255階 反撃開始
広場に突如として現れた魔獣の群れ
それも一体一体がただならぬ雰囲気を醸し出しており冒険者達は二の足を踏んでいた
そんな中でレオン達『タートル』とSランク冒険者であるキースが孤軍奮闘・・・それを見て冒険者達も勇気を振り絞り突入する
その様子を冷静に見ているパーティーがいた
「どうする?ここらが潮時じゃ・・・」
「・・・だね・・・」
ヤットが尋ねるとシークスは腕組みをしたまま状況を分析する
魔獣の強さはほとんどが上級魔物と同じレベル・・・その群れに突っ込んで生き残れる者など存在しないだろう
レオンやキースですら先頭の魔獣に苦戦している
奥に行けば行くほど強さが上がっていくのは明らか・・・つまり魔獣の大群の進行を止めれたとしても進むことはない
押し寄せる波に攫われるか逃げ出すか・・・二つに一つの状況で悩むシークスに仲間達はしびれを切らし強引に彼を連れ出そうとした時、事態は急変する
「・・・来たか」
「へ?何が?」
シークスの呟きに反応しヤットが魔獣の群れに目をやると自分達とキース達のちょうど間くらいに魔物達が出現し始めた
キース達の退路は断たれ自分達も新たに出現した魔物にやられる・・・そう思ったヤットはなりふり構わず強引にシークスの腕を引く
「もう限界だ!今逃げなきゃ・・・」
「もう遅い・・・かもね」
最初に現れた魔獣の群れと同じ程度・・・いや、それよりも多い魔物の大群にその場にいた全員が凍りつく
冒険者と共に残っていたケインも無言で剣を抜くが頭の中が真っ白になり身動きが取れなかった
攻めてくるかキース達を挟撃するか・・・成り行きを見守っていると魔物達はキース達の方向へと動き始めた
「・・・っ!・・・動ける者!俺に続・・・」
「待て!」
ケインが意を決して冒険者達を引き連れ魔物達に攻撃を仕掛けようと叫ぶとその叫びを制する者がいた
「・・・シークス・ヤグナー・・・何のつもりだ」
「冷静になりなよ衛兵隊長さん」
「なに?」
「ロウニール・ハーベスは今まで何をしてきた?そして今何をしに行った?」
「ロウニールが?・・・ダンジョンを作り、魔物を・・・まさか!」
「魔物がこっちに向かって来るなら終わりだったかもね。でも魔物はこっちではなく向こうに向かって行った。それは挟み撃ちにする為ではなく・・・」
「成功・・・したのか・・・」
「何をやったのか知らないけど・・・多分ね。向こうにいるのは魔獣って言うんだって?ならここからは・・・魔獣VS人間と魔物・・・ってところかな?」
冷静に戦況を見つめていたケイン達と違い突然の出来事に今の今まで魔獣と戦っていたキース達は呆気に取られた
魔物が背後から現れ人間には目もくれず魔獣を襲う
絶望が・・・希望に変わる──────
──────数分前
「え?」「は?」
ううっ・・・サラさんとシーリスの視線が痛い
やっぱり叫ぶんじゃなくて心の中で話せば良かった・・・そりゃあいきなり『スラミ!』とか叫んだらおかしな目で見られるわな・・・
〘はい!マスター!〙
スラミからの返事・・・よし!やっぱりそうだ!
スラミはダンコの眷族じゃない・・・僕の眷族だ。魔王にダンコの魔核を取られて全てを失ったと思っていた・・・けど違う・・・ダンコはまだ・・・僕の中にいる!
「ここから反撃開始だ・・・スラミ!魔獣がいる広場に上級魔物を配置しろ!」
〘はい!上級魔物を・・・訓練所にいる魔物もでしょうか?〙
「もちろんだ・・・僕の魔物とダンコの言う魔獣・・・どちらが強いか力比べといこうじゃないか!」
「???」「???」
やめて・・・そんな珍しい動物を見るような目で見ないで!
「バ、バカな・・・魔物が・・・」
アダルトダンコがようやく異変に気付いたみたいだ
映像を見るとスラミは言われた通りに上級魔物を全て配置したみたいだ
どれだけ強さに差があるか分からないけど訓練している魔物なら魔獣にも少しは対抗出来るはず・・・これで後は・・・
「ようやく面白くなってきたな・・・人間」
「ロウニールだ魔王・・・後はお前を倒すだけ・・・」
「余を?・・・なるほど状況把握能力が欠如しているとみえる。貴様では余に届かぬ・・・そして唯一届く可能性があった者もこの通り・・・次はどうすると言うのだ?」
「そんなワクワクするなよ・・・期待外れだったらどうしようか心配になるじゃないか」
「心配するな・・・期待などしておらん」
とか言いながら随分と嬉しそうじゃないか・・・まあそれも余裕の表れなんだろうな・・・その余裕・・・消し去ってやる
「んじゃあ一発・・・殴ってみようか!」
「なに?」
玉座近くの魔王と扉近くにいる僕・・・距離はおおよそ30mくらいか?それくらい離れていた
それでも僕は拳を引くと思いっきり突き出す
力を込めて思いっきり
「ゲート!」
出来るはず・・・そう思って拳を突き出した瞬間にゲートを開いた
その先は魔王のすぐ横・・・ちょうどディーン様の首を掴んでいる腕に拳が当たるように小さなゲートをひとつ繋げた
「なっ!?」
ゲートを潜った拳は魔王の腕に当たりその衝撃で奴はディーン様を離した
「もひとつゲート!」
今度は落ちるディーン様の真下にゲートを開く
その行先は・・・
「ディーン様!今治療します!」
後ろにいるセシーヌの傍
これで広場とディーン様・・・ふたつの問題が解決・・・残すは・・・
「・・・驚いたな・・・まさかゲートを使えるとは・・・核は引き抜いたはずだが・・・」
ディーン様を取り返されて焦ると思いきや全然そんな事はない模様・・・顎に手を当てブツブツ言いながら考え中だ
てか確かに拳は当たったけど感触に違和感がある・・・腕と言うより壁を殴ったような感触・・・あれはなんだ?
〘魔王は常に魔力で体を覆っているの。ちゃんと見てみて〙
うわっ!・・・チビダンコ?
〘だからチビ言うな・・・聞こえているんだからね〙
すみません・・・って聞こえるのかよ!
これまで声に出さないと聞こえなかったはずなのに・・・それにしても意識してなくても聞こえるなんてやりづらいな
〘安心して。今は聞こうとしているから聞こえるだけ・・・本来はロウが意識しなければ聞こえないから。とにかく見てみて・・・ロウなら出来るはず〙
良かった・・・変な妄想とかした時にバレバレとか嫌過ぎるし・・・って、それよりも見る・・・か。どれどれ・・・
注意深く魔力を感じるのではなく見る・・・すると魔王の体を覆うように魔力が放出されているのが見えた
なるほど・・・あれでヘタな攻撃は全て弾いてたのか・・・てっきり『理の外』からの攻撃が一切通じないのかと勘違いしていた
そういえば僕達の攻撃も何もしないで受ける攻撃と防御する攻撃があったな・・・つまりあの体を覆っている魔力を破れる攻撃にだけ反応していたって事か
さて・・・ぶっちゃけ状況はあまり好転した訳ではない・・・変わったのは僕がただのロウニールではないって分かった事・・・
ダンコの核を剥ぎ取られた時に失ったと思った力が実際は使えるって事だけだ
「サラさん、シーリス・・・援護を頼む」
「え、援護って・・・ロウ!」「ちょっと!」
ゲートを開いて剣を取り魔王に向かって走りながらどう攻めるか考える
生半可な攻撃は意味がない
あの魔力の鎧を破壊するだけの威力で攻撃しないと
「剣気一閃!」
どれくらいの威力で魔力の鎧が破壊出来るか確認しないと・・・魔王が防げば破壊出来る威力の証明になる・・・まずはそこを見極めよう
「取るに足らん攻撃に何の意味がある?」
「くっ・・・いずれ分かるさ!魔法剣『呪毒』!」
ピクリとも動かず剣を受ける魔王・・・僕はそのまま呪毒が効くか確かめる・・・が、それでも魔王は動かない・・・これでも届かないのか・・・
「何やら勝てる気でいるみたいだが・・・魔獣と魔物・・・理の内と外・・・その差を知るがいい」
「なに?・・・がっ!」
魔王が手のひらを僕の胸の辺りに当てると衝撃で吹き飛ばされた
一瞬意識を失いかけたけど何とか着地して次の攻撃に備えるが魔王の追撃はなかった
にしても・・・打撃と言うより魔力での攻撃か・・・
まるでサラさんの『流波』のような攻撃・・・多分盾で受けてもダメージを受けそうだな
「どうした?もうかかって来ないのか?」
くそっ・・・初めて戦った時のような絶望感はないけどまるで勝てる気がしない・・・これが理の外と内の差ってやつなのか?
〘違う・・・アナタは忘れているだけ〙
え?・・・忘れてる?何を?
〘自分で思い出して〙
ケチダンコ!
何を思い出せばいいんだ?勝てる気がしないのは理の外と内の差じゃなければなんなんだ?
ただの実力差?でもそれなら忘れてるって言うのはおかしいし・・・
「やはりつまらぬな・・・これで終わりにしよう」
魔王の体を覆っていた魔力が高い天井に届くくらい立ち上る
そして軽く腕を振るった瞬間に目の前が真っ暗になる
続いて襲い来る体をバラバラにされたかのような衝撃
気付くと壁まで吹き飛ばされうつ伏せに倒れていた
体中が痛くて立ち上がれない
少しだけ顔を起こして周りを見るとみんなも飛ばされ倒れていた
なんだ・・・魔王・・・強いじゃないか
「ほんの少しでも勝てると思ったか?はっきり言おう・・・貴様らでは相手にならない。例え天地がひっくり返ろうとも余に傷ひとつ付けることすら出来ない・・・それが理解出来なければ立つがいい・・・その時は褒美にもう少し遊んでやろう」
・・・何が褒美だよ・・・
でも確かに強過ぎる・・・戦っているのではなく遊ばれている感じ・・・子供と大人・・・いや、赤子と大人くらいの差があるぞこれは
なんで僕はこんな相手に少しでも勝てると思ったのだろう
相手は魔王だぞ?勇者が色んな経験をして強くなって最後に倒す相手・・・僕なんてとてもじゃないけど・・・・・・・・・違う
ここはどこだ?
僕は誰だ?
「ほう?立ち上がるか」
「・・・偉そうに・・・」
「なに?」
「ここをどこだと思ってんだ?僕が誰だと思ってんだ?」
「何を・・・ここは余の城・・・そして貴様はただの人間・・・それ以外の何物でもないわ」
「違うね・・・ここはダンジョン・・・僕はダンジョンマスター・・・ダンジョンは常に平等・・・それは魔王・・・お前とて例外じゃない!」
「戯言を・・・平等だと?余と理の外である人間如きが同じと嘯くか」
「いや・・・ダンジョンは常に平等だけど1人だけ例外がいる。それはお前・・・魔王でも勇者でもない・・・ダンジョンマスターであるこの僕・・・ロウニール・ハーベスだ──────」




