256階 輪廻の鎖
魔王にとって僕はダンジョンコアを飲み込んでしまっただけの単なる人間・・・本来なら存在すら気にしなくてもいいようなちっぽけな人間だった
理・・・シナリオに沿って進めば関わる事なんてなかっただろう・・・けど僕がダンジョンコア・・・ダンコを飲み込んだ事により大きく関わるようになった
僕がダンコと共にダンジョンを作り魔物を創り他のダンジョンよりもマナを多く集め魔王復活を早めた・・・それにより今回の輪廻は魔族側に有利に働く・・・はずだった
そりゃあそうだ
勇者となるべき人間は生まれているのかすら分からない・・・啓示とやらを受けないと自覚も出来ないのだから生まれていたとしても魔王にとっては脅威にはならないだろうな
今回の輪廻は楽勝・・・そう思ってたはず・・・
でも・・・
「先程からダンジョンマスターと言っているがそれがどうした?大方ダンジョンコアの残りカスを使って何やらやっているようだがそれがどうしたと言うのだ・・・それしきの力で余に挑むなど片腹痛いわ」
「・・・僕には三体の眷族がいる」
「それがどうした?」
「一体は初めて僕が創ったスライムのスラミ、一体は人間の冒険者センジュをコピーしたシャドウのシャドウセンジュ、そして・・・ダンジョンコアでありサキュバスのダンコの三体だ」
ダンコは僕が眷族を作ると怒ったっけ・・・それは多分だけど眷族化は魔王の支配から外れるから・・・だと思う
サキュバス達は核だけとなり各地でダンジョンを発生させるべく動いていた。その目的は魔王を復活させる為に必要なマナを溜める為
つまり初めから魔王の支配下だった訳だ
となると人間が魔族や魔物を眷族化したら怒るのも無理はない。魔王の配下を勝手に略奪してるようなものだしね
魔物は生まれたばかりで魔王の支配下になってなかったからすんなりと僕の眷族となった・・・けど魔族であるダンコは既に魔王の支配下・・・僕の名付けにより眷族化しそうになったけど抵抗した・・・そしてふたつに分かれたんだ・・・眷族化したダンコと抵抗したダンコに
眷族化したダンコは僕の核と同化し抵抗したダンコは体内から出ようとして胸に突き出て来たって訳だ
あの真っ白な空間は僕の核の中・・・あの輪廻の本はダンコの記憶・・・そう考えると全て辻褄が合う
あと・・・僕と話をしていたのは同化したダンコではなく・・・抵抗したダンコ・・・すなわち今魔王側にいるダンコだ・・・ようやく分かった・・・魔王の命令で手を出さないとか背中から僕を貫いたりしたけど本当は・・・
「・・・僕に自分の核を取らせようとしたり僕を殺さなかったのは・・・本当は僕の元に戻りたいんだろ?・・・ダンコ!」
「何を言って・・・」
「じゃあなぜ僕と戦っている時に手を抜いた?なぜ背後から大鎌で首を刎ねなかった?いつでも殺そうと思えば殺せたはず・・・わざわざ殺さないように僕を貫いたのは僕を怒らせて核を抜かせようとしたんじゃないのか?」
「バカな事を・・・取るに足らない存在だから手を抜いただけ・・・私が魔王様を裏切るはずは・・・」
「以前のダンコは魔王様とは言わなかった・・・魔王・・・そう呼んでいた・・・支配下にあるのなら魔王様と呼ぶと思うけどな」
「・・・」
「抵抗して同化しなかったけど・・・迷ってる・・・魔王に従うべきか僕と共にあるか・・・」
「違う!私はサキュバス!魔王様に命じられ魔王様を復活させるべくマナを集める魔族!人間など・・・」
「人間に対してじゃない!僕をどう思っているんだ!不死のお前にとってたかだか15年かもしれないけど・・・共に過ごした時間をお前はどう思ってんだ!ダンコ!」
「・・・わ、私は・・・」
「不快だな」
「ま、魔王様・・・」
「余を除け者にして何を語るかと思いきや・・・理の外から何を喚こうが何も変わらぬ・・・そうであろう?サキュバスよ」
「・・・」
「それともあちら側につくか?余は構わぬぞ?所詮は数あるサキュバスの1人・・・過去にも人間側についたサキュバスや他の魔族もいたが痛くも痒くもない・・・使い捨ての道具にしか過ぎぬのだからな」
「魔王・・・てめえ・・・ダンコも魔物も道具じゃねえ!生きてんだクソ野郎!」
魔物はマナを溜める為の道具・・・ダンコは僕にそう教えてくれた
けど・・・そう言いながらダンコは『ダンジョンは常に平等』と言う・・・人間も魔物も生きとし生けるもの全て平等だと・・・だから・・・道具なんかじゃない!
「理の外から何を吠えようと響かぬよ・・・もういい・・・はっきりと明言せぬのなら向こう側についたと判断し処分するとしよう。使えぬ道具など邪魔なだけだからな」
そう言うと魔王はダンコに手のひらを向ける
魔力を放って殺す気か?・・・そうはさせるか!
「{動くな}・・・そのまま道具が処分される様を見届けるがいい!」
「くっ!」
体が・・・動かない・・・
「死ね」
手のひらから放たれる魔力は真っ直ぐダンコの元へ
ダンコは避けようともせず目を閉じ・・・
「ダンコ!!」
動けず叫ぶ・・・間に合ってくれと願いを込めて
「さて・・・次は貴様の番だ・・・人間」
「・・・次?まだ何も終わってないぞ?魔王」
「なに?・・・っ!」
魔力が何かと衝突し煙を出していた。その煙が晴れると見えてきたのは魔力に撃ち抜かれたダンコの姿ではなく、ダンコの目の前で盾を構えるダン
「パーティーに1人犠牲が出るとしたらタンカーであれってな・・・ロウニールの奴がアンタを仲間だって言うから仕方なく助けてやる・・・俺が死ぬまで誰1人として死なせはしねえ!」
僕がダンコは仲間だからって話した時には険しい顔していたくせに・・・でも助かったダン!
「おのれ・・・理の外の分際で・・・」
「理の外理の外ってうるさいぞ魔王。そうやって自分は特別だって思いたいのだろうけどお前は特別じゃない・・・このダンジョンの中で特別なのはダンジョンマスターである僕だけだ・・・そうだよな?ダンコ!」
「・・・ハア・・・これで裏切り者になっちゃったじゃない・・・まあ命を狙われた後で忠義を尽くすつもりはないから裏切らせたのはアナタ・・・魔王ヴォルガード・ギルダンテだけどね」
「・・・サキュバス・・・貴様・・・」
「ダンコよ。気に食わない名前だけど15年間ずっとその名前で呼ばれて来たの。不死として何千何万の月日を重ねて来たけど・・・一番濃密で特別で・・・居心地のいい15年間をね」
気に食わないって・・・名付け親の前で言うことか?
「・・・バカな奴だ・・・どうせ理には逆らえん・・・次の輪廻が来なくなれば・・・」
「不死である魔族は死ぬ・・・だろ?」
「・・・」
「魔族が不死の理由は次の輪廻があるから・・・もし理から外れて輪廻が途切れたら魔族は不死ではなくなる。それは魔族の王である魔王・・・お前も同じだ」
「輪廻が途切れる事の恐ろしさを知らぬのだ・・・確かに魔族は不死ではなくなる・・・が、人間も次は無くなる。魂の行き場は無くなり転生する事が出来ぬのだ・・・そこの人間が前の輪廻より転生して来たように・・・魂を引き継ぐ事が出来なくなるのだぞ!」
「そう言われても以前の魂の記憶などないけどね・・・だから残念でも何でもないよ」
セシーヌにより魔人化を完全に抑えられ回復したディーン様が立ち上がり剣を構える
そっか・・・理の内とは魔族と同じように輪廻に縛られた人間の事・・・何度も繰り返す輪廻の中、肉体は滅びるけど魂だけが紡がれる・・・
「愚かな・・・永劫の時が途切れる意味も理解出来ぬとは・・・」
「永劫の時?・・・別にそんなのには興味ない。今を生きる僕達にとって『今』が全て・・・過去がどうだとか未来がどうなろうと知ったことじゃない・・・それに・・・理の外とか言われて黙って死ぬほど弱くない・・・足掻いて足掻いて・・・お前がありがたがってる輪廻の鎖なんて断ち切ってやる!」
「囀るな人間!貴様如きが断ち切れるほど輪廻の道は容易くないわ!!」
「・・・どうだろうな・・・やってみなくちゃ分からない・・・だろ?」
ゲートを開き取り出したのは壊れた仮面、それにマント
そのふたつを身に着けると三度魔王に対峙する
最終決戦の・・・開始だ──────
魔王ヴォルガード・ギルダンテは強い
魔族の王の名は伊達ではなく7人となった私達を1人で終始圧倒していた
ロウニールは魔力とマナを駆使して攻め、ディーン様は多彩な剣術を繰り出す
シーリスはサポート及び効きそうな上級魔法を唱え、セシーヌはサポートと回復・・・ダンはそのセシーヌを守ろうと盾を構える
サキュバス・・・ダンコは大鎌を振り、地形を変えたりして戦いに貢献・・・でも私は・・・
「小煩い・・・1人ずつ始末していくか」
「くっ!」
目の前に魔王
どうやら一番役立たずの私から始末しようと・・・
「サラさん!」
私に向けられた魔王の攻撃をロウニールが受け止める
何をしているんだ私は・・・これでは完全に足でまと・・・
「サラさん!1分・・・1分でいいから僕の代わりをしてくれ」
「・・・え?」
ロウニールの・・・代わり?
ロウニールはディーン様と共に攻めの主力・・・そんな重要な役割私には・・・
「お願いします!これは僕の師匠であるサラさんにしか出来ない!だから・・・」
ロウニールの師匠?そんなの嘘っぱちだ・・・ロウニールは私より強く・・・
答えない私をじっと見つめるロウニール
仮面に覆われた目と壊れて顕になっている目・・・まるでローグとロウニール2人に見つめられているような・・・
「1分か・・・条件がある」
「へ?・・・どんな条件ですか?」
「サラと呼べ・・・これからずっとな・・・それが条件だ」
「え、ええ・・・」
困った表情を覗かせるロウニール・・・もしかしたら今までローグも仮面に覆われて気付かなかったがこのような表情をしていたのかもな・・・そう考えるとこの状況下でも笑えてきた
「・・・サ、サラ・・・頼む」
「承知した・・・きっちり1分・・・何があっても持たせてやる」
何故だろう・・・あんなに大きく見えていた魔王が小さく見える
今なら何でも・・・出来る気がする!
「Aランク冒険者『風鳴り』サラ・セームン・・・参る!」
出し惜しみなどしない・・・持てる力を全て使う
「一式・風牙!!」
私達が負ければ街が・・・そんな事を考えている余裕などなかった。今はただ魔王と1分間渡り合い、ロウニールに託す・・・それだけを考える
心酔と言っていいほど惚れ込んでいたローグ・・・初めての弟子として私の心の中で大きくなっていったロウニール・・・2人が同一人物でショックを受けたのは事実だ・・・が、考えてみれば私にとって最も都合のいい展開じゃないか
「貴様が死んだ後の未来・・・輪廻がどうこう言っていたが私にとっては輝かしい未来に思えるぞ?魔王!」
「理の外から吠えるな人間!待っているのは輝かしい未来などではない!閉ざされた未来だけだ!」
「くっ・・・そんな事はない!未来は決められたものではなく切り拓くもの・・・貴様が閉ざしているのだ魔王!零式・風食い!」
魔王の攻撃を掻い潜り、懐に入ると全てのマナを風牙龍扇に注ぎ込む
「これしきの攻撃で!!」
魔王は風食いを食らっても怯まず私に爪を向けた
殺される・・・その瞬間、床が動き魔王の爪から何とか逃れる
「・・・貸しよ・・・サラ・セームン」
「・・・後で色々と聞きたい事がある・・・ダンコ。とりあえず借りておこう・・・そして・・・1分だ!ロウニール!」
正確ではないかもしれないけど1分は経過した
ロウニールを見ると何かを持っている・・・あれは・・・剣?
「相変わらず下手くそね・・・もっとマシな物を作れないのかしら」
作った?そうか・・・風牙龍扇もロウニールが作ったのだ剣を作れてもおかしくはない
けど・・・その割には少し歪な・・・
「仕方ないだろ?・・・でも・・・ありったけの思いを込めて作った剣だ・・・魔王を倒す為にだけ作った剣・・・」
魔王を倒す為の剣・・・見た目はあれだが実は凄い能力が隠されて?
「・・・どういう事?・・・あれは・・・」
「なに?分かるの?あの剣がどういう能力を持つか」
「・・・あれはただの剣・・・確かに核は埋め込まれているけど・・・埋め込まれている核はスライムの核・・・」
スライム?・・・スライムってあのスライム・・・よね?
「何か特殊な能力が?」
「いえ・・・特にないわ。スライムがダンジョンの掃除屋って呼ばれているのを知ってる?」
「ああ・・・確かダンジョンに落ちたゴミなどを吸収して溶かしたりしてるのだろう?」
「ええ・・・掃除をしているのは他に何も出来ないから・・・特殊な能力もなく魔物の中で最も弱いから掃除という役目を与え存在価値を高めてるの・・・だからわざわざスライムの核を埋め込むなんて・・・」
特殊な能力がないスライムの核を使ってなぜ・・・
その答えはロウニールは次の行動で示した
「あ、有り得ない!魔力とマナは決して交わるものではないのに!なんで・・・」
魔力とマナは交わらない・・・そう言ったダンコの言葉を否定するようにロウニールは作り立ての剣に魔力とマナを注いでいく
剣を見ると注がれた魔力とマナは互いに反発し合ってるように見える・・・やはりダンコの言う通り交わる事はないみたいだ
けど・・・反発する力が魔力とマナを注ぐ度に大きくなって・・・
「一回限りの大勝負・・・これで倒せなかったら素直に認めてやる・・・足掻いても無駄だってな」
「・・・」
ロウニールの言葉を無言で受けた魔王に余裕は見られない
魔王は魔力を放出しまるで剣のようにして持つと向かい来るロウニールに向けて構えた
「・・・輪廻が途切れた先は混沌・・・輪廻が続けば安寧が待っているのだぞ・・・分かっているのか?」
「誰かが犠牲になって成り立つ安寧なんて御免だね!決まった道をなぞるより今をがむしゃらに生きてやる!終わりだ魔王!」
ロウニールは剣を振り上げると空高く飛んだ
剣から迸る魔力とマナが反発して生まれた力がまるで彼に翼を授けたように尾を引いていた
片翼の翼・・・その翼が羽ばたき私達を導く・・・なぜかそんな未来が垣間見えた
「い、行け!ロウ!!」
「ロウニール君!」「バカ兄貴!」「ロウニール!」
「ロウニール様!!」
もし輪廻というのが決められた運命ならば
その運命を辿ればここにいる者達が・・・外で戦う者達が死ぬというのが運命というのであれば
その忌まわしき運命を・・・私達を縛る輪廻という鎖を
断ち切ってくれ!
「これで終わりだ!!」
「輪廻を断ち切る事など出来ぬ!ましてや理の外からなど・・・出来ぬのだ!!」
魔王の魔力とロウニールの剣がぶつかり合い激しい光が生じる
目の前が真っ白になり次の瞬間、ロウニールと魔王は背中合わせとなっていた
「知らぬぞ・・・これで予定調和はなくなり世界は滅びるやもしれぬ・・・」
「僕の大事な人が死ぬ予定なんてクソ喰らえだ・・・誰も死なないなら考えてやらない事もなかったけどな」
「ほざきよるわ・・・崩れゆく世界を見れぬのが惜しい気もするが・・・これもまた一興か・・・」
「どうした?いきなり・・・悟りでも開いたか?」
「・・・悟りではない・・・輪廻が途絶え解放されたのだ・・・名を聞こう」
「・・・何度も名乗ってるのに・・・僕はロウニール・ハー・・・いや、ロウニール・ローグ・ハーベスだ」
「・・・そうか・・・魂の解放者、ロウニール・ローグ・ハーベスよ・・・・・・見事だ──────」




