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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
285/856

281階 ハーキン・ムジーナ

冒険者ギルドを出たその足で今度はラルの家に向かった


ラルの家は分かりやすい・・・僕の建てた?石柱を目指せばすぐそこに・・・マジか・・・


石柱のすぐ近くにあったボロ屋・・・それがラルの家だったはずが立派な家に変貌していた。しかも両隣にあった家がなくなり三倍近くの広さになって


成金・・・いや、確かに僕も凄い広い屋敷を貰ったりしているけどさ・・・それでもこれは・・・やり過ぎでしょ?


「周りの家に比べるとやけに豪華な家だな」


「目立つわね・・・それと何よこの石柱・・・何か意味あるの?」


「魔法だな・・・この高さまで至るにはかなりのマナが必要・・・相当な使い手だな」


「でも何の為に?別に石碑とかじゃないみたいだし・・・ただ邪魔なだけよね?」


「すまん・・・村の状況を知るのに僕が・・・」


ここから村の外がどうなっているか確認する為だけに土柱を作ったんだよな・・・まあその後に崩れないよう石化して石柱になっちゃったけど


「ロウニールがかよ!お前・・・ハア・・・まあ魔王を倒すくらいだ・・・これくらいはやるわな・・・剣も使えて魔法も使えて・・・権力も手に入れて美人の彼女も出来て・・・この世はお前の物か!」


「概ねな」


「キー!少しは自重しろ!」


この世は僕の物?そんな物はくれるって言われても要らないけどね。サラが隣にいてくれればそれで・・・


「何かありましたか?ご主人様」


僕の視線に気付いて微笑むサラ・・・その笑みがまた妖艶で・・・くっ・・・


「早く用事を済ませるぞ・・・ロウニール」


なぜかマグに肩をポンポンと叩かれた・・・まさか僕が欲情しているのが見抜かれた!?


「そ、そうだね・・・じゃあ行こうか・・・」


大きく息を吐き落ち着かせるといざハーキンの元へ


叩けば崩れ落ちそうだった玄関の扉も今ではピカピカで分厚い扉に変わっていた


その扉をノックすると少し間があり扉が開いた


「はい・・・何の御用でしょうか?」


ラルのお母さんのムル・・・魔蝕から回復してすっかり元気に・・・お太りになられている・・・


「ハーキンさんに用事があって来ました」


「夫に?・・・組合からの報告・・・ではなさそうですね。どちら様ですか?」


「『ローグ』・・・と言えば分かりますか?」


「っ!・・・少々お待ち下さい!」


そう言ってムルは慌てて家の奥へと消えて行った


その時・・・


「今取り込んでいるんだ!後にしろ!」


「でもローグ様の・・・」


「どうせどっかからか噂を聞き付けたかりに来た奴だろ!ローグ様なら通信道具もあるからそっちに連絡があるはずだ!偽物には帰ってもらえ!」


「お父さん違うの!キャッ!」


「お前は黙っていろ!」


バシンと家中に響く音・・・それにラルの悲鳴が聞こえて思わず家の中へ


そして声のする方向へと早足で歩くと変わり果てたハーキンの姿を見て絶句する


ダンジョンで片足を失い、妻が病気で倒れ、幼い娘にリンゴを売り歩いてもらってすまなそうな顔をしていたハーキンは目の前におらず、代わりに偉そうにふんぞり返り杖をラルに振り上げる醜悪な・・・変わり果てたハーキンと思われる奴が目の前にいた


「っ!何勝手に入って来てるんだ!このっ・・・兵士を呼べ!不法侵入だ!」


「呼んでくれて構わない・・・その前にラルに謝罪しろ」


「何?お前何様のつもり・・・」


「お兄ちゃん!」


「・・・お兄ちゃん?」


「悪かったな・・・勝手に入って来て。でも妹が殴られているかもしれないと思ったら勝手に足が動いてしまった。でも後悔はしてない・・・後悔しているのは報告を受けるだけで5000ゴールドも支払いラルを救った気になってた事だ。ほんの少しだけでも気にかけて会いに来ていればこんな事にはならなかったのに・・・」


「な、何を言って・・・」


「仮面の下の顔は想像と違ったか?私は言ったはずだがな・・・金を渡すのは『恩返し』だと・・・ラルが私を救ってくれた、ね。だが蓋を開けてみればどうだ・・・ラルは私からのお金を拒否する為に1人ダンジョンに行きゴブリンと命懸けの戦いをしている・・・これじゃあ金を渡した事によってラルが不幸になっていると思わないか?ハーキン」


「本当に・・・貴方がローグ様・・・」


「ロウニール・ローグ・ハーベス・・・エモーンズの辺境伯だ。さっさと兵士を呼べ・・・それで私の身分は証明される」


「・・・辺境伯・・・様・・・」


「別に貴族になりたくてなった訳じゃないから畏まらなくていい。もう金を渡すのも止めるんだ・・・対等にいこうじゃないかハーキン」


「・・・そうなれば・・・私達は最後の手段に手を出さざるを得ません」


「へえ・・・その最後の手段とは?」


「娘を売ります」


・・・本気で言っているのか?それとも金を出させる為の脅しのつもりか?


でも僕は知っている・・・こうして売られた子が孤児院と言う名のメイド育成所に送られている事を


つまり現実にあるんだ・・・貧しくて・・・働く事が出来ない人達が子供を売り飢えをしのぐ・・・なんて世界が


「それでも親かよ!子供を売るなんて・・・」


「・・・どなたか知らないがではどうしろと?このままラルに冒険者をやらせればいいのですか?私はこのような状態・・・妻も働き口がない・・・働けるのは唯一ラルだけ・・・かと言って普通に働いていては私達3人の食い扶持などとても・・・だからラルは冒険者を選んだ・・・そうだろう?ラル」


「・・・」


「だからと言って・・・」


「ジケット下がってくれ。ハーキン・・・私達が来た時にラルを殴ってた理由は?」


「それは・・・冒険者を止めてエモーンズで働きたいと・・・しかもローグ様にお金はもう要らないって言うって・・・」


金惜しさに実の娘を殴ったか・・・いや、嘘でも娘を売ると口にする奴だ・・・当然の行動か・・・


初めて会った時のハーキンはもういないのか?もうあの頃に戻れ・・・そうか・・・そういう事か・・・


「あの頃に戻りたくない・・・か・・・」


「っ!」


「今にも餓死しそうな時、周りは誰も助けてくれなかった・・・病気の妻、動けない自分、幼い娘・・・金が無くなればあの頃に逆戻りだ・・・それを食い止めたくて必死に・・・。家を豪華にしたのは助けてくれなかった周囲への当て付けか?報告に来た冒険者をぞんざいに扱ったのも・・・。さっき私からの送金が止められたらラルが冒険者になるしかないって言ったよな?逆だよそれ・・・ラルは送金を止める為に・・・そしてとめた後も2人が生活出来るよう冒険者になろうとしていたんだ」


「なっ!」


「偶然ダンジョンで会って話を聞いて愕然とした・・・そして痛感した・・・金では幸せにはなれないと、な」


「違う・・・違う!」


「何が違う?村の人達に嫌われていく親を見るのがイヤで冒険者になったラル・・・冒険者が駄目な訳じゃない・・・学校で戦い方をしっかりと学びしっかりと準備をしても命を落とすような職業にならざるを得なかったのはなぜだ?金がお前達を変えたからだろ?」


「違う!何が分かる!!毎日の食事もままならない・・・飢えを凌ぐ為に訳の分からない草を食べ・・・唯一動ける娘が売り物だからとリンゴに手を出さずに痩せ細った体でリンゴを売りに行く姿を見送る私の気持ちが!!貴様に分かるか!!」


「けどその娘を売ろうとした」


「っ!・・・それは・・・」


「まっ、一度手に入れた生活を手放すのは難しい・・でもラルは・・・同じ境遇にあったラルはそれでも元のお父さんに戻ってもらいたかった」


「・・・」


「私も少なからず責任を感じている。だから送金を打ち切ろうってだけじゃなく仕事を用意した」


「仕事?まさかラルがエモーンズで働くと言い始めたのは・・・」


「私の屋敷でメイドをしてもらう」


「・・・初めからそれが目的か!」


「なぜみんなそうなる・・・私にはちゃんと相手がいる・・・絶世の美女のな。ラルの事は妹のように思っている・・・誓って手を出すつもりはない」


「・・・絶世は言い過ぎ」「・・・え?」


美女はいいんかい!てか、ラル・・・その『え?』は何?『え?』は


「それと仕事はラルだけじゃない・・・ハーキン・・・お前にも準備した」


「仕事って・・・こんな足で何が・・・」


「冒険者ギルドの職員だ。もちろんダンジョン入口に立ったりするのは無理だから魔核を鑑定したり書類を書いたりと机に座って出来るような仕事だけだけど・・・2人で生活するには十分稼げるだろう」


「ギルド・・・そんな所で働ける訳が無い!」


「自覚はあるみたいだな・・・けど安心しろ・・・バデットと約束をした。今なら謝ったら全て水に流してくれるそうだ」


「・・・」


「さて・・・金はもう渡さないのは決定事項だ。お前が選択出来るのは二つ・・・エモーンズ、ムルタナ、ケセナを治める辺境伯である私の提案を受け入れるか否か・・・それ以外に道はない」


「うわっ・・・えぐっ・・・」


「実質一択よね・・・ロウニールも貴族らしくなってきたわ」


「身から出た錆だ・・・仕方あるまい」


「まあ、ラルちゃんの身の安全は私達が保証するわ・・・手を出したら絶交よ絶交」


ジケット達の援護射撃?・・・若干僕に被弾しているが・・・もあり、ハーキンは覚悟が決まったのか諦めたのかか細い声で『お受けします』とだけ呟いた


これでラルは僕の屋敷のメイドとなり、ハーキンはギルド職員に・・・通うのが若干大変だろうけどそこは逞しくなった奥さんが助けてくれるだろう


「お兄ちゃん!」


家を出るとラルがお見送りに・・・って訳じゃなさそうだな


「今度から『お兄ちゃん』じゃなくて『ご主人様』だぞ?まあ屋敷の外なら『お兄ちゃん』でいいけど」


「うん!・・・ありがとう・・・」


「・・・感謝しなくていい・・・元の2人に戻れるかは本人達次第だしそれに『恩返し』がまだだったからな」


金を渡しただけで『恩返し』と思ってた・・・ダメだな僕は・・・


「お兄ちゃん?」


見上げても上が見えない程の石柱・・・ハーキンや冒険者にとっては『ローグ』の力の象徴みたいになってたんだな・・・ハーキンはそれを利用し、冒険者はそれを恐れる・・・そんなに見栄えも良くないし要らないと思っていたからちょうどいい


石柱に触れた状態で魔力を集める


マナでかなりの威力だけど魔力ならどれくらいの威力になるか・・・試してみようか!


「『流波』!」


マナと同じように魔力を石柱に流し込む


すると魔力は石柱の中で暴れ始めそびえ立つ石柱を粉々に砕け散らす


あっという間に小石・・・いや、砂状になった石柱はその存在自体がなかったかのように消え去ってしまった


・・・想像以上だ・・・人間に使うのはやめておこう・・・


振り返るとポカーンと口を開けたまま石柱があった場所を見つめるみんな・・・ちょっと引かれてる?


「・・・ほら、邪魔だったし・・・」


「いきなりエグい事するなよ!」


「邪魔だったしって・・・怖いわ!・・・ロウニールの邪魔した者の末路を見た感じ・・・」


「解体に便利そうだな」


「そうね・・・人間ごと解体されなきゃいいけどね」


好き勝手言いやがって・・・サラとラルは引いてないよね?


「・・・素敵・・・」


「さすがお兄ちゃん」


うん、それはそれで僕が引くわ


まあともあれ一件落着という事で・・・


「おお!?・・・あっ、辺境伯様!これは一体・・・」


「村長・・・邪魔だったから撤去した」


「そ、そうですか・・・元々辺境伯様が建てた物・・・誰も文句は言いますまい。ところで食事の準備が出来ましたのでこちらへ・・・本来なら我が家でおもてなしをしなくてはならないのですがなにぶん急だったもので・・・」


「気を使ってくれてありがとう・・・1人増えても?」


「もちろんでございます。では参りましょう」


良かった・・・このままだと場が持たないと思ってた矢先に村長が来てくれて


なんだかんだでもう夜だ・・・昼も食べてないからかお腹が急に空いてきた


ムルタナでは食事らしい食事をした事なかったからな・・・楽しみだ──────

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