265階 教会にて
「か、閣下!いらっしゃったのですね!」
エキドが門の前で立ち往生している時に僕を見つけて安堵の表情を浮かべる
エモーンズに来た時にはなかった馬車があり恐らくその馬車に僕を乗せて王都に来るつもりだったのだろう。あの馬車に1人で乗って1ヶ月か・・・良かったゲートが使えて
エキド達と合流すると馬車に乗せられ王都へと入る。エモーンズなら馬車の中まで確認するけど王国騎士団のお蔭なのか分からないけど馬車はそのまま素通りし簡単に王都へと入ることが出来た
「閣下、このまま屋敷に向かってもよろしいでしょうか?」
さっきまで屋敷に居たんだけど・・・とは言い難いので少し考えた後で行き先を変更した
「到着致しました。ですがなぜここに?まさかお具合でもよろしくないとか・・・」
「いや、別に・・・知り合いに会いに来ただけです」
「そうですか。ではお呼び致しましょうか?」
「この時間は呼ぶのはまずいかと・・・忙しそうですしね」
見ると建物の外まで続く長蛇の列・・・一日で終わるのか?これ
「もしや聖女様?・・・ああ、そう言えば魔王討伐の際は聖女様も・・・そういう事でしたら入口は別にあります」
「え?」
そう・・・セシーヌに会いに教会に来たのだがまだ昼間でセシーヌは聖女として仕事をしている真っ最中。夜に来ようか迷ったけど王都に着いたらすぐに知らせてくれとしつこく言われてたからな・・・てか別の入口ってなんだ?
「教会には貴族専用の入口が御座いまして一般の者のように並ばなくて済むようになっております。ですのでその入口へ・・・」
「いや、普通に並びます。みんな並んでいるのに僕だけ割り込む訳にはいかないでしょ?それと君達は帰っていいですよ・・・みんなで並んだら邪魔になるし」
「ですが・・・」
「まだ僕に何か?それとも並んじゃいけない法律でも?」
「いえ・・・でしたら私達はこれで・・・別途お屋敷の方に日程の知らせが届くと思います」
「分かった。ありがとう」
エキド達とは教会の前で別れて僕は教会の外に続く長蛇の列の最後尾に並んだ
思いの外進むのは早いけど・・・これだけの人数を毎日相手にしているのか・・・大変だな聖女って
魔蝕にかかっている人だけ相手にしているのかと思ったけど普通の怪我とか具合悪そうな人とか重症な人はいなそうだ・・・中にはコイツ本当に治療が必要か?って思うくらい元気そうな奴まで・・・もしかしてセシーヌに会いたいだけで並んでたり・・・まあ僕も人の事は言えないけど
列が乱れぬように所々に聖騎士が立っているけど誰も僕の事に気付いてないみたいだ。髪型のせいかそもそも僕の事を知らないのか・・・ともあれ知っている聖騎士に見つかったら何を言われるか分からないから気付かれなくて良かった。ランスなんかに見つかったら追い出されかねない
その後も順調に進んでとうとう教会の中へ
だけど少し前から一向に進まなくなったのは気のせいだろうか
耳を澄ましてどうなっているのか聞き耳を立てるとどうやら今治療を受けている人と何やら揉めているらしい
「・・・ですからもう治療は終わりましたのでお帰り下さい!」
「まだ具合が良くなってないと言っているだろう!私は聖女様だからこそ多額の寄付をして診てもらっているのだ!侍女ごときが出しゃばるな!」
随分と元気そうな患者だな・・・大き声を出して帰れと言う侍女に怒鳴り散らしてる
周りを固める聖騎士はと言うと・・・ハア・・・アイツら聖女であるセシーヌに危害が及びそうにならない限り動かないからな・・・怒鳴るくらいじゃ黙って見ているだけっぽい
「申し訳ありませんがもう治すところは・・・」
「そう言わんでくだせえ聖女様。こう胸がドキドキして苦しいんですわ。寄付に見合った分の治療をしてくれないとおかしいでしょ?私はこの病を治す為に泣け無しの金を寄付したのですからね」
「でしたら寄付金はお返しします・・・ですので・・・」
「そりゃあないでしょ聖女様!善良な市民の願いを無下にすると?聖女様ってのは口だけなんですか?」
「そうではなく本当に・・・」
「という事は私が嘘をついていると?」
「・・・」
ったく・・・せっかくここまで並んだってのに・・・
「ほら治して下さいよ!ほらほらほらほらクベッ!」
「何が『ほらほらほら』だ変態め」
列を抜け出すと先頭まで行き思わずごねる患者を蹴り飛ばす。本当は止めるだけのつもりだったけど服を開いてあまりにも変態チックなもんでつい足が勝手に・・・
「!ロウニール様!?」
「久しぶり・・・さっき王都に着いたから挨拶だけでもと思ってね」
椅子に座っていた彼女は驚きのあまり勢いよく立ち上がる。すると今更ながら聖騎士達が動きを見せた。立ち上がったセシーヌを護ろうとすると言うより行かせまいとするような行動・・・なんだかなあ・・・
「・・・貴様・・・よくも私を足蹴に・・・」
「まだいたのか・・・さっさと去れブタ野郎」
「ブタ・・・私が誰だか知らないようだな!」
「知らん知らん・・・お前も俺の事を知らないだろ?」
「知るか貴様など・・・ええい聖騎士達は何をしている!早くコイツをつまみ出せ!」
自分ではなく聖騎士を頼るのかよ・・・てかもしかしてコイツ貴族か?身なりはそれなりだし一般人ではなさそうだけど・・・
身なりは派手だけど脂ギッシュなオッサンが喚き散らすと騒ぎを聞いた聖騎士達がゾロゾロと奥から出て来た
その中には聖騎士団長でもあるランス・・・奴の姿もあった
「何か問題でもありましたか?ヤドーナ殿」
「聖騎士隊長!ここの警備はどうなっているのだ!我が商会がいくらこの教会に寄付をしていると・・・」
「聖騎士の警備はあくまでも聖女様をお護りする為です。それにたとえ寄付をいくら頂こうと寄付は寄付・・・その金額如何で差をつける事などありません」
「くっ!・・・にしてもだ!この男は私を蹴ったのだぞ?教会は暴力に対して何もしないと言うのか!!」
「患者同士のイザコザがあった場合は衛兵に突き出す事になりますが・・・恐らく衛兵を呼ぶと困るのはヤドーナ殿の方かと」
「なに?蹴られた私が困るとはどういう意味だ!」
「・・・残念ながらこの方は伯爵閣下にあられます。ヤドーナ殿を蹴ろうが何しようが衛兵が咎める事など出来ないでしょう。仮に呼んだとしても咎められるのはヤドーナ殿でしょうね」
この国の貴族はどうなってんだ?やりたい放題か?
それはともかくランスの『残念ながら』はどういう意味なんだよ
「は、伯爵?・・・こ、この若造が?」
「はい。まだ伯爵閣下です」
まだって・・・まあ王様に呼び出しくらって剥奪されるかも知れないが・・・
それにしても現時点では僕は伯爵だしコイツ・・・ヤドーナと呼ばれたコイツは話から商会の会長・・・金はたんまり持ってたとしても立場は一般の人と同じ・・・地位を利用するつもりはなかったけど寄付を理由に横柄な態度を取る奴には・・・
「死刑」
「へ?・・・し、死刑?」
「・・・伯爵閣下・・・たとえ貴族であろうと刑を科す事は出来ません」
「あ、そうなの?ならボコボコにするのは?」
「・・・問題ありません」
「なら・・・」
「ちょっ、聖騎士隊長!・・・く、来るな・・・来ないで下さい!」
拳を鳴らしながら近付くとヤドーナは顔を引き攣らせながら後退る
その様子を見て並んでいた人達からクスクスと笑いが起きるとヤドーナは恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして教会から飛び出してしまった
うーん、一発くらい殴っておきたかったけど・・・まあいっか
「ロウニール様!!」
一目散に立ち去るヤドーナを見送っていると背後から衝撃が・・・振り返るとどうやら聖騎士の制止を振り切りセシーヌが僕に抱きついて来たようだ
「聖女様・・・まだ公務中ですが・・・」
「・・・もうマナ切れです。続きはお父様にお願いして下さい」
「しかし・・・」
「マナ切れです」
「分かりました・・・お並びの方は少々お待ち下さい」
そう言って頭を下げるとランスは隣にいた聖騎士に目で合図をしてるセシーヌの父親であるゼンを呼びに行かせた
セシーヌに治してもらいたかった人が少し不満げな顔をするが文句の声は上がらなかった・・・多分話を聞いてて僕が伯爵と知ったからだろうけど・・・居心地悪いな・・・
「という訳でロウニール様、私の部屋でお話しませんか?積もる話もあるので・・・」
その言葉に並んでいた人達は疎か聖騎士達もザワつくがセシーヌはそんな事を意に介さずニコニコ笑顔・・・なんだか夜道を歩いていたら襲われそうな気が・・・
結局多くの嫉妬の視線を浴びながらセシーヌと共に部屋へと訪れる事に・・・もちろん2人っきりではなく侍女長のエミリも一緒だ
「シロニール!ただいま!」
部屋に入るとセシーヌが元気良く言うとベッドの上で丸まってた白猫のシロニールはパッと顔を上げ猛ダッシュでセシーヌに近付き彼女の肩に乗る・・・なんだか僕の創ったペットって飼い主の肩に乗る習性があるよな・・・そんなイメージして創ったかな?
「ほらシロニール、お父さんですよ」
「お・・・お父さん!?」
シロニールを抱えると僕に向けてそんな事を・・・いや、確かに創ったのは僕だからあながち間違いではないけども・・・猫もニャーとか言ってるし!
「・・・それではセシーヌ様、私はお飲み物を持って参ります。もしかしたら多少時間が掛かるかも知れませんがその時はご容赦下さい」
なんで含みのある言い方しながら僕を見て微笑むんだ?その間に何かしろと??
「お願いします・・・何なら明日の朝まで掛かっても問題ありませんので」
いや問題あるだろ!どんだけ飲み物入れるのに時間が掛かるんだよ!原材料から作る気か!?
ツッコミを入れる間もなくエミリは部屋から出て行きあっという間に部屋は2人っきりの空間に・・・
「やっと2人っきりですね・・・ロウニール様・・・」
突然僕に寄り添い上目遣いで微笑むセシーヌ・・・2人っきりになりたかった?まさか・・・そんな・・・
「さあお座りになって・・・一緒に楽しみましょ」
た、楽しむ!?セシーヌってこんな子だっけ!?!?
誘われるまま僕は部屋の中を歩き始めた
心臓が外まで響くのではないかってくらい高鳴っている
緊張で何度も生唾を飲み込みこのまま僕は──────




