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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
280/856

276階 多忙な毎日

気のせいではなかった


メイド達は私を避けており、近付こうとすると離れていく


話し掛けても返事は一言二言交わす程度であり、必要以上の会話はしない


それから徐々にエスカレートしていった


最初は偶然かと思ったくらいの些細なこと


スープの具が全くなかったり、掃除した場所が見るとまた汚れていたり・・・たまたま具が入らず単純に見落としていただけかと思ったがそれが続けば偶然ではない事に否応なしに気付いてしまう


なぜこのような事をするのだろうか・・・何か気に触るような事を私がしたのなら謝りたいのだが直接的なものではない為にどうにも聞き辛いし証拠もないのでとぼけられたら終わりだ


文句があるなら直接言えと言いたいところだがこの街出身のメイドから私が元冒険者である事は聞いているだろうから直接は言い難いのだろう


だからといって陰湿な虐めに付き合い続けるつもりもないが・・・


手っ取り早いのはロウに伝える事だがそれをする気はない。そもそも領主が訪ねて来てからかなり忙しそうにしている・・・どうやら毎日領主の館に赴いて話をしているみたいだ


まあ忙しくなくとも彼に伝える気はないが・・・出来れば仲良くやっていきたいしな


となるとメイド達本人になぜこのような事をするか問い質す方法が一番か・・・それには証拠を掴まないとダメだな


動機も気になるがまずは止めさせる事が先決・・・でないと・・・手が出そうだ



休憩時間となり居場所のない私は与えられている自室に戻る。すると・・・


「・・・やってくれる」


部屋に入ると花瓶が倒れ床が水浸しになっていた


自室にはカギは付いていない


だから入ろうと思えば誰でも入る事が出来る・・・窓は閉じたままだから風で・・・という事もないだろう


つまり誰かが部屋に侵入しわざと花瓶を倒したのだ


部屋は簡素なベッドと小さいテーブル、それに服を収納するスペースがあるだけの小部屋・・・その部屋にわざわざ侵入し花瓶を倒しただけで他には何も手を付けず・・・字面だけだと理解に苦しむだけだが実際にやられると結構くるものがある


被害などほとんどない・・・が、今後何をされるか分からないという不安感・・・それに相手の悪意が部屋に満ちている感じがして酷く居心地が悪い


花瓶を元に戻し水浸しになった床をサッと拭くとまだ休憩時間は残っていたが堪らず部屋を出た


私が部屋を出るとメイドの2人が私の様子を見てクスクスと笑う


さすがに我慢の限界だ・・・すぐに2人のメイドに向かって行き目の前に立つ


「・・・何か?」


あっ、しまった・・・この2人がやった証拠ないのに・・・彼女達もそれが分かっているから余裕の態度を・・・


「・・・私の部屋の花瓶が倒れていた・・・誰か私の部屋に入った者を見なかったか?」


「さあ?ここにずっといた訳ではありませんし・・・って言うか風で倒れただけじゃありません?人を疑う前にご自身を省みたらどうですか?」


・・・コイツ・・・


「窓は閉まっていた・・・風が吹くことは無いのに自然に倒れると?」


「そんなの知りませんよ・・・でしたら重いどなたかがドスドスと屋敷内を歩いて揺らしたのでは?」


私は重くない!


・・・それにしても・・・やはり証拠がなければ難しいか・・・


「どうしたのですか?」


振り向くと他のメイド達が集まって来ていた


その先頭に立ち声を掛けてきたメイド・・・マウロ・ナーム・・・恐らくコイツが・・・


序列で言うとグレア様に次いで二番目・・・本来ならメイド長以外は序列なんて存在しないらしいのだが二番目ぶっているメイド・・・


「聞いて下さいマウロさん!この方が部屋の花瓶を倒したと疑ってきまして・・・」


「花瓶?花瓶が倒れていたからといってなんだと言うのですか?変な言いがかりをする前にスキルのひとつでも磨いたらどうです?サラ・セームンさん」


確かに花瓶が倒れていたからどうしたって話だ・・・事を大きくするべき話でもない・・・なかなか手が込んでいるじゃないか・・・


「・・・そうだな。花瓶が倒れていた・・・ただそれだけの話で騒ぐべきではないな・・・」


「サラさん?その喋り方やめてもらえます?貴族の方の中にはメイドを見てその貴族の品格を見定める方もいらっしゃいます。誰も聞いておらずとも気を付けるべきですよ」


「それは失礼し・・・ました。それにしてもメイドを見て貴族・・・ご主人様の品格を見られるとは・・・このままですとあまり良くないですね」


「・・・なぜ?」


「人の部屋に侵入して花瓶を倒すようなメイドがいるのです・・・そんな事が他の貴族様に知られたらご主人様の品格が地に落ちてしまう・・・そう思いませんか?マウロさん」


「・・・まだ言っているのですか?それに品格を落としているのは誰かさん1人だと思いますけど?」


「花瓶を倒した人ですか?」


「いえ、倒された人です」


「・・・」


右のハイキックでこの笑顔を粉砕したい・・・何が『倒された人です』だ・・・満面の笑みでよくもまあ言えるものだ・・・・・・やるか・・・・・・


「あら、もしかして暴力振るう気ですか?構いませんよ?一時の痛みで精神的苦痛から逃れられるなら安いものです」


「・・・どういう意味ですか?」


「分かりません?貴女が暴力を振るえば確実にクビになります。そうなれば私達は貴女のような使えないメイドと同列に見られる事がなくなるのです。元冒険者ですってね?身の程を弁えて巣に戻った方がよろしいのでは?単細胞さん」


「くっ!」


ここまで頭にくる奴は久しぶりだ・・・一時の痛みだと?私の蹴りを食らって痛いだけで済むと思ったら大間違いだ・・・いいだろう・・・このまま首を刈り取って・・・


「そこで何をしているのですか?休憩時間はとっくに過ぎてますよ!」


蹴りの動作に入ろうとした瞬間にグレア様の声が聞こえ何とか止めた


・・・危なかった・・・あのまま蹴ってたらメイドをクビどころか監獄行きだった・・・そうなればSランクどころかロウとの仲まで・・・


「申し訳ありません!すぐに準備します!」


マウロは振り返りグレア様に頭を下げると逃げるようにしてその場から立ち去る。その後を取り巻き達がいそいそと付いて行き残ったのは私だけ・・・その私を見てグレア様は大きくため息をついて近付いて来た


「・・・()()()()()なりましたか・・・大体何があったか想像がつきます」


やはりそうって・・・事前にこうなる事が分かってたって事?


「サラさん、少しお部屋で話しませんか?」


「・・・はい」


グレア様に言われて私の部屋で話す事に・・・彼女は私の部屋に入ると備え付けられた椅子に座ることなく振り返り後から部屋に入った私をじっと見つめる


「・・・その・・・」


「彼女達を責めないであげて下さい」


「え?」


開口一番何を言うかと思ったら・・・責めるな?


「何があったのかおおよその見当はついています。彼女達は・・・貴女を恐れていましたから」


「恐れるって・・・それは私が元冒険者だからですか?」


「いえ・・・ご主人様のご寵愛を独り占めするのでは・・・そう思い恐れているのです」


「ちょ、寵愛・・・どうして・・・」


「以前よりご主人様とお知り合いだったと聞いております。加えてその美貌・・・ご主人様のご寵愛を受けたいと思っている者からすると脅威以外の何ものでもありません」


び、美貌・・・そうなのか?


「だから手を組み貴女を陥れようとしたのでしょう。恐らく手を出させようとしたのでは?メイドたる者暴力沙汰は御法度・・・手を出させれば否応なしに追い出せますから・・・」


あ、危ない・・・グレア様が現れなければクビになっているところだった・・・


「・・・それを知っていて責めるなと?むしろグレア様は彼女達を庇うのではなく諌める立場なのでは?」


「・・・そう・・・ですね・・・」


どうも歯切れが悪いな・・・止められない理由でもあるのか?


結局それ以上グレア様は口を閉ざしてしまいただ『責めるな』と私に言うだけに留まった


責めるなと言われても・・・やられて黙っているほど人間出来ていないのだがな


目的は私に手を出させて追い出す事・・・しかもメイド長グレア様の暗黙の了解の元で、か・・・上等だ。相手にとって不足なし・・・このメイドサラを舐めるなよ──────




「話が違う・・・辺境の地でのほほんと人生を謳歌するのが辺境伯じゃなかったのかよ・・・」


右も左も分からない状態だったがダナスさんが来て色々と説明してくれて何となくだがやるべき事は理解した


とりあえずエモーンズ、ムルタナ、ケセナの地を治める領主である事は間違いない。その一街二村の収支を受け取り自分の取り分を抜いて国に納める・・・そんな簡単なお仕事だと思っていたのに・・・


「ダメだ・・・アダムに頼もうとしたらあくまでも屋敷に関する雑事を行うのが執事ですと断られてしまったし・・・とにかく人を入れないと1人じゃとてもこなせない・・・」


これまでダナスさんの裁量で決めていた事が全て僕の許可が必要となる・・・全て任せますと言ったら真面目に怒られた・・・当然だよな・・・何かあったら僕の責任なのだから


「勝手にやってもらって何かあったら僕が責任取ればいいって軽く考えていたけど、確かに僕がダナスさんの立場だったら・・・『ふざけんな』だよな・・・」


他人が・・・しかも自分よりも身分が上の人が責任取るって状況で何が決められる?重圧で何も決めれやしないよな普通


かと言って何も見ずに出された案をポンポンサインしていけばいい訳でもない・・・


ダナスさんからは『街の事を考えサインして下さい』と念を押されたからな・・・読まずに・・・なんて出来るはずもない


でも・・・


「・・・ハア」


机の上に置かれた書類の山を見るとため息しか出て来ない


ダナスさんが持って来たエモーンズの書類とダナスさんが来た次の日にここを訪れたムルタナとケセナの村長が置いていった書類


人口や去年の納税額やら売上などの数字が羅列されている帳簿なんて見ているだけで頭が痛くなる


「誰か雇うか・・・書類をまとめてくれるような人を・・・」


出来ればこういう仕事をした事がある人がいいな・・・となるとエモーンズで探すより王都で・・・


けどこの書類の山を放っては行けないし・・・


ゲートを使えば王都なんてあっという間なんだけどある問題が起きた


王都に行く際に事前に国に報告しなくてはならないのだ


連絡してある程度の日数が経過してからゲートで行けばいい・・・その時はそう思っていたけどそれだといずれゲートの存在がバレてしまう


それだけは避けたい・・・なので連絡したら屋敷を離れないといけなくなる・・・って事はこの書類の山を処理出来なくなる・・・書類の中には期日が迫っているものや、緊急性を要するものもあるかもしれない・・・そう考えると一通りは見ておかないと・・・


サラがSランクになる為には王都に行かないといけないし僕も事務員を探さないといけないし・・・でも書類が・・・


「ウガー!なるんじゃなかった辺境伯!!」


部屋の中で叫び鬱憤を晴らす


早く書類を処理して王都までサラと二人旅だ!気合い入れてやるぞ!!・・・3日くらいで!


「失礼致します」


僕の叫びを聞いてかアダムがドアをノックし部屋の中へと入って来た


「ご主人様、何か御座いましたか?」


「・・・いや、何でもない・・・あ、アダム、3日後に王都に行くから連絡しておいてくれ」


「畏まりました。あと王都より書簡が届きましたがお部屋に運んでもよろしいでしょうか?」


「書簡?」


「はい。内容までは分かりかねますが早急に返事が欲しいと・・・」


「1枚?」


「いえ、1箱です」


「・・・4()()()に王都に行くと伝えろ・・・」


「畏まりました」


もうヤダこの書類地獄──────

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