272階 ロウニールの選択
「サラが・・・メイド!?」
かなり驚いた様子・・・まあそれも当然か・・・Aランク冒険者が突然メイドになれば私でも驚く
「そういう訳だ。よろしくなロウ・・・ではなくてよろしくお願いしますご主人様」
つい彼の顔を見て話すと今までの話し方が出てしまうな・・・気を付けないとグレア様に聞かれでもしたら大目玉だ
「ど、どうして!?」
「それよりも先にお聞かせ願いますか?どうして下着を下げたのか・・・もしや王都でも・・・」
「ち、違います!これには深い訳が・・・」
「ほう?・・・その深い訳とやらを話してもらえますか?」
どういう理由があればメイドの下着を下ろす事になるのやら・・・怒りよりも呆れに近かった感情だったが理由を聞いてその感情は怒りに変わる
「・・・まったく・・・キース殿も何を考えているのやら・・・」
「す、すみません・・・でもキースさんから言われただけじゃなくてその・・・女心を理解するにはどうしたらいいかと考えて・・・」
「女性の下着を下ろせば女心が分かると?」
「いえ!そんな事は決して・・・ただ・・・」
「ただ?」
「その・・・相手の事を考え過ぎなのは確かだったので・・・考えずにやりたいようにやったらどうなるんだろうって・・・も、もちろん嫌がられたら無理には・・・でもその・・・」
とても理解出来そうにないが彼なりに考えての行動か・・・だが
「もし嫌がらなければそのまま私を犯していたのか?」
「え?・・・あ・・・いえ・・・その・・・」
確かにグレア様より聞いてはいた
メイドの役割の中にそのような行為も含まれる、と
もし望まぬのなら事前に主人・・・つまりロウに話しておくとも言っていたな・・・拒否をするメイドを嫌う主人もいる・・・だからそのような場合は主人の意向に沿って別のメイドに入れ替えたりするのだと
王都から来たメイドは4人とも受け入れるのだとか・・・グレア様含めて・・・だがこの街で募集したメイドの中には拒否する者もいた。だからもしロウが拒否をするメイドを求めないなら辞める事になると事前に聞かされていた
私の場合は・・・受け入れるつもりだったが・・・
「ロウ・・・私はお前がそういう貴族にはならないと思っていたが・・・」
キースに吹き込まれたとはいえまさかロウが・・・だがグレア様の話では主人にとって当然の権利みたいなところもあるらしいしメイドの方が望むことが多いらしい・・・けど・・・
「・・・そうですよね・・・拒まれたら叩かれればいいやって簡単に考えてました・・・どうかしてたんです・・・」
うっ・・・そこまで落ち込まなくても・・・
項垂れるロウを見てなんだか胸が苦しくなる
立場を利用するというのは好きではない。だからロウが立場を利用して女性を・・・と考えたら頭に来たのは事実だ。だがメイド達と話していてむしろ襲ってくれという感じだったのは確かだ・・・となるとやはり私が間違っているのだろうか?
もしこの部屋を掃除していたのが私ではなく他の者だったら?
しかも受け入れる・・・襲って欲しいと願っているメイドだったらどうなっていた?
「・・・」
「・・・えっと・・・サラ?」
何を考えている・・・ロウにとって当然の権利だ・・・なのに私は・・・
「いや、何でもない・・・それに偉そうな事を言って悪かった・・・王都から来た4人は抱かれる事を望んでいる・・・私の他にこの街からメイドとなった者も半分は望んでいた・・・それもそうだな・・・ロウは大貴族となったのだからその庇護を受けたい気持ちも分かる・・・なのに私は自分の考えを押し付けようとして・・・」
私はダメだな・・・受け入れる覚悟は出来てもロウが別の女性をという覚悟は出来てなかったみたいだ・・・メイド失格だな・・・
「・・・ずっと考えていた事がある」
「・・・え?」
「僕なんかに想いを寄せてくれている人にどう応えるべきか・・・ずっと考えていたんだ・・・」
ロウに想いを寄せている人・・・私の知る限りではペギー、セシーヌ・・・それに・・・私・・・
「誰かを選ぶなんておこがましいとか、誰かを選んだら他の誰かを傷付けてしまうのでは?とか・・・色々考えて悩んで・・・でも結局答えは僕の中にあったんだ」
「・・・」
彼は何を言おうとしている?
いや、分かっている・・・分かっているから聞きたくないんだ
彼は口に出そうとしている・・・彼の中の答えを
そうなれば一方的な想いは打ち砕かれる・・・そうなれば私は・・・
「まっ・・・」
「サラ・・・僕と付き合って下さい」
「・・・て?」
今彼は何と言った?
彼の言葉を止めようと必死で・・・聞き間違え?
「僕の中ではとっくに答えが出てた・・・けどそれを出すと2人を傷付けるんじゃないかって・・・でもそれは違った・・・それは相手の事を考えているようで考えていなかったんだ・・・ただ自分が相手を傷付けるのが嫌だから答えを先延ばしにして余計に相手を傷付ける行為・・・」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て・・・お、落ち着け!何が何だか・・・」
「そうですね・・・まずは2人に告げてからが筋ですよね・・・今から伝えに行きます・・・2人に僕の気持ちを」
そう言うと彼はゲートを開きどこかへ・・・恐らく2人の元へ行ってしまった
伝えに行くって・・・何を・・・
どれくらいの時間が経っただろうか
頭の中が真っ白になり呆然としている私の前に再び彼が現れた
その表情は憑き物が取れたような晴れやかだった
そして私を真っ直ぐに見つめて・・・
「2人に伝えて来ました。『僕が好きなのはサラだ』と・・・僕の気持ちを正直に伝えて来ました。改めてもう一度言います・・・僕と付き合って下さい」
なんだこの急展開は・・・全く予想だにしていなかったぞ?
確かに私はロウと・・・でも競争相手の2人はかなり強敵で・・・
ロウの初恋の人ペギー
聖女でありロウが死んだと聞かされた時に倒れてしまうほど彼に心酔しているセシーヌ
私はてっきり2人の内どちらかを選ぶものと思っていた
最有力はセシーヌ・・・次点でペギー・・・私はこの想いを抱いたまま彼の幸せを傍から見届けるだけと・・・
「ダメ・・・かな?」
私が黙っていると晴れやかな表情から一転表情を曇らせる
不安そうな顔・・・今彼にそんな顔をさせているのは・・・私か・・・
「そんな顔をするな・・・まったく・・・私に振られたらどうするつもりだったんだ?2人のどちらかに『やっぱり君が好きだ』とか言うつもりだったか?」
「いや!・・・ダメならダメな部分を直して何度でも・・・」
「ダメな部分などあるものか・・・むしろ私の方が至らぬ部分が多過ぎて・・・・・・本当に私でいいのか?」
「サラじゃないとダメなんだ」
「そうか・・・・・・・・・ふ、不束者ですがよろしくお願いします」
「・・・と言うと・・・」
「私が冒険者をイヤになって辞めたとでも思った?戯れにメイドになったとでも?・・・冒険者を辞めてでも・・・メイドになってでも近くに居たかった・・・その私が断ると思う?」
ずっと伝えたかった
魔王との決戦前に伝えた言葉だけでは足りなくて・・・でも言える日は来ないだろうと覚悟していたあの言葉・・・
「私サラ・セームンはロウニール・ハーベスを・・・愛しています──────」
「・・・という訳でロウニールと正式にお付き合いする事になった」
「はいはい、ご馳走様・・・で?メイドは辞めるの?」
「いや、続けたいと思う。メイドをしてみて自分が如何に冒険者しかしてこなかったかを思い知らされた・・・いずれ来るやも知れぬ時の為にスキルを磨こうと思ってな」
ロウから告白されてすぐには働く事が難しそうなので午後休みを貰いファーネを食事に誘い適当な店に入るとあった事を報告した
かなり前からファーネには相談していたからな・・・色々と・・・
「かー、そうですかそうですか・・・まあいいんじゃない?結局ローグがあの坊やだったって事は2人を好きになったんじゃなくて1人だったって事でしょ?」
「ちょっ、ファーネ!誰かに聞かれたらどうする!?」
「別に良いじゃない・・・もう付き合っているんだから。・・・憧れの人と愛弟子の間で揺れる恋心・・・まさか2人が同一人物だったなんて・・・ロマンチック過ぎて吐き気がするわ」
「言うな・・・それにしばらくお付き合いしている事は秘密にする事にしている」
「なんで?」
「いくつか理由はあるのだが・・・最大の理由はメイドの仕事を続ける際にやりにくくなるからだな。メイド長も指示が出しづらいだろ?」
「まあ確かにね・・・変な指示をして坊やに告げ口でもされたらと思うと・・・下手な事は言えないわね」
「告げ口などせん・・・他にも理由はあるが・・・まあ私のわがままだな」
「仕事と称して花嫁修業ね・・・つい最近までのサラからは想像もつかないわね」
うぐっ・・・花嫁修業・・・まあ、その通りだが・・・
「まあいいわ、内緒にしておけばいいのね・・・ちなみに誰に話すの?」
「ペギーとセシーヌには話すつもりだ。それとフリップに彼の友人達・・・それ以外には話す予定はない」
「ふーん・・・あのサラ・セームンに恋人か・・・しかも魔王を倒した男と・・・なんだかお酒が入ったらペラペラ喋っちゃいそう」
「やめれ・・・隠すなら徹底的に隠さねば彼の立場もあるし・・・」
「別に立場なんて・・・バレたらバレたで別に問題なんてないでしょ?『私達実は付き合ってましたー』で済むじゃない」
「それがそうもいかない・・・恐らくかなりの数の求婚があるだろうからな・・・お付き合いしている事が後からバレたら騙していたのかと言われかねない」
なら公表しろと言われそうだが今の私はまだ自信がない・・・彼に相応しい女性に早くならねば・・・
「・・・呆れた・・・そりゃあ魔王を倒した強さは認めるわ。でもかなりの数の求婚ってディーン団長並のイケメンならまだしもそんなに来ないわよ」
「むっ・・・最近の彼を見てないからそう言えるのだ。髪をセットしたロウはそこそこイケるぞ?まあディーン様には劣るかも知れないが・・・それに爵位だけでも上から20番以内には入るしそれだけでも・・・」
「・・・ちょっと待って・・・魔王討伐で爵位も?・・・上から20番以内って・・・彼元々爵位なしよね?だったら精々男爵位くらいじゃ?」
「ああ、言ってなかったか?ローグの時に爵位は伯爵となっていた。それが今回の件でエモーンズ周辺を領地として貰い辺境伯に・・・」
「辺境伯!?・・・聞いてないわよ・・・サラ!」
「なに?」
「坊やを・・・彼を紹介して!」
「・・・なに?」
「辺境伯なんて言ったらお嫁に行きたい爵位ナンバーワンじゃない!公爵は出会う事すら無理だし侯爵は派閥争いとか面倒だし・・・それに比べて辺境伯は王都から離れた地で悠々自適に暮らせてお金にも困らないしやりたい放題・・・余った土地を自由に開発出来て・・・他国に行けば伯爵までとは比べ物にならない程の歓迎を受けるらしいわ!・・・ああ!・・・こんな近くに優良物件が転がっているなんて・・・」
「ま、待て待て・・・落ち着けファーネ」
突然悶えながら叫ぶものだから周りの客が何事かと振り向く
「落ち着け?これが落ち着いてられると思う?かなりの数の求婚?何を言っているの?未婚の女・・・いえ、夫を捨ててでも結婚したいと言う女がどれほどいるか・・・この国・・・いえ、この大陸全ての女が敵よ敵!」
「敵って・・・それほどか?」
「それほどよ!いい?聞いて!戦争のない昨今、爵位を得られる人なんて稀なのよ・・・今の貴族は既に代々受け継がれている爵位にしがみついているだけなの。そのご時世に爵位を・・・しかも辺境伯まで上り詰めるなんて夢物語もいいとこ・・・つまりロウニール様と結ばれればその夢物語を・・・夢のような話を現実に体験出来るのよ?それに今の貴族は薄っぺらい自尊心の塊だったり偉そうにするだけでクソの役にも立たない連中だったり・・・一緒にいるだけで反吐が出るような人間ばかりよ・・・けどロウニール様は違う・・・実力で成り上がりしがらみの少ない中で最上位の辺境伯・・・しかも穢れのない純朴な青年・・・こんな優良物件は今後この世に出ないと断言出来るわ!」
「・・・」
「いい?私の事はロウニール様も知っているけど絶技に関しては知らないはず・・・アンタにもまだ教えていない絶技をまだまだ沢山持っている・・・その事を上手く伝えて!もちろん第二夫人・・・いえ、第三第四でも構わない・・・私の絶技で虜にすればきっと・・・」
周りの目も憚らず興奮冷めやらぬ感じで語るファーネ
そんな彼女の様子を見て・・・公表した方がいいような気がしてきた──────




