274階 来客
レオンが去った後、ソファーに隣同士で並んで座る僕とサラ・・・雰囲気も良いしこのまま・・・
「それでは業務に戻ります・・・ご主人様」
気配を察したのかサラはスっと立ち上がりお盆の上に二つのカップを載せると一礼し部屋を出て行ってしまった
ま、まあ仕事中だし仕方ない・・・いや、メイドの仕事に色々と含まれるのでは?サラだけは
うん、そうだ・・・今度機会があったら言ってみよう・・・職権乱用にならない・・・よね?
〘なるわ〙
〘突然出て来るなって!・・・やっぱりダメ?〙
〘立場を利用したら職権乱用よ・・・まあ別にやりたきゃやれば?それでサラが冷めないといいけどね〙
〘・・・やめときます〙
ダンコの言う通りだ・・・今は付き合い始めたばかり・・・嫌われるような事はしないようにしないと・・・
そんな事を考えていると部屋のドアが再び鳴らされる
「ご主人様、お客様が参られました」
「・・・今度は誰だ?」
来客多いな・・・誰だよ今度は
「冒険者ギルドのギルド長フリップ様です」
フリップが?一体何の用だろう?
「通せ」
「畏まりました」
しばらくして再びドアがノックされるとアダムに連れられてフリップが部屋に入って来た
アダムが一礼し部屋を出るとフリップは深くため息をついてドスドスと歩き自然と僕の前に座る
「よう・・・ってのはまずかったか?」
「別に大丈夫ですよ。これまで通り接してもらえれば・・・って僕とはあんまり絡みなかったですよね?ローグとしてはそれなりにありましたけど」
「だな。今更ながらローグがお前さんとはな・・・初めて聞いた時は腰が抜けそうになったぞ?」
「バレたらまずい立場だったので・・・すみません」
「気にすんな・・・ローグには世話になった・・・色々とありがとな」
「いえ・・・それより今日は何用で?」
「ああ・・・サラの事だ」
サラの?もしかしてメイドを辞めてもう一度冒険者になってくれって言いに来たのか?
「・・・今朝ギルド本部から連絡が来てな・・・サラをAランクからSランクにダンをBランクからAランクに上げるって・・・それとエモーンズで魔獣との戦いに参加した冒険者達には金を出すから人数を言えと・・・」
ようやくか・・・ついにサラはSランク冒険者に・・・うん?Sランクメイドになるのか?
「それで?」
「Aランクまでは別にどこにいようが問題ねえがSランクとなると常に居場所がどこか報告の義務がある。その代わりSランク冒険者には伯爵と同等の待遇と王都に屋敷が下賜される・・・で、サラはここでメイドしてるって聞いたからな。それを伝えに来た」
へえ・・・じゃあキースの屋敷もSランクになったから貰ったのか。それに伯爵と同等の待遇・・・えらい待遇だな
「じゃあサラを呼びますね」
「ちょっと待て・・・その前にお前さんに話がある」
「?・・・何ですか?」
「サラを・・・どうするつもりだ?」
「どうするって・・・」
「お前さんも知っての通りあれほどの器量だ・・・それにSランクにもなったのにメイドとして腐らせるつもりか?サラ自身が選んだ道だから黙っていようと思ったが・・・改めて考えたら勿体ないような気がしてな・・・」
「つまり冒険者に戻った方がいいと?」
「そうじゃねえ・・・あーくそ・・・どう言えば・・・」
何が言いたいんだ?さっきの口ぶりからメイドにしとくのは勿体ないから冒険者に・・・って感じだったのにそうじゃないと・・・意味が分からん
「・・・ぶっちゃけどうなんだ?」
「何がですか?」
「だから・・・サラの事をどう思ってんだ?」
・・・そういう事か
サラがメイドになった理由をフリップなりに考えた結果『僕を追いかけて』メイドになったと思っている・・・実際そうなのかもしれないけど・・・で、僕にその気がなければメイドになったのは完全に無駄・・・だからそれなら冒険者やってた方がいいんじゃないかと思っている、と
「サラはよ・・・誰が見ても明らかなくらいローグに惚れていた・・・それはお前さんも気付いているだろ?だから冒険者を辞めてメイドになるって時も見守ってやろうと思ってた・・・けどよぉ・・・このままメイドで一生を終えるなら・・・気持ちに応えるつもりがねえならスパッと諦めさせてくれねえか?その方がサラにとっても・・・」
「失礼します!」
フリップが思いの丈を僕にぶちまけている最中に再びメイドサラがお盆を持って登場・・・入るなり物凄い勢いで入って来てカップを二つテーブルに置くと何も言わず僕の隣に座った
「サ・・・サラ・・・」
「・・・まったく・・・部屋の外まで聞こえて来ましたよ!」
「す、すまねえ・・・だけど・・・」
フリップはフリップなりにサラの事が心配で言っていた・・・それが分かっているみたいでサラは顔を真っ赤にしながらも少し嬉しそうに怒っていた
「ご心配なく・・・彼は私を選んでくれましたから」
ボソッ恥ずかしそうに言うサラを見て僕まで顔が真っ赤になる
「本当か!?なら挙式はいつだ?子供は?」
気が早いなオイ!
「・・・それについては・・・今からお話します──────」
事の経緯を黙って聞くフリップは少し難解そうな顔をしていた
「・・・つまり・・・付き合っているが公表しないと?公表するのはサラが準備を終えたら?」
「そうです。彼に相応しい女性になれたと確信したら公表しようかと・・・」
「なるほど・・・サラらしいっちゃらしいような・・・で、ロウニールはそれでもいいと?」
「僕としては今のサラで申し分ないんですけどね・・・けどサラの意見を尊重しようかと」
「そ、そうか・・・まあ2人が納得してんなら何も言う事はねえが・・・なんと言うか・・・派手に惚気けるよなお前ら」
今のが惚気になるのか?・・・・・・確かになるかも・・・
「でも安心したぜ・・・ようやく報われたな、サラ」
「ちょ・・・ギルド長!」
「悪ぃ悪ぃ・・・まあSランク冒険者って称号は個人に与えられるらしいから冒険者をやってなくても構わなかったはずだ。一度王都への召喚令は伝えとくぜ」
「Sランク?」
「ん?全部立ち聞きしてた訳じゃねえのか?」
「どこからが全部か知りませんが・・・多分途中からしか・・・」
「そっか・・・サラ・セームン・・・お前さんは今後Sランク冒険者だ」
「・・・え?」
そう言えば僕も王都で聞いてたけどサラに伝えてなかったな
もしかしたら心の奥底でSランクになったと聞いたらメイドを辞めて冒険者に戻ってしまうかもって思っていたかもしれない
フリップはサラにSランクになった事を告げた後で王都に行くよう話した
どうやら王様が直接Sランクの称号を与えるらしい。その時に王都の屋敷も貰えるのだとか
「私が・・・Sランク・・・か・・・」
フリップが帰った後も呆然と座りながら呟くサラ・・・まあ冒険者にとってSランクは憧れであり目標みたいなものだからそれが突然降って湧いたら放心状態にもなるか・・・
・・・今イタズラしても怒られないだろうか・・・付き合っているのだし少しくらい・・・
「ロウ!」
「はいすみません!」
「?・・・なぜ謝る・・・それより少しの間暇をくれ。メイドはもちろん続けるつもりだがSランク冒険者になれるのならなっておきたいからな」
「そりゃあもちろん・・・王都に行くつもり?」
「ああ・・・行ってすぐ帰って来るから2ヶ月もすれば帰って来れると思うが・・・」
「そんなにかからないよ」
「?・・・ああそうか・・・ゲート」
「うん。という訳で王都デートしよう!付き合ってなくてもそれくらいいいでしょ?」
「あ、ああ・・・そうだな・・・でも・・・」
「でも?」
「ほら王都にはセシーヌが・・・実際2人にはどんな感じで話したんだ?」
「2人には・・・普通に『僕はサラが好きだ』って・・・」
「・・・反応は?」
「反応は・・・2人とも同じ事を言っていた・・・『そんな気がしていた』って・・・」
「・・・そうか・・・」
あの時・・・サラに告白する為に2人に僕の想いを伝えに行った時・・・2人とも仕事中だった
それで仕事を抜け出してくれて・・・伝えると2人とも僕に優しく微笑みかけてくれて・・・
『頑張って』って・・・
「ロウ?」
「あ、いや・・・2人とも応援してくれてたから堂々としないとと思って・・・あ、もちろん公表はしなくてもね」
「・・・すまんな・・・私のわがままのせいで・・・」
「全然!多分だけどもし付き合っている事を公表したとしても・・・結婚していたとしても寄って来る人はいるらしいし・・・僕はその気は全くないけど貴族によっては第二夫人とか妾とか沢山居る人もいるらしいよ?」
まるでアクセサリーでも付け替えるように出掛ける時は毎回違う女性を連れている貴族やら家を何軒も持っており一軒毎に違う女性を住ませてたり・・・寝てても金が入ってくる貴族は子作りだけが唯一体を動かす機会とか・・・恐るべし貴族社会・・・
「第二夫人・・・妾・・・ロ、ロウはその・・・」
「サラ以外の人を娶るつもりはないよ。もちろん妾も作るつもりもないし・・・」
「そ、そうか・・・そうなのね・・・」
最近のサラは三つのモードがあるな
冒険者としてのサラ、メイドとしてのサラ・・・そして妙にしおらしいサラ
仕草でも分かるが如実に出るのは口調だ・・・これまでの男勝りな口調が冒険者サラで、たどたどしい丁寧語がメイドサラ・・・で、『わ』とか『よ』とか『ね』とか語尾に付けるのがしおらしいサラ・・・略してしおサラだ
今のサラは途中からしおサラに変わった・・・少し顔を赤らめる姿を見ると・・・
「ファーネがね・・・ロウを紹介してくれって・・・もちろん2人は知り合いなのは知っているけど・・・紹介は紹介でも夜の奉仕の紹介って言うの?・・・その・・・ファーネって経験豊富でね・・・私も習・・・聞いた事があるのだけど『絶技』と言って夜のスキルがあって・・・・・・何この手は?」
くっ!肩を抱き寄せようとしたら気付かれた・・・ん?ファーネ?・・・絶技?
「い、いや服に糸くずがついてて・・・それよりも絶技ってどんなの?」
「え!?・・・そりゃあ・・・その・・・口で言うのは難しいと言うか・・・」
「へ、へぇ・・・じゃあ、じ、実際にやってみてもらっちゃったり・・・」
「っ!・・・」
顔を真っ赤にして背けるサラ・・・これはもうなんと言うか・・・辛抱堪らん・・・
「ご主人様、お客様が参られました」
アダム・・・お前はクビだ──────




