277階 いざ王都へ
あー疲れた
書類地獄もようやく終わりが見え始めた
明日には全て終わるだろう・・・やっと・・・やっとだ!
てか、自分の部屋を仕事場にするんじゃなかった・・・人と会う時も自室だし書類仕事をするのも自室で寝るのも勿論自室・・・心の休まる時がない
屋敷は広く部屋も余っているから王都から帰ったら執務室でも作るか・・・応接室は既にあるみたいだから人と会う時はそこを使うとしよう
という訳で今や完全なプライベートルームと化している司令室へとやって来て椅子に深く座り一時の心の安らぎを感じていた
すると背後に気配を感じ、突然肩を揉まれる・・・もしかしてスラミか?前もマッサージしてくれたし・・・
「あー癒される・・・これでサラも居てくれたら・・・」
「居てくれたら?」
「良いのになぁ・・・ってサラ!?」
体を起こし振り返ると肩を揉んでいたのはスラミではなくサラだった
司令室になぜサラが・・・まさか夢か!?
「私が入れたにゃ」
「サキが?」
「ダメだったかにゃ?」
「いや、サラにはいずれ来てもらおうと思っていたけど・・・一体いつから?今日が初めてではなさそうだけど・・・」
サラを見ると特に驚く事もなく平然としているから来た事があるのだろう・・・メイド服姿のサラカワイイ
「ロウが王都に行っている時にゃ。ロウの事を知りたいって言うからここに連れて来て根掘り葉掘り・・・」
「サキ!」
根掘り葉掘り?・・・僕の事を?
「い、いや・・・ペギーとは幼馴染でしょ?私がエモーンズに来るまでの間の・・・ロウの事って知らないし・・・ね?」
頬を赤らめてモジモジしながら言うサラ・・・尊い・・・
てかサキの奴・・・余計な事は言ってないよな?後で何を喋ったか吐かせるか・・・
「そ、それより王都に行くんでしょ?馬車でって聞いたけどそのまま馬車で行くの?」
「うん。ただずっとは乗って行かないけどね。馬車の中でゲートを使って抜け出してどこかに遊びに行こうかと・・・」
「ああ、なるほど。それじゃあ1ヶ月後くらいに迎えに来てくれるの?」
「え?」
「え?・・・だってほら・・・Sランクの・・・」
「うん・・・だからサラも一緒に馬車に乗って・・・あれ?聞いてない?前に飲み物を持って来たメイドには伝えたはずだけど・・・」
最近サラは僕の部屋に来てくれない・・・まあメイド長のグレアが誰を向かわせるか指示しているのだから仕方ないのだろうけど・・・
「え?あ・・・うん・・・聞いてたかも・・・」
「メイドの仕事忙しそうだもんね・・・忘れても仕方ないか・・・それに準備もいらないし忘れてても問題なかったしね」
とは言ったものの・・・忘れていたと言うより聞いてなかったような感じだな・・・どのメイドに言ったっけか・・・今度から伝え忘れとかないようにしてくれとグレアに言っておくか・・・
「と、ところでロウはここで何しているの?もう夜遅いしてっきり寝てるかと思っていたけど・・・」
「書類の山を片付けてた・・・今は息抜きにここに・・・そういうサラは?メイドの朝って早いんでしょ?」
「う、うん・・・私も息抜き・・・かな」
「そう言えば部屋狭いしね・・・広い部屋に移る?」
「大丈夫よ・・・ただほら・・・サキって寂しがり屋だから」
「にゃ!?いつから寂しがり屋属性が追加されたにゃ!?」
「ふらふら散歩とかしているでしょ?寂しがり屋の証拠よ」
「あれは本当に息抜きで・・・・・・まあいいにゃ・・・寂しがり屋って事にしとくにゃ」
て言うかサキはいつの間にサラと仲良くなったんだ?ファーネさんといいサラって実は人と仲良くなる才能が・・・うおっ!
「ほら!マッサージの続きしてあげるから力を抜いて」
肩を掴まれ強引に座らせられた
いや、せっかく2人っきり?だしもっとこうイチャイチャと・・・あ・・・気持ちいい・・・マズイこのままだと──────
「・・・けぺっ!」
「いつまで寝ているにゃ!」
腹に衝撃があり目を覚ますとサキが猫の姿で僕の腹の上に・・・あれ?ここは・・・司令室?いつの間に寝ちゃったんだ?
「・・・朝?」
「サラから朝になったら起こすよう言われてたにゃ。とっとと起きて屋敷に戻るにゃ」
「サラから起こすように・・・サラは!?」
「とっくに帰ったにゃ」
そっか・・・僕はサラにマッサージをしてもらってそのまま・・・
部屋は鍵をかけているから勝手には入って来ない・・・だから寝坊しても問題ないがサラは違う
メイド達に振り当てた部屋はカギがないからな・・・もし万が一誰か入って来て居なかったらどこに行っていたって聞かれるだろうし早目に帰ったか・・・
「まったく・・・しっかりするにゃ。最近鍛えてもないようだし・・・このままじゃたるんたるんのぷるんぷるん一直線にゃ」
うっ・・・そう言えば人に会ったり書類と向き合ったりで確かに体を動かしてない
あまり太らない体質だけどそうは言ってもこのままじゃ・・・まずいよな
「明後日から1ヶ月・・・何をしようか迷っていたけどダンジョンでも行くか・・・」
ずっと馬車の中でサラとイチャイチャ・・・ってのも楽しそうだがたるんたるんのぷるんぷるんは嫌だしな・・・でもダンジョンはギルドカードが必要になる・・・身元がバレると・・・
「なあサキ・・・コピーじゃなくてそのものの文字を変えたりって出来る?」
「物によるにゃ・・・何をするつもりにゃ?」
「ちょっと・・・体を動かそうと思ってね──────」
司令室から戻った僕は全ての書類に目を通し、急ぎ対応が必要なものだけ対応し何とか無事終わらせる
馬車の手配などはアダムがやってくれるので僕は残った時間で必要なものを揃える為に奔走した
そして・・・
「この馬車は一体どこから?」
「ご主人様が国王陛下より下賜された品目のひとつです」
つまり僕専属の馬車?
王都にでしか見た事のないような豪華な馬車が屋敷の前で待機していた
「後ろの荷馬車に旅路に必要な物は全て載せてあります。護衛はこの街の衛兵5名と冒険者ギルドから4名の以上九名が付く事になります。ですので馬車の御者4名と側仕えとしてメイド1名で合計13名となります」
僕を入れて14人か・・・多いな
護衛なんてそんなに要らないのに・・・魔王討伐メンバーが2人も居るし・・・ほとんど馬車の中に居るつもりもないし・・・まあ御者と荷物を護る為にも何人かはいるだろうけど・・・
「どうやら護衛の方達が来られたようです」
げっ・・・コイツらかよ・・・
「お待たせしました辺境伯様。今回護衛を務めるゲッセン他4名只今参上致しました」
今回の護衛メンバーのリーダーと思われるゲッセン、それにファーネにタンブラー・・・で、残りがこの2人か・・・
デクトにファムズ・・・衛兵時代に熱い指導してくれた2人だ・・・完全にわざとだろ・・・ケインめ
「えっと・・・すまん!じゃなくてすみません遅れました・・・冒険者ギルドより依頼を受けたジケットです」
冒険者ギルドの方は逆に気を使ってくれたみたいだ。と言っても他に受けてくれる人がいなかったのかも・・・万年衛兵平隊員だった僕を辺境伯として対応するのは抵抗あるだろうし・・・ジケット達は辺境伯となっても変わらず接してくれるから気が楽だ
「お待たせして申し訳ありません。今回ご同行させていただきますサラ・セームン只今参りました」
サラさんが来てこれで今回の旅のメンバーが出揃った
御者は各馬車に2名ずつ
これでもかなり無理言って減らしてもらった方だ・・・全て任せたままだったらこの倍の人数になっていた
「行ってらっしゃいませご主人様」
「ああ、行ってくる」
サラと共に馬車に乗り込むと王都へ向けて動き出す
エモーンズの街中は馬車も通れるのだが用意された馬車があまりにも大きい為に速度を出すと危険である為ゆっくりと進む
護衛の人達も街を出るまでは歩いており、街を出た所で馬に乗り込むらしい
「私がこんな豪華な馬車に乗って移動する日が来るなんて・・・想像もしてなかった」
「気に入ったらいつでも・・・どうやら僕の馬車らしいから」
「知ってる・・・だって掃除したの私だし」
「え?そうなの?」
「そうよ・・・馬の世話も場所の掃除もメイドの仕事・・・早く専属の御者を雇って欲しいわ・・・ねえ?ご主人様」
「・・・王都から戻ったら早急に雇います・・・」
そっか・・・メイドってそんな事まで・・・てか何をやっているのか全然知らないな・・・
「他には?何か要望があれば言ってくれれば・・・」
「そうね・・・誰かさんが忙し過ぎてまともに話す時間がないのが気になるわね」
誰かさんって・・・僕?
「・・・善処します・・・」
まあその時間を作る為に王都に行くようなものだし・・・そう言えば付き合ってからほとんどまともに話せてないような・・・てか2人っきりになるのも久しぶり?
「冗談よ。それに私もなんだかんだ忙しいし」
「最近給仕に来ないけど何をしているの?」
「掃除洗濯がメインね。役回りは全てグレア様の指示だからなかなか・・・ね」
むう・・・グレアに言ってサラを給仕にしてもらうか・・・いや、特別扱いするのはあまり良くないか・・・でもそうでもしないと・・・
「グレア様に『サラを給仕にしろ』とか言わないでよ?そんな事したら何の為にメイドをしているか分からなくなっちゃう」
「別にメイドスキルなんて要らないんじゃ?」
「んー・・・今後何があるか分からないし、将来的にきっと役に立つと思うの・・・意外と奥が深いのよ?メイド道も」
メイド道って・・・将来的に、か・・・でも将来的にはメイドを使う立場になるのでは・・・そんな事恥ずかしくて言えないけど
「それよりお父さんとお母さんは屋敷に呼ばないの?せっかく打ち解けたのでしょ?」
「一応声は掛けたんだけどね。住み慣れた家が良いって断られちゃった・・・欲しい物とかも聞いたんだけど要らないって・・・」
「そうなんだ・・・」
てっきり両親も貴族になるかと思いきやそうではないらしい。あくまでも僕の代からの貴族であり僕の子孫は爵位を継ぐ事が出来るけど、両親は関係ないのだとか・・・なので『ローグ』を名乗る事は出来ない。逆にシーリスは強制的にシーリス・ローグ・ハーベスになってしまったらしい・・・会ったら文句言われそうだ・・・勝手に爵位名を決めるなって
しばらく進んだと思ったら馬車は止まり小窓がノックされる。馬車は左右に小窓が付いておりスライドさせると外が見えるようになっている。僕はノックされた小窓をスライドさせるとこちらを伺うゲッセンの顔が見えた
「失礼致します。街を出ますのでこれより速度が上がります。何かありましたらお声を掛けて下さい」
もう街の外か・・・と、そうなるとこれから脱げ出すのに言っておかないとな
「分かりま・・・分かった。それとゲッセン・・・これから許可なくこの馬車に干渉するのを禁じる・・・何があってもだ」
「何があっても?それは休憩や食事も含まれますか?」
「当然」
「御意・・・では他の者にも伝えておきます。他に御座いますか?」
「街を出たらその仰々しい喋り方はやめてくれますか?」
「・・・考えておきます。が、辺境伯様も慣れた方がよろしいかと・・・そうしませんと他の方に示しがつきませんので」
「他の方?」
「辺境伯様よりも爵位が低い方・・・もし辺境伯様が丁寧な言葉をお使いになられてたらその方達もそれに倣うしかありませんので」
「別にそれで良いのでは?」
「辺境伯様が良くてもそれを快く思わぬ方もおります。要は時と場合だよ・・・ロウニール君」
「なるほど・・・勉強になります」
気にしない人もいればとにかく偉ぶりたい人もいるって事か・・・普段使っている言葉遣いが出てしまう可能性もあるので慣れておけと・・・確かに咄嗟に今までの言葉遣いが出てしまうこともしばしば・・・あまり偉そうにしたくないけどこればっかりは仕方ないか・・・
「それで・・・閉め切って干渉を禁じて何をするつもりかしら?ご主人様」
ゲッセンとの会話を終えて小窓を閉めるとサラが微笑みながら首を傾げる
その微笑みが魅力的で思わず色々と爆発しそうになったけどグッと堪えた
「最近書類関係の仕事ばかりだったから体が鈍ってて・・・運動がてらにちょっとお出掛けしない?」
「お出掛け・・・どこに?」
「僕とサラが運動しに行くとしたら決まってるでしょ?ちょっと行ったことのないダンジョンへ行こう──────」




