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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
282/856

278階 サラートとロウハー

馬車を抜け出す為に用意した物はいくつかある


まずはギルドカード


街や村に入るにもギルドカードは必須だ


しかし僕とサラは王都に向かう馬車の中に居る事になっている為に持っているギルドカードは使えない・・・って事でサキに頼んで作ってもらった


「これは・・・ギルドカード?名前が『サラート・ロムーン』・・・Eランク冒険者・・・誰これ?」


「サキに僕の持っているギルドカードと同じ物を作ってもらったんだ。名前とランクを変えてね」


「そうなの?でもギルドカードって・・・これはロウだから話すけど魔核の欠片が埋め込まれてて偽造品かどうか分かるらしいのだけど・・・」


「うん、それもサキが見抜いて同じように作ってくれた。本当はカードの名前だけ変えようと思ったけどそれは難しいみたいでまったく同じ物を文字を変えて作ってもらったんだ」


「凄いわね・・・でもサラートって?」


「間違えて名前呼んでも誤魔化せるだろ?ちなみに僕の名前は『ロウハー・ベス』にした。それとこれ・・・」


「仮面・・・目立つわね・・・」


ギルドカードの次にサラに渡したのは仮面・・・これを2人してかぶって冒険者ギルドに行ったら目立ちまくること間違いなしだ


「とりあえずかぶってマナを流してみて?それとそうだな・・・別人の『サラート』をイメージしながら」


「?・・・分かったやってみるね」


サラは仮面をかぶるとマナを流す


すると・・・


「・・・あれ?メイド服が・・・」


「サラ・・・サラの中でサラートって・・・男?」


「うん・・・って胸がない!?あれあれ??」


武道着に身を包む少しニヒルな中年男・・・それがサラの中のサラートらしい・・・なんだろう・・・心の中の爆発しそうだったものがスンと落ち着いてしまったこの感じは・・・


「仮面には変身用の魔核が埋め込まれてる。微量で大丈夫だけどマナを流し続ければその姿を維持出来るからバレる事はないと思う・・・さて・・・サラが武闘家なら僕は・・・」


僕も仮面をかぶりマナを流す


『ロウハー・ベス』・・・そのイメージは・・・


「ローブ姿・・・魔法使いね」


「うん。パーティーを組んでいる設定にしたいから被らない方がいいと思って・・・これで2人組の冒険者『サラートとロウハー』の完成・・・で、これで馬車を抜け出してダンジョンに行く」


「面白そう・・・そう言えば訓練所はしょっちゅう行っていたけどダンジョン攻略はないね」


「うん。エモーンズのダンジョンはぼくがマスターだからローグの格好をしないと魔物が襲って来ない・・・だからジケット達の誘いも断ってたんだ」


「創造主は襲わないことになっているのね。で?どこのダンジョンに行く気なの?」


「初めて行くダンジョン・・・ちょっと仕事絡みになるけど・・・ムルタナ近郊にあるダンジョンに行く予定だ──────」




僕の領地となる村のひとつ・・・ムルタナ


最近は忙しくて訪れる事はなかったから村が今どのような状況か知る必要があった


村をどうするか・・・決める為に



「必ずしも発展を望む人ばかりとは限らないしね」


「うん。今の生活が好きだって言う人もいるはず・・・それにエモーンズを見てて分かったけど急激な変化は何かしらの問題が起きる可能性が高くなるしね」


村が発展すれば人が多く訪れる


そうなれば当然トラブルも起きる可能性も高くなりそれを好まない人も・・・


かと言って発展を望む人もいるはずだ・・・一番いいのが自然に発展していき住民が徐々に慣れていく事なのかもしれないけど・・・


「難しい問題ね。便利さを求めれば人は豊かにはなるかもしれないけど心は貧しくなる可能性がある・・・光が強くなれば影も濃くなるように」


「うん・・・だから知る必要があるんだ・・・今の村の現状を」


馬車からゲートを使って村の近くに移動し、歩いてムルタナへと向かう


今の僕達は辺境伯とメイドではなく旅の冒険者だ。この姿なら本来の村の様子を見れるはず


「確認した。ムルタナにようこそ」


ギルドカードを提出すると問題なく村に入る事が出来た


あとはとりあえず冒険者ギルドに行って・・・


「変わってないわね」


「サラ・・・ートも来た事あるの?」


「エモーンズに来る前に寄っただけだけどね」


「そっか・・・それより・・・」


「ん?」


「その喋り方はやめた方がいいよ?今の見た目はオッサンだから・・・」


「あ・・・そうね・・・じゃなくて、そうだな。今の私達・・・俺達は『サラートとロウハー』・・・男同士の気ままな2人旅って設定だったな」


本当は恋人同士のイチャイチャ2人旅がしたいのだけど・・・まあ仕方ない



村に入ると以前に来た時の事を思い出しながら冒険者ギルドに向かう


そう言えばダンジョンブレイクが起きた時に村を囲む塀の高さが気になったよな・・・あまりに低くて脆い塀・・・外敵から守ると言うより村の範囲を示すだけの壁・・・けどあまり塀を高くすると閉塞感が・・・塀を高くするなら村を大きくした後にした方が・・・


「ロウ?・・・ロウハー・・・着いたぞ」


「うん?」


考えながら歩いているといつの間にやら冒険者ギルドに辿り着く


ラルの父親のハーキンさんからは特に報告がないから今もこの村の冒険者達はバデットが仕切っているはず


僕はニヒルなオッサンに扮するサラートと共に冒険者ギルドの扉を開けた


以前のように多くの冒険者がたむろしている事もなく僅かな冒険者がいるだけだった。バデットの奴がしっかりダンジョンに向かわせているのだろう・・・感心感心


僕がギルドの状況を見て感心していると1人の冒険者が近付いてきた


「見ねえ顔だな・・・流れの冒険者か?」


「ああ、旅の資金が尽きてね・・・ここでひと稼ぎしようかと寄らせてもらった」


威圧する訳でもなくて興味本位って感じで聞いてきたので当たり障りのない返事をする


「なるほどな・・・まあ精々稼いで来いや」


すると聞いて来た男は興味をなくしたのか振り返ると片手を上げ立ち去って行った


何の為に話し掛けて来たのだろう・・・ただ旅人が珍しかっただけかな?


少し気になったけど別に何された訳でもないのでそのままギルドの受付に行きダンジョンの入場許可証を申請した


「承りました。こちらが入場許可証です。それで・・・」


無事偽造カードが通って安心していると受付の子が許可証を渡す際に何かを告げようとした。その際に先程僕に声を掛けてきた男をチラリと見ると男は何かを察してか首を振る


「ど、どうぞ・・・お気をつけて」


「・・・ああ。ところでダンジョンはどこに?」


「村を出て西の方角に向かった先にあります。そこまで離れておりませんし街道とは別の道になっておりますので迷う事はないかと」


「ありがとう」


お礼を言ってギルドを出るとその足で村の外に出てダンジョンを目指す


「・・・受付は何を言おうとしたのだろう・・・」


「さてな・・・ギルドが知り得ていて話を止めるって事は組合内で共有している情報の類だとは思うが・・・」


人気がなくなった頃にサラに聞いてみるとそんな答えが返ってきた


・・・なるほど・・・もしかしたら話し掛けて来た男は組合に勧誘しようとしていた?もし移住して来た冒険者なら組合に勧誘して受付の子が言おうとしていた事を伝えてくれてたのかも・・・


「もしギルドが注意喚起しようとしていたのなら気を付けないとな・・・もしかしたら今から向かおうとしているダンジョンで何かが起きているのかもしれない」


「そうだね・・・気軽に考えていたけどダンジョンはダンジョン・・・気を引き締めて行こう」


僕とサラならどんなダンジョンだって大丈夫・・・そんな甘い考えは捨てておこう


緊急脱出用にそれぞれ簡易ゲートを忍ばせてダンジョンでの役割を話しながら先に進んだ



ダンジョンに辿り着くと入口にはギルド職員が2人立っており、許可証を渡すとすんなりと中に・・・他のダンジョンに入るのはいつぶりだ?このジメッとした感じが凄い久しぶりに感じた


「コラコラ・・・言っている傍から前に出るな。ロウは後衛だろ?」


「そうだった・・・つい・・・」


僕達は見た目通りの役割をする事にした


ニヒルなオッサンのサラは前衛武闘家、見た目普通のローブ姿の僕は後衛魔法使い


特に作戦らしい作戦は立ててないがこの立ち位置を維持しながらダンジョンを進む事に


初めて潜るダンジョンの為に1階からの攻略・・・当然弱い魔物しかおらず出番はない


ゴブリンの集団に襲われようとサラが簡単に倒してしまう


体を動かす為にダンジョンに来たのだけど・・・これはしばらく歩くだけになりそうだ・・・ん?


「どうしたの?」


「いや・・・気のせいだ」


ゴブリンの集団を倒した後にサラが何かを感じたのか首を捻る


「気のせい?」


「うむ・・・私も久しぶりのダンジョンで感覚が鈍ったのかもな・・・私の知るゴブリンより強く感じた」


ゴブリンが強く?


傍から見てもよく分からなかったけど・・・


「まあ気のせいだろう。先に進むとしよう」


経験を積んだ魔物なら強くなる可能性はあるけど1階だしゴブリンだし・・・その可能性は低い


となるとサラの勘違いか?・・・でも久しぶりとはいえサラはベテラン冒険者・・・ゴブリンなんてかなりの数を倒してきたはず・・・そのサラが違和感を感じるって事は・・・


考えても仕方ない・・・とりあえず進める所まで進んで馬車に戻るとしよう


さすがにジケット達には事前に話しているとはいえずっと馬車にこもっていては色々と怪しまれるしね


計画では一度ダンジョンに入って進み、ある程度の所でゲートを使って馬車に戻る・・・で、また馬車からダンジョンにゲートを使って行けばわざわざ村に行く必要はない


二日か三日に一度村に戻って食事などをして村の様子を見てまたダンジョンに行きそれを半月繰り返したら次はケセナに行くつもりだ


しかしこのダンジョン・・・もしかしたら半月もせずに攻略出来ちゃうかも・・・魔物が少ないしもうすぐ2階への階段が・・・


「まだ戦ってる?」


ピタッと足を止めるとサラが呟く


「誰が?」


「いや・・・風でこの階を調べた時に階段付近で戦っている者がいたのだが・・・どうやらまだ戦っているみたいだ。獲物を横取りする事になるかもしれないし終わるまで待つか?」


「うーん・・・結構長い時間戦っているの?」


「私達がダンジョンに入ってからだな」


「そっか・・・状況も分からないしとりあえず見て決めようか・・・もし助けが必要なら助けるし必要ないなら遠くから終わるまで見てるって感じで」


「そうだな・・・まあ1階程度でしかも1人で奥まで進んでいるんだ・・・それなりの者だとは思うのだが・・・」


パーティーを組まず1人で来たのか・・・まあソロ冒険者も結構いる・・・サラもその1人だったし


ひとまずそのソロ冒険者を見に行く為に奥へと進むと少し開けた場所でその冒険者がゴブリン達と激闘を繰り広げていた


「これは・・・どうする?」


「ふむ・・・判断に難しいな」


激闘と言っても完全にゴブリンに攻め込まれている・・・けど、かなり良い防具を全身に着けている為にダメージは負ってない・・・防御力は高いけど攻撃力皆無・・・だから戦闘が長引いているみたいだ


「十体中二体は倒したみたいだが・・・このまま待っていたら日が暮れそうだな」


「そうだね・・・かと言って本人にも考えがあってかも・・・」


拙い剣はなかなかゴブリンに当たらない・・・ゴブリンの攻撃も鎧を通す事がないので冒険者には通じない


どちらかの体力が尽きるまで続きそうな状況に困っていると冒険者が僕達の存在に気付いた


「っ!?・・・危ないです!逃げて下さい!」


え?・・・いやいやいやこっちの心配している場合じゃ・・・てか・・・この声・・・女性?


「心配には及ばん!それより手を貸そうか?」


「・・・お、お願いします!」


サラの問い掛けに一瞬迷ったみたいだが素直に協力を受け入れた


その返事を受けた途端にサラはゴブリンの群れに突っ込み一瞬でその場を制圧してしまった・・・さすがサラ・・・と言ってもゴブリン相手なら当然か


「大丈夫か?」


「は、はい!ありがとうございます!」


「あまり無茶をするものではないぞ?慣れない内はパーティーを組んで行くのも手だ・・・その装備ならタンカーとして十分に役立つだろうしな」


「・・・はい・・・でも早く強くなりたくて・・・」


強くなりたくて・・・か


確かに強くなりたいならタンカーとしてパーティーに入るよりソロの方が強くなれるだろうけど・・・


「理由があるのだな・・・だが命あっての物種だぞ?」


「・・・そうですね・・・」


よく見ると全身鎧で包まれているから分かりにくかったが身長も低く声も幼い・・・女性ではなく少女なのかも・・・そんな子が村で売ってるとしたら最高級の品であろう防具に身を包んでダンジョンに挑むって・・・そこまでして強くなりたい理由ってなんだろう


「あっ!すみません!命の恩人に顔も見せないままで・・・」


そう言って彼女は慌てて兜を脱ぎその素顔を晒す


その素顔は僕の予想より遥かに幼く・・・そして見覚えのある顔だった


「どうしてダンジョンになんかいるんだ?ラル──────」

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