293階 増員
そのメイドをうらないか?
占いか?裏ないか?
どうしよう・・・言っている意味が全く全然分からないぞ?
「見れば護衛も連れずメイドと二人で店に来たみたいだがこの店で服を買う金もないのだろう?大方見るだけ見て値段に絶望していたのではないか?貧乏貴族が買えるほどこの店の服は安くはないからな」
なぜそう思うんだ・・・と思ったら僕の服も旅の時から着ている服だからヨレヨレだ・・・それに変態貴族は護衛4人にメイド2人・・・僕はと言うとメイド1人・・・それを見て僕が貧乏貴族と思い込んだのか
「そのメイドを買ってやる。そうすれば一着くらいは買えるだろう?少しでも見映えが良くなれば店員にも相手にされるようになるぞ?」
なるほど・・・店員に相手にされなかったのは格好がショボイから・・・で、『うらないか』は『売らないか』で、値段はこの店のスーツ一着分と・・・なるほどなるほど
「そこのメイド・・・名は何と言う」
「・・・サラで御座います」
「サラ・・・良い名だ。好きなドレスを一着選ぶといい。どれでも好きなもので構わない・・・まあどうせ今夜破かれるがな。貴殿もさっさと選んで帰れ。あー、なるべく安いものにした方がいいぞ?あまり身の丈に合わぬ服は着ると言うより着られていると見られるからな」
横でクスクスと笑う店員・・・護衛はまたかって顔をしてメイドの2人は感情を失ったように無反応・・・ハア・・・
「どうした?さっさと選べ。それか現金がいいか?それならワシの屋敷に来れば・・・」
「その服はこの店で買ったものですか?」
「あん?そうだが・・・まさか同じ服を着たいのか?やめておけ貴殿には・・・」
「ではこの店の店員も見る目がないですな。普通なら身の丈に合った服を薦めるはずなのに服に着られているように見えるなんて・・・」
「・・・今何と言った?・・・ワシが服に着られているだと?」
不細工な顔が見る見るうちに真っ赤になる。容姿を悪く言うつもりはないけど性格からくる醜い容姿となれば話は別だ
「そうでしょう?その服は先程店で見掛けましたがピシッとストレートに着こなした方が見映えがいい・・・ですが貴殿が着ると醜い曲線を描いてしまい飾られている服に比べると服の価値が数段落ちているように見えます。店としては服は商品・・・購入した者は客であると共に店の広告塔・・・私が店員でしたら貴殿にはその服はお勧めしません。貴殿に着られては売れるものも売れなくなってしまうのでね」
「・・・」
「あ、でも買いたいと言う客には売りますよ?ただ一言『家の中だけで着てくださいね』と付け加えますが」
「・・・貴様・・・ワシがヤヌーク・マドミヌ・ナクロム子爵と知っての言葉か!」
知らんがな
「おお!あのマドミヌ子爵様でしたか!」
「白々しい・・・今更命乞いしても遅いぞ!お前ら店の外に連れ出してどこの貴族のボンボンか吐かせた後で始末しろ!店員!今の暴言を後で証言しろ!同じ子爵でもそれで話は通る!」
「誰がいつ命乞いしたよ・・・王都のパーティーに呼ばれていれば名前くらい覚えていたのに・・・それとも実は居たのか?挨拶された貴族は覚えているが挨拶も出来ずに部屋の端でタダ飯でも食ってたか?」
「何を訳の分からぬ事を・・・ええい!さっさと連れ出せ!暴言の対価としてメイドは貰っていく・・・貴様の命とメイド・・・それで家門には影響ないようにしてやろう」
「そりゃどうも・・・って言うと思うか?」
ヤヌークの命令で護衛が動く
腰にぶら下げた剣はさすがに抜かないか・・・店の中で刃傷沙汰になれば服が汚れて買取になっちゃうしね・・・店員はさっきまで笑っていたのに顔が青ざめていた。僕の心配より商品の心配をしているようだ
「ご同行願います」
僕の前に立った護衛は言葉は丁寧だけど威圧的に言いやがる・・・言う事を聞かなければ手を出す事も辞さない・・・そんな雰囲気だ
「殺されるかも知れないのについて行くと?」
「素直に聞きメイドを差し出せば旦那様もそこまでは望むまい。王都で殺しは御法度だ・・・それくらいも知らないのか?」
「・・・ハア・・・それくらいも知らないのか・・・か。もう少し丁寧な言葉を知らないのか?」
「ふん、身分の事を言っているならお門違いだ。子爵である旦那様の命令に従っている時点で我らは・・・」
「辺境伯だ」
「・・・なに?」
「ロウニール・ローグ・ハーベス辺境伯・・・子爵の命令ごときで私を連れ出しあまつさえ私の大事なメイドを奪えるとは・・・知らなかったな」
「・・・そんな嘘が通じるとでも・・・」
「確認したければゴーンの隣にある私の屋敷にサーテンと言う執事がいる。そいつに聞いて来い。それか掛かって来るか?貴様ら4人が魔王・・・魔族より強いなら勝てるかも知れないぞ?ちなみに後ろにいるサラも魔族討伐の立役者で明日Sランクに上がる・・・子爵の護衛がどれ程強いか知らないが・・・やってみる価値はあるかもしれないぞ?」
「・・・魔族・・・辺境伯・・・サラ・・・サラ・セームン・・・『風鳴り』??」
ヤヌークが護衛の後ろでブツブツ言っている・・・どうやら僕の事は噂程度には知っているみたいだな。それにサラの事も
「だ、旦那様?」
「護衛の教育がなってないな・・・{跪け}」
魔力を込めれば眷族ではなくとも効く・・・言霊って便利だな
主人の動揺が伝わり狼狽える護衛はあっさりと言われた通りに跪く・・・と言うか正確に言うと動かされた
4人の護衛が跪く中、僕はヤヌークに近付き目を細める
改めて見ると醜悪・・・見た目からではなく心から腐敗臭がするような気がして眉をひそめた
「へ、辺境伯様でいらしゃいましたか・・・その此度は・・・」
「もし仮に・・・」
「え?」
「もし仮に私が子爵程度だったら貴殿に対する暴言の対価は私の命とメイドの譲渡・・・だったな?」
「いえ!それはその・・・」
「では聞こう・・・子爵が辺境伯に暴言を吐いた・・・その対価はどのようなものになる?子爵の命は確定としてメイド1人では足りないような気がするが・・・」
「か、か、確定!?」
「護衛の命は護衛自らの暴言の対価だから・・・同等で先程の条件なら単純計算でも足りないであろう?さて、どうしたものか・・・答えぬのならこちらで決めてもいいのだがどうする?」
「しゃ、謝罪致します!それとお、お金を・・・」
「ほう?子爵でも私の満足する支払いが出来るほど稼いでいるのだな。では1000万ゴールドを今日中に持って来い」
「・・・1000万?そんな大金持って・・・」
「侮辱した罪もそうだが何より許せないのがサラ・・・私のメイドをたかだか服一着の価値と断じた事だ。そもそも金銭や物で買えるなどという考えが許せん・・・分かるか?この気持ちが」
「は、はいぃ!とてもよく分かります!ですのでどうか・・・どうか御容赦を!」
ヤヌークは突然自ら跪き頭を床に打ち付ける
何とかこの場を凌ごうと必死だな
「ではもう一度聞く・・・貴族たるもの対応力も高くなくてはならないはず・・・間違えるなよ?どうすれば私が許すか答えよ」
屈んで目線の高さを近付けヤヌークの答えを待つ
「・・・あ・・・あ・・・」
これだけ脅したら答える事は出来ないか・・・ちょっとくらいいい所見せろよな・・・
「・・・ハア・・・仕方ない。後ろのメイド2人は手付けとして貰っていく。答えが出たら私の屋敷まで来い。ああ、明日は国王陛下と謁見の用事がある為に明日以降にしてくれ」
「へ、陛下と?・・・」
「期待しているぞ?ヤヌーク・マドミヌ・ナクロム子爵」
「は・・・はひ・・・」
「それと店員」
「は、はい!」
「私のメイド3人に一番似合うドレスを」
サーテンから出掛ける間際に渡されたカードを店員に渡した
ギルドカードみたいなカードけど趣味の悪い金色で爵位を示す特殊な加工がされているのだとか・・・これさえあれば何でも買える・・・まあ自分の持ち金までだけどね
後で屋敷に請求が来るシステムだからお金を持たずに済むのは便利だな
「こ、このカードは!・・・か、必ず御三方にお似合いになるドレスを選んでみせます!」
「よろしく頼む・・・あ、でも本人が気に入らないとダメだぞ?
「畏まりました!ですのでどうかご慈悲を・・・」
ご慈悲って・・・別に店員には何もするつもりないけど・・・まあ少しだけ態度が悪かったのは気になったけど・・・
「ではお嬢様方!お好きなドレスを手に取って下さいませ!そのドレスに合わせて私めが全身全霊をもってコーディネートさせて頂きます!」
戸惑う2人とサラを連れて店の奥へと消えていく
何とか服の方はこれで間に合いそうだ・・・って
「お前ら邪魔」
「う、動けないのです・・・」
ずっと跪いて動かないから何しているのかと思いきや・・・そっかまだ効果は続いてるのだな
「{動いてよし}・・・さっさとヤヌークを連れて帰れ・・・私の気が変わらない内にな」
「ハッ!大変失礼致しました!」
護衛達は呆然とするヤヌークを抱えるとすぐに店から出て行った
残された僕はその様子を見送ると3人の服選びを眺める
まだヤヌークのメイドだった女の子達は沈んだ表情をして店員に言われるがまま服を選んでいる感じだ・・・その中でサラだけが気になった服を自分に当てて鏡を見て楽しんでいる
どれも似合うからいっそう全部買うか・・・なんて思ったりもしたけど無駄使いは良くないな
それにとりあえず明日着る服を選んで寸法とか合わせないといけないし・・・
「ご主人様、これなんてどうですか?」
「いいと思うよ」
「これはどうですか?」
「それも似合うね」
「これは・・・」
「似合う似合う」
「・・・もうご主人様には聞きません」
あれ?対応間違えた?だって全部似合うのだから仕方ないじゃないか・・・
結局かなりの時間をかけてようやく3人共服を選び終え、サラはメイド服に着替え2人はメイド服片手にドレス姿で店を出た
3人の美女美少女を連れて歩くのも悪くない・・・なんだかモテ男になった気分・・・だ!?
「ご主人様・・・鼻の下が伸びてますよ?」
なぜ背後から分かる!?
頭を叩かれて浮かれた気持ちを引き締めるとデートの続きをしたかったけどとりあえず屋敷に戻る事に
2人もメイドが増えたけど・・・サーテンの奴に何を言われるやら──────




