286階 地下室の激闘
サラと共に馬車の中からゲートで王都にある屋敷へ
するとサーテン達が僕達を出迎えた
「これはご主人様・・・まだお風呂の準備は出来ておりませんが・・・」
「風呂じゃない・・・少し出掛けてくる」
「畏まりました。御昼食の準備は如何致しましょうか」
「要らない・・・じゃ」
急いで屋敷を出て庭に出るとゲートを開いて仮面を取り出す
ここに僕が居ると知られる訳にはいかない・・・なので変装して・・・あ、マズイ・・・ロウハーじゃ総ギルド長に会えないよな・・・フリップ曰くお偉いさんみたいだし・・・
「私も?」
「ああ、念の為にサラートになってくれ。行先は・・・キース邸だ」
幾度となくお世話になったキース邸・・・言わずと知れたSランク冒険者キース・ヒョークの住処だ
出来ればまだ会いたくなかったが仕方ない・・・この姿で話を聞いてくれそうなのはキースくらいだからな・・・真っ二つにされない・・・よな?
扉をノックするとしばらくしてからパタパタと音が聞こえ扉が開いた。出て来たのはソニアさん・・・Aランク冒険者であり美人でありキースの奥さんという男の趣味だけが残念な人だ
「あら?どなたかしら?・・・もしかして主人に挑むつもりなら止めといた方がいいわよ?」
いきなり挑むつもりならって出る時点でそういう輩が一定数居たのだろうと想像出来る。そしてそいつらを完膚なきまでに叩きのめして来たキースの姿も
「大丈夫です。キースに伝えて下さい・・・『バーカ』と」
「ちょっ!?」
「・・・知らないわよ?殺されても」
「構いません」
僕が笑顔で答えるとソニアさんはため息をついて屋敷の中へ戻って行った
「ロウ!素直に素顔を晒せば済む話だろ?なぜ焚き付けるような・・・」
「アイツの甘言で過ちを犯すところだったから・・・つい・・・」
「ついって・・・来たぞ!」
屋敷の外にドスドスと歩く音が響き、それが近付いて来た。そして荒々しく扉が開かれると口から煙のようなものを出す魔物・・・じゃなくてキースが目の前に
「いい度胸じゃねえか・・・こちとら暇を持て余してたんだ・・・簡単にひねり潰されるんじゃねえぞ?」
「まるで勝つのが当たり前のようなセリフだな・・・外では目立つ・・・やるなら地下でやろうぜ?キース」
「あん?なんでお前が地下の事を・・・」
「デカイ図体のくせに細かい事を気にするんだな・・・その図体は見せ掛けか?」
「・・・死んだぞてめえ・・・ついて来い!!」
あっさり知らない人を家に入れるなよ・・・でもまあ久々に全力で戦える・・・ダンジョンではほとんどサラが魔物を倒しちゃってたしな・・・
「ロウ・・・どんな甘言だったの?」
「・・・メイドの下着をひっぺがしてヤレ、と」
「そうか・・・ヤレ」
「御意」
サラの許可も得たし勝手知ったるなんとやらで真っ直ぐに地下へ向かう
そして待ち受けるは準備万端の筋肉オバケ・・・見るからに強そうだから嫌になる
「で?2人がかりか?それとも順番か?」
「相手にするのは僕だけだ」
「1人?・・・とことん舐めてんなてめえ・・・」
「順番にしたって後ろに回らなきゃ意味が無いだろ?どうせ僕で終わる」
「っ!・・・クックックッ・・・ハーハッハッ!虚勢もそこまで出来りゃ本物だ・・・仕方ねえから半殺しで許してやる」
「そいつは・・・どうも!」
舐めきってるのか首にぶら下げた大剣も持っていない
なら先手必勝・・・一気に勝負をつける!
「チッ!魔法使いっぽいのはブラフかよ!」
一気に間合いを詰め蹴りを放つと片手で防がれる・・・結構思いっきり蹴ったつもりなのに・・・
「痛え・・・なっ!」
お返しとばかりに拳を振り上げると真っ直ぐに突き出して来た。下手な武道家より威力があるんじゃないか?この化け物め
キースの拳をそっと触れていなすと体を回転させ踵をこめかみに突き刺す
普通ならこれで意識を失い倒れるはずだけど・・・
「ぐっ!・・・痛えなコラ!」
だよね
破壊力だけじゃない・・・耐久度もSランク・・・普通の攻撃じゃビクともしない
「ちょっとムカついたぞ?・・・もう後には引けねえ・・・五体満足で帰れると思うなよ?」
「半殺しは?」
「全殺しじゃないだけ感謝しろ・・・」
首にぶら下げていた小さな剣を鎖ごとぶち切ると『大剣』の名に相応しい剣へと変化させる
まるで鉄の塊・・・よくあれを食らって生きてたよな・・・僕
「・・・てめえ名前は?」
「ロウハー」
「墓標にはちゃんと名前を入れてやらあ」
「殺す気満々じゃないか・・・この嘘つきめ」
「俺を嘘つきにしたくなけりゃ必死に死なねえように頑張んな!!」
なんで僕がお前の為に・・・って、速い!
巨大な体からは想像も出来ないような速度で間合いを詰めてくる。前に戦った時よりも更に速い・・・前は手加減していたのかそれとも強くなったのか・・・相変わらず・・・
「強いじゃないか・・・キース・・・」
「なっ・・・てめえ・・・」
キースの踏み込みに合わせて僕も踏み込み、マナの強化だけではやられると判断して魔力で強化し大剣を持つ手を止める
振り下ろそうとする力と止めようとする力・・・魔力を使っているのに五分とは・・・クソバカ力め!
キースは一旦力を抜くと飛び退き僕を睨みつける。そして大剣をその場で振ると肩に担ぎ口を開いた
「・・・何者だ・・・返答次第じゃマジでやる」
「今のは本気じゃなかったと?」
「・・・本気の中にも色々ある・・・てめえクラスなら分かるだろ?」
「・・・」
本気は本気でも2種類ある・・・殺す気があるかないか・・・なんだかんだ言ってもキースは僕を殺す気はなかった。その証拠に殺気は放っていなかった。でもこれ以上続ければ・・・
「そこまでだ・・・これ以上は私の体が保たない」
サラの一声でキースから出かけた殺気が引っ込む
それにしても『保たない』ってどういう事!?
「・・・今更芋引く気か?」
「もう十分だろ?下着を脱がされた被害者は私なのだし実行したのはあなたでしょ?・・・まあ他の子にやってしまってたら・・・変な事を吹き込んだキース殿も万死に値するが・・・」
「あん?下着を脱がされた?」
「とぼけるなキース!お前がメイドはやられるのを待っているとか言ってパンツをずり下ろせって僕に言うから・・・」
「・・・俺ら初対面だよな?」
あっ、忘れてた
「これでもシラを切るつもりか!キース!」
「お前・・・ロウニール!?それにサラ!?」
仮面にマナを流すのを止めて変装を解き外すと驚きのあまりに声を裏返す
「相手がサラだったから助かったもののもし他のメイドだったら・・・」
「ちょっと待て!確かに言った・・・だが間違えてねえ!メイドなんて主人の肉棒をいつ入れてもらえるか待ち構えて・・・」
「へえ・・・それは初耳だねキース・・・」
「・・・ソ・・・ソニア・・・」
「今度ウチにメイドを入れて試してみようか・・・シシリアと永遠にバイバイしたいならやってみな」
「違っ・・・俺はあくまで一般論を・・・」
「一般論・・・ね・・・女を道具にしか思っていないような輩は・・・一般論じゃどうするんだい?」
「・・・優しくなでなで?」
「燃え散りな」
わー・・・人が燃えるの初めて見たかも
とばっちりが来る前にここは退散が吉と・・・
「待ちな・・・旦那のせいとは言え女を物扱いするその根性・・・気に入らないね」
「・・・猛省してます・・・」
「それに人の家に騙して上がり込むたぁ・・・燃える気満々かい?」
燃え盛るキースを横目に首を全開で振るとソニアさんは近付いて来て僕の顎をクイッと上げた
「罪の意識があるなら黙って着いて来な・・・逃げようなんて考えんじゃないよ!」
「・・・灰・・・じゃなくて、はい・・・」
どうやら灰にならずには済みそうだけど・・・一体何を・・・僕はこの屋敷で最も怒らせてはいけない人を怒らせたらしい・・・Sランクパーティー・・・恐ろしや──────
「すすむー!ゴーゴー!」
僕の罰はシシリアちゃんの遊び相手に決まった
なーんだとタカをくくっていたけど・・・かなりしんどい・・・しかもこんな事している場合じゃないのに・・・
「申し訳ありません、うちのロウが・・・」
「うちのロウ・・・ね。そのメイド服といい・・・詳しく聞かせてもらえる?」
サラとソニアさんはテーブルにつきお茶を飲みながらこれまでの経緯を話している・・・僕は引き続き・・・
「ドウ!かくご!」
「ドウじゃなくてロウ!・・・って、それで叩かれると痛いかも・・・いたっ!」
木の棒を振り上げ笑顔で殴るシシリア・・・いや、これ血出てない?
「へえ・・・おめでとう。聖女と初恋の相手に勝つなんてやるじゃない。それで花嫁修行でメイドを続けるって?」
「は、花嫁修行じゃなくて・・・冒険者以外何もしてこなかったから・・・」
「ふふっ・・・立派立派・・・でも辺境伯の奥さんだったら何もしなくても・・・それこそ世継ぎさえ産めば・・・」
「ソニア殿!」
「ハイハイ・・・で?今日はその報告に来たの?付き合ったくらいで報告じゃなくて子供が・・・」
「その話はもういいですって!・・・ちょっと厄介な事がありまして・・・」
「厄介な事?」
「ええ・・・ぶっ!」
ゴブリンの事を伝えようとして僕の方を見たサラは吹き出してしまう・・・まあ吹き出されても仕方ない・・・何せシシリアちゃんに両ほっぺを思いっきり引っ張られている最中だったのだから──────
「それで俺の所に?」
「ええ・・・たかが一体のゴブリン・・・されど一体のゴブリンです。大事になってないか、なっていなければなる前に原因を突き止めないと・・・。でも僕は今王都に向かう馬車の中・・・その僕がいきなり王都に現れたら色々まずいので変装してここに来た次第です。キースさんなら王様・・・じゃなくてもディーンさんや総ギルド長に伝えられるかと思って・・・」
燃えカス・・・じゃなかった髪型が少し面白いことになっているキースはゴブリンの話を聞いて難しい顔をする
「もしかして・・・何か心当たりが?」
「ありありだ・・・最近その類の話が飛び交ってやがる。混乱を避ける為に公にはしてないがな」
「つまり魔物が地上に現れている?ダンジョンブレイクが起きずに?」
「そういう事だ。入口で待機しているギルド職員が何者かに殺されたって話もある・・・ただダンジョンブレイクは起きてないのは確認済みだ・・・ダンジョンブレイクが起きたら低層階の魔物はほとんど残っちゃいねえからな。それが残ってるとなればダンジョンブレイクは起きてねえって判断しているが・・・」
その判断基準が間違えている可能性も・・・けどまあ、合っているだろうな。下位の魔物ほど何も考えずにダンジョンを出て行くはずだから・・・
「魔王は倒したが・・・世界は歴史を繰り返す・・・か」
「歴史?」
「なんだお前・・・勇者の物語を見た事ねえのか?」
「暗い幼少期を過ごしたもので・・・」
昼は学校、夜はダンコによるダンジョン講義・・・寝る暇もございませんでした・・・なので本なんてとても・・・
「まったく・・・魔王が復活すると地上に溢れるんだよ・・・魔物やら魔族が、な──────」




