんだ。彼らの会話を」


《ならいいけど・・・ねえ?早く行かなくていいの?また『遅い!』って怒られるわよ?》


おっとそうだった!


僕は再び歩き出し兵舎へと向かい、ドカート隊長に彼らの特徴を伝えた


ドカート隊長は『分かった』と答えてくれるが困り顔・・・まだ国から派遣させる兵士も到着していない為に警戒するにも人員が足りないらしい。そうなると村で個人を警戒するのは難しいよな・・・


まあ何かをした訳じゃないし今のところは見張る必要があるかって言われればそうでもないし・・・怪しい奴らが村に入って来たって頭の片隅に入れておくだけでいいかもしれない


ヘクト爺さんもそんな感じだったし僕は僕で見張ればいいしね


大丈夫だ・・・きっと・・・





「あ、あの・・・冒険者になりたいのですが!」


「はい!それではこの紙に必要事項を記入して下さい・・・お1人ですか?」


「は、はい!」


初々しいな・・・私も登録しに行った時は緊張したもんだ


「セシス・フェイさんですね。登録しますのでギルドカードにマナを注いで下さい」


アレでカードとの繋がりが・・・


「サラ姐さん?」


「あ、ああ・・・ギルド長に報告に行ってくるから待っててくれ」


新人の初登録に夢中になり呆然としてしまった


ケン達は1階で待たせて2階に上がると正面にあるドアをノックして中に入る


「待ってたぞ・・・それで?あの訓練所は?──────」





「なるほど・・・『訓練所』は有用ってか」


「ええ。少なくとも罠の類はありません・・・それと」


私はケンから預かった青く光る石を机の上に置いた


「・・・なんだ?」


「説明書曰く『簡易ゲート』。この石を割るとダンジョンの1階に繋がるゲートが出現するとか・・・その説明書がこれです」


続けて石の下に敷かれていた説明書を机に置くとフリップは手に取り読み始めた


「・・・これが本当ならかなり貴重だな・・・パーティーの命分の価値がある・・・が、効果の程は試してみないと分からないか・・・何個かありゃいいんだが・・・。にしてもこれをどこで?」


「訓練所のある一室に宝箱があり、その中に・・・人為的とは思えないですしダンジョンが・・・と言うのも・・・」


「・・・『面白いダンジョン』か・・・面白いが気に食わないから『親切なダンジョン』に改名希望か?」


「『訓練所』に『簡易ゲート』・・・確かに親切ですね。かと言って魔物が手加減してくれる訳ではなさそうですけど」


「まあな。これ・・・預かっちゃまずいか?」


「一回限りなのでもし本物ならかなり価値のある物になりますよ?ギルド長の安月給で賄えるかどうか・・・」


「だよな・・・落としたりしたら一生タダ働きか・・・リスク高過ぎるな。仕方ねえ・・・もうひとつ手に入ったら譲ってくれ。言い値とは言わねえがそれなりの値段で買い取る」


「はい。それでは今日はこれで・・・」


「待て・・・サラ・・・お前さんの耳に入れとかなきゃならねえ事がある」


「何でしょう?」


「今日の昼間、7人の冒険者がこの村に来た」


「・・・それが何か?」


「Gランクが1人に他はFやらEだが・・・どうも胡散くせえ。少人数だがパーティーって言うより・・・」


「まさか・・・『組合』?」


フリップは頷く


もう少し経ってから来ると思ったけど・・・思いの外早かったな・・・


「まだ確定じゃねえが間違いねえ。マーベリルで見た事ある奴もいたしな・・・ただどの組合だったかまでは覚えてねえから何とも言えねえが・・・」


「もしかして私にそれを調べろと?」


「逆だ・・・なるべく関わるな」


「関わるな・・・ですか?」


「ああ・・・あいつらがまともな組合なら問題ねえ・・・むしろこの村の冒険者にはありがたい存在だろう。だがもし・・・香ばしい連中なら先ず何をすると思う?」


「・・・もったいぶらずに教えて下さい」


「サラ・・・お前さんを排除する」


「なぜです?」


「知ってるだろ?闇組合と呼ばれる連中のやり方を・・・右も左も分からねえ冒険者を囲い、最初は甘い汁吸わせて最終的には骨の髄までしゃぶり尽くす・・・表立ってやらねえからギルドもどうする事も出来ねえ・・・で、だ・・・もし高ランク冒険者・・・しかも奴らのやり方を知っている冒険者がいたら奴らはどう思う?」


「・・・邪魔・・・ですね」


「そうだ。奴らはこう思うだろう『Bランクだか風鳴りだか知らねえが女1人に邪魔されちゃ適わねぇ!脅して村から追い出すか刻んで魔物の餌にでもしてやる!なーにダンジョンの中でやりゃあ誰も気付かねえ!やりたい放題のポッコポピーだ!』ってな」


「・・・後半はよく分かりませんが、なかなか迫真の演技でした。もしかして経験が?」


「ある訳ねえだろ。奴らならこうするだろうと思っただけだ・・・まあまだ連中がどんな奴らか分かってねえが用心に越したことはない・・・しばらくダンジョンに潜るのをやめるか村を離れるか・・・」


「私が離れたら残った冒険者達は?まさか泳がせて犠牲が出たら兵士に突き出すのです?」


「・・・犠牲が出る前に・・・と言いてえところだがギルドにそんな権限はない。それに兵士は村の有志を集めたような自警団レベル・・・とても手練の冒険者の相手が務まるとは思えんな」


「なら尚更私が・・・」


「よせ・・・チッ・・・分かった・・・なぜ俺がここまで言うか教えてやる。知り合いのいるギルドから連絡が入った・・・『タートル』が姿を消したってな」


『タートル』・・・悪名高い・・・それでいて尻尾が掴めない最悪の組合・・・噂では聞いた事あるけど実在していたとは・・・


「それで・・・まさかこの村に?」


「奴らは甘い汁を吸うだけ吸って消えて行く・・・で、気付いたらまた現れる・・・別の場所で、な。やり方は全部一緒で若く経験の少ない冒険者を組合に入れて援助する・・・そしてある程度稼げるようになったら搾取し始め反抗的な態度を取れば見せしめに・・・」


「なぜ捕まえないのですか?」


「あくまで想像だ。見せしめに殺されたと思われる冒険者は魔物に殺されたって事になってる・・・ダンジョンの中でな」


「・・・じゃあ見せしめじゃないかも知れないのでは?」


「殺された冒険者が自分のパーティーメンバーと共に行動してたらそう思うが・・・殺された時はいつも別のパーティーに加入してダンジョンに潜ってる時だ。パーティー全員で反抗した場合はふたつのパーティーがダンジョンに入り、反抗的なパーティーだけが全滅する・・・パーティー内で1人が反抗的な場合は・・・別のパーティーに加入して殺されるってな具合にな」


「そこまで分かってて・・・」


「ダンジョン内で何が起きたのかなんて調べようがない。死体も魔物に食われたのかダンジョン内に残ってる事なんてほぼない・・・死因なんて生き残った奴の証言に頼るしかないんだよ・・・だから証言が『魔物に殺された』だったら死因はそれになる・・・怪しいと思ってても、な」


「・・・」


「ダンジョンに潜るな・・・そうすれば関わらずに少ししたら平和なダンジョン生活を満喫出来る。奴らが尻尾を出せば俺が必ず追い出してやる・・・だから・・・」


「・・・善処します」


「おいサラ!」


「まだその連中が『タートル』と決まった訳でも・・・組合を作りに来た奴らかも確定はしてないのですよね?なら私は・・・」


「・・・俺は忠告したぞ?」


「ええ・・・では」


部屋を出てドアに背中を預けため息をひとつ


恐れていた事が早くも現実に・・・これからどう動くべきか・・・


まだ組合を作りに来たかどうかも分からない・・・まずは調べて・・・だがフリップの言っていた『タートル』・・・ガゾスは『タートル』だけには関わるなと言っていた。あの時は私がまだ弱かったから言っただけかもしれないけど・・・


どうするか決める前にみんなの待つ下に降りると笑顔で私を迎えてくれる


もし・・・万が一・・・この村を訪れた連中が『タートル』ならこの笑顔は・・・



「サラ姐さん!飯行こうぜ!」


「すまないが・・・パーティーを抜けさせてくれ」


これが私の決断


私の為にも・・・ケン達の為にも・・・今日登録したような新人冒険者の為にも・・・素性を調べてやる

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